デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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大和さんおたおめのヤマ主編。
去年のヤマ主誕生日SS『グラジオラス』から繋がっています。
回帰では、ウサミミが大和に、大和が守っている、守ってきた世界は無駄ではないと、きれいなものや素敵なものや美しいものを掬い上げて見せたり、ヤマト自身で見つけなおすことができたならいいなあと願ってやみません。
去年のヤマ主誕生日SS『グラジオラス』から繋がっています。
回帰では、ウサミミが大和に、大和が守っている、守ってきた世界は無駄ではないと、きれいなものや素敵なものや美しいものを掬い上げて見せたり、ヤマト自身で見つけなおすことができたならいいなあと願ってやみません。
「大和、お誕生日おめでとう!」
早朝、関西方面に出立する前、ジプス東京支局に立ち寄った峰津院大和は、局長室に待ち構えていたらしい恋人から襲撃を受けた。
襲撃と言っても悪戯めいた他愛ないものだ。大和が入ってきた瞬間に初がわっと顔と姿を見せて、大和に祝いの言葉を口にする。
ほんのり紅潮した顔、何時もより輝きが強く思える碧眼からは意気込みを感じさせる。
誰かが室内にいることは、部屋に入る前から大和にはわかっていた。透き通った芯の強い碧。そのように認識する、慣れ親しんだ気配が大和には読み取れてしまったからだ。
出入りを自由に許しているとはいえ、こんな早い時間に初の姿が支局内にあることは珍しい。
「よく私がここに寄ると分かったな」
「そこはそれ、おれにも伝手がありますから?」
初はふふんと胸を張りつつも、肝心な所、情報の提供者については口にしなかった。だが、それで大和にはわかってしまった。おそらくは迫真琴だろう。彼女は側近のなかでもよく大和のスケジュールを把握している。そして、初とも仲が良く、大和と初の関係について理解がある。初が尋ねれば、大和の所在、予定について答えるだろうことは想像に難くない。初相手であれば悪用など考えられないことであるから、大和も真琴に対して目くじらを立てるようなことはない。ただそれでも職務上の機密漏洩といえないこともないので、初は一応真琴の外聞を憚って黙っているのだろう。
「詳しくは聞かないでおいてやろう。それで、お前はわざわざ私の誕生日を祝うためにここで待っていたのか?」
「そうだよ。去年はほら、もう当日が終わるころに大和から教えて貰っただろ? 今年も大和は忙しいだろうけど、ここで待ってて会えたら、実家に帰る前に誕生日プレゼントくらいは渡せるかなって」
昨年、誕生日プレゼントを当日に渡すことができなかったのは、初にとってよほど遺憾であったらしい。可愛らしい奴だと大和は思う。おおよその祝いは、大和にとってどうでもよいものとして通り過ぎ、処理されていくが――このように、大和の誕生日をめでたいことだとして、心から祝ってもらえることは悪い気がしないものだ。
「向こうに持っていく情報端末とか取りに来ただけって知ってるから、プレゼント渡したら、おれも直ぐ帰るよ。だから、ちょっとだけ大和の時間をおれにくれる?」
大和の予定を汲み取って、なるたけ邪魔をしない範囲で祝おうとしてくれるのも好感が持てる。大和は自然と己の表情が柔らかくなるのを感じていた。
「いじらしい奴め。構わん。それで、どうしてくれるのだ?」
「えっとね、これは、行く途中の新幹線ででも食べてね。中身はたこ焼き、焼いてきたから」
保温機能のある弁当ポーチを渡される。初の手作りのたこ焼きと言われれば、その時点で大和にとって祝いになりえるものだったのだが、口ぶりからするとこれは前座のようなものらしい。
次いで、本のようなものを渡された。
「こっちが、プレゼント。大和はよく、俺が新しい世界とかお前の見たことのないものを教えてくれるって言うから。一年かけて、きれいなものとか素敵なものとか、たのしかったこととか、そういうの写真に撮って集めてみた」
開いてみれば色鮮やかに切り取られた沢山の光景、ひと、もの、ひかり、世界。
フォトアルバムのようだった。集められた写真たちは、ただの資料ではなかった。大和の知るどの写真よりも生き生きとして見えた。
「これが、お前が普段見ているものたちか?」
そう聞いていたから、だから、集められた写真に写るものをくだらないと思わないのだろうか。だとしたら自分は随分と単純な人間なのかもしれないと大和は少しばかり眉を寄せる。だが、大和の感情の変化を小動物のように敏感に察する初の前で、そのような顔をしてみせれば誤解を招くだろう。大和は素直に嬉しいと感じたことを表情に表わすことにした。
大和の和らいだ表情を見てとってか、初はぱっと顔を輝かせる。本当に彼が兎であれば耳をピンと立てたかもしれない。ああ、こういう瞬間が残しておきたいものかと、ほんの少し初の考えていることが、大和にもわかった気がした。
「うん。ほんとはさ、全部隣で見せられたらいいけど、大和は忙しいからそうもいかないだろうし」
「お前はお前なりに最善を考えてこれをよこしたのだろう。ならば私は、これでいい」
「そう言ってくれると嬉しいよ。それとね、あともう一個プレゼントがあるんだよ」
受け取ったフォトアルバムの表紙を大和の手がいとしむように撫でたのを見て、初はますます表情をほころばせた。
それから、もう一包みを渡してくる。どうも初は去年か、下手したらそれ以前も含めて、まとめて大和を祝おうと言う心づもりのようだった。
「これ、大和用のデジカメ。仕事で使うようなのは持ってるかもしれないけど、個人用とか持ってないだろうなって。俺も使ってるカメラで持ち運びしやすいし、使いやすいよ」
おそろいだと冗談めかして渡された。なるほど手の中に納まるような小ぶりなデシタルカメラは何処に持っていくにも邪魔にならなさそうだ。本体は艶やかな黒で、機能性を重視したシンプルなデザインの品物だった。
「大和も大和が綺麗だと思うものを色々さがして欲しい。それで、大和が素敵だなって思うもの、おれにも教えてくれたらもっとうれしい」
ようは写真を撮れと奨められているのだ。初は大和に趣味がないことを気にしているようだったから。
無駄なことに割く時間が何になるのか、大和には未だ理解しかねるところがある。だが、それでも、大和がかつて無駄だと不要だと断じたものから初のようなものが現れることもあったのだ。言われるままに少しばかり無駄に興じてみても良いだろう。そのなかに新たに見出すものがあるかもしれない。こんな風に大和に期待を――そのような感情こそ初に会って彼と親しくなるまでは捨てていた感情だった――抱かせるのだから、目の前の彼は本当に不思議な男だった。
「よかろう。お前の言葉だ。一考に能うし、私の見聞を広めることにもなる。受け取っておこう」
カメラも含めて、渡された誕生日プレゼントの数々は、大和の手で出張用のかばんの中にしまいこまれた。
「初。感謝しよう。お前がこうして祝ってくれた。おかげで今日一日、これから先の煩わしさに耐えられそうだ」
「立場があるって大変だね。……病気です、とか、そういうことにして欠席できない……んだよね」
「一年に一度のことだと念押されてしまえばな。ああ、いっそ。初、このまま共に来るか? お前を、皆に紹介する良い機会ではないかと思うのだが」
あおい瞳が丸く見開かれる。突然の誘いだが、ずっと考えていたことでもある。
とはいえ、是であれ否であれ、初の意志が伴うならば、大和にとってはどちらでも構いはしなかった。
共に来ることを選び公に立つならば傍らで、それを望まないならば密やかに。何れであっても、大和はこの、新しい世界を見せ、大和にもまた世界を見直させようとする愛しい相手を、何にも誰にも手出しさせる気はなかったから。
ただ、今日が、大和の誕生日が特別な日であると初が定義するならば、一日隣に居て欲しいと少しだけ大和は思っていた。
うつくしいものを探して欲しいと初は言ったが、きっと、贈られたカメラを通してみる世界よりも、このあおく透き通る瞳に映り込む世界の方が、何倍も何十倍も美しい。
その欠片を今日も、共にいて教えてくれるならばうれしかった。
早朝、関西方面に出立する前、ジプス東京支局に立ち寄った峰津院大和は、局長室に待ち構えていたらしい恋人から襲撃を受けた。
襲撃と言っても悪戯めいた他愛ないものだ。大和が入ってきた瞬間に初がわっと顔と姿を見せて、大和に祝いの言葉を口にする。
ほんのり紅潮した顔、何時もより輝きが強く思える碧眼からは意気込みを感じさせる。
誰かが室内にいることは、部屋に入る前から大和にはわかっていた。透き通った芯の強い碧。そのように認識する、慣れ親しんだ気配が大和には読み取れてしまったからだ。
出入りを自由に許しているとはいえ、こんな早い時間に初の姿が支局内にあることは珍しい。
「よく私がここに寄ると分かったな」
「そこはそれ、おれにも伝手がありますから?」
初はふふんと胸を張りつつも、肝心な所、情報の提供者については口にしなかった。だが、それで大和にはわかってしまった。おそらくは迫真琴だろう。彼女は側近のなかでもよく大和のスケジュールを把握している。そして、初とも仲が良く、大和と初の関係について理解がある。初が尋ねれば、大和の所在、予定について答えるだろうことは想像に難くない。初相手であれば悪用など考えられないことであるから、大和も真琴に対して目くじらを立てるようなことはない。ただそれでも職務上の機密漏洩といえないこともないので、初は一応真琴の外聞を憚って黙っているのだろう。
「詳しくは聞かないでおいてやろう。それで、お前はわざわざ私の誕生日を祝うためにここで待っていたのか?」
「そうだよ。去年はほら、もう当日が終わるころに大和から教えて貰っただろ? 今年も大和は忙しいだろうけど、ここで待ってて会えたら、実家に帰る前に誕生日プレゼントくらいは渡せるかなって」
昨年、誕生日プレゼントを当日に渡すことができなかったのは、初にとってよほど遺憾であったらしい。可愛らしい奴だと大和は思う。おおよその祝いは、大和にとってどうでもよいものとして通り過ぎ、処理されていくが――このように、大和の誕生日をめでたいことだとして、心から祝ってもらえることは悪い気がしないものだ。
「向こうに持っていく情報端末とか取りに来ただけって知ってるから、プレゼント渡したら、おれも直ぐ帰るよ。だから、ちょっとだけ大和の時間をおれにくれる?」
大和の予定を汲み取って、なるたけ邪魔をしない範囲で祝おうとしてくれるのも好感が持てる。大和は自然と己の表情が柔らかくなるのを感じていた。
「いじらしい奴め。構わん。それで、どうしてくれるのだ?」
「えっとね、これは、行く途中の新幹線ででも食べてね。中身はたこ焼き、焼いてきたから」
保温機能のある弁当ポーチを渡される。初の手作りのたこ焼きと言われれば、その時点で大和にとって祝いになりえるものだったのだが、口ぶりからするとこれは前座のようなものらしい。
次いで、本のようなものを渡された。
「こっちが、プレゼント。大和はよく、俺が新しい世界とかお前の見たことのないものを教えてくれるって言うから。一年かけて、きれいなものとか素敵なものとか、たのしかったこととか、そういうの写真に撮って集めてみた」
開いてみれば色鮮やかに切り取られた沢山の光景、ひと、もの、ひかり、世界。
フォトアルバムのようだった。集められた写真たちは、ただの資料ではなかった。大和の知るどの写真よりも生き生きとして見えた。
「これが、お前が普段見ているものたちか?」
そう聞いていたから、だから、集められた写真に写るものをくだらないと思わないのだろうか。だとしたら自分は随分と単純な人間なのかもしれないと大和は少しばかり眉を寄せる。だが、大和の感情の変化を小動物のように敏感に察する初の前で、そのような顔をしてみせれば誤解を招くだろう。大和は素直に嬉しいと感じたことを表情に表わすことにした。
大和の和らいだ表情を見てとってか、初はぱっと顔を輝かせる。本当に彼が兎であれば耳をピンと立てたかもしれない。ああ、こういう瞬間が残しておきたいものかと、ほんの少し初の考えていることが、大和にもわかった気がした。
「うん。ほんとはさ、全部隣で見せられたらいいけど、大和は忙しいからそうもいかないだろうし」
「お前はお前なりに最善を考えてこれをよこしたのだろう。ならば私は、これでいい」
「そう言ってくれると嬉しいよ。それとね、あともう一個プレゼントがあるんだよ」
受け取ったフォトアルバムの表紙を大和の手がいとしむように撫でたのを見て、初はますます表情をほころばせた。
それから、もう一包みを渡してくる。どうも初は去年か、下手したらそれ以前も含めて、まとめて大和を祝おうと言う心づもりのようだった。
「これ、大和用のデジカメ。仕事で使うようなのは持ってるかもしれないけど、個人用とか持ってないだろうなって。俺も使ってるカメラで持ち運びしやすいし、使いやすいよ」
おそろいだと冗談めかして渡された。なるほど手の中に納まるような小ぶりなデシタルカメラは何処に持っていくにも邪魔にならなさそうだ。本体は艶やかな黒で、機能性を重視したシンプルなデザインの品物だった。
「大和も大和が綺麗だと思うものを色々さがして欲しい。それで、大和が素敵だなって思うもの、おれにも教えてくれたらもっとうれしい」
ようは写真を撮れと奨められているのだ。初は大和に趣味がないことを気にしているようだったから。
無駄なことに割く時間が何になるのか、大和には未だ理解しかねるところがある。だが、それでも、大和がかつて無駄だと不要だと断じたものから初のようなものが現れることもあったのだ。言われるままに少しばかり無駄に興じてみても良いだろう。そのなかに新たに見出すものがあるかもしれない。こんな風に大和に期待を――そのような感情こそ初に会って彼と親しくなるまでは捨てていた感情だった――抱かせるのだから、目の前の彼は本当に不思議な男だった。
「よかろう。お前の言葉だ。一考に能うし、私の見聞を広めることにもなる。受け取っておこう」
カメラも含めて、渡された誕生日プレゼントの数々は、大和の手で出張用のかばんの中にしまいこまれた。
「初。感謝しよう。お前がこうして祝ってくれた。おかげで今日一日、これから先の煩わしさに耐えられそうだ」
「立場があるって大変だね。……病気です、とか、そういうことにして欠席できない……んだよね」
「一年に一度のことだと念押されてしまえばな。ああ、いっそ。初、このまま共に来るか? お前を、皆に紹介する良い機会ではないかと思うのだが」
あおい瞳が丸く見開かれる。突然の誘いだが、ずっと考えていたことでもある。
とはいえ、是であれ否であれ、初の意志が伴うならば、大和にとってはどちらでも構いはしなかった。
共に来ることを選び公に立つならば傍らで、それを望まないならば密やかに。何れであっても、大和はこの、新しい世界を見せ、大和にもまた世界を見直させようとする愛しい相手を、何にも誰にも手出しさせる気はなかったから。
ただ、今日が、大和の誕生日が特別な日であると初が定義するならば、一日隣に居て欲しいと少しだけ大和は思っていた。
うつくしいものを探して欲しいと初は言ったが、きっと、贈られたカメラを通してみる世界よりも、このあおく透き通る瞳に映り込む世界の方が、何倍も何十倍も美しい。
その欠片を今日も、共にいて教えてくれるならばうれしかった。
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