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ツイッターにて、植物に寄生されて気だるい局長を、ウサミミがお世話したり連れ出したりしたら可愛いな、という妄想の赴くままに書いている話のまとめ。
局長に寄生している植物の外観は、観用少女のティアライメージ。
一応きりのよい所まで。でももうちょっとだけつづくんじゃ。
ある朝ジプスの施設に出勤すると、大和の頭から植物の芽が生えていた。
やわらかな銀糸から覗く瑞々しいみどり。それは作り物等ではなく本物の双葉だった。
「どうしたの、それ?」
病気か呪いにでもかかったのかと尋ねれば、大和は憮然と頭を振った。
これは、何十年かに一度行うべき儀式の準備なのだという。
いま大和の頭から生えている若芽は、その霊的な儀式に必要な稀少種の花であり霊力の高い人間を苗床に咲くのだと。
手を尽くしたが、他に適合する人材が見つけられなかった為、大和本人が育てる事になったらしい。
大丈夫なのかと尋ねると問題ないと帰ってきた。開花すれば自然と剥がれ落ちるそうだ。
開花するまではどうなんだ?という疑問は、メディカルチェックに当たる乙女が答えてくれた。
育成中はやはり倦怠や眠気等の不調を伴うのだそうだ。
そんな状態で仕事をさせる訳にはいかないから、一週間大和は休暇を貰うことになったとも乙女は教えてくれた。
大和が不機嫌そうな理由はそのあたりにもあるのだろうか。
ワーカーホリックめ、と心のなかで苦笑しつつ、
「いい機会だからゆっくりしなよ」
そう、嗜めた。普段から纏まった休日の少ない生活をしている奴だから、たまには骨休みするといいと思った。
大和が休む間の皺寄せが行く人達の手伝いをできるだけしようと俺は考えていたが、その前に真琴が口を開いた。
「君に頼みたいことがあるんだが…」
なんて重々しく言われたからすわ一大事かと思ったが、蓋を開けてみればなんということはない。
体調が万全ではない大和の護衛をして欲しいと──言うのは多分建前で、確実に降って湧いた休暇を持て余すだろう大和の相手をするのがメインになるのだろう。
周りの目が微妙に優しい。あるいは生温い。
二人きりでゆっくり過ごすなんてそうある機会じゃないから、ありがたい話ではあるのだけれど。
「それじゃあまあ一週間しっかり護衛させて頂きますよ」
おどけるように大仰な礼を交えて言うと、大和は一瞬複雑な顔をしたが結局頷いて「…宜しく頼む」と言った。
銀色の頭髪の合間に芽吹く緑が、頷いたからというばかりでなく揺れて、心なしか艶と大きさを増したような気がした。
それが勘違いでなかったことは、ともに過ごすうちに直ぐに知ることとなる。
ひとが居なくなり、室内に二人きりになると、大和はそれまで張っていた気を解くように深めの息を吐いた。
普段ならぴんと背筋を伸ばして座る彼が、気怠げに椅子にもたれて目を伏せる。
「…辛そうだな」
「致し方あるまい。常に力を吸い取られ続けているのだから。とはいえ、直に慣れるだろう」
「ふうん」
俺はふと思い立って携帯を開き操作した。スキルのセットを変えると、「大和」と彼の名前を呼ぶ。
何時もよりやや鈍く上げられた白い面。その細い頤に指をかけて上向かせると俺は彼の唇を奪った。
「…!!」
数瞬固まった彼が驚いて口を離そうとするのを強引に捕まえて、暫く口づけたままでいる。
やがて薄く開かれた唇の中に潜り込ませ与えたのは、舌と唾液ばかりではない。
活力とか霊力とかよばれるものを触れ合わせた粘膜を通して受け渡す。
息継ぎに合わせてキスの角度を微妙に変えながら力の授与を繰り返していく。
とろん、と銀色の瞳が蕩けて閉じられ、抵抗が全くなくなるころ、俺は漸く彼のことを解放した。
「どうよ?」
大和の顔色を覗き込む。
頬が薄紅に上気しているのは、気持ち良かったからなのか、俺の目論みがうまくいったからなのか、微妙に判別が付かず直接尋ねた。
「…っ、君は、いきなり、何を…」
大和ははっとしたように瞳の焦点を結び、手の甲で口の周りを拭って俺を見据える。
「いや、吸われてる分補ってやれば楽になるかなって。余計だった?」
ようは回復と吸魔を応用して大和に力を流し込んだのだ。
「何故そこで口づける必要がある…?」
「身体をくっつけた方が効率良いから。流石に他の粘膜使う訳にいかないし」
何を言わんとしているか伝わったのか、大和の顔に赤みが増す。
「当たり前だ。…場所と時間を弁えろ」
「それって、場所と時間を弁えてたら他の粘膜でも良かったんだ?」
「!!」
物言いがあまりに直接的だったからか、とうとう大和に睨まれた。
「冗談だよ、そんなに睨むなって。流石に調子崩してるお前に無体働くわけないだろ。…それにしても、よかった。顔色よくなってる」
赤い顔で睨まれても怖くないけどこれ以上からかうと怒られそうだった。手を伸ばして、労りを込めて頭を撫でる。
「君は私をこどもかなにかと思っていないか」
言外にこんなことで機嫌を取られないと言っているようだが、その割に振り払ったりしないのだから、大和は結局俺に触れられるのは嫌いじゃないんだろう。
「大和を子供扱いしてるわけじゃなくて、俺は年上でもあまやかしたくなったら撫でるけど」
「…他の者にも気軽にこう言ったことをするのか、君は」
あ、まずい。大和の声のトーンが一つ下がった。
「別段君の行動を制限するつもりはないが余り気安く他者と触れ合いをとるというのは誤解を招くのではないか」
大和は存外嫉妬深い。親密な人間が余りいなかったからなのか、俺に対する拘りが半端ないのだ。
はじめてのともだち(兼恋人)を誰かに取られまいと必死なのだというと可愛い(実際面白くなさげに眉を寄せた顔は少年らしい可愛げがある)が、大和の悋気の火は燃え上がると洒落にならないので俺は早期解決を図った。
「うりゃ」
腕の中に大和を捕まえる。抱きしめる。常よりも体温が高く感じるのは微熱があるからか。
やっぱり怒らせたりするのはよくないな。安静にしてもらわないと。
僅かに身じろぐのがわかったが強い抵抗ではない。大事に、捕まえた身体に身を寄せる。
動作は早いし雄弁だ。それに最後の一押しとして言葉を足す。
「触れ合うにしたってここまでするのはお前にだけだよ」
「…君は口が立つ男だな」
言いながらも、抱き込んだ身体は大人しい。
「本当の事しか言ってないのに。…って、あれ?」
もう一度頭を撫でようとして、柔らかな髪に芽吹く緑の変化に気づく。
「育ってる?」
ことばの通りだ。大和の頭から生えた双葉は、いつのまにか、新芽というには少々大きくなっている。
みずみずしい翠色は開き、ひかりを求めるように葉を開いていた。
急な成長に驚き、体調の方に変化はないか、心配になって大和の顔色を窺った。改めて眺めた顔色は白かったがそれは何時も通りと言える。
格別、辛そうだということはなさそうだ。よかった。
「身体は平気?」
「…ああ、問題ない。君が先程ちからを分けてくれたのが効いているようだ。しかし、そうか、育っているか。文献の通りだな」
「どういうこと?」
ひとりわかったような顔をする大和とは逆でこちらはさっぱり状況が飲み込めない。頭の植物のこと、こうやって育てているだけに大和はよく知っているのだろうか。
疑問のままに首を傾げると、大和はやや不機嫌そうな面持ちで説明をくれた。
「この植物は宿主の感情を養分にするのだ。心の動きを察して育つとも言い換えることが出来る」
「つまり大和が笑ったり怒ったりすると早く育つと」
「…平たく言えばそうなるな」
しかし、感情の動きが逐一植物の成育として現れるのは大和からすればあまり面白くはないだろう。
俺といると解りやすい奴だけど、自律自制を己に課して外ではクールな局長で通ってるみたいだし。
「ちなみに宿主の感情が薄いと?」
「枯れる」
きっぱりしてるな。ふくふく育ちつつある緑を眺めつつ思う。
「じゃあ俺が一緒なのって植物の世話の上でも必要だったんだな。ひとりじゃ感情なんて余り動かないだろうし」
流石に俺といる時はお前情緒豊かだもんなとまでは言わなかったが、大和が大きく気持ちを動かす相手となると限られる気がする。
「君といると何かと驚かされたり感心することが多いからな。確かに適任ではあるだろう」
「そういうことなら、色々考えるよ。大和の感情が動くようなこと。できれば面白いこととか幸せなことがいいよな」
「君のほうが楽しそうだな」
「楽しいよ。だって頭のそれさえ隠したら、大和を堂々と連れ回せる」
休日万歳と笑いかけたら、大和は一瞬きょとんと銀の瞳をしばたいてから、
「…まったく、君の発想はよく私の想像の上を行くな」
呆れたような、でも何処か構われるのが嬉しいような。きっと俺にしか見せない気を許した顔で微笑んだ。
頭の上、双葉からもう少しだけ育った緑の若芽が、宿主の感情に連動するように嬉しげにゆらりと揺れた。