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だいぶ前にかいたおはなしの続きですが、まだ花が咲かない……。
デートしたり部屋でいちゃついたり。
私服きてるあたり完全になゆたの趣味の産物です。
もうすこしだけ続くのじゃ。
次の日、ずっと室内に籠っているのは、植物にはあまりよろしくないだろうと大和を連れて出かけることにした。
ジプスの制服という奴は大変に目立つので、私服に着替えて貰うことにする。
大和の私服姿を見られる機会は実はかなりレアだ。まとまった休日でもなければ大和は制服やそれに準ずるフォーマルな装いを崩すことがない。
逆に言えば服装で印象はだいぶ変わるものだから、外に出るにあたって私服になるというのは悪くないアイディアだと思う。
前々からお前の私服が見たい、と言っておいたからか、大和は俺の言葉を受けてすぐに着替えてきた。真琴さんや乙女さんが用意してくれたものらしい。
やわらかなオフホワイトのニットセーター、下はすらりとした黒のスキニージーンズ。防寒対策に羽織るのは上品な色味のモッズコート。更にボルドーのストールを首にひと巻している。目立つ銀糸は緑の若芽と共に、黒いワッチキャップで隠してしまい、目許にはサングラス。これでぱっと見て大和をジプスの局長だと気づく人間はなかなかいないと思う。
「これでいいのか?」
玄関ホールの端で待ち合わせて合流した後、大和は何とも落ち着かなげに俺のことを伺い見て訪ねてくる。足元はスニーカーになってるし、普段との勝手の違いとか慣れていないのがありありと解る表情だ。
「バッチリ。遠目とかすれ違ったくらいじゃ、絶対大和だって解らないよ」
それに、綺麗でカッコいいと素直に褒めたら、大和は一瞬言葉を詰まらせた。
「見た目に何の意味がある」
「目の保養になるよ?」
「そういう君も、今日はいつもと違う格好だな」
あからさまに大和は話題を逸らしてきた。芽の様子が見えないのが残念だ。絶対何かしらの反応が現れていただろうに。
しかし、その辺りを突っ込むとこの後しばらくむっつりと黙り込みそうなので、俺は触れないでおくことにした。大和がふってきた話題にそのまま乗ることにする。
「まあね。大和だけ変装させるよりは一応俺も変えた方がいいかなって」
物珍しそうに大和が俺を見る。薄く色の入った眼鏡越しに、大和の目に俺の姿が映っていた。といっても、大和ほど劇的に服装を変えたわけじゃない。
いつもの白いパーカーではなく、黒いゆったりしたトレンチに、ボタンダウンの厚手シャツ。濃紺のジーンズ、足元はブーツ。髪型くらいは弄った方がいいのかもしれないけど、まあ俺はそこまで面が割れているわけでもないし。
「あのパーカーと君の印象は随分と私の中で結びついていたようだ」
「まあ出会った時がそうだったし、大和、わざわざ俺のために似たデザインの用意させるし」
小さく笑み交じりに口にしたのは、ジプスに勤め始めてから、あまり制服を着ないで戦闘任務に赴く俺に、大和が良かれとやってくれたことだった。俺がくつろげる恰好を、ということで、最初から来ているウサミミパーカーやら諸々を何枚も揃えて渡してきたのだ。
「不満だったか?」
「いや、あの服は気に入ってたし、大和が用意してくれたの嬉しかったよ。今じゃ完全にトレードマークだし」
そういうわけで式典(などというものは、必要最低限レベルに大和が減らしてくれているのでほとんどないのだが)でもなければ、ジプス内での俺は私服で過ごさせてもらっている。他にもあの災厄の中から付き合いがある面子は制服を着ても着なくても良いことになっていた。
「でもまあ偶には違う服もいいだろ。あとは大和の体調が心配かな……へいき?」
「力を取られ続けるのにも慣れてきた。問題は……」
ない、と言い切る前に、大和はかるく手で顔を覆う。眩暈でもしたんだろうか。
「強がるなってば。……大和」
俺は彼の名前を呼んで、支えるように腕を掴みつつ、柱の陰に痩躯を連れ込む。
「なんだ」
俺の使用としていることが解っているだろうに、小さく睨んでくる。
「今日も補給、しとこっか」
視線を受け流すみたいににっこり笑ってやさしく口づける。俺にこうやっていちいち助けられることがどうにも不本意なのか、大和の形の良い眉が寄せられたが――キス自体はいやじゃないのか、送り込むちからが心地よいのか。抵抗なく瞼が落ちて、ゆるゆると俺の舌に大和は舌を絡めて返してきた。
キスでエネルギーの補給をしてから、本局を出た。
しかしあまり遠出をする訳にもいかないので、外出といってもジプスの本局近くの公園まで行くのが精々だ。
平日、午前中の公園は閑散として人通りもほとんどない。ただ、俺は噴水の近くにたこ焼きの屋台が出ていることを知っている。知る人ぞ知る、という感じで、おやつ時から夕方にかけては結構お客が来ていることも。
「大和、おまたせー」
出入りが自由な芝生に大和を待たせて(視界が開けているから何か異変があったら気づきやすいのも理由の一つだ)、俺はできたてのたこ焼きを買って戻ってきた。
匂いで俺が何を買ってきたのかわかったのか、大和の目が心なしか輝いた気がする。
「しんどい時は好きなもの食べるに限るっしょ。食欲とかは落ちてない?」
「寧ろ食べなければもたん」
なるほどと俺は納得する。消費エネルギーが増えているのだから、摂取するエネルギーも多い方が良いのだろう。
「じゃあ、どうぞ。ああ、せっかくだからあーんってする?」
「ここは外だぞ」
「人目もないしちょっとくらいおふざけで済むかなって」
だめかー、ちぇ、とわざとらしく舌うちなどして見せて、でも、大和がそう言う反応をすることは織り込み済みだったから、すぐに表情を切り替えて、買ってきたたこ焼きを一舟、大和に手渡す。
「じゃ、食べよっか。冷めたらまずいもんね」
既に座っていた大和の隣に腰を下ろして、膝にたこ焼きの器を置き、楊枝片手にいただきますと口にしたが――大和の方は何も言わない。礼儀正しい奴なので、食前の挨拶もしないでたこ焼きに手をつけることは(最初食べたときは大和のなかで食事としてはノーカンだったみたいだ)あまりないはずなのだけど。
不思議に思って隣を見ると、大和は難しい顔をしてたこ焼きを凝視していた。そして、俺の視線に気づいたのか、はっとしたようにこちらを見る。
「どうしたの?」
「いや――」
大和はかぶりを振ったがやっぱりどこか考えてるみたいな顔だ。いただきます、と口にしたけれど、楊枝をたこ焼きに刺したところで動きが止まる。食べないともたないんじゃなかったのか。
「お前やっぱ調子悪いんじゃ……」
そう口にしたところで、大和は意を決めたような様子で口を開き俺の名前を呼んだ。
そして、
「え?」
ずいっと俺の前にたこ焼きが差し出される。その向こうに少し赤い顔をした大和。
「…………あーん」
いつもはきはき話す大和には珍しい細く小さな声で、目を伏せがちにそんなことを言う。俺は思わず目を丸くした。もしかして。
「俺が言ったこと、真に受けた?」
「っ!!!」
俺の発言に大和は色々なものが振り切れたように、赤い顔でにらみつけてくる。
「君が、してほしいようであったから……!!」
育ちが良いからか、好物のたこ焼きを投げつけてくるようなことはなかったが、そうされてもおかしくないような様子だった。確かに今のは俺のデリカシーが足りなかったかもしれない。
「いらんなら、私がこのまま食べる!」
そうしてそのまま出してきたたこ焼きを引っ込めてしまいそうだったから、待って待ってと呼び止めた。
「欲しいから、ちょうだい。だってさ、ホントに大和がしてくれるって思わなかったから」
「君相手でなければだれかこのようなことするものか……」
恥ずかしそうにもごもごとしている大和は本当にかわいい。かわいくて仕方ない。
「もう一回、あーんって、してくれる?」
じいっと見つめてお願いしたら、大和はやっぱり小さい声で、あーんってしてくれて。
食べたたこ焼きは、知っている味にも増して美味しい気がしたから、俺という奴はものすごく現金だ。
お返しに俺からも大和にたこ焼きを差し出して返したら、心底恥ずかしそうにしつつもちゃんと食べてくれたのでうれしかった。
大好きなものを口にする時の大和は、普通の人と何にも変わらないように見えて、けれど、彼がそんな表情を見せることは俺の前以外では本当に少ない。
もっと笑ってほしいな、と思いながら、俺はそっと、自分の分のたこ焼きをひとつ、大和の皿に載せた。
たこ焼きを食べ終えて少し芝生で休んでから、軽く腹ごなしに散歩をしようということになった。
柔らかな日差しが心地よく、葉っぱが落ちている気が多くて少しさびしいけれど、落ち葉をサクサクと踏んで歩くのはなかなか楽しかった。
大和の足取りが気になったけれど、栄養を取ったからなのかおぼつかないと言う事もなく確りしていた。
ただ少しだけ頭が重たげだ。帽子で隠れて解らないけど、今、芽の状態はどうなっているんだろう。
「大和、またちょっと育ってる?」
声を潜め、主語を抜かして話しかける。それでも大和には十分伝わったようだ。
「ああ。……君といるとどうにも成長が早くなるようだ」
大和としても少し想定外であるらしい。また難しい顔をしている。俺といると感情の振れ幅が大きくなることを、あんまり認めたくないのかもしれなかった。
「枯れるよりは全然いいけど、調子悪くなったらすぐに言えよ? そのために俺がついているんだし」
「君は随分と過保護だな。余り舐めてくれるな。自分の限界の見定め位できるさ」
「いや、大和って本当に限界ぎりぎりまで我慢しそうだからさ。お前がお前に甘くない分、俺がお前を甘やかしたいんだよ」
言いながらさりげなく手をとって、繋ぐ。手袋をしていない手を寒さから守るように包み込む。いつもよりやっぱり体温が高く思えたけれど、微熱レベルなのでそのことについては何も言わずにおいた。
大和の手は、白く綺麗に見えて、その実苦労を知らないものなんかじゃない。硬いところはペンを使う分と、それから修練している分。大和は己の努力をひけらかすような人間ではないから、この手や大和の身体だけがしずかに、彼ががんばっていることを物語っている。だから俺は大和の手が、彼の手にふれるのが好きだった。
「まったく……君のそういう甘い気質は、世界が変わっても変わることはなかったな」
手をつないで寄り添った俺のことを、大和は振り払わなかった。
「なら、この甘さも俺の強さの一部なんじゃないの?」
挑戦的に目を向けると、大和はわずかに目を細めて――「かもしれんな」と呟いた時には少しうつむいていたから、彼がどんな顔、どんな気持ちで言ったのかはわからなかった。
ぐるりと公園を一回りして家路につく。
後半、大和は少し辛そうだった。何時もならこの程度の距離歩いたくらいじゃ疲れるはずもないのに。寄生されている影響がかなり出ているみたいだ。
これ以上長く大和を連れまわすのはよくないし、朝から見ていない植物の様子も気掛かりだった。
本局に戻ると、俺は大和の部屋まで一緒に行って、姿見の前で彼が帽子を取った瞬間に息を呑むことになった。
「もう芽って感じじゃないね……」
葉は数を増やして大きく緑を広げ、細い蔦がするするとのびやかに幾本か零れているのがわかる。帽子で圧迫されて窮屈だったみたいに、外した瞬間にほろりと溢れるみたいに姿を見せた。
大和の頭に緑で編まれた繊細な宝冠(ティアラ)が乗っているみたいにも見える。
「二日目の生育状態としては十分すぎるな」
大和は俺よりは落ち着いているけど、それでも鏡に映してみた自分の頭上の状態に些かの驚きを禁じ得ないみたいだ。
「育ちすぎたらまずくない?」
例えば大和の身体から必要以上に栄養を抜き取ったりしないだろうか。
そう考えると馥郁と育った植物は不吉に見えて、これが必要なものだとわかっていてもどうにも複雑な気持ちになってしまった。
「なに、花が開けば剥がれ落ちる。つまり育ちが良いと言う事はそれだけ、この植物が私から早く取れると言う事だ。だから――」
大和の、平熱より幾分高い体音を宿した指が、俺の頬にふれる。
「そんな顔をするな」
俺はどうやら自覚なく酷い顔をしていたみたいだ。
「だって、さ。俺がいろいろ連れ出したりとか、お前の気持ち動かしたりしてるから植物がその分育って、負担も大きいんじゃないか、とか、いろいろ考えちゃうよ」
護衛だけなら部屋の外でもできるし、話し相手は真琴さんあたりに変わって貰った方がいいのかもしれない。
そうやって考えていたことは顔に表れていたみたいだ。大和がゆっくりとかぶりを振る。
「先にも言っただろう。これは育ちきれば剥がれるのだ。その間には確かに負担もあるが、だからといって、君以外の人間を傍らに置けば私がどういう態度をとるか、君にはわかっているのではないか?」
「それは……」
大和は唯でさえ弱みを見せるところを良しとしない人間だ。俺の前でさえ、気を許してくれるようになるまで幾分かかったように思う。
もしも他の人間を傍に置いたら大和はずっと気を張っているんじゃないか、そう思いいたって俺は困ってしまった。
「ここにいろ」
俺の悩みを見透かすように、サングラスを外した乳白水晶のひとみが俺を見据え、それからことりと頭が俺の肩に凭れ掛かる。
「私が、このようなところを見せても良い、と許しているのは、……こんな風にできる相手は、君だけなのだから」
大和の声音は気を抜いた、柔らかいものだ。俺が見せた怯懦への応えは、この上もない信頼そのものだった。
俺は馬鹿だ。弱ってる大和に励まさせるとか申し訳ない
「ごめん。辛いのは俺じゃなくて大和なのに。気ぃ使わせた」
ぎゅっと抱きしめたら大和そのまま身体の力を抜いて、俺に身を任せてきた。
「構わん。君は、私が宿しているものについて詳しくない。だからこその混乱、不安もあるのだろう。実際、私は目の前で体調を崩しているわけだしな」
他に人目のない私室の中だからか、大和は素直に自分の現状のことを口にする。
「あのさ、その植物について書いてある本とか、ない? 俺、ちゃんと勉強しておきたい」
「君がそういうなら、用意させよう。解らないところがあれば私に聞くといい」
「できるだけ聞かないで済むように頑張る。大和は隣で休んでてよ」
ひょんと跳ねた大和の後ろ髪をやさしく撫でながら口にすると、「することがないのは退屈だから、何かさせろ」と、ワーカーホリックの気がある大和らしい回答が返ってきて、俺は部屋に戻ってきてから初めて、気を抜いて笑うことができた。
見ている前でまた少し大和の頭上の葉っぱや蔦がしっかりしてきた気がするが、それならそれで、俺が大和を補おうと思った。
「大和」
名前を呼んで意識がこちらに向いた瞬間に、力が抜けていた身体をそのまま掬うように抱き上げる。
抗議のこえや抵抗が始まる前に浚って、寝台の上に大和を移動させた。
「寝ていいよ。力を吸われながら歩き回ったから疲れたでしょ」
移動はほぼ一瞬だったから、大和としては不本意だろう姫抱っこも、かろうじて許容に収まったみたいだ。日向の匂いがする柔らかいシーツに大和の身体を横たえて、布団をかけてやる間もおとなしい。なんだかんだで疲労は大きかったみたいだ。
「なに、悪いばかりでもなかった。陽の光は今の私の身体にも、この植物にも活力となるものだからな」
「大和の身体も植物に近くなってるの?」
「次第にそうなる。腹立たしいことだが、いずれ植物が活性する日中は眠くて仕方なくなるだろう」
植物の部分に人としての機能が幾分制限されるのだと、今からすでに憂鬱そうに大和が目を伏せる。俺としてもそうなると心配だが、さっき大和が口にした言葉を信じよう。早く育てばその分早く剥がれるのだし、その間の変化や不調はそういうものなのだと受け止めた方がいい。
「俺にできること、あるかな」
そう真剣な顔で口にすると、大和は銀の双眸をしずかにこちらに向けて応える。
「言っただろう。ここにいろ、と。私の隣にいるのが君の仕事だろう?」
「それはそうだけど、もうちょっとなにかできたらなって。あ、もう少しエネルギー渡しとく?」
考えて口にした俺の提案に大和は苦い顔をした。
「今日はもうこれで二回目だぞ。君の方が体調を崩したらどうする」
君は私の護衛でもあるのだぞ、と言われてしまえば、もっとも過ぎて反論の言葉もない。
「俺のエネルギーなら有り余ってるくらいなんだけどな」
「……いざという時のためにとっておけ。だが、そう、だな。力は要らんが」
肩を竦めた俺を見て、大和はじっと俺のくちびるに視線を注ぎ、
「君が欲しい」
爆弾発言を投下した。
「えっ、ちょ、おま」
あんまり大胆なことを言われると俺の理性がマッハであさっての方向に飛んでしまいそうになるんだが、今の発言の意図は、どういうことなのか。
目を丸く見開いて動かなくなった俺の様子に、大和はゆるりと首をかしげた。
「文字通りの意味でいったが、説明が足りなかったか?」
「すみません、あまりに端的過ぎたので捕捉していただけるとありがたいです……」
勘違いして大和の意図しないところをすることだけは絶対に避けたかったので素直に教えを乞うと、大和はほんのりと目許を朱に染める。
「隣で共に寝て、私を抱きしめて、口吸いをしてほしい」
力の譲渡などはしなくて良いから、君の体温だけ分けてくれればいい。
そんな可愛らしいことをを大和はぽそぽそと小さな声で足す。些細な接触であっても自分から請うことが難しく恥ずかしいことであるみたいに、大和は俺の様子をちらちらと伺い見ていた。
「それくらい、いくらだって叶えるよ」
あんな大胆なこと言ったくせに、その実はなんともいとけない、愛おしいねがいごとだった。
俺は大和の望むままに共寝の姿勢に入ると、確りとその身体を抱きしめて、背中をあやすに似て繰り返しさする。
唇と唇をかさね、何度か吸い、熱を、唾液を、舌同士を絡めたところから分け合っていく。とろんと蕩けていく大和の瞳は、銀月のようにうつくしかった。
大和は、体温が上がっているばかりでなく熱っぽい吐息を甘く吐き、やがて満足そうに目を閉じると、俺の胸に甘えるようにして深い眠りのなかに落ちていった。
「もっとたくさん我儘を言えばいいのに」
穏やかな寝息を立てる年下の恋人を、腕に抱いて俺はひっそりと呟く。
「そのためにはもうちょっと、俺が頼りがいをつけないとかなぁ……」
大きく重く育った植物に引っかけてしまわないように気を付けつつ、大和の髪を梳る。
「早く花が咲いて、普通に過ごせるようになるといいな」
そっと、愛しさを込めて大和の額に口づける。抱き締めてキスするだけで足りないのは、我儘だと解っているけれど。
体と体をくっつけるだけでは足りない愛おしさを、もどかしさを、俺は他にどうしたら充たせるのか知らないのだった。