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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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遅刻にもほどが有りますが、6月はほうついん誕生月と言う事で! 局長おたおめヤマ主編。
大団円回帰ED後の大和誕生日話。「ひたむきな愛」と「思い出」を貴方に。主人公の名前は因幡 初(いなば うい)。
当たり前のようにほもで恋人同士(くっついてる)設定でお送りします。
また両方とも記憶あり、ウサミミはジプスの手伝いをしたりで大和の元をちょくちょく訪れているというご都合設定です。
タイトルは六月の誕生花より。

作中で大和が食べているお菓子は実は都ちゃんが毎年分家からの贈り物ということにして、ひっそり兄に贈っているものだという裏設定があったり(余裕があれば都ちゃんのおたおめ話書いてリンクさせたかった)。
我が家の都ちゃんは兄(大和)大好きな子です。設定は大体「隣人に光が差すとき」と同じ感じなので、大和さんの味の好みとかよくわかっていて、美味しいと思えるお菓子を手作りして贈っている。
局長は誰が贈って来ているのかは知らないけれど、不思議と凄く舌になじむので、他の贈り物はなんだかんだと理由をつけて固辞して、どうしても断れないものだけ受け取っている感じだけど、これだけは無自覚にうれしいものとして、幼いころから受け取っているというそんな裏話。
ひみつのお菓子をウサミミに分けたのは局長なりの物凄いデレです。


 ──その日が特別な日であることを、おれは当日まで知らなかったんだ。

 夜、ひっそり部屋を訪れると既に室内の明かりがついていて、ソファには大和の姿があった。見つけたおれはすこしだけ目を丸くする。
 ここは元々彼の私室だから(おれがここに入ったのは忘れ物を取りに来ただけである。出入りが自由なのは合い鍵を預かっているからだ)、部屋の主がいることには何の問題もないのだけど。
 おれが驚いたのは、今日は大和の姿をここで見ることはないと思っていたからだ。
 峰津院の家の用事で、早朝から本家の方に赴いていると知っていた。今日は一日他の予定を入れていないことも。だからてっきりあちらに泊まってくるのだと思っていた。
「お邪魔します。大和、戻ってたの?」
 名前を呼んだら漸く顔が此方を向いた。おれの姿を映した銀色の瞳がほのかに細められるのがわかる。
 問いかけに頷きは返してくれたけれど、彼が中々口を開かないのは、くちびるの中に何かを含んでいるからのようだった。珍しい。
 見ればテーブルの上に、和紙が重ね張りされた美しい箱が開かれて置かれている。紙箱の中には、星屑を思わせる淡い色合いの金平糖が見えた。これを食べているんだろうか。
 やがて嚥下が終わったようで、大和はゆっくり口を開いた。
「よくきたな、初。あちらに居ると何かと柵も多い。明日も仕事だと早めに引き上げてきた。お前こそどうした? こんな時間に」
「ほら、この間ここで勉強教えて貰ってたでしょ。あの時使ったノート、ここに置いたままだったの思い出して」
 部屋に来るのが遅くなったのは、来る途中で忙しそうにしている真琴さんに会って、少しだけ彼女の手伝いをしてきたからだ。
「それならばお前の私物を纏めてある引き出しに入れておいたぞ」
 言われた場所を確かめると、おれが使っているノートが出てきた。
「──直ぐに帰るのか?」
 手に取ったところで大和から問いの言葉が向く。遅くなってしまった自覚はあるから、電車が動いているうちに、直ぐノートを回収して戻るつもりだった。
 でも、折角大和と会えたならもう少しだけここにいたいと思ってしまう。大和はおれの為によく時間を作ってくれるけど、忙しい身であることに違いはなくて、一緒に過ごせる時間はとても貴重なんだ。
「大和さえよければもう少しって思うけど。……構わない?」
「問題があるならば、既に帰りたまえと言っているさ」
「……じゃあ、もう少しだけ、いる」
 快く返ってきた返事が嬉しくて、おれは一度手に取ったノートをまた引き出しへと戻して大和の方へ歩み寄った。ソファのあいている位置、大和の隣に腰を下ろす。

 それから改めて、開いたままの箱とその中身をみた。粒の細やかな金平糖。少なくとも市販のスナック菓子とかよりは大和やこの部屋に馴染んでいるけれど、ものめずらしいことには違いない。大和は余り嗜好品の類をこのむ性格ではないからだ。最近ではたまにおれが持ち込む菓子の類を、ほんの少しだけ摘んだりもするようになってはいるけど。気になったので結局聞いてみることにした。
「大和がお菓子食べてるとか珍しいね。どうしたの、これ」
「貰い物だ。毎年この時期になると届く。味は悪くない。お前も食べるといい」
 断る理由はなかった。大和が手ずから分けてくれた、細やかな砂糖菓子をおれはそのまま口に運ぶ。砂糖の匂いだけでなく、ふわりと甘く花の香りがした。舌の上で転がせば、くどすぎない控えめな甘さがじんわりと上品に広がっていく。
「美味しい。なんか普通の金平糖とはちょっと違う感じだな。味も匂いも」
 甘さの余韻を味わっておれが笑うと、大和は穏やかに目を伏せて説明をくれた。
「手製だからだろう。誰ぞかが作っては届けて寄越す。市販のものとでは違っていて当然だ」
「それっておれに分けちゃって良かったの?」
「気に入ってはいる。毎年、私だけで消費してきた。だが……お前とならば分け合うのも悪くはないと思ったのだ。贈り主とて誰にも分けるなというほど了見が狭くはないだろう」
 気にするなと大和はかぶりを振る。とはいえ、手作りだというくらいだから大和のためのものなのだろう。せめて心の中で沢山感謝して、おれは残りの金平糖を大切に食べた。
「ありがとう。ご馳走様。そういえば、家の用事お疲れさま。その顔だと忙しかったのかな」
 食べ終えてから改めて近くで顔色を見て言う。部屋に入ったときから、少しだけ、大和が気疲れしているようにも見えるのが気になっていた。
 たぶん他の人なら気付かない。気付けない。部屋の中だから少しだけ気を緩めているんだと思う。外や誰かが居るなら、大和は自分の弱みを曝したりはしないからだ。
 確か今日を空けるためにスケジュールが割と前倒しになって立て込んでいたみたいだから、理由のひとつはそれだろう。後、考えられる理由としては家の用事が大変だったのかもしれない。
「忙しいというよりは面倒が多かったという方が正しいな。思っていたよりも気を張っていたのかもしれん。しかし初に指摘されるとは私もまだまだ未熟だな」
「別におれの前では隠さないで居てくれる方がいいよ。……あ、そうだ。ここ、使う? まあ女の子みたいにやわらかくはないけど」
 密やかにこぼれる大和の呼気は溜め息にも似て聞こえた。それでおれは少し考えて、軽く自分の腿の辺りを叩いて示して見せる。一応、その、改めて考えたり言うのもなんだけれど、おれと大和は紆余曲折を経て友人というには踏み越えた関係だ。互いの体温とか感触とか、そういうものに触れて安心するのはおれだけじゃないって知っている。疲れている時、寄り添ったら少しは、気持ちや身体を楽にして上げられないかと思ったんだ。
「初、今日はまた随分と積極的だな」
 大和が嫌がったり呆れるようなら、冗談だということにするつもりだったが、反応は案外色よかった。大和が薄く微笑んで頷く。そこで座る位置をおれがもう少し端に変えると、大和は上体を倒し、頭をこちらに預けてきた。
「だって、ジプスの仕事ならまだしも、おれ、峰津院家の用事とかは関わったりできないし。だからせめて大和が疲れたなら少しでも休む手伝いしたいなって」
 柔らかな髪をぽんぽんと労わるように撫でた。純粋に慰撫のための仕草だと伝わったのか、大和は髪を撫でるおれの手指を受け入れて、大人しく目を閉じる。大和の顔に、安らぎと呼べるだろうものが浮かんでいるのが嬉しかった。おれはゆるゆると髪を梳き、撫でる手を動かし続ける。

「……ほんとお疲れちゃん。何の用件だったの……って聞いたらまずいか?」
「お前になら構わない。初は私の伴侶。いまや身内も同然だからな。生誕日を祝す宴席だった。私は、そのようなもの毎年行うほどではないと思っているのだが、縁戚が集う良い機会であると古老に言われてしまえば無碍にもできん」
「あ、あんまり恥ずかしいことさらって言うな、照れくさいだろ…って、」
 伴侶と言う単語の気恥ずかしさに顔が紅潮していくのを感じていたが、その後に続いた言葉でおれは愕然とする羽目になった。撫でる手も思わず固まる。
「……今、大和、なんて言った? 生誕日とか言わなかった?」
 衝撃発言を口にした大和の、小憎らしいくらいに綺麗な顔を、おれは思わずまじまじと凝視してしまった。
「? そういえば言っていなかったか。6月10日。今日は私の誕生日に当たる」
 大和のほうは何が問題だったのかと言いたげな視線を返してきた。大問題です!
「誕生日とか早く言ってよ!」
 ついついらしくもなく大きな声を出してしまった。それくらいにおれにとっては聞き捨てならない話だったんだ。
「おれ、知ってたら、もっと色々準備とか、お祝いとか! できることあったのに……したかったのに」
 もっと前からリサーチして置けばよかったのかもしれない。それを思えば大和にどうこう言えない気もするけれど、おれの声は落胆で萎れた。
「誕生日だからといって特別どうだということもあるまい。本家での祝宴自体慣習と必要があって行われている行事に過ぎん。騒ぎ立てるようなことは……」
 あくまで冷静に続けようとする大和におれはぶんぶんと大きくかぶりを振ってみせた。なんでもないみたいに過ごしてしまうのは、それはとても勿体無くてさびしいことのように思えたんだ。
「大和は無駄だって思うのかもしれない。でも、おれが、したいの。大和がここに居てくれる、生きてることに感謝したいんだよ。誕生日ってそういう特別な日なんだって、そう思うんだ」
「……初にとってはそうなのか?」
「少なくともおれは毎年自分の誕生日、好きな人に、家族に、周りの人におめでとうって言われるのうれしかったよ。楽しかった。そういうの知ってほしい。おれ、おれの大事な人の生まれた日は大切にしたいよ」
 我侭のような、子どもの駄々のような。眉を下げておれがこぼした言葉を、大和はそれでも真面目な顔をして聞いてくれた。手袋に包まれた白い手がそっと俺の頬に伸びてくる。
「お前はいつもそうして、私の知らなかったもの、興味のなかったものの価値を改めて見せ、示す。そういう男だったな。ならばよかろう。お前はお前のしたいようにしてみせるといい。そうしてまた、私に新しい景色をくれるのだろう?」
 かすかに目を細めた大和の表情はやさしかった。触れる手に自分の手を重ねて、おれは問いかけに頷く。そうありたい、あってほしいと心から思う。
「そうできるなら嬉しいし、そうしたいって思ってるよ。──あのさ。大和、改めて、十八歳の誕生日、おめでとう。きっと、いろんな人にもう言われたんだろうけど、おれからも言わせてね。おめでとう」
 銀色の瞳を覗き込んで、おれは彼がここにいてくれることを、こうしていられることを、奇跡のように積み重ねて在る今に感謝しながら応えた。
 本当なら交わるはずのなかった線。災厄のただなかで、不思議とめぐり合わさって、途中で争うこともあって、大和の願いを、想いを聞いた。その上でおれは彼の理想ではなくて、時を巻き戻すことを選んだんだ。そのときに記憶は喪われるかもしれなくて、でも、おれは彼を自分の道に引き込んだ責任を取りたくて、忘れたくないと思った。本当なら遠い世界に生きている、いき続ける大和の側に行きたい、一緒に生きたいと願ったんだ。大和に、少しずつ、彼の知らないものを贈って、ひとつずつ新しいしあわせをあげられたらいいと、そう、思った。そして、その祈りの向こうに、すべてを忘れずに済んだ、再会出来た今が在る。
 願ったこと、したいと思ったことをできているかはわからない。けど、大和は俺に隣にいることを許してくれる。おれのあげたいと思うものを汲み取ろうとしてくれる。その幸福に、大和の存在に、彼が生きてくれていることに、感謝したいと思う。本当は毎日だってそう思っていて、でも普段は中々伝えきれないから、この彼の生まれた日を寿ぐことで、少しでも届けられたらいい。
「来年は覚えてろよな。また今日みたいに忙しいんだろうけど、それでも何かお祝いするから。特別じゃないなんて言わせない。思い出を作れるようにするよ。その前にまず今年か。急だったからなんにもないから、今年は、そうだな。誕生日の贈り物に──」
 少し不敵に見えるような、そんな表情を浮かべるようにして、腰を屈め大和に顔を近づける。間近で見ると本当に整った顔をしていて、目があうと気恥ずかしくなるけれど飲み込んで、触れるだけのキスをして、囁く。
「おれを、あげる」
 本音を言おう。だいぶ身体を張っているが、それは小粋なジョークのつもりだった。「なーんちゃって後日改めてちゃんとしたプレゼント用意するよ!」と続けるつもりの。だって、知らなかったとはいえあげられるものがないことが申し訳なかったから、冗談でも交えないとやってられないような気持ちだったんだ。

 だけど、大和が、
「……そうか。ではありがたく頂くとしよう」
 額面どおりに受け止めて、あんまり嬉しそうに笑うから、おれは今さら冗談だなんて言えなくなってしまった。
 はじめに部屋に入った時、大和の面を微かに翳らせていた疲れなんて感じさせない、あまやかな微笑だった。
 おれは、大和の笑顔に弱いんだ。嬉しいとか、楽しいとか、そういうものを大和が表情に浮かべてくれるのに、弱い。なんでもしてあげたくなる。
「祝いの言葉を素直に受け取ることや心躍ることはそうなかったが…少し判ったような気がするぞ。お前が必死に言葉を、想いを連ねて私に届けようとしている。そのことには感謝しよう。……そして、今日の初は、本当に積極的だな?」
 声にも確かに喜色があった。おれの言葉が、あげたものが嬉しいとそう思ってくれる声。おれのぜんぶで大和のことを祝うことが出来て、それが大和にとってうれしいことなら、照れくさいけれどしあわせなんだろう。でも凄く恥ずかしくて、顔が熱い。きっと大和から見たら真っ赤なんだろうな。でも、撤回しようとは思えなかった。
「っ!! ひ、日付が変わるまでだからな? ……あとちょっとの間だけだけど。十二時まではおれのこと、大和の好きにして、いいよ……」
 そこまで告げたところで、大和の腕がそっとおれの頭を引き寄せて、くちびるが重ねられる。何よりの返答だ。金平糖の味はもう残っていないはずなのに、重ねたところがひどく甘い気がした。
 今夜はこのまま泊まることになりそうだな──というようなことを考える余裕は直ぐになくなった。大和が身を起こすのが見えて、次の瞬間には、器用に位置が入れ替えられて、おれの身体はソファに沈められてしまう。
 自分で言い出したことだけれど、甘い熱を孕んだ銀灰色の双眸と視線があうと、やっぱりものすごく恥ずかしい。
 大和の背に腕を回しながらも、目を閉じようとしたら、そこに唇が降りてくる。何度か口づけられ、眦を吸われた。まだ開いていろといわれているように。
 そうされると、大和がすることを全部、視界に映さざるをえない。どこまで好きにされてしまうんだろうか。大和は、おれに痛いことをする性分ではないと知っているけど、心臓が痛いくらいに早い脈を刻み始める。

「初」
 名前を呼ぶ声も楽しそうなやわらかい響き。
 おれの心中を察しているのか、いないのか。ゆっくりと服を乱してゆく大和の白い綺麗な指は、まるでプレゼントの包み紙を解く子どものような上機嫌さだった。



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