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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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大変遅くなってしまいましたが、ツイッターで好物を当てられたらリクをお受けする企画で書きました。
リクエストは『主ヤマで、ウサミミとのペアリングをなくしてしまったヤマト。指輪が見つかるかどうかはお任せ』。
実力主義エンド後で恋人同士であまい主ヤマです。ヤマトさんがだいぶ乙女チックですので苦手な方ご注意くださいませ。






 早朝、寝室で彼より早くに目を覚ました私は、自分がいつも身に着けている指輪を失くしていることに気づき愕然とした。
 誕生日に彼から贈られた揃いのリング。大和とペアで何かを持ちたかったんだと、はにかむように笑って、彼は優しく私の手に指輪を嵌めてくれた。
 めおとという訳でもあるまいに。おもはゆく感じた私に、目に見える形でも繋がっておきたいんだよと言ってやさしく指に口づけてきた。
 そんな思い出の詰まった品物だ。だから贈られた日からほぼ肌身離さず身に着けて過ごしていた。なのに。
 すぐさま昨日の記憶を振り返るが、何処で落としてしまったのか皆目検討がつかない。そのことにも苛立つ。
 何しろ日中、私が手袋を外すことは殆どない。手袋の下に嵌めた指輪を落としたりなどあり得ない話だろう。
 一番可能性としてあり得るのはこの部屋の中で落とすことだろうと考え、一通り室内を探したが指輪は何処にも見つからなかった。
 だというのに、今私の左手の薬指には何の感触もない。彼が揃いだと贈ってくれたあの指輪は、以来常に私の指に輝いていたというのに。
 余りにも馴染みすぎて確認せずともそこにあることが当たり前になっていた。
 近頃執務が立て込み忙殺されていたのは確かだが、多少の疲労で集中力を欠くとは――指輪を失くしてしまったことも合わせて彼に顔向けできない。
 寝台に目をやると、昨晩褥を共にした彼は、私が音をたてぬよう気を付けたこともあってか、何も知らず安らかな顔でまだ寝入っていた。
 その健やかな様子を眺めていると心を温かな感情が満たしたが、同時に彼にこのことを話したら残念に思われてしまうかもしれないと考え、胸が痛んだ。
(……すまない)
 内心で声なき謝罪を向けると、私は彼を起こさぬように注意して一足早く身支度を済ませる。
 普段であれば彼が起きるのを待つか、彼を起こして共に部屋を出るところだが、今日はそうする資格がないように思えた。
 先に出る旨を一筆したためてベッドサイドに残し、私は急ぎ部屋を後にした。

 先ず向かったのは始業前の執務室だ。
 朝まだきの局内に詰める人間はそう多くなく、特に知った顔に遭遇することなく執務室にたどり着くことができた。
 普段私が使っているデスクを中心として周辺を検める。指輪はごく小さな品物だが、集中して探せばあのきららかな輝きはそうそう見落とすものではない。
 しかし、執務室内に指輪は影も形もなく、私は落胆に肩を落とした。
 かくなるうえは致し方ない。私は携帯を開くと召喚アプリを起動する。
 私用に悪魔を用いるなど褒められたことではないが致し方ない。
 目立たぬようにと小型の妖精や妖獣、魔獣などを選んで呼び出し、放つ。彼らに、昨日、私が回った建物、土地を見回らせることにした。
 取り纏めは今回呼び出した中に会って唯一大型の、ケルベロスに任せる。ケルベロスは、私にとってもっとも古く馴染みのある悪魔であり、信頼がおける。
 外へと駆けていく悪魔たちの姿を見送り、私は物憂く目を伏せた。


 物に拘りや格別の執着を持つなど、それまでにないことだった。
 今でもその気質が極端に変化したとは思っていない。
 すべて、彼の存在あってのことだ。あの指輪も、彼がくれた、その一点にこそ価値がある。
 目に見える形で繋がっていたいと、互いの縁を何時だって意識するように贈ってくれた。彼の気持ちが嬉しかった。
 離れて何日も会うことがないときであっても、あの指輪を見ると彼の存在を間近に感じられる気がした。
 彼の想いの証のようなものだから、それがないことがこんなにもこころをかき乱す。
 かくも女々しい感傷を自分が持ち合わせていることに愕然とする。だが、彼がくれたもの、くれるものを、捨てようとは最早思えないのだ。
 彼の存在は、私の芯に根を張って最早分かちがたい。
 もしも、彼がくれた指輪を見つけることができなかったら?
 後ろ向きな思考を、私はかぶりを振って払い捨てる。
 憂いはあるが、これ以上落とした指輪にばかり腐心していては業務に障る可能性があった。私は思考を切り替えて執務にあたることにした。


 指輪の件以外はこれと言って問題のない日だった。業務自体は滞りなく、宵の口には終わりを迎えた。私は常日頃と変わりなく、すべての職務をまっとうした。
 後は危急の案件が持ち込まれるか、唐突な高位悪魔の出現でもなければ、今日の所は私がするべき仕事はもうないだろう。部屋に持ち帰らなければならない書類も特にはない。
 彼はもう居室に帰ってきているだろうか。
 今日は一日、彼と顔をあわせぬまま過ごした。互いの職務が忙しければ彼と顔を合わせることがないまま一日を終えるなどよくあることだった。
 だが、今日は、あえて、故意に、彼と顔を合わせることを避けた。
 指輪を見つけ出すまでは彼に合わせる顔がない。そんな風に思えて仕方なかったのだ。


 公から私へと思考を切り替えると、指輪のことがまた気掛かりになる。
 丁度そのタイミングで外に放っていた悪魔らが戻ってきた。
 だが――そのなかの一体たりとて私の望む成果を持ち帰ることはなかった。夜までかけて捜し歩いたが影も形もなかったと。
 悪魔らは必要であれば幾らでも嘘を吐くが、このような些事で使役者を謀ることはない。私は彼らの報告を聞き終えると、携帯内へと帰還させた。
 その内に一袋だけ戻らぬ者がいる。不審に思ってみれば、幼少期より私に馴染み、親しむケルベロスであった。
 青と灰銀の毛並を持つ魔犬は、物言わぬ視線をじっと私に注いでいる。気遣うような様子に、私は些かの居心地の悪さを覚える。
 悪魔に心配をかけるほど、私は目に見えて動揺しているのか。
 深い青色の鬣に少しだけ顔を埋める。漣だった心が幾らか落ち着くように思えた。
 直に顔をあげた私はケルベロスの毛並を労うように撫でてやり、
「大事ない。……かくなるうえは、彼にきちんとこの事を話すさ」
 案ずるように見遣る忠実な魔獣に、戻れと命じる。主である私の命令を聞き入れ、ケルベロスは今度こそ送還に応じた。
 私がこれからすべきことは、ケルベロスに告げたとおりである。ここまできてじたばたと無様に足掻きはするまい。私は執務室を後に、彼が待っているだろうふたりで暮らす居室への、帰路についた。


「おかえり、大和」
 予想にたがわず、既に帰還していた彼は、私を常と変らぬ笑顔と共に出迎えてくれた。
「ああ、今戻った」
 部屋の中で私がジプスコートを着込んだままでいることを好まぬ彼が、こちらに手を差し伸べてくる。応じて私は黒い長外套を脱ぎ、彼へと手渡す。受け取った彼は手早くコートをハンガーにかけ、クローゼットのなかへと仕舞い込んだ。
「晩御飯の用意、できてるよ。どうせ外では食べてきてないだろ?」
 言われて、そういえば今日は一日食事を摂っていなかったことを思い出す。指輪に気を取られていた所為だ。
 常日頃から、栄養と睡眠は十分にとるようにと言われていたし、自己管理をおろそかにする愚を犯してしまったことに、私は自己嫌悪する。今日は本当にろくでもない日だ。
 居室に備え付けのキッチンから、出汁のきいた良い匂いがする。彼が準備したという食事のものだろう。食事していなかったことを意識した途端、空腹を感じるようになるのだから身体と言うのは現金なものだ。
 彼の作るものはいつも美味である。ちかごろは私の味の好みを理解したようでなおのこと。外で食事をするとどこか味気なく感じるほどだ。だから、用意された夕餉は楽しみであるのだけれど。
「食事をする前に話がある」
 先に、指輪の件を切り出さなくてはならない。
 何時もと変わらぬ彼のやさしい態度を見ていると、黙っていることに罪悪を感じた。
 どうかしたのかと青い瞳を瞬いたのち、彼が続きを促すように私を見る。
 その表情が曇ってしまうのだろうかと思えばちくりとかすかに胸が痛んだが、私は意を決して口を開いた。
「……すまない。君に貰った指輪を、なくしてしまった」
 できるだけ冷静に切り出したつもりだったが、どうしても声が沈む。
「それで大和、なんだか元気なかったのか」
 彼は小さく目を見開いた後、どこか納得のいったような顔をしてみせた。
「君の前では隠し事はできんな」
 言われて私は眉を下げる。ケルベロスに気遣われたことといい、私は自分で思っているよりもわかりやすい人間なのだろうか。
「今日一日で心当たりを当たってみたがどこにもなかった。誰かに拾われてしまったのかもしれん」
 彼に貰った大切な指輪がただの金品として誰かの手にあるとしたら。そう思うだけで気鬱だ。 
 私が表情を顰めたのを見てか、彼が困ったような顔をする。やはり不快にさせてしまったのだろうかと思ったのだが、
「うーん……そのことだけど。大和、手、出して?」
 何を考えてか彼が口にした言葉に、私は首を傾げつつも言われるまま手を差し出す。
 すると。
「……っ!?」
 私はひゅっと大きく息を呑みこんだ。彼はポケットから魔法の様に、私が失くしてしまったはずの指輪を取り出して見せる。
 驚いて固まった私の手から手袋を取り去ると、定位置である薬指に、その美しい輝きを嵌めてくれた。はじめに、プレゼントとして指輪をくれたときと同じように。
「どうして、君が、これを……!」
「エッチの後、ベッドの上に落ちてた。大和さ、最近ちょっと痩せたんじゃない? 致してる最中に指から抜けちゃったみたいだよ」
 言われてみれば昨日の睦み合いはそれなりに激しいものであったように思う。
 私の意識も前後不覚になるほどで、最期は彼に縋って揺さぶられるばかりだった。あのときに、落としてしまっていたのか。
「君がずっと持っていてくれたのか?」
「うん、起きたら大和に渡してあげようと思ってて……なのに起きたら部屋からいないしさ。会おうとしたけど忙しかったみたいだし」
「…………」
 恥ずかしいやら情けないやらで、私は顔を赤くして黙り込むしかない。つまりは今日一日、私が感じていた不安は完全なひとり相撲であったということだ。
「大和さ、なんでも一人だけで解決しちゃおうとするの悪い癖だよ。何もかも頼れとは言わないし、そんなことしないだろうけど」
 プライベートの相談はしてくれていいんだからな。
 そんな風に真面目な顔で言ってから、彼は私の手を取り、薬指に口づける。その感触の暖かさに申し訳なくなった。
 今回ばかりは彼の言うとおりだと、小さくうなずく。初めに相談していれば、こんなにも一日、気をもむことはなかったのに。
「善処、する」
 戻ってきた指輪の嵌った手をきゅっと握る。その感触はしっくりとくるが、改めて意識すると、確かに少しばかりサイズが緩くなってしまっているようだ。
「よろしい。じゃあ、さしあたって今日はちゃんとご飯を食べて、もう落とさないように――週末にでも指輪を直してもらいに行こうか?」
 にっこりとほほ笑んだ彼の言葉を、否定する要素は何もない。
 再度頷いた私の手を彼は引いて、食卓へと連れて行く。
「一杯食べて、それから週末の予定を相談しよう。今日は起きてからまともにしゃべれてないから大和不足だ」
 テーブルにたどり着き差し向かいに据わったところで、冗談めかして彼が口にした言葉にふと私は口元を緩める。
「私も、だ。私も君が足りない」
 君を感じさせる指輪が手元になかったから、と、思う所を素直に告げると、彼は目を丸くしてから片手で顔を覆う。
「あんまり可愛いこと言うなよ。ご飯の前に大和を食べたくなっちゃう」
「君が降った話題だろうに」
「それでも、そう真っ直ぐに言われるとくるんだよ。……ご飯の後、まずはボディランケージしてもいい?」
 あおい瞳がそうっとこちらを伺い見てくる。まったく、欲望に正直な男だ。
 だが、
「指輪を、私が落とさぬ程度ならば構わん」
 その誘いを無下にできぬのだから、私もまったく彼をどうこういうことはできないのだった。


 室内の明かりを受けて柔らかに煌めく彼との絆の証が指に嵌ってきちんとそこにあることを確かめ――また向かい合う彼の指にも同じように輝いていることに――、私は心から安堵し、目を細めて笑った。心から笑うことができた。

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