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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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花咲き局長の話、これにて完結!
やっとお花が咲いたよ! 長かった…。
ほんのりだけ流血表現があります。

しかし最後まで書いたらタイトル詐欺のような気がしてきたので、ピクシブに乗せるときはタイトル変えると思います。
思ったよりも長くなったので、ツイッターで流さなくて本当に良かった…。
こんなに流したらTL占拠ってレベルじゃない。


 三日目の午後に、峰津院家の方から使者が来て、大和に宿る植物に関わる古書を何冊かおいていった。
 古めかしい外見を裏切ることなく、古文で書かれたそれは読み解くのに難儀したが、辞書を引いたり大和に聞いたりしながら、俺は少しずつ本を解読していった。

 寄生植物の正式な名前は"心うつし"。"生きた冠"という別名もあるらしい。大和の頭に咲いている緑の様子を見るとなるほどと納得できた。
 波長の合う人間に宿ってその力を吸い上げて蓄えることから、最終的に開く花は濃密な霊力や活力を宿し、儀式の触媒としてはこの上ないものになるそうだ。
 大和に、今回はどんな儀式をするのと言ったら、龍脈を制する儀式のひとつなのだと教えられた。
 龍脈を豊かにすることは土地とその上にすまう人々に活力を与えると言うことだが、逆にそれが強くなりすぎると毒に成り得る。
 何十年かに一度星辰の廻りの影響を受けて、龍脈が強くなりすぎることがあるらしく、今年がその時期にあたるらしい。
 だから御すために、大きな術式を編上げる。その際の核に、今大和が育んでいる植物がなるのだという。

「……儀式をしないとどうなるの」
「龍の胎動は災厄となって列島を襲うだろう。そうならぬように、適度に鎮めてやらねばならん。眠らせて、後は有り余る力を傷ついた土地の補填にあてる予定だ」
 俺の問いに答えてから、大和は一つ欠伸をした。珍しいことだ。口元をけだるそうな手つきで、それでも隠す。不本意なのか小さく眉が寄った。
 要人以外は入ることのない、屋上の庭園に設えた寝椅子。そこに大和は横たわり、冬の陽光を全身に受けている。
 "心うつし"の植物は、自然光から養分を得るらしいと読んだので、できる限り大和にはひかりを浴びて貰うことにしたのだ。
 その分大和は眠たそうだが、生命エネルギーを大和だけから吸われるよりはずっといい。
「眠いなら、無理しないで眠っていいよ?」
「……眠くない」
 大和の言葉は完全に強がりだ。 なんだかんだで俺に付き合って、大和は眠らずにいてくれる。本当は瞼が重くて仕方ないだろうに。
「あとはちゃんと自習の時間にするからさ」
 厚手のふかふかしたブランケットを大和にかけ直してやる。大和は不服そうにしたが、また立派になった葉や蔦の塊の所為で、流石に意地を張るのも限界だったみたいだ。
「すこし、やすむ。なにかあったらすぐわたしをおこすように」
 話し口がいくらかおぼつかない。そのくせ、いつもみたいに話そうとするから、よほどこの状態は不本意なのだろうなと苦笑する。
「了解。おやすみ、大和」
 あやすように額にそっと口づけると、大和はすぐに眠り始めた。起きているのは負担だったんだろう。眠りは深く、眠る大和の表情は静かなものだ。ちょっとやそっとでは起きなさそうである。
 俺は小声で悪魔を呼ぶと、周りの警戒に当たって貰うことにする。携帯から呼び出したフェンリルとイナバシロウサギが庭園の入口の方に駆けて行った。
 これで何かあればすぐに知らせてくれることだろう。
 俺は大和が座る椅子に凭れて、古い紙のページを慎重にめくる。借りてきたものだから、汚したり破いたりしたら合わせる顔がない。
 辞書を片手にゆっくりと内容を読み砕いていく。

 季節を問わず、宿主がいれば何時でも咲くこと。
 花はそう長く持たないから特殊な容器に入れて保管しなければならないこと。
 育てる当たっての注意点。植物らしく炎や極端な温度変化、乾燥には弱い。
 種の状態であれば何年でもどんな環境でも持つらしいが、一度芽吹くと宿主から剥がされただけで直ぐに枯れてしまう弱い植物らしい。
 根と茎や葉の部分を切り離されてもだめで、そうなると根の部分は簡単に宿主の体内に吸収されてしまうようだ。
 好むもの、栄養とするものは自然の光と、それから一番栄養になるもの。
「命の水……?」
 人間の体内に廻る生命の精髄、赤い水。ようは血液のことか。
 植物に垂らすより、宿主が経口摂取するほうがまんべんなく吸収されるので効果が高いそうだ。
 もちろん、血液に限らずきれいな水とか栄養価の高い食べ物もいいみたいだ。
 大和は実際、食事に加えて医局から処方された栄養ゼリーを摂取したり何時もより多めに水を飲むようにしている。
 いつでも新鮮な水を渡せるように、俺が背を預けるのと反対側の椅子の足元には、クーラーボックスに天然水のペットボトルがいくつも常備してあった。
「それにしても血、か」
 大和はまた嫌な顔をしそうだなと思ったが、いざという時のために頭の片隅には置いておこう。
 大和がつらいとき、俺が少し血を与えることで楽になるんだとしたら、そのことには何の躊躇もない。ちょっと特殊だが献血みたいなものだ。
 視線を本から上げて大和の顔に移す。陽の光に明るく照らされる顔はいつもより白くはかなく見えた。
 逆に植物の方は大きく立派に育っていて、やっぱりちょっと憎らしくなる。むしろうとしたら大和に怒られるじゃすまないだろうし、しないけど。

 思考をだから少し逸らす。
 いったいどんな花が咲くんだろうか。
 そのことも書いてあるだろうかと本にもう一度視線を落とす。
 花は真夜中に咲くという。大輪の、それは見事な花である、と。
 色合いは、曰く、激情、例えば怒りだとか憎悪に駈られれば赤く赤く、楽しみや快さを強く覚えれば黄色。
 絶望すれば黒く暗く花開き、渇望が強ければ褐色にくすむ。痛みや悲哀は緑としてあらわされ、情愛は桃色、苦悩は紫に。
 上げられている例を見るになんともバリエーションゆたかだ。
 この花の魅力に見せられた人間が、何人もの人間を飼って植物を寄生させ、花の色のちがいを楽しむこともあったなどという、おぞましい話も書かれていた。
 儀式に置いては、特定の感情に尖った花よりも、複雑な感情の折り込まれた花が良いとされているらしい。
 様々な感情を抱いた宿主の頭に咲く花は、見事な珊瑚の色に染まるのだとか。

 あるいは、と文章が続く。
 この植物は周囲の人間の影響も微量に受ける。想いを強く注がれた花は。
 そこまで読んだところで、大和が小さくくしゃみをしたのに気付いて俺は顔を上げた。
 少し風が出てきた。屋上の庭園だけあって、風が強くなるとここは随分と冷え込む。
「流石に部屋に戻った方がいいか、これは」
 起こすのも忍びなく、俺はブランケットで大和を包みながら抱き上げる。大和の身体は熱であたたかいくらいだが、その分外との気温差が身体に来るだろう。
 極端な温度変化はよくないと読んだばかりだし、早々に退散するとしよう。
「どんな夢を見てるのかな」
 慎重に抱き上げたのもあって、横抱きにした大和が目覚める様子はない。安らかな寝顔を覗き込み、俺は少しだけ首をかしげた。


「花になる夢を見た」
 夜半、月が上るころ、目を覚ました大和は室内で食事を取り、栄養剤と水分を十分に摂取してから、何気なくそんなことを口にした。
 間にも幾度か人が訪ねてきたが、半分眠っているような状態で、その姿を見せることを大和は恥じそうだったから、申し訳ないけれどおかえり願った。
 完全に夜が更けて、窓近くに位置を変えたベッドに月明かりが注ぐころ、大和は漸く完全に目をあけてくれた。
 そうして今、俺とこうやって差向かって話してくれている。
 長く眠っている大和がどんな夢を見ているのか気になっていたから、俺はあまり口を挟まずに彼の話を聞く。
「私は地面に埋まっている。頭だけ出しているような状態で、身体を自由に動かすことはできない。それはとても恐ろしいことであるはずなのに、ただ呼吸をするだけの生がひどく安らかだった」
 信じがたい感覚だったと、寝台に臥したままで大和は零す。普段の動き回って働くことが当たり前みたいな大和からすると、植物の生き方は真逆と言っていいだろう。
「茫洋と思考自体も霞む中で、傍らに君がいた。君は私に微笑みかけて、私の世話をしてくれる。水を与え、土を整え、私が咲くのを心待ちにしている」
 夢の中には俺も出てきたらしい。傍で何かとお節介を焼いているのが印象に残っていたんだろうか。
 それで、と続きを促すと、大和はおとぎ話を語るような、文字通り夢を見るようなこえで続けてくれた。
「君の手は優しく、私を傷つけない程度に触れて、表情は優しくひかりのようで、かけられる声がどんな音楽よりも心地よい。君の暮れる水は甘く、夢のなかで君が私の全てだった。君のために咲きたいと、夢のなかの私は望んでいる。それだけがただ一つ、傍らにいてくれる君のためにできることであると信じて」
 現実ではありえない。大和は俺だけのものにはならないし、なれない。
 大和と彼が掲げる理想とを支えると決めたときから、わかっていることだった。それで構わない。
 ひとはひとを完全に所有できない。互いのものだと思うことができるとしたらそれは一瞬だけの錯覚で。
 それに、俺が好きになった大和は、そういう所有されないうつくしさとつよさを持っている奴だから。
 ただ、少しだけ羨ましくはある。俺だけの大和と、大和だけの俺。
 ありえない夢物語の最後が気になって、俺は大和に問いかける。
「それで、夢の中で大和の花は咲いたの?」
「蕾が大きく膨らんで、早く咲かないかなと君が言う。きっと綺麗な花が咲く、たのしみだと、お前が一番美しく花開くところが見たいと君がいうから、私は応えたくて、だが、」
 大和はそこまで口にして目を伏せた。溜め息が形の良い唇から零れ落ちる。
「今にも花が開くという所で目が覚めた。君がどんな顔をするか、見てみたくはあったのだが」
「大和が俺のために一生懸命頑張って花を咲かせてくれたなら、俺は喜んだと思うよ?」
「それがわかるから、……惜しいと思ったのだ」
 いかにも残念そうに大和が言う。大和がそんな風に何かを惜しむことは少ない。基本的に執着が薄い奴だからだ。その分拘る時はとことんという極端さだが。
 それにしても俺の笑顔なんてありふれていて惜しむようなものではないと思うのだけれど。
「俺として大和の笑った顔の方が見たいけどな」
「私からすれば君の笑った表情の方がとうとい」
「その辺りは平行線だな」
 人間、自分の好きな相手の笑顔が一番と言う事だろう。最早広がった葉の様子が重なり合って帽子のつばみたいになっている下の、大和の髪にふれる。
「夢の中で大和が見たかった笑顔とおんなじになるかはわからないけど、お前が楽になったらきっと俺は嬉しくて笑うよ」
「つまりは私の頭の花が取れたら、ということか」
「そういうこと。あれからちょっと勉強したよ。大和の頭の花、いろんな色になるんだってな」
「あまり偏った色にならないことを願うばかりだ」
 儀式で使いものにならないのでは意味がないと、大和は渋い顔をする。
「しかしあれだけいろんなパターンがあるのに、青色とか白にはならないんだな」
「なんだ、花の色に関わるくだりを全て読まなかったのか? それらは特別な色だ」
「そうなの? どういう時にその色になるのさ」
 言われてみれば本を途中で読みさしていたことを思い出して俺は目を瞬く。大和に聞くと彼は少し言いよどむように答えをくれた。
「他の色は宿主の状態に左右されるが、その二色に限っていえば、宿主のほかに更に第三者の存在が必須となる。この植物は周りの人間――正確には宿主に関わる人間の感情にも影響されるのだよ」
「つまり大和の場合だと俺がどう思ってるかってこと?」
「そんな所だ。……さて、私はもう少し眠る」
 具体的にはどういう感情で青や白になるのか。その辺りまで聞こうと思ったのに、大和はまた目を閉じてしまう。
「え、大和まだ起きたばっかりじゃないか。……身体、つらい?」
「つらくはないが眠くて仕方がない。退屈ならば他の所に行っても構わないぞ。この部屋の中であればそうそう危険もあるまい」
 すでにうとうとと微睡み始めた大和の言葉は事実である。ここは厳重に物理的霊的に守られたジプスの本局内にある居住区だ。
 更に大和の部屋には彼自身の手で幾重にも認証や結界が施されている。ここに押し入ってこれるような相手はそうそういない。俺が少しくらい席を外しても問題が起こる可能性は低いだろう。
 けれど。
「ううん、ここにいるよ。今日も泊まっていいだろ?」
 俺はかぶりを振った。大和の傍に居るのは苦じゃない。あの本もまだ読み解いている途中だし、寝顔を見ているのも悪くないからだ。
 それにもしも万が一があったり、急に大和が体調を崩したら大変だ。また過保護だと言われてしまいそうだけれど、俺がそうしたいんだからしかたない。
「……昨晩、私が言ったことを、気にしているのか、あれは……」
 一夜限りの我儘だったと大和はまた強がりを言う。でも俺はあれが彼の本音だったと思っている。
「言われたからじゃなくて、俺がここに居たいの」
 駄目? と間近で見つめるようにして聞けば、大和は「君は律儀だな」とそっけなく言いながらも、やっぱりどこか嬉しそうだった。


 そうしてその晩も俺は大和の部屋で一緒に休んだ。
 次の日も、なんだかんだで眠そうにしつつも、おはようと口にしたら大和は目を擦りながらおはようと返してくれる。そんな風に思っていた。
「……?」
 異変を感じて俺の意識は浮上する。腕の中がなんだかつめたい。俺は大和を抱いて眠ったはずで、ならこの冷たさは。
「大和!?」
 はっと目を見開き、俺は隣に眠る相手の様子を確かめる。大和の身体は、眠る前は熱いくらいだったのに。
 今はひどく体温が下がってしまっている。慌てて呼吸や鼓動を確かめたがどちらもひどく弱い。
 その一方で、大和の頭に育つ緑の植物は、いつの間にか蕾をつけている。ほんの少し垣間見える花弁の色は、青みを帯びて見える。大きく膨らんだ、きっとさぞ立派な花が咲くだろうと予想できるような姿だ。
「大和、大和、起きて!」
 俺は大和の身体をゆすぶったが、目を覚まさない。細い呼吸に、只でさえ白い顔がますます青白くなっていることに、ゾッとする。
 乙女さんたち医局の人が何かあればと設置した、緊急用のコールボタンが今大和の部屋にはある。
 俺はすぐさまそのボタンを押し、医療班のひとが気づいて一刻も早くきてくれることを願った。
 同時に、俺にできることをする。 大和の身体がこれ以上冷えないように、毛布で抱き込んで、少しでも体温を分けるように抱きしめる。
 部屋の中は適温に保たれているのに、大和だけがひどく冷たい。かすかな呼気さえなければ死体みたいで、俺は泣きたくなる。
 乙女さんたち、医療班の人たちは実に迅速だった。直ぐに廊下に人の気配がした。
「――北斗さん、乙女です! ここをあけてくれる?」
 外からかかる確認の声は確かに乙女さんのものだった。俺はすぐにロックを解除し、乙女さんたちを部屋の中に迎え入れた。

 その後、大和は直ぐに医務室に搬送された。
 点滴と霊的な治療が施されて、大和の顔色と体温は多少ましになったけれど、意識までは戻らなかった。
 あれから随分時間が経つ。それでも予断は許されないと乙女さんたちがつきっきりだ。
 こうなると俺は役に立てないので、精々邪魔にならないように病室の外で待機することにした。

 昨日まで眠そうではあったけれど元気だったのに。
 俺は傍に居たのに全然気づいてやれなかった。
 ぎりっと不甲斐なさに唇をかみしめる。でもただ蹲っているだけならだれでもできる。
 本当にすることがないなら、後は座して運を天に任せるだけだけれど、今の俺にはまだできることがあるはずだ。
 部屋からあの古書を持ってくる。大和の状態や何とかする方法のヒントが書いてあるかもしれない。
 乙女さんたちのほうでも峰津院のひとに問い合わせているみたいだけれど、何にもしないでいると発狂しそうだったから。

 まだ読んでいないページに目を通す。
 花の生育について、という項目を見つけて、俺は急いで読み進めることにした。
 十分な栄養と感情を受けることで、この植物は芽から若葉、更には蔦や葉を伸ばし、やがては大きく蕾をつけるという。
 この時、宿主の力が強いほどに植物もまた大きく育つ。
 稀なことだが、極端に宿主の力が強い場合、植物の力を吸い取る機能も強くなりすぎ、花が開く前に重篤な状態に陥ることがあると書かれていた。
 その重篤な状態と言うのは、今の大和にそのままあてはまる。意識不明、体温および代謝の極端な低下などなど。
 宿主の意識がなければ感情の動きは少なくなり、栄養を求めた植物は却って宿主の活力を吸い上げてしまう。悪循環だ。
 こうなった場合、植物を切り離すことがもっとも簡単な治療法である。
 だが、この場合根が残り、身体に悪影響が出る場合があるという。強くなった植物が、生き残ろうと宿主に根を張るからだ。
 命は助かったが障害が残ってしまったという宿主の話に、俺は眉を下げた。

「大和の馬鹿……!」
 大丈夫なんじゃなかったのかよ、と、読み解いた内容を見て俺は、思わず壁を叩いてしまいそうになったが、この向こうで大和が眠っているのだと、拳を強く握りしめるにとどめる。
 あいつのことだから、可能性が低いことまで教える必要はないと思っていたのか。
 あるいは、その状態になっても自分なら花が咲くまで耐えられると思ったのか。
 いや、大和のことだ。きっと危険性も加味したうえで望んだんだ。
 そして、素直に危険性を口にすれば俺をはじめとする周りの人間が反対する可能性を考えて伏せた。
 儀式をしなければどうなるかということは大和の口から聞いている。
 だから結局は止められなくて、俺たちは知らなかった時以上にやきもきと不安にさいなまれながら大和の姿を見ることになっただろう。
 札幌の時とおんなじだ。必要なら大和は嘘を吐く。考えるほどに言わなかった理由が理解できてしまうから、大和を攻めることもできない。
「北斗くん、ちょっと良いかしら」
 不意に声をかけられて顔を上げた。そこに立っていたのは乙女さんだった。
「大和さんのことで話があるの。ちょっと部屋まで来てくれるかしら」
 大丈夫? と乙女さんが少し気づかうように言う。俺は多分またひどい顔をしていたんだろう。
「平気だよ」
 だから俺は、無事な顔を作って見せる。それで乙女さんが納得したかはわからないけれど、目に見えて心配させるような顔はしていたくなかった。

 乙女さんに促されて、廊下から医局の一室に入る。
「大和さんが眠っている以上、貴方に裁決を仰ぐのが良いかと思って」
 乙女さんは腕を組み、医者としての顔で俺を見る。俺は大和から自由に動けるようにと割と強権を託されてはいるが。
「大和のことって言ってたけど……もしかして」
 乙女さんも、俺が古書で読んだのと同じような対処法に、峰津院家の人と連絡を取って行き当たったんじゃないかと思い当たる。
「ええ、あの植物のことよ。私はこうなる可能性があることを予め大和さんから聞いていたの。ごめんなさいね。こうならないようにできる限りサポートをしてきたつもりだったけれど不十分だったようだわ」 
 流石に医療の要を務めている乙女さんには、大和も事情を話していたらしい。
 乙女さんは口も堅いし、医者として患者の事情を面に出さない良識もあるから、大和も任せられると思ったんだろう。
 その分乙女さんは大和の現状に苦い思いがあるようだ。 
「医者として患者の身体を第一に考えるなら、大和さんからあの植物を一刻も早く切除してしまった方がいいわ。勿論、障害が残らないようにこちらで手は尽くします」
 乙女さんの目には確かに医者としての自負がある。心霊治療を得意とする乙女さんたちなら、確かにできる限り大和の身体を傷つけずにあの植物を除去できるのかもしれない。
「でも、そうしたら儀式に間に合わないよね。大和が身体を張ってる意味がなくなっちゃう。だって代用品とか用意できないでしょ」
 口にしながら、血を吐きたい気持ちだった。本当は乙女さんの提案に一も二もなくうなずいてしまいたかった。
「峰津院さんのお宅に問い合わせたけどそのようね。あちらは切除に反対のようだったわ」
「実力主義的には大和がここで死ぬならそこまでってことなんじゃないかな。まあ実際大和も意識があったら、花が咲くまで意地でも持たせろって言うと思う」
 普通なら恋人のことを何より優先したっておかしくない。でも、それはできなかった。
 俺の恋人が峰津院大和だからだ。
「意外だわ。私はあなたは大和さんの命を優先するかと思ったのだけれど冷静なのね」
 乙女さんは少し驚いたような顔をしている。まあ普段の俺の言動からすると、ここで乙女さんにすぐ賛成しそうであったし。
「違うよ。俺はただ、あいつが多分自分の命以上に大事にする、意志ってやつを守らなきゃいけないと思ったんだ」
 多分その時の俺の顔は泣きたいような笑みになっていたと思う。
 本当は何よりもあいつが失われてしまうことが怖い。だけれどここで無理に助けたら大和のこころが死ぬ。大和は絶対に自分のことを許せなくなるだろう。
 なぜなら守ることはあいつの存在意義そのものだからだ。その為ならいくらだって命でも存在全てでも賭けるということを俺は嫌と言うほど知っている。
「貴方までそう言うなら今手術の強行はできないわね」
 乙女さんは苦笑と共に息を吐き出した。仕方ない、と思っている顔だった。
「……ごめん、乙女さん。大和のことを考えて言ってくれたのに」
「いいえ。でも手はあるの? 大和さんの状態がこのまま悪化するならあの花も枯れてしまうわ」
「ようは、花が咲けば剥がれるわけで、それまで大和の身体をもたせればいいんだよ。できる限り、外から補ってやればいいんじゃないかな」
「栄養剤の投与や治療術では限界があるわよ。現状維持が精々ね」
「俺さ、大和からあの植物に関する古書をいろいろ預かってるんだ。それで考えたことがあるんだけど……」
 専門家の意見も聞いておきたくて、俺はこれからしたいことを乙女さんに説明する。考え込んだ乙女さんは、やがて口を開いた。
「確かにその方法なら、大和さんを助けられるかもしれない。……でも、危険よ?」
「それは承知の上だよ。ぜんぶ助けられる手段があるんなら、俺はそれを実行する」
 危険と言われることは予想済みだったので、俺は乙女さんに答えた。
「貴方も大和さんも意地っ張りね。男の子ってみんなそうなのかしら?」
「乙女さんたちがサポートしてくれるってわかってるから無茶できるんだよ。いざって時は……」
「誰も助からないなんてことにはしたくないもの。その時は手術を請け負います」
「うん。俺がお願いしたってことにしておいて。どうなっても乙女さんに責任が行かないようにするから」
 そう口にしたら乙女さんにピンっと額を指で軽く小突かれた。
「私は大人で医者よ。自分の行動の責任は自分で持ちます。そんなことを言うくらいなら、私が責任を取らなくて済むようにしてちょうだいね」
 乙女さんの表情は優しかった。俺はぺこりと彼女に向けて頭を下げる。
「そうする。じゃあ、大和の所に言ってくるよ」
「こちらでも全力であなたのバックアップをさせて貰うわ」
 よろしく、とお願いして、俺は大和の元へと急いで駆けた。

 大和の状態をモニタリングしている機器の音のほかは、病室内は何処までも静かだった。
 耳が痛くなるくらいの沈黙がそこに横たわっている。大和の呼吸は相変わらず細く、耳を澄ませなければ聞き逃してしまいそうになる。
 大和の顔色はやはり良くないまま、青白く生気に欠けるありさまである。
 植物だけが瑞々しく、大和の命を吸い取って鮮やかに葉蔦を広げ、蕾は開花の時を待って膨らみ続けている。
「……大和」
 名前を呼んでも当然ながら返事はない。俺はそのまま彼の元に歩み寄る。
「お前一人だけで何時も全部背負い込むなって言ってるだろ」
 何時だって口を酸っぱくして言っていることを改めて口にしながら、俺は自分の親指の皮膚を思いっきり噛み裂いた。
「俺のことだって一蓮托生に、もっと持っていけばよかったんだよ」
 そこから溢れだすあかいろを薄く開いた大和の唇に押し当てる。
 大和に意識はなく、血液そのものには催吐性があるはずだが、大和の身体は、それが自分の命を生かすものだと多分知っていたのだ。
 自然と咽喉が動いて、俺の与えるものを大和は弱々しくも嚥下していく。
 ほんの少しだけ大和の顔色が良くなる。指の出血が止まるたび、俺は指を傷つけて、大和に少しずつ自分の血を与えた。
 あの本にはこう書かれていた。人間の体内に廻る生命の精髄、赤い水。それこそがこの植物にとって何よりの栄養になると。
 だから、俺は俺の血を大和に与えることにした。血を介して、力も贈る。
 多分この局内で、大和に適応した植物にあらん限り力を吸わせて大和や植物と共倒れしないで済むのは俺と何人かくらいだろうから。
 他の誰かにこの役目を任せるつもりはなかった。いざという時のために取っておけ、大和はそう言っていたが、今こそがそのいざという時だろう。
 血を飲むに従って、大和の肌に文字通り血の気が戻っていった。
 そのまま暫く血の投与を続けていると、やがて、長い睫毛がふるりと震え、
「ほく、と……?」
 大和が目を覚ます。そのことに俺は心から安堵した。でも、まだだ。
 だって花は咲いていない。蕾はふくふくと膨らんで、それでもまだ開花には足りないみたいだった。
 大和の意識もだいぶ曖昧なようである。俺のことは認識したけど、完全覚醒には遠い様子だ。
「色々と言いたいことはあるけど、今はこれだけ。……大和、もっと俺から持ってっていいよ」
 指をまた噛み裂いて赤色を滲ませる傷口を差し出すと、大和はこくりと咽喉を鳴らした。
 眉を下げつつも欲求には逆らえないのか、ほどなく指先にそっと舌を這わせてきた。
「ん、……」
 こぼれてくるものだけじゃ物足りない様子で、ちろりと舌先が指を舐めとる。
「は、ぁ、」
 ちゅうっと強く吸い付かれ、傷口をこじ開けるちくりとした痛み。
 身体が必要とする栄養素の含まれたものは美味しく感じられるというけれど、なら大和にとって今の俺の血はきっと美味なんだろう。
 キスをしている時と同じくらいにひとみがぼんやりと潤み、必死で俺の血を求める姿はどこか艶っぽくもある。
 こうしている間にも刻々と力が、血が、俺から大和に流れ込んでいるわけで、その時にこんなことを考えているのは随分と気楽かもしれなかったが。
 心持ちは穏やかだ。大和一人だけを戦わせるよりずっとずっといい。
 地獄の底まで一緒に歩くと決めて、俺はあの選択の夜に、大和の手を取ったんだから。
(全部上げたっていい。でも、まあ、)
 目を少しだけ瞑る。大和が吸いつく指先に間隔を集中して、反対の手はそっと、いたわるみたいに大和の後ろ頭に触れた。
「お前危なっかしいから、一人残すとか、そういうつもりは全然ないけど」
「北斗」
 独白に反応してか、あるいは流血がとまってしまったか。指元から顔を上げて、大和が俺の名前を呼ぶ。
「もっと、」
 欲しいと唇の動きが伝えてきた。まだ乾かない血の色を帯びた唇やちらりと覗く八重歯が相俟って、今の大和はまるで吸血鬼みたいだ。
 でも流石に、首から吸うのは無理だろう。
「いいよ。欲しいだけ持ってきな」
 俺はせっせと指を傷つけて、雛鳥に餌付けするように大和の口元に血と霊力を運ぶ。
 貧血やらで続行できなくなりそうになったら、乙女さんたちから治癒や輸血を飛ばしてもらえるように手配してある。
 だから俺は安心してぶっ倒れるまで大和に自分を注ぐことに集中するのだった。
 大和が安心したように、満たされるように目を細める。
 この表情が見られるなら、俺は今払っている代償も苦ではない。
 それに、大和の命と心を守れるなら、何もかも安いくらいだった。

 幾度か休息と一度輸血を挟み、とうとう真夜中を迎えた。
 病室から、居住区の一番高いところにある大和の部屋に俺たちは戻ってきていた。
 月光が開花の合図になるというから、窓近くのベッドに、大和を抱いて俺は座っている。
 血も力も、できるだけ上げた。大和の頭に宿る植物は立派に大きく育ち、今にも花弁が零れそうに膨らんだ蕾が重たそうだ。青を帯びていたように思えた花は、今や艶々と透き通るよう。
 もうここまで来たら憎いも何もない。"心うつし"には無事に花開いて、大和の努力に報いて欲しい。その気持ちで今はいっぱいだ。
 月明かりが窓からそそぐ。それを受けて、開花が始まった。
 固く重い衣を脱ぎ捨てるように、しずかに、ゆっくりと、蕾がほころぶ。
 あわせて、この世のものとは思えないような、甘くかぐわしい香りが部屋に広がる。
 俺は息を呑んだ。もう言葉もない。
 やがて開き、完全に姿を現した、"心うつし"の花は――

 夜目にも鮮やかにうつくしい、内側から輝く純粋な白。

 睡蓮のような、重なり合った翅のような、あるいは、ティアラとひとつづりのヴェールのような。
 繊細で、上品で、見る者を魅了する。天上の花というのはきっとこんな花なのだろう。そう思わせる至上の美麗。
 月明かりに溶けるように、清々と、凛と花弁を広げ、今が盛りと咲き誇る。

 疲弊しきって冷えた身体が気にならないくらいだった。それほどに大和に咲いた花はうつくしかったのだ。
 大和は俺に感謝するみたいに、また、充足と安らぎに満ちた表情を見せて――彼の方から俺に口づける。

 その、刹那に。
「あ……」
 大和がくちびるを放すのと、白花が彼の頭から音もなく剥がれ落ちるのはほぼ同時だった。
 俺は慌てて、用意していた保存用の容器に、蔦や葉とともに輝くその花を仕舞い込む。
 これで良い。大和のしたことは無駄じゃなく、無事に儀式を行うことができるはずだ。
 ほっとしたのも束の間、"心うつし"から解放された大和は糸が切れたようにその場に崩れそうになって、俺は慌てて彼を支える。
 顔色は良くなっていたし、呼吸も鼓動も朝からすると比べ物にならないくらいしっかりしている。
 ほう、と息を吐いた所で俺にも限界が来たようだ。

 ぐらりと世界が揺れる。
 大和を床に転がさせまいと最後の意地。俺は抱き込んだ彼諸共にベッドの上に倒れ込んだ。


 目が覚めると日付が二日ほど飛んでいた。
 あの後俺と大和は、乙女さんたち医療局の人に直ぐ保護されたらしい。
 二人揃って後は昏々と眠り続けたのだそうだ。無茶をし過ぎだとこってり絞られたが、俺も大和も死ななかったのだからこの結果でいい。
 乙女さんだけでなく、真琴さんや大地、緋那子あたりにも話が言っててかわるがわる叱られたが、それだけ心配されたと言う事で、説教もひどくありがたいものに思えた。

 大和は俺から一日遅れて目を覚ました。そのころには俺はほとんど回復していたので、大和の病室で彼が目覚めるのを待っていた。
「おはよう、眠り姫」
「だれ、が、姫だ……」
 反射だろう。不機嫌そうに言う大和。でも心配かけたんだから、これくらいは甘んじて受けて欲しい皮肉だ。
「実際だいぶ長く寝てただろ。本当にもう生きた心地がしなかったんだからな」
「そういう君も、私を助けるために無茶をしただろう……」
 寝ていた時間が長かったので大和の声はかすれがちだ。俺も目が覚めたばかりでは似たようなものだった。
 まずは無言で湯冷まして作った水の入った、水差しを差し出す。それで軽く口の中を湿らせて、大和はひと心地ついたようだ。 
「ふたりで生き残るための無茶だよ。今回ばかりは大和に怒られたくないな!」
「……すまない。君には、感謝している」
 反論する声はなく、殊勝に大和が俺の言葉を受け取った。元々根は素直な奴である。もっともだと理解すれば人の言葉はこうしてちゃんと受け入れてくれるのだ。
「私の意を汲んでくれたのだろう。その上で最大限の努力をしてくれた。とはいえ、できれば君を巻き込まずにすませたかったのだがな……」
 不甲斐ないと言いたげに大和は眉根を寄せている。
「お前そんな顔すると綺麗な顔にしわができちゃうだろ。まだ若いのに」
 ぐいっと眉間の皺を伸ばす。大和は何か言いたげだったが、今回は俺を不安にさせた自覚があるのかおとなしい。
「あのさ、俺のことはもっと巻き込んでいいんだよ。お前の手を取るって決めたときから、俺としては色々一蓮托生のつもりなんだから」
「まったく君は、甘いのか大物なのか……だが、だからこそ私は救われたのだ。ありがとう、と言っておこうか」
 俺の言葉に大和が少し笑ってくれて、俺も笑う。
「大和がありがとうとか珍しいな! ……うん、でも、」
 言葉の途中でじわじわと鳴きたいような気持がせりあがってきて、俺は自然と大和のことを抱き寄せていた。
「本当に良かったよ。お前の意志を守ってお前が死んじゃったらどうしようかって思ってたから」
「……北斗」
「お前のこと信じてるし、そうやって苦しいことも投げ出さないところが好きだけど、できるだけ、こういうのはナシにしてくれよ」
「確約は、できん」
「知ってる。言ってみただけ」
 こういう時は嘘をつけない不器用と誠実さがいとしくて、せつなくてしょうがなかった。
 抱きしめる腕が震えてしまったからだろうか。大和はぎこちなく俺の背中に腕を回してきた。
「君ならばきっと私の意思を汲んで動いてくれると想っていた」
「俺がお前の信頼裏切ってたらどうしてたんだよ。もしかしたらあの花をちょん切ってたかもしれないのに」
「ありえん」
 大和は腕のなかできっぱりと言いきる。覇気の強い銀色の瞳と目が合う。俺の好きな、まっすぐすぎる視線。
「君は私を離す気がないだろう」
 この心も、身体も、全部、引き受けて離さないつもりだろうに。
 そう、全幅の、無上の信頼が覗くこえで大和は言う。
 実際、その通りなのだから、言葉もない。
 ああ、そうだ。俺は、彼を、彼の全てを手放すつもりなんて毛頭ないのだ。
 所有するなどということは幻想でも、ありえなくても。手を伸ばし続ける。そのこころに触れられるように。ずっと、共にあるために。
「なんか、全部見透かされてるみたいで、ちょっと口惜しい」
「それくらいに君が私に焼き付いていると言う事なのだぞ?」
 少しすねたように言うと、軽くなった頭を大和が俺の肩に預けてくる。ああ、何時もの大和の重みだ。うれしい。
「じゃあ、これからも放すつもりないから覚悟しててよね」
「望むところだ」
 俺の宣言に大和は挑発的に受け取って口の端を持ち上げる。
「私とて君を放してやるつもりなどとうにないのだから」
 不敵な恋人の唇に俺は噛みつくみたいに口づける。今度は力を受け渡すためじゃない。
 大和の熱を感じたくて、純粋に生きている実感を交わしたくて。そういう、確認のためのキスだった。舌が絡まり、口づけは次第に深くなる。
 応える大和も、病み上がりなりに熱心で、その必死さは、なんだかんだで大和も不安や怖いところもあったんじゃないか。そんなことを少しだけ思わせた。

「そういえば」
 あの後乙女さんたちが暫くしてやってきて(何かこう笑顔の様子からしてあれは入るタイミングをうかがってたんだと思う。すみません)、大和は精密検査を受けるべく連れて行かれてしまった。
 やかで戻ってきた大和と検査の結果を待つ間、俺はふと聞きそびれていたことを思い出した。
「花の色の話だけど、青や白はどういう風に咲くものだったの」
 それを口にした瞬間、大和は渋面になった。
「……聞きたいのか?」
「うん。詳しく聞けなかったし。俺の感情も影響するんだっけ?」
 何か口にするのが恥ずかしいような感じなんだろうか。まあでも、心配かけた駄賃として腹て貰うことにしよう。
 俺が引くつもりがないとみたのか、大和はやがて諦めたように口を開いた。
「例えばお前が、私を心配する。花の所為で弱っている姿を見て悩み、苦しむ。それを受けて私は複雑な気持ちになる。君に負担をかけることが心苦しい。だが君に愛されていることが解って嬉しい。そんな感情を抱いてしまうこと自体が憂鬱であるの

に、幸せでもある。そういった矛盾が、相反する感情が、君からそそがれる不安や気遣いが、花をあおく染める」
 大和はできるだけ感情を挟まないで説明しようとしたようだが、実際、そういう気持ちを抱いていたのかもしれない。
 心配されるのは迷惑ではなかったのだと思うと、少し安心する。同時に、心配がうれしかったとかちょっとかわいい。
 けれど、俺は疑問に首をかしげた。咲いた花の色は別のものだった。とてもきれいな真っ白な花。大和本人に似ていたようにも思う。
「大和に咲いた花は白かったけど、じゃあ、あれは?」
 青が矛盾した喜びと憂いで咲くなら、あの綺麗な白はどういう感情の動きで開くというのだろうか。
「……白、だったのか」
 俺が口にした花の色に大和は少しだけ息を呑み、なんだか恥ずかしそうにしている。
 そういえば大和はまだ自分に咲いた花を見ていない。俺が倒れた後、容器ごと回収された花は無事峰津院家に届けられたそうだが。
 大和は復帰次第、家の方に戻って儀式を執り行うのだろう。こればかりは手伝えないから、上手くいくことを祈るほかない。
 それにしても、大和の反応は俺には予想外のものだった。白い花の意味はなんなのだろう。
「え。何、なんなの、大和。気になる。教えて?」
 俺がうながしても、大和はらしくなくもごもごと唇を動かし続けるばかりで続きを口にしない。
「大和が言いたくないなら、俺自分で調べようか? 本、あるし」
 そう言えば結局全部は読み切れなかった本を思い出して言うと、大和は目を見張った。
「回収させてもらおう」
「ちょ、おま、横暴! なに、そんな恥ずかしい気持ちで咲くの?」
「……耳を貸せ」
 大和は漸く意を決したようだった。俺が口元に耳を近づけると囁くように教えてくれる。白い花の持つ意味を。
 なるほど、これは大和が何とも言えない顔をするわけだ。
「ああ、……ねえ、これって峰津院家のひとに公開惚気したみたいなものかなあ」
「締まりなくにやにやと笑うな。当主を囃すほど品のない血族はいないとはいえ……」
 大和は複雑そうだが俺の機嫌はすごく良かった。だってあの花は、なら俺と大和の気持ちの結晶みたいなものじゃないか。
 これで少しは大和に時折持ち込まれる見合いの類が減るといいのになあ、なんて。俺は平和なことを考えるのだった。

「大和、好きだよ」
 胸の奥から溢れだす想いをそのまま衒いなく口にする。
「それは私も同じ気持ちだ。北斗」
 想いだけは偽ることがないのだろう。大和がきっぱりと答えてくれることがうれしかった。
 明るい光が注ぐ部屋のなかで、こうして大和と今日も気持ちを交わして生きていられる。この、変化した世界のなかで。
 明日の保証なんてどこにもないから、こうしていられるだけで、とても幸せなのだと俺は思った。
 
 一瞬脳裡に掠めた白い花は、大和を殺しかけたことが信じられないくらいに美しかった。いや、命を吸い上げたからこその輝きなのか。
 あれが俺たちの想いのかたちだというなら、悪くはない。
 国を救う儀式に必要と言うのを差し引いても、二人分の命を賭けた甲斐があるかもしれなかった。

 

 

 

 青は甘美な憂鬱。
 そして、白は、


 通い合う信頼と深い愛、満ち足りた幸福。

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