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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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回帰ルート最終日前夜の、出来上がっているウサミミとヤマトのお話。
いつもの我が家の主ヤマらしいお話です。諸々色々これまでの話とかぶってる気がしますけどどうしても何か一本書きあげたかった。

主人公の名前は宇佐見北斗です。





 もうすぐ世界の終わりが来るから。
 明日のその先はまだわからないから。
 話をしよう。できるだけたくさんの、話をしよう。
 今を生きて、生きて、生きて。後悔のないように。

 最後になるかもしれない夜に見る顔は、いちばん見たい顔は、もうとうに決めていた。


 ***


 明日には世界と人類の行く末すべてが定まる決戦前夜。
 宇佐見北斗は、峰津院大和を誘い出してふたり、支局の外へと足を運んでいた。
 無の浸食はいよいよ世界を削り取り、ひとが生きられる領域は随分狭くなった。明日にはなおのこと猶予がなくなるだろう。
 かつてはネオンに彩られていた町並みは今や見る影もない。明かりの絶えた瓦礫の街を、夜に出歩くものは他に居なかった。
 人の多くは身を寄せ合うようにして休んでいるだろうし、野良悪魔の類はそも近づいて来ない。
 ふたりの気配、存在を恐れてのことだ。神の剣(セプテントリオン)さえ退けてこの七日間を生き抜いてきた――北斗も大和も、こと実力に置いて切り出せば人の領域をはみ出しかけている。
 それでも吐く息は白く弾む。互いの頬が仄かに赤みを帯びるのは血が通うからこそ。どちらもにんげんである証だった。どれほど強く在ろうとも人の子であることは変わらない。身も、こころも。
 峰津院大和といえど寒さの中にあっては身震いも走る。とはいえ、容易く顔に出すほどわかりやすくはないつもりだった――だが、大和が盟友にと望んだ青年は目ざとくそれに気づき、出歩き始めからつないだままだった手をますます絡め、風よけになるかのように大和の前を歩き出す。
 かろく白く翻る兎の耳に似た飾りを目に、大和は幾分眉を寄せる。自分は女子供ではないというのに。この男は、他の誰もしないことをしたがる。根の所で対等に思うくせに、何かにつけて年上ぶって、大和のことを甘やかしたがる。
「いい加減、手を離さないか。別にこのように繋がずとも、私は君を置いて戻ったりはしない」
「知ってる。大和って律儀だし。でもさ、こうしている方があったかいだろ」
 振り返って片目を瞑る顔は少年めいて邪気がない。こんな顔をしていると彼の方が年下じみる癖に。
 元々こうして手繋ぎをしているのだって北斗の求めから始まったことだった。頑是ない子供のように、北斗が手と手を繋ぎたがるものだから、根負けした大和は隣立つ男に手を引かれることを許していた。
 相手は手袋もしていないくせに、繋いだ手が温かい。元々の体温が高いのかもしれなかった。
「君の方が、寒くはないか」
「ううん、あったかいよ」
 逆に大和の手は元より少し冷たいものだから、こうしていては彼から熱を奪うばかりではないかとも思えたが、北斗はちっとも離したがらない。
 却って指を絡め合うみたいに深く繋ぎたがる。恋人つなぎだと教えられて、北斗が居なければ大和が知る由もなかった、いらない知識がまたひとつ増えた。


「到着!」
 暗さの為に距離を測り難いが、支局からはそう遠く離れてはいない。周囲に傾いた建物や瓦礫の山も少なくない中、ぽっかりと開いた空き地まで来ると北斗は足を止めた。
 悪魔使いや悪魔のぶつかり合いあってのことだろう。如何な原因からかは定かでないが、この場が更になる『何か』があったことだけは想像に難くない。
 草すら生えずの更地の真ん中で北斗は腰を下ろす。促されて大和も傍らに座った。
 世界はひどく静かだった。嵐の前のようにしんしんと静まり帰っていた。
 明かりはない。真暗い天穹に、冬星ばかりがさんざめくように無数に輝いている。
 まるで世界に北斗と大和、ふたりだけになったかのような錯覚を覚える。夜は静かに深くすべてを飲み込むかのように広がっていた。
 こうしてふたりで過ごすことが北斗の望みであり、大和を外に誘い出した理由であった。
 本来であれば、他に黙って真夜中の散歩などまったく褒められた話ではない。
 しかし、ふたりっきりになれる所に行きたい、等という場違いな望みを、今夜ばかりは無下にすることはできなかった。
 戦いに負ければ後はない、という点においては、これまでと変わらないと言えば変わらない。だが、それでもいよいよもって明日は保証がない。
 挑むは天の玉座。虚空蔵のあるじ。種の意志をポラリスに示し、有用性を認めさせることができなければその時点で詰みだ。
 北斗たちが示さんとする意志は、世界の回帰――ただのやり直しではなく、この試練で得た教訓を生かし、ひとの意志と可能性の力で少しずつでも変わっていくこと。
 耳触りの良い甘ったるい夢だと大和は思う。過去と現在が競合して致命的な破滅が起こるかもしれない。結局同じことを繰り返すのかもしれない。何も救われず、変わることもない――彼らのやさしい願いが踏みにじられるだけの結末しかないかもしれない。反論は幾らでもできる。
 だが、それでも、ひとを信じる意志が、大和の理想を挫き、龍脈のバックアップを受けて慮外の力を振るう大和を退けるほどに強いものであることを知っている。世界を変えたいと願うなら、だからこそ万能の神様に頼るかたちじゃダメなんだと、一途に語ったひとみの、炎のような熱さを思い出す。
 今は凪いで、やわらかな甘さを孕んで大和を見遣る北斗が、身の内にどれほどの意志(ねつ)を秘めているか知っている。
 打倒したものたちにも力を貸してほしいと丁寧に説得して回り、大和さえも掻き口説いて仲間に引き入れた。
 隣で見ないかと誘われて、彼らのつくる世界を見てみたいと思った。かつて掲げた理想の火は大和の中に消えずにある。北斗たちが望む世界が腐るなら、世界を是正するために動こうと決めている。それでいいのだと北斗は言っていた。意志を一色に塗りつぶす世界ではなくて、多様さを許容し、人と人が並び立てば、ひとは他の過ちを正すことも、誰かの傷をいやすこともできるはずだと。
 本当に甘ったるいが、北斗の願いが砕かれるまでは、再度敵対したいとは――少なくとも今の大和は思えなかった。だからこそこうして隣にいる。
「付き合ってきてくれてありがと。どうしてもさ、寝つけなかったんだ」
「明日こそ正念場なのだから、無理にでも早く眠れと本来窘めるべきなのだろうがな」
「帰ったらちゃんと寝るよ。だから、少しだけ」
 少しだけ、大和をひとりじめさせて。そう囁いて、北斗は大和の肩に頭を預けてくる。その重みが悪いものではないと思ってしまうのだから、結局のところ大和もまた彼の共犯者に過ぎないのだった。


「しかし、私で良かったのか。君にならば、この夜に、手でも肩でも傍らでも、貸す相手は多かろうに」
 不意に大和からそんな話を振ると、
「今更それを言うのかよ」
 北斗がほんの少しくちびるを尖らせる。戦場での判断に迷いはなく、何があっても動じることの少ない――冷静そのものと言った様子と裏腹に、素の彼は豊かな感情を持つ男だった。くるくると良く変わる表情は、大和にとって不快ではなく、飽きが来ない。
 その彼の目が真っ直ぐ大和を見た。熱心なブルー。大和が何より美しいと思う色。
「大和がいい。大和じゃなきゃ、駄目だ。隣で見ないかって誘ったけど、俺だって大和の隣に居たいんだよ」
「……戯言を言ったな。君の想いを疑った訳ではない。許せ」
 繋いだままだった手と反対の手を、大和は北斗の頬を包むように重ねる。間近で銀と青の視線が交わる。
「私も君だからこそ、こうして誘いに乗ってついてきたのだ。他の誰かであれば断っている」
 それは光栄だと口にした北斗の顔が更に近づく。嬉しそうに寄せられたくちびるを避けるような無粋はしない。
 少し乾いたやわい感触が重なり合って、零れた息すらくちづけの合間に吸い取られる。触れ合っている所が一番あたたかい。手をつなぐだけでは足りないように抱き締められて、大和も彼の背に腕を返した。
 ぴとりと寄り添っていると安心すると、北斗が微笑む。同じ気持ちだと口にするみたいに腕に少し力を込めたら、すりと身体が寄せられた。寂しがりの獣のような動作。胸の内に渦巻く感情を落ち着けようとしているみたいにも見えた。
「不安か? 君も、不安になるのだな」
「そりゃ人間だからね、振れることがあるのは当たり前。でも、こうしてると落ち着いてきた」
「甘い言葉のひとつもかけたわけではないが」
「それでも、大好きなひととくっついてるとそれだけで力を貰える気がするよ」
 特別な力でなく、大和の存在そのものに満たされているような様子で彼は言う。大和はほんの少し視線を揺らして、話題を変えると言う訳ではないが気になっていたことをもうひとつ問いかけた。
「北斗。……先の話だが、勝算はあるのか」
「明日の話? それとももっと先の話?」
「両方だ」
「明日は、まあ、これまでと変わらないよ。話して解決するなら良し。これまで通りに試練が課されるなら乗り越えるだけ」
 慢心ではなく、これまでの日々を踏まえた上での自負が覗く声だった。実際そうして、北斗は大和や他の仲間たちを伴って、如何な試練も成し遂げて見せるだろう。
「その先は、」
「確かなことは何にも言えないね。気持ちを強く強く持つことくらいしか」
「仮令存在の競合が起きずとも、記憶を引き継げる可能性は皆無に近い。
「それでもさ、残るものはあると思うよ。根拠もない、って大和にまた言われちゃいそうだけど。強い意志が力になるならそれだけ強く望む。願うのは回帰。だけど、本当に欲しいものはその向こうにある新しい世界。未来だ」
 遠くを見るように北斗は遠い星空を仰いだ。まったく根拠もないようなことを、それでも信じさせる――今大和の目の前に居るのはそういう男だった。
「何にしろ明日、ポラリスとの謁見を無事にすませてからの話か。気の早いことを言ったな」
「いいよ。俺もさ、先のこと口に出して言ってたら気持ちや思考がより定まったし」
 空に上がっていた視線が、大和のもとに帰ってくる。目と目が合わさった時、大和は北斗に、自分からも触れておきたいと思った。概ね彼とこういう雰囲気になる時は、北斗からということが殆どであったから。
 これが今生最後の寄るかもしれないと思えば、自然と身体が動いていた。少し冷えた、乾いたくちびるに、大和は自分のそれを重ねる。
 少し驚いたように蒼い目が丸くなった後、うっとりと笑った。
「大和からキスしてくれるの珍しい」
「これが最後の夜と思えば私とて悔いを残したくないと思うさ」
 大和が思ったところを素直に口にすると、それまで嬉しそうにしていた北斗が、急に真面目な顔をする。
「そうかな。確かに今こうして過ごすのはこれが最後かもしれないけど、次もあると思ってる。俺はまたお前に会えると思っているよ」
 神妙な面持ちと声で大和に言う。先の保証もないのにそれだけは、まるで確信があるみたいな口ぶりだった。
「縁。一回むすばれたものはさ。途切れないでまた俺たちを結び合わせるよ。忘れてもまたどこかで出会う」
「忘れていては縁などないもおなじだろうに。それでも……信じているのか?」
「うん。だって俺とお前の縁は、そんな簡単に断ち切れてしまうものじゃないって、そう思ってるからね。忘れてしまっても、また、はじめましてから始めようよ。忘れても、俺もお前も根っこは変わらないだろ。そうして俺たちまた、喧嘩したり仲良くしたり、笑ったり、怒ったり、ぶつかったり――愛しあったり、できるはずだから」
 俺はきっとまたあたらしくお前のことを好きになるよ。
 明日を、当て所ない未来を、可能性だとかそう呼ばれるものを、強く信じて、祈るような声だった。大和にさえも信じさせるような言葉だった。
 大和とまた視線を合わせて北斗が笑う。彼が笑うと、闇夜に青い星が閃く。何よりもいとおしい光。北斗の魂の在り方、そのもののような。
「君が君であることを全うし、私の前に姿を現すならば、そうだな。私もまた君に惹かれるのだろう」
 この出会いが奇跡に等しいものであることを、北斗も大和も知っている。
 世界の終わり、国の危機、日常が非日常に変わるこの一週間でなければ出会えなかった。出会わなかった。二人の軌道が混じる筈はなかった。
 だが、有りえるはずのないことを、何度も大和に見せてきたのが目の前の青年である。
 夢物語のような理想さえ、よもやと大和に思わせた。そんな彼であるからこそ、語る言葉を一笑に付すことができない。どこかでそうなればいいと、らしくもなく、大和も思う。
「奇跡がさ、また繰り返されるなら――それは多分、必然だとか運命だとかいうんだよ」
 まったく夢見がちな男だと苦笑じみて大和が破顔すれば、人生に浪漫は必要だと抗弁される。
 大和が無駄だと切り捨てるような物を、いとおしく思う男だった。そうして拾い上げて、大和が見ることのなかった面を見せてくれる人間でもあった。
 だからその戯れ言を、心地よく、愛おしく思う。
「再度出会えたらその時は君の言う必然やら運命やらに感謝しても良い」
「会えるよ。会える予感がする。俺の勘って結構当たるんだよ」
「なんだかんだ最善を選び続けてきた男の勘だ。であれば信頼に値う、か」
「二人で信じたらきっと叶うよ。――また明日も、その先も、忘れても、そうじゃなくても。よろしくね。大和」
 再度差しだされた手を大和は取る。改めて繋ぎなおす。
 口づけて、抱きしめあって、そうしてもまだ足りぬものを埋め合わせようとするだけの時間は、まだ少しだけ残っていた。


「明日ポラリスにあったらさ。お前が一度は見限った人間は、助け合ってのことだけど、ここまで出来るんだぞって見せつけてやるんだ」
 帰り道、最早不安の陰もなく――すっかり充電を終えたかの様子で北斗は大和に言った。
 嗚呼、摂理さえ恐れるものではないと。 不敵なその表情に心から惹かれた。大和の傍らにあるのは、天すら焼き焦がすつよい光。
 成程、あの憂う者が『輝くもの』と彼を称したことが、癪な話ではあるが今の大和にも理解できる。
 己の道へ伴わんと欲したが、これは誰かの理想(ひかり)に照らされるばかりでは収まるまい。彼は自ずから輝く星なのだから。
 泥の中の蓮のように、自然と育まれた尊い輝き。その熱は、例えば大和が北斗を忘れてしまっても、何時か何時かまた大和を惹きつけ、彼を見出させることだろう。


 ***


 終わりが来て、そこから新しい何かが始まるのなら。
 新しい世界で、また。


 君と/お前と。


 もう一度始めよう。
 新しい物語を始めよう。


 


(生まれては消え、消えてはまた生まれる星のよに、幾千幾万数多飽かず繰り返す永遠のおはなし)

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