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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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6日目夜、ヤマトルート選択後。
主ヤマで告白から入って両思いになってそのまま致していますが、ブログカテゴリの都合上、問題になるシーンはカットしています。
ピクシブの方では仔細が載ってますので、よければそちらでお楽しみ下さい…。
一応濡れ場なしでも話自体は通じるかと思います。
主人公の名前は宇佐見北斗です。

おやすみライオン→この話だと思うとなんとなくウサミミの気持ちの流れが掴みやすいやも。
我が家の主ヤマで恋愛にいたる場合、局長からは親愛と敬意と友誼が強いので、ウサミミ側からスイッチ入れないとこじらせた友情から中々孵化しない気がしています。
でも多分意識して理解したら一直線な人だろうな、とも思うのですが。


 その夜、峰津院 大和は珍しくこの上ない上機嫌であった。
 褒められた話ではないが、多少浮ついていたと言っても良い。
 理由は実に単純な話である。
 己が掲げた理想──実力が正しく評価される世界を築く上で要と成り得るだろう人物が、選択のこの夜に大和の手を取ったからだ。

 宇佐見 北斗。
 はじめは淘汰されるべき愚民の一人に過ぎないと思っていた彼は、未曾有の災厄の日々の中、めきめきと頭角を現し、今やジプスに、大和にとって欠くことのできない重要な存在となった。
 彼が居なければセプテントリオンとの戦いは今以上に辛いものとなっていたことだろう。
 北斗が共に居れば、大和が抱いた実力主義という種は確かに芽吹き、きっと大きく花開く。そう思うに足る相手だ。
 彼は何時だって大和の予測を覆し、けれど決して失望させることはなかった。叶うなら己の右腕に──否、それ以上の存在にと大和は北斗を望んだ。
 その才覚を、人柄を、好ましいと思った。だから、大和は幾度も熱心に北斗を掻き口説いた。 自分の手を取れと、同じ道を歩めと。
 聡明と見込んだ彼ならば判断を誤るまいと思いながら、北斗の優しさを知るがゆえに懸念は、不安は同じだけ大和に付き纏った。
 北斗にとって幼馴染である志島大地、初日から彼らと行動を共にしている新田維緒。
 二人は実力主義でも平等主義でもない道を探すと決めているようだったから、北斗がそちらにつく可能性は低くなくあったはずだ。
 それでも、北斗は大和の示した道を支持した。共に在り、実力主義の世界を創ると言ってくれた。
 北斗が誘いに頷いた瞬間の昂揚を大和は忘れない。心臓が震えた。
 やっと見つけた。やっと手に入った。唯一無二の対等、大和が長く求めて止まなかった存在。
 これは終点などではなく途中経過であると理解しているが、それでも彼がここに居ることが大和は純粋に嬉しかった。

 迎える為に準備した居住区の一室への案内を、大和自ら行っているのも、そんな、聊か舞い上がるに近いと言ってもいい感情ゆえであった。
 人員をシェイプしたとはいえ誰かに任せても良かった──北斗と面識のある真琴などの適任な人材もいる。それでも、大和はもう少しだけ彼といたかったのだ。
 北斗のための部屋は、居住区の最上層を選んだ。司令室に面する、窓のある部屋。
 ジプスの施設は地下にある。窓はその閉塞感を多少は軽減してくれるだろう。
 ここで過ごす時間はもうそう長くさせるつもりはないが、それでも少しでも良い環境で過ごして欲しい。
 家具は東京支局で彼が使っていたのとできるだけ変わらぬものを用意させた。
 ずっと大和は、北斗が東京支局でばかり寝起きしているのが密かな不満だった。
 常に眼の届く所に、傍らに居て欲しかった。それもまた今宵からは叶うのだ。
 明日の朝は自分が起こしにいくのもよいかもしれない。驚くだろうか。そんなことを考えている内に目的の場所に着いた。
 北斗を部屋へと通し簡単に室内にあるもの伝えてから、明日に備えてゆっくりと休むように促して大和を部屋を辞すことにする。
 らしくもなく浮ついた気持ちでいることになど、気付かれるわけにはいかない。

 ──だと、言うのに。北斗の方が、退室際の大和のことを引き留めた。

「なあ、大和。少し話をする時間はあるか?」
「…構わん。他勢力も夜明けまでは動かぬだろうからな、会話をする程度の余裕は取れるぞ」
「ありがと。じゃあさ、こっち、来て。どうしても今夜の内に話しておきたいことがあって」
 部屋の中に居る彼に手招かれて再度入室する。言われるまま大和は北斗の近くに寄った。呼ばれるのは嫌な気はしなかった。
 所謂私的な時間に、他者と交流を図ることは大和に取ってはそうある経験ではない。重要だとも思えなかった。
 それでも、不思議と彼は、彼だけは多少の"無駄"を共にするのも悪くないと大和に思わせる。本当に不思議な男だった。
 どうしたのかと大和が視線で言葉の続きを促せば、北斗を珍しく少し逡巡するように目を伏せたあと、あの目の覚めるような青い瞳で大和を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「あのさ、実力主義では強者には相応の待遇を、なんだよな? …それなら、俺、どうしても欲しいものがあるんだけど」
「珍しいな、君が積極的に何かを欲するなどと」
 本当に珍しいことだと大和は瞬きをする。世界の趨勢を決める直前であり、戦いは熾烈さを増していくだろう。だからこそ、望みのようなものが生まれてもおかしいことではなかったが。
「即物的で幻滅した?」
「いいや。欲望を綺麗事で繕わぬ分好感が持てる」
 珍しく少し不安そうにも見えた北斗の様子に、大和は首を横に振る。
 北斗が、大和に対して素を曝け出してくれるような。他の誰でもなく自分に、求めているものを相談しようとしているという現状には、淡い昂揚があった。
「それで? 君が欲しいものとはなんだ? 予め言っておくが、状況が状況だ。すまないが用意できるものはそう多くないぞ」
「大丈夫。大和なら用意できる…というか、大和にしか用意できないものだから」
 北斗からそう言われても大和には心当たりがなかった。
 大和のみが持つ札となると様々な情報や龍脈に関わる諸々が思い当たるものの、ポラリスに至るまであと僅か。
 これまでの日々を戦い抜いた者たちはそれぞれに主義主張を選び、最早隠す物事などない状況だ。
 その中で北斗が大和に何を求めるというのか。常に大和の推測や想定を幾度も越え続けてきた彼である。
 欲する所もまた予想の向こうにあるものなのかもしれない。

 これまでの日々のなか北斗が格別何かを求める所など、少なくとも大和は見たことがなかった。
 どちらかといえば執着の薄い方ではないかと思う。決して優柔不断という訳ではないが己の欲望そのものより、他者に重きをおくように見受けられた。
 そんな彼が「欲しい」とはっきり口にしたものだ。何であれ、大和に叶えられるなら用意してやりたかった。
「そうか。ならば出来る限り善処しよう。しかし、迂遠な言い回しは好きではない。はっきり言いたまえ」
「じゃあ遠慮せずに言わせて貰うけど。…俺、大和が欲しいな」
 大和にとって唯一無二の対等、友と呼べるだろう人物は、この上ないほどきれいな笑顔を浮かべて、とんでもない爆弾を投下した。
 あまりに予想外の発言であったものだから、大和の思考はその一瞬、完全に停止してしまった。



 幾許かの沈黙。その間に北斗が前言を撤回することはなかった。
 直に再起動した大和の意識は、向けられた言葉の意味を考える。
 北斗は「大和が欲しい」、と言った。
 似たような言葉を、以前大和もまた北斗にかけたことがあったが、それとは意味が異なるだろう。
 主義主張への勧誘など、北斗が大和にする必要はない。ならば北斗が口にした言葉は正しく──大和個人を求めるものということになる。
 そこまで理解して、大和の思考はまたしても凍結しそうになったが寸でのところでかろうじて維持に成功した。
 どうにか冷静であろうと務めながら、衝撃的な告白をさらりとしてのけた相手の顔を窺いながら尋ねて返す。
「今の言葉は、本心か?」
「ひとが聞き返すと同じ事を言わせるなって言うくせに。…もっと直接的に言わないとダメなのか? 俺は大和が好きで好きで堪らなくて、欲しいって思ってる」
「私は男だぞ。実は女だ、などという事はない。それでもか」
「うん。性別を勘違いしているとかそう言う事もなくて、友達の「好き」じゃなくて──あいしてる」
「……っ。……お前が酔狂で口にしているのではなく本気だというのは伝わった」
 大和の考えが勘違いであるという可能性は、北斗本人によって完全に否定された。響く言葉はこの上もない、恋情の告白以外の何者でもなかった。
 北斗に己が与えられるものがあるならば何でもくれてやりたいと大和は思ったが、これは完全に想定の範囲外だった。
 心臓が早鐘のように鼓動を打ち、五月蝿い。大和は深めの呼吸をとり、己を落ち着けるべく勤めるが中々儘ならずにいた。
 じっと青い視線が注がれたままだというのも落ち着かない原因のひとつだ。
「もうひとつ、聞かせてくれ。何時から、だ? 何時から……北斗、君は私をそんな風に想うようになった?」
 それでも何とか、大和は疑問を口に上らせる。
 大和が局員に命じて北斗の身辺を調べさせた時、彼が同性愛者だというデータはなかった筈なのだが。
 北斗の言葉が一片の混じりけもない本気なのだとしたら、どういう経緯でそう思うに至ったのか。大和は知りたいと思った。

「……はじめは、自分とは別世界に生きてる、縁のない人間かなって思ってた」
 尋ねれば北斗はゆっくりと丁寧に気持ちを言葉にして返してくる。
 伏せられる視線は僅かに遠く、いちばん始めの出会いから今に至るまでを回想しているように見えた。
「だけど、関わって、話して、一緒に戦って。お前のことを知るうちに惹かれてるって気づいた。お前に認められると凄く嬉しかった。お前をもっと知りたくなった。強くて厳しくて、きれいで。一人で色々背負い込んで言い訳もしない。損な性分のお前のこと、放っておけない。助けになりたい。理想があるなら、望む世界があるなら、叶えてやりたくなった。大和のことを想うと、胸がいっぱいになる。何でもしてやりたくなる」
 彼はこんなにもはっきりと好意を口にする情熱的な人物だったのか。大和は知らなかった。
 知らず大和は顔が熱くなるのを感じていた。実際、北斗の透き通るあおい双眸に、映り込む大和の顔は仄かに朱を帯びている。
 これは良くない傾向だ。己でも把握しきれない感情、情動というものは判断を誤らせる。
 しかし、常態を保とうにも甚だ難しかった。現状は大和にとって予想外に過ぎる。
 紅潮を隠すように、顔の向きを幾らか外そうとしたが、すぐに追いかけてこられてしまい逃げ場がなくなった。
「…これ以上は、いい。よく、解かった」
「まだ続くよ? だって本気で口説いてるんだからな」
 そっと、北斗は大和の手をとる。何をするのかと視線が向いた大和の前で、北斗は浚った手指の先に触れるだけの口づけを落とした。
 手袋越しにつたわる柔い体温。益々跳ねた鼓動は、驚いたことに警戒ゆえでも嫌悪ゆえでもなく。微かな接触ひとつで、あまく、背筋がしびれた。
「はじめは、友達になりたいんだって思ってた。だけど、多分それだけじゃ満足できないから。こうして触れたいって思うから……これは、恋なんだ。大和。俺は、お前が欲しい」
 間近で北斗が微笑む。軽やかに笑う顔が好ましいと、大和はいつもそう思っていた。
 今笑った顔は、普段見るのとは趣が違う。けれど、柔らかい、きれいな笑みだ。全く嫌な気がしない。
「本当は言うつもり、なかった。きっと困らせるか、怒らせるから。だけどさ、この段階でメギドラオンとか使われないんだから、少しは脈があるって思ってもいいのかな?」
「……ッ!」
 言われるまで大和は思いもしなかった。スキルを使うという選択肢は行き過ぎだとしても、何故自分は彼の手を振り払わないのか。
 大和は思考をめぐらせる。北斗に握られたままの手は暖かく、どうにも離し辛い。
 しかし、北斗から向けられる想いを否定するつもりが在るのならば、これは受け入れてはいけないことだ。

 なのに。

「大事にする。何でもする。誰より役に立ってみせる。だから、大和を全部……俺にくれ」
 真摯に、請うような──少し低められた声を耳に心地よく感じている自分に、大和は愕然とする。
 大和もまた北斗を求めていたのは事実だ。この世界で、大和の知るのなかで唯一傍らにあるに相応しいと認めた男。
 だが、それは決して恋愛などといった甘ったるく浮ついた感情は含まれて居なかった筈。その筈だ。
「…私は、高いぞ」
 常のように静かに響かせたつもりの声音は、幾らかの、動揺を帯びていることは否めなかった。
 何故なら初めてだったからだ。血統由来の特異な力や立場ゆえでなく、掲げた思想でもなく、『峰津院家の嫡男』『ジプスの局長』という肩書きの下にある、一個人としての大和を求めるものなど今までにいなかった。
 自分は高い、などと北斗を試すようなことを言ってしまったが、己が彼の想いに見合う人間なのかと言う事は大和には量りかねる。
「それに見合うだけの働きは、するつもりだけど?」
 大和の胸中も知らず、間近で目を合わせ、返答をした北斗の言葉に、大和は色素の薄い瞳を細めた。
 北斗の物言いが自負ではなく事実である事を、これまでの戦いの中で大和はよく知っている。
 得難い人材。無価値と断じた堕落の汚穢、一般人の群れの中から綺羅星のように現れた。
 抜きん出た力を持ちながらも情深く、他者を気にかけてなお磨り潰されず、輝きをなくさない。彼に魅せられた人間は数多いだろう。彼の代わりなど誰にも勤まらない。
「なんて、取引だけでことを進めるつもりはない。…嫌なら嫌、無理なら無理でいい。それでも俺はお前のために働くよ。忘れてくれてもいい。どんな結果になるとしても言っておきたかった」
 豪胆であるのに、けれどどこか切ない表情にまた心臓が跳ねた。大和の胸中はもうずっと彼に翻弄されたまま収まってくれない。顔が熱い。
 北斗の青い瞳に在るのは透徹とした覚悟だ。意思を既に定めた人間の潔さと強さがそこにある。
 その真っ直ぐな想いは、逃げることを、曖昧に濁すことを大和に許さない。

 彼をどう思っているのか、と。その想いに応える感情は自分の中に在るのだろうかと。大和は己に何度も問いかける。
 嫌ではない。嫌悪はわかない。他の誰かでなく自分に対して彼がこうして、存在を請うことを、恋着の情を見せることを、大和は拒否できなかった。
 解かりやすくいってしまえば、ひどくうれしいと、思ってしまったのだ。
「…なあ、大和。俺はもうお前のものだけど。お前は? …俺のものにはなってくれない?」
 北斗が取ったままだった手を少し強めの力で引いて、大和の身体を抱き寄せる。
 抱擁は力強く、熱かった。言葉はまだ出てこない。けれど、思いを告白されて触れられているのだ。
 意味は解かる。北斗に身も心も欲されている。それを理解して、なお大和は全く抗う気になれなかった。
「何か言って。逃げないなら、否定しないなら。良い様に受け取る」
 唇を奪う北斗の動きにも、大和は抵抗しなかった。それが無言の肯定であると察せぬほど北斗も鈍くはないだろう。
 それでも、彼は大和の言葉を聞きたいようだった。沈黙だけでは不安なのだろう。大和にも解っている。何も口にしないというのは狡い。
 大和を鎧う重厚な黒い長外套が床に落とされ、備え付けられた寝台の上へと痩躯が北斗の手で浚われる。
 覆い被さってくる北斗で、大和の視界は埋められる。
「そのまま黙ったままで居ると、このまま調子に乗った俺に食べられちゃうよ、大和」
 いいの? と不安が僅かに兆した北斗の眼差しを、大和は静かに見つめ返した。
 強引にも見えて、彼がその実窺いながらでいることを大和は理解している。北斗はそういう男だ。
 結局、温くて優しいのだ。僅かでも拒否を見せればきっと北斗はもう大和に触れることはない。

 同性に組み敷かれるなど、男としては甚だ不本意な話である。
 北斗以外の、他の者が相手ならばこのような事、大和はけして許しはしない。
 劣情を持って触れてきた時点で首を落としている。

 ──だのに、彼にはこうして全てを許している時点で、はじめから答えなど明白なのだ。

「…構わん。私を君のものにしたいのだろう? 続けるといい」
 想いが定まれば、心が、凪いでいくのを感じる。黙りこくっていた唇を大和は漸く開く。
 北斗が瞳を丸くするのが見えた。それを見、大和の白皙に浮かんだのはかすかな笑みだった。
「許す、と言っているんだ。わざわざ言わせるとは君も本当に意地が悪い」
 先刻触れあった唇に、嫌悪も否定の意識も働かず、寧ろその温もりに安堵した。
 視線を合わせる。青い星のような天色の瞳が真っ直ぐに大和だけを見つめ、映している。
 その輝きを、宿る意思のつよさを、すべて手に入れたいと思った。
 彼が、真実自分だけのものになるというならば、新しい世界まで、否その先も、隣を共に歩き生きてくれるのだとしたら。
 対価として己を明け渡すことに痛痒はない。それは正当な交換といえるだろう。
「大和…本当に、いいのか?」
「くどい。君から言い出したことではないか。…食べたければ食べると良い。君ほどの男に、そこまで欲されるのは、なかなかに悪くない」
 確認としてかけられた声音の裏に隠しきれぬ昂揚の震えを感じる。
 彼の声に、求められている事実に、意図せず高鳴る胸の内を満たす、名付けえぬ多くの情動が入り混じった複雑怪奇な感情。
 英傑、聖者の類ですら罹れば堕する気狂いの病。理性と合理を尊ぶ大和にとっては、忌避すべきもの。
 それでも、自覚してしまえば持て余してしまいそうなこの感情を、目の前の彼ともども手放したいとは思えない。
 今まで大和は、老若男女誰であっても、唯一人にこんなにも執着したことなどついぞなかった。
 この数日で、強く、強く、その存在に惹かれたのは自分もだと大和は認めた。北斗の力、人柄、彼が見せる大和の知らなかったすべて。それは確かに大和を変えてきたのだ。
 彼という存在はこんなにも深く、大和の中に染み入り、根付いて、拒否することなど想い至らない。
 離れることのほうが余程──耐え難く、赫怒を招く。
 ああ、自分もまた彼を心底欲しているのだと芯から理解してしまえば、深まる微笑に混じるのはあまやかな想いの色。
 あわせた視界が、胸の内が、北斗でいっぱいになる。

「北斗。後にも先にも君だけだ。この私を、所有する資格があるのは」
 流されての諦観ではなく、己の感情を定め受け入れてから、応える。
 台詞の続き、想いを乗せて短く紡いだ、大和にしては拙い愛の言葉は──北斗の耳にだけ届けば良い。
 二度目に唇を合わせたのは、大和の方からだった。



+++


「……と、大和、大和」
 身体を揺さぶる誰かの手を受けて、大和の意識は浮上する。指の先まで倦怠が満たし、腰から下はろくに感覚がない。前後の記憶も微妙に曖昧だ。大和は睫毛を揺らし幾度か瞬きを繰り返す。
 構造そのものは見慣れたジプス居住区の一室、その天井。そして、こちらを覗き込む、心配げに揺れる青い瞳が見えた。

「大和、大丈夫?」
 尋ねる北斗の声に、大和はどうにか頷いて見せた。中途で完全に気をやってしまったようだ。過ぎるほど、浴びるほど与えられた快楽の余韻で、まだ少し頭がぼんやりする。
 明日を思えばこのような荒淫に耽るなど、軽蔑されても仕方のない事なのに、それでもあまり後悔がない己が、大和はすこし恐ろしかった。こんな、此処まで理性を飛ばすような真似は今夜だけだ。そう、自戒を科す。
「同性間の性交とはこんなにも消耗するものなのだな。……流石に些か、疲れた」
 些か、と言うのは控えめな表現であり、実際には精も根も尽き果てているといった方が実情に近い。身体や体力は後々魔法を使って回復させるべきだろう。
「……いや、それは、その、なんていうか……ごめん」
 大和は別に北斗を責めたつもりは毛頭なかったのだが、彼の肩がしゅんと下がる。
 殊勝なことだと大和は小さく忍び笑う。確かに抜かれないまま、幾度も遂情を受けたことは身に染みて響いているが、一度で止めようとした彼を引き留め、続きを強請ったのは自分の方だというのに。
 初めは彼が望むことに応えてやりたいという気持ちで、己の中にある抵抗感や恥辱を抑えてことに及んだはずが、中途から至極丁寧に与えられる熱と快楽に絡め取られ、気付けば何処までも耽溺していた。

「謝るな。この私をあれだけ暴いて、君のものだと刻んでおいて、後悔などしてくれるなよ。そちらの方が余程業腹だ」
「後悔はない! …するわけない。大和こそ、してない?」
 きっぱりと北斗から返された回答は大和の望んだ通り。続いた問いかけは少し面白くないが、気怠さの残る身体をどうにか起こして、大和は横合いから北斗の身体を抱き締める。すこしふらつく大和の身体を支えるように、北斗の腕がすぐに返った。
 この腕が心地よくて、つい、らしくもない強請り方をしてしまったことを大和は思い返す。
「ならばいい。私は、悔やむくらいなら初めから同性に身など任せない。そもそも、いまの私が一時の過ちだったと嘆いているように見えるのか?」
 生まれたままの裸体を曝しあい、隠すところなど何もない状態で見詰め合う。青い瞳に映り込む大和の顔は、疲労が色濃かったがそれでも暗い翳りは欠片もなく、充足しているように見える。
「……俺の欲目や自惚れじゃなければ、すごく満足そうだ」
「正解だ。君はもう少し己の観察眼を誇りたまえ。私の役に立つと己を売り込んできた時の自信は何処にやった。…謙虚は美徳だが君は時に過小評価が過ぎるな」
「そこは努力する。…けど、本当に夢みたいだから。上手く行き過ぎて少し、怖いくらい」
「結果は、君が、自身の才覚と力、日々の積み重ねでもぎ取ったものだ。全く、私を、峰津院大和を、あれだけ好きに扱った男が今更気弱なことを。…夢でいいのか?」
 挑戦するようにまなざしを大和が向ければ、北斗ははっと息を飲み込み、頭を振った。
「よくない。現実がいい。夢じゃなくて良かった」
「答えは出ているではないか。私も、…そう願うさ。目が覚めたら、夢だったなどとは思いたくない。理性や合理にそぐわぬことなど不要と思っていた私が、君に対してだけは無駄も悪くないなどと……愚かだが、それでも手放せば却って後悔するだろう。君が思っている以上に、私は…君を好いている。自覚するには、君の言葉が必要だった」
 北斗はどうにも大和が彼の想いを受けたことに対して不安が在るようだった。あれだけのことをしておいて本当に何をいわんやと思うが、はじめに言葉が足りなかったのかもしれない。ならば、惜しむべきではないと、大和は己の想いを唇に上らせていく。
 自らの中で回答が出ていれば、大和は迷わない。悔やみもしない。すべて責は己にかかるのだから。どんな時も十全を尽くせばいい。選ぶとは大和にとってそう言う事だ。
「大和……俺、今凄く熱烈に告白されてる気がする。自惚れそう」
「当たり前だ。君の言葉を借りるならば、『本気で口説いている』のだ。……これ以上、情けない言葉など聞きたくはないからな。君には私の隣で何時ものように剽悍と構えていてもらいたい。君は、私が、無二の対等だと選んだ男なのだから」
 大和は手を伸ばし、北斗の頬を包み込む。北斗が先ほど幾度も労わりや慰めをこめて落としていた口付けを、今度は大和が相手の頬に落とす番だった。言葉の一つ一つに聞き入るように、北斗の目が細められる。
「……ありがとう。あのさ、さっきまでみたいに甘えてくれる大和も好きだけど、そうやって不遜な顔をしている大和もやっぱり好きだな」
「フン。…さて、こうなる前にあれだけの大言壮語を吐いたのだ。北斗よ、君は今まで以上に私の力となってくれるのだろうな?」
 一瞬だけ目を伏せた後、大和は北斗の顔を覗き込む。別段取引で身体を許したわけではないが、それでも、先のことは改めて北斗の口から聞いておきたかった。

「勿論」
 不安の去った天色の瞳はあおく美しく星のように輝く。真っ直ぐ大和を見つめて、北斗は頷いた。告白を紡いだ声音に宿っていた、覚悟が感じ取れる、確りとした声が答える。よく通り、響く。
「今なら、ポラリスにだって負ける気がしないよ」
 浮かんだ軽やかな笑みは、大和の一番好ましいと思う顔だ。見惚れてしまいそうな魅力的な表情。北斗を選んで良かったとそう思わせるに足る。そして、この感覚は決して気の迷いなどでない事を大和は知っている。
「良い返事だ。それでこそ我が盟友──否、友同士はこのような行為には耽らぬか」
「そこは恋人か伴侶って言って欲しいかも」
「言うようになったではないか。……北斗。そうだな、君が望むならば」
 構わないと大和が頷いた所で、唇に柔らかい感触が落ちた。大和は少しだけ目を閉じて、北斗からの口付けを甘受する。今日だけで何度重ねたか解からない唇。すっかり馴染みつつある柔らかさを、明日も、その先も失いたくはないと思った。
 深くはならず、合わせるだけの優しい触れ合いは直ぐに解ける。だが充分に満たされる接触だった。

「さて、夜明けまであんまりないけど、できるだけ休もう。先ずは風呂、だな」
 考えてみれば、北斗も大和も、今日も今日とてセプテントリオンの襲撃を退けるべくあちこちを駆けずり回った後だ。特に今日の相手、ミザールは厄介な相手であった。その分戦闘も、その準備も過酷なもので──にも拘らず、湯も使わずに睦みあっていた訳で。互いの余裕のなさを改めて思い知らされた気がする。
 それに環をかけて互いの体液が入り混じるくらいに激しく互いを貪ったのだから、ジプスの施設にきちんと水道が通っていることを、北斗も大和も感謝するべきだろう。
「一応、大和が寝ている間に、最低限の後始末はしたけど、確り身体を綺麗にした方が絶対良い」
「道理でさほど不快感がないわけだ。眠りに落ちる前は相当ひどい状態だったと記憶していたのだが」
「うん、あのままはないなって思った。俺も大和もベタベタのドロドロ。自業自得なんだけど。……ところでシャワールームまで歩けそう?」
「…………少し待て」
 北斗からの問いかけに大和は一瞬眉を寄せて考え込む。一先ず試すが早いかと、ベッドから降りて立ち上がろうとしたが、案の定足腰に力がろくに入らない。這う位なら叶いそうだがそれを北斗の前でするのは多少の躊躇がある。どうしたものかと大和の視線が彷徨ったところで、悪戯を思いついた子供のような顔をする北斗が見えた。
 
「俺が運ぶよ。っていうか、運ばせて」
 
 そう言うが早いか、大和の身体は北斗に掬い上げられ、横抱きにされる。片手は大和の腰、もう片手は膝裏。姫抱きと言い直すことも出来る。
「っ!! 君は何を考えて……!」
「だってこれが安定するし、大事に抱えるから大和の身体にも響かないよ?」
 北斗に笑って理路整然と進められてしまえば大和には拒否できない。そもそも抗うほどの余力と気力がまだない。何より北斗の楽しそうな様子を見てしまうと強く出られない。
「……。…好きに、したまえ」
 赤くなる顔を隠すように、大和は北斗の肩口に顔を埋める。シャワールームへと大和を運ぶ手つきも足取りも、この上なく優しく丁寧だった。宝物のように抱き上げられて、恥ずかしいのに嫌ではないこの感覚が、幸せと言うのだろうか。大和はそんなことを思い、大人しく北斗に身を委ねた。

 やがて朝が来ればまた戦いになる。きっと今日よりも明日は厳しい戦いになる。なのに、こんなにも恐れるものがないと思える夜は、大和にとって初めてだった。
 大和の胸の中には確かに息づく予感がある。艱難辛苦は未だ続けど、自分の望む世界は必ず訪れる。鍵は此処に。己の傍らに。彼が──北斗が居てくれればきっと。きっと叶う。
 それははじめての恋に浮ついてのことではない。確かな確信だった。そして、その予感は間違いではなかったと遠くなく証明されることになる。


 ──これから二日の後、世界は彼らの手で革められる。

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