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物凄くn番煎じな色々な皆さんがお書きになっているネタですが、自分でもどうしても一度書いてみたかったので書いたもの。
局長に力ずくスカウト(仲間の首を掻き切る的な意味で)された主人公の回想。
モロではないですがグロ。仲間の死亡表現あり。主人公の名前は因幡 初(いなば うい)です。
『目隠し鬼』からのバッドエンド分岐といえるかも。"敗北後の現在"の話は機会が在れば何れ。暗いです。
原作では敗北すると普通にゲームオーバーですけども。
ウサミミ以外の首を掻っ切って、ウサミミの目を覚まさせる!というあの発言からするとウサミミだけはいかして連れ帰るというか勧誘するというかなのかなーという妄想が止まりません。
基本的に去るもの追わず、己の意志で選択することをこそよしとする局長がらしからぬ言動をするのに、やはりウサミミだけは彼にとって特別なのだなということが実感できる気がします。
ヤマト戦にはもえが詰まっている! ヤンデレ大好き。
きょうも あかい おわりのはじまりの ゆめをみる。
赤い、赤い、赤い。
あちこちぶつけ、焼け爛れてもいる身体が痛かった。
朦朧と地面に伏したまま、どうにか上げることができた視界に、見知った姿が映り込む。
けれどその人物は見慣れた黒の上、あかい衣を纏っているように見えた。
彼は──大和は、赤を好んだだろうか。ぼんやりと考える。
その違和感は一瞬のことで、おれは直ぐに自分の間違いに気づいた。
違う。
あれは、上着なんてものではなくて。
「あ……」
──大量に浴び過ぎた返り血の色が、そう錯覚させただけのこと。
自分が倒れる直前の状況を思い返す。
おれたちは大和に挑み、そして彼ひとりに敗れたのだ。
必勝の方策を整えておれたちを迎え撃った大和は、悪鬼のようだった。
使役していた悪魔たちを退けることは問題なかった。
なのに、残るは大和ひとりだけとなった時に、戦況は一変した。
誰も彼に追いつけない。ロクに触れられもしない。
仲間たちは、次から次へとその白い手が紡ぎ出す力の前に倒れて行った。
敗北は必至で、他の仲間は直ぐに起き上がれそうもない。
ならばせめてと自分以外に残っていた仲間の大地と維緒だけでも逃そうと、少しでも時間を稼ごうとして、おれは大和の進路を塞いだ。
ひとつひとつが重い攻撃をどうにか凌ぎながら、「逃げて」と叫んだ。
そこで、そのまま逃げてくれれば良かったのに。二人はおれを置いていけなかったのか、場を離れなかった。
自分たちだってキズだらけだったのに、おれを援護しようとしてくれて。
おれの行動がそんな二人を守る為だと悟ったらしい大和は、次の瞬間、攻撃の矛先を二人に向けた。
庇おうと動きかけて──おれは、その直前に弾き飛ばされ、二人から離されて、意識を一度落としたのだ。
状況を把握してしまえば、凄惨極まる目の前の有様に血の気が引く。
一瞬で思考が冷える。傷ついて悲鳴を上げる身体の痛みを無視して、強引に手をつき、顔を上げた。
そうして見えた、おれと大和のほかに動くもののない世界はゾッとするほど静かで。
いちめん、血の海、だった。
どうして、この噎せ返るほどの血臭に、気付かず居られたのだろう?
おれが暢気に気絶している間に、大和は粗方を終えてしまったのだ。
路上のそこかしこに、首の無い人間の胴体が、手足が散らばっている。
身につけている衣服は見知ったもので、だから、頭がなくなっていても、誰だかわかってしまった。
大和は戦いが始まる直前、確かに言った。おれの仲間の首を掻き切って、おれの目を覚まさせると。
知ってた。
強がりの軽口ばかりのおれと違って、彼が、冗談を好まない、有言実行の男だと。
でもそれを、こんな形でなんか突きつけられたくなかった。
何人もの人間の首を掻き切り、跳ね飛ばせば、飛沫いた血潮で実行者の総身が赤々と染まるのは当たり前の話だった。
「あああああああああ!!!」
全てを理解してしまえば堪えられなかった。
視界が滲む。咽喉が震える。意識の制御を外れて迸ったおれの絶叫を聞いてか、大和が振り返る。
その手は、同時に、最後の一人の首を断ち切っていた。苦悶のままに事切れた顔が、落ちていくのが見えた。
大和は、斬首を終えた相手からはすぐに興味を失った様子でその身体を放り出す。首は、遠く、遠く、おれの手の届かない所に転がっていく。
ブーツの底でまだ乾かぬ赤色を踏みつけて、大和はおれの元へと近づいてくる。ぴしゃりと血の跳ねる音がした。「どうした? 何故泣くのだ、初よ」
大和の声は変わらず明瞭だった。その手で惨劇を作り上げた後だとは信じられぬほどに透徹と響く。
言われて初めて、おれは自分が泣いているのだと気づいた。そんな資格もないくせに。
怒ればいいのか、悲しめばいいのか。憎めばいいのか。絶望すればいいのか。わからない。
何も言えずにいる内に、大和はもう、おれの直ぐ傍まで来ていた。
間近で見た整った顔や銀の髪にも血糊が飛んでいて、それをさして気にする様子もなかったのに。
大和は惜しげもなくおれの前にまで広がる血溜りに膝をついたかと思えば、仲間の血に塗れた手袋を不意に外す。そうして曝された白い手はおれの目元を拭おうと動いた。
つめたい指が触れると、おれの身体は慄き、震えた。
全力で戦ってなお、止めるべきを止められず、無力に転がり、這い蹲るだけの無様を見ても。
大和は、おれだけは殺すつもりがないのだ。
他の皆には失望と憎悪から殺意を向けても、何故かおれだけ特別扱いした。
おれのともだちを一片の慈悲もなく殺め尽くした手は、おれに触れている今、どこまでも優しかった。
それが事の他恐ろしいことのように思えた。
「ああ、お前は優しいからな。…だがもう煩わされる必要はない。些事は済んだ。お前に縋りつき引き摺り下ろす愚か者共は、ほらあの通りだ」
示される先には、物のように転がる幾つもの首。
全部、全部、ついさっきまで一緒に争う以外の道を探してくれてた大切な仲間たちのものだ。
初日からずっと一緒だった──両親をなくしても健気に強く生きようとしていた女の子や、この数日で頼もしい表情を見せるようになった幼馴染の顔もそこにあった。
上向いた虚ろな目は何も映さない。冷えて固まりつつある唇が言葉をつむぐことは二度とない。
みんな死んでしまった。失われてしまった。もう戻らない。
ごめん。ごめんね。ごめんね。
謝罪は声にならない。声になったとしても届きはしないけれど。
それでも、真っ白になって、狂いそうになる意識でおれは「ごめんなさい」を繰り返す。
実際に殺したのは、大和。でも、元を正せば全部おれが悪い。
おれが判断を誤ってしまったせいだ。大和を、見誤ってしまったせいだ。
彼はだって何時もおれには優しかったから。
そんな大和が、昨日まで一緒に戦った仲間を相手に、ここまでするなんて思っていなかった。
おれは甘く見ていたのだ。大和の強さを、容赦なさを、──その、激しさを。
ひとより少し近くに居たつもりで、解かっていなかった。
勝手に大丈夫だと、きっと説得できると思い込んでいた。
こんなおれのこと、みんなはリーダーだって認めて頼ってくれたのに。
なのに、おれの弱さが、自惚れが、みんなを殺してしまった。
「お前たちは負けた。力も理もない思想など何の価値もない」
打ち砕いたものたちを切り捨てるように言い放ち。
仲間たちが流した血泥の海に君臨する大和は、この上ないほど凄絶に、綺麗に笑う。
そう。血塗れの大和は、うつくしかった。うつくしいと、思ってしまった。
あんなにも惨たらしい殺戮をなしても、揺らがず、迷わず、己の意思をどこまでも貫き通す強い姿は、今の無力なおれには眩しくさえあった。
悪魔なんかより余程恐ろしいのに目を逸らせない。
「だが、初、お前だけは別だ。お前は本来強者であり、このような所にいるべきではない。その才を縛るものがいたから十全を発揮できなかっただけのこと。…さあ、ここからは勝者である私と来い。共に新しい世界を築こうではないか」
ひとを誘惑して堕落に誘う魔物の声というのは、きっとこんな風だったんだろう。
虚脱した心の隙に入り込み、魂を鷲掴んでいこうとする。頷けるはずも無いのに、どこまでも甘やかな、性質の悪い毒のよう。
微笑んでおれを見る大和の銀色の瞳には、血腥いこの場に不釣合いな、労わりと慈愛の色があった。
どうして、おれにだけそんな風に笑いかけるのか。
視界がますますぶれて揺れた。目の奥が熱い。
このまま眼球が涙と一緒に溶けて流れて、何も見えなくなってしまえばいいのに。
そうしたら、惑うことなんかないはずなのに。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
もうやめて欲しい!
おれにはそんな価値はないんだ!!
もしおれが、大和が評価する通りの人間だったなら、こんな結末を招くはずがなかった。
おれが、強く、正しい人間だったなら。
きっと誰も死ななかったし、大和にこんな酷いことをさせずに済んだ。
…おれは、彼を、ひとりぼっちにしたくなかっただけだったのに。
高みを巡って争うことを是とし、孤高の頂にあろうとする背中を引き留めたかった。
この試練の日々を共に過ごすうち、覗いた姿に、大和にもっと違う世界を見せてあげたくなったのだ。
他の仲間たちのことも大事だった。争って欲しくなかった。
だから、大地たちと共に歩んで、実力主義でも平等主義でもないそんな道を探そうと思った。
もっともそれは叶わず、淡い思いは却って破滅を招き寄せてしまったけれど。
はじめから側で彼を助け、過てば正す道を選んでいたら違ったのだろうか?
大和の言うように力がなければどんな願いも価値無く、遂げることのできない塵芥にしか過ぎないのだろうか。
今さら理解したとしても、ああ、全て後の祭りだ。
「…ゃ、だ……っ!!」
現実への拒絶も乗せて、飽きず目尻を拭い続けていた大和の手を、残された力を振り絞って払いのける。
今のおれに出来る抵抗はそれくらいしかなかった。
けれど離れたのはほんの一瞬で、おれの手は容易く大和に掴まれてしまう。
「混乱しているのか? お前らしくもない。大丈夫だ。全部終わったのだ。その傷も全部、戻ったら治してやる」
そのまま、強い力で引き起こされる。大和の腕の中、囚われる。
子供をあやすような手つきで、背をぽんぽんと叩かれ、撫でられた。
少し低い体温はそれでも暖かくて、優しくて、何も考えずに、身をゆだねてしまいたくなる。
そうできたらどんなに楽だろう。そうして、心から、彼の望むように振舞うおれになれたなら。
ぼんやりとそんな思考が脳裏を過ぎってしまったことが心苦しかった。
ひどい裏切りだった。許されるはずも無かった。
なんて身勝手。罪悪感と後悔で死んでしまいたくなる。
「…め、なさ…っ! ダイチ、イオ、みんな、ごめ……っ!」
「初。その口からこれ以上ヤツらの名前など聞きたくない」
あられもなく泣きじゃくり、ぐずり謝り続けるおれの唇から、みんなの名前が出た瞬間。
それまで辛抱強くすらある寛容さで、おれを宥めていた大和が、はじめて柳眉を寄せ、不快を示した。
大和の顔がひどく近い。息が掛かる。射るように俺を見つめる銀瞳は、冷たく、熱かった。
「…もう泣くな。初には私だけがいればいい」
「……ぅ、! …んん……ッ!!」
顎を掴まれ、噛み付くように唇ごと、すべての言葉を塞がれた。
口づけられたのだと、遅れて脳が理解する。こんな形で初めてキスするなんて思わなかった。
ぬるりと生温く舌を刺す、鉄錆びた味。きっとこれは、大和の唇に飛んでいた仲間の誰かの血の味。
──これは、おれの、罪の味だ。
ながく、ながく、大和はおれの呼吸を奪い続けた。
触れているところから支配されるのじゃないかというくらいに、ねっとりと、執拗に。入り込んでくる。
奪われる。浚われる。何も考えられなくなる。堪らずに、何時しか目の前の身体に縋りついていた。
仲間の死体が転がる中でおれは何をされている、しているんだろう。
くらくらする。ひどい目眩。苦しいのは、身体だろうか。心だろうか。
息ができなくて、辛くて、何もかもに耐え切れなくなって、おれの脆弱な意識はまたふつりと途切れた。
夢は、何時も、ここで覚める。
けれど、夜毎繰り返す。だから終わらない。
これは、きっと、おれに与えられた罰なのだ。