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なんかうちの主人公と局長はやたらとお休みしたりお出かけしたりイベントを堪能する話ばかりのような気がする…。
しかし仕事風景を書くと必然的に血腥いバトルになる予感。
でもたまには殺伐盟友なふたりもいい。うん。そのうち書こう。
話が逸れましたがあんまりかけてないけど浴衣や和装のヤマトさんはきっとすごくいいものだと私は思っている。
あとこの話といい焼き肉話といい局長が私服という描写を何度かしていますが、いまだに局長に似合う服って何だろうってずっと考えていたりします。ウサミミが選んであげてても可愛いなーと思います。
加筆修正は気が向いたらするかもしれない。
年度末の繁忙期を越えてややグロッキーに陥っていた俺が、温泉に行きたい、と零していたのは完全にただの我侭だった。
叶う見込みのない愚痴のようなもの。余り本局から遠く離れるのはよくないというのも解かっていた。
それが思いがけず叶うことになったのは、俺にとっても予想外の出来事だったのだ。
久しぶりの連休を二日程スケジュールの中にねじ込めたので、俺は惰眠を貪る気で携帯のアラームも停めて自室で休んでいた。
「起きたまえ」
早朝、それを叩き起こしたのは大和だった。
「え、何? 野良悪魔でも出た? それとも暴動? 書類不備だけは勘弁して欲しいんだけど…」
どれも正直避けたい事態である。
「違う」
そんな俺の懸念は大和に断ち切られた。
「すぐに支度をしろ。君の望みをかなえてやろうというのだ」
「望みって、もしかして…」
「ああ、温泉に行きたいのだろう?業務に支障が出られても困る…この機にきちんと疲労をとってこい」
「マジで?」
まさかそんな風に労ってもらえるなんて思っていなかった。
「こんなことで嘘をついてどうするというのだ」
ああ、これは正直嬉しい。けれど、同時に申し訳ない気もする。
大和だって他のみんなだって忙しかったのに違いはないだろうに。…それにひとりで温泉にいっても余り楽しくない。
「なあ、大和。俺、もういっこ我侭いっていい?」
「なんだ? 内容によるが」
「俺、大和と一緒に行きたいな。疲れてるのはお前もじゃないの。そんな局長を置いてひとりだけ保養とかむりだから」
多分こんなことを言ったら馬鹿をいうなと断られるだろうなと思っていた。そうしたらなら俺も休めないよ、というつもりで。
好意を無駄にしたくはないけど、口にした言葉は俺の本音だった。大和は俺の言葉に僅かに目を見開いて、考え込んだ。
「少し待て」
大和はなにやら携帯でどこかに二、三連絡を入れていた。あれ、この反応は予想外なんだけど。
「…君が休めないというのでは用意した意味がないからな。明朝には私は先に戻ることになるが」
それってつまり今日は一緒に来てくれるって事だよな。
「お前時々俺に甘すぎるよ」
心の中でスケジュールがずれたことで起こる不都合を申し訳なく思いながらも。どうしても笑みを殺せないくらいに、うれしかった。
外泊も遠出も久しぶりだったからテンションが上がった。
俺の趣味とか隠匿性や諸々を考慮したらしく、高級ホテルとかそういう肩が懲りそうな所ではなくて、老舗ではあるがのんびりした雰囲気をした、海辺の温泉旅館が宿泊先に選ばれていた。
時期柄、桜が咲いていて眺めて歩くだけでも楽しかった。
普通なら護衛等も考慮しないといけない所なんだろうけど、俺と大和がいて互いの連れてる悪魔を戦力として換算すると、下手に誰かつける方が目立つと言う事で二人きりだ。
桜並木はもうすっかり満開で、風に花びらが剥がれてひらひらと舞うのが美しい。綺麗な景色をこうやって大和と連れ立って歩く。
それだけで色々と癒される心地だ。この旅行はお忍びなので流石の大和もジプスの制服ではない。私服が目の保養というのもあった。
のんびり温泉街の土産物屋や名産店を冷やかし(郷土の変わった食べ物や土産物に対する大和の反応が一々新鮮で面白かった)、海が見える辺りまで散策してから旅館に入った。
夜。夕食を頂いてから、入りにいった露天になっている温泉から見た夜景もきれいだった。
疲労に利くという触れ込みの湯にたっぷり漬かってから部屋に戻る。
「あー、この世の天国って感じ」
「満足したか?」
「うん、すっごい楽しかった。ありがとな、大和」
既に敷かれていた布団に座りつつ改めて礼を言う。我侭を聞いてくれて、付き合ってくれて、どんなに感謝しても多分足りない。だからこそ気になることがある。
「お前は? ちょっとは楽しめた?」
「まあ、悪くはなかった」
聞き返すと大和が微かに笑ってくれた。元々世辞の類を嫌う人間だと知っている。言葉通り彼も少しは楽しんでくれたのだと思う。
「そっか。まあでも俺の頼みに付き合ってもらったわけだし礼がしたいなって。大和ちょっと横になって」
「? ああ」
俺の言葉を受けて、大和は大人しく布団にうつぶせに横たわった。
頼んでおいてなんだけど、俺が言うと大体のことは聞いてくれるって無防備すぎないか。今回はまあ素直にそうしてもらえるのはありがたいんだけど。
伏した身体は、浴衣の隙間から覗く首筋や手足が、ほんのりと桜色に染まっていて綺麗だ。思わず身惚れてしまいそうになって、目的が違うと俺は思い直す。
コホンとひとつ咳払い。それから改めてし隊ことを口にする。
「それじゃあ失礼。マッサージするよ」
ゆっくり肩の辺りに手をかけた。大和が僅かに息を呑むのが解かったが、嫌がられることはなかったのでそのまま続けることにする。
先ず肩から腕にかけて丁寧に揉み解していく。大和が止める気配はなかったから痛かったりはしないみたいだ。よかった。
最近書類仕事が多かったからか結構凝ってるな。これはやりがいがある。
時間をかけて肩や腕を揉み終えると首や背中に移る。こっちも筋の凝りを解すように慎重にマッサージしていったが、
大和がずっと黙っているのがちょっと気になってきて、
「どう、気持ち良い?」
「…、……」
尋ねながら顔を覗き込んだら、大和が一寸ぐったりしていた。慌てて揉む手を中断させる。無理をさせているのでは全く慰労にならない。
「ちょ、どうした!痛かったり嫌だったら言ってくれよ…!」
すると、俺の言葉に大和はひどく複雑な顔をしてこちらを睨んできた。
はーはーと乱れた息を整えているような感じだ。あれ、これって。
「……っ、きみの手が」
「俺の手が?」
「身体を触るということの意味を、考えてみたまえ」
「…………あ」
察しました。夜で、部屋に二人きりで、風呂上りで。それでぺたぺた触ったら。
まあ色々と連想することがあっても仕方ないよなって思う。首とかって敏感だしな。
「ごめん」
「……悪気はなかったのだろう。実際肩は軽くなった」
身を起こして大和がいってくれた言葉にほっとした。
が、
「…今度は私が君にしてやろう」
かくして俺は大和がされていたことをきっちり返されることになった。
ごめん、ちょうごめん。浴衣の上からとはいえ薄着だし、無遠慮に触られて、しかも背中とか腕を後ろから揉む都合上距離はすごく近いし、気持ち良いしで生殺しだね、これ! 本当に嘗めてました、すみません。
俺はたっぷりと身体で自分のしたことの意味を理解させられたのだった。
数分後。
「俺が浅はかでした、すみません…」
「解かれば宜しい」
やっと大和が俺を解放してくれたので、呼吸を整えてから脱力した身体を起こす。
でも落ち着いてみると身体自体はすごく軽くなっていた。大和は整体の心得もあるんだろうか。
「さて、明日も早い。そろそろ休むか」
「うん。悪いな、ここまで付き合ってもらっちゃって。仕事、あったんだろ」
「今日の仕事は遠方からのメール指示でも十分な内容だったからな。偶々時間をあけることが出来ただけだ。本当にずらすことのではない用事があったならここにはきていない」
「わかってる。けど、結構無理してもらったのは確かだろ。……その分楽しかったけど。やっぱ旅行は誰かと一緒がいい」
「そういうものか?」
「綺麗とか楽しいとか嬉しいとかそういうのって俺は分け合いたいんだよ。独り占めよりさ」
とはいえ別に俺は平等主義者というわけじゃあない。特別な人と分け合うから良いのだ。
「ああ、でも、誰とでもって訳じゃないからな? 大和が一緒でよかった。リフレッシュした分、戻ったらバリバリ働くよ」
「期待していよう」
笑いかけたら大和が頷いてくれて、こいつの為にももっとがんばりたいなと改めて思った。
話を続けると切り上げ所が見えなくなるから「おやすみ」と口にする。
布団に入ったところで、不意に大和から名前を呼ばれた。
「どうした?」
浴衣の袖を引かれて振り返る。
「……私も、君とこうして居られてよかったと思っている。私用で遠出をしたことなど初めてだ。君と居ると世界は斯くも未知に満ちていると思い知らされる」
それだけ伝えたかったのだと手は直ぐに離れていった。
無理をいって連れてきてよかったと思った。胸の中がいっぱいになる。
「なあ、大和。今日はもう一杯我侭いってるけどもう1個だけいい?」
「なんだ、このタイミングで」
「お前の事今すっごくだきしめたいんだけど。明日に障るような事はしないからさ」
「……好きにしろ」
了承は貰ったからそのまま抱き寄せて布団に引きずり込む。
「また一緒に出かけよう。今度は大和がいってみたい所探してさ。初めてだから楽しいんじゃなくて二度でも三度でも飽きない楽しい事があるって知って欲しいから」
約束だと抱きしめたまま額にキスする。銀の瞳が瞬きの後細められ、俺の胸に顔を埋めながら小さく大和は頷いてくれた。