デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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大団円ED後捏造。
ツイッターで随分前につぶやいた120文字SSを大幅に加筆したものです。と
いうかこれ6000文字超えなので殆ど加筆ですね。
色々御都合主義で力業だけど仲間12人の縁をMAXにして、ポラリスはっ倒したウサミミにはこれくらいして欲しい、できるって思っている。
私がデビサバ2のなかでも特に萌えた台詞から膨らませています。
やっぱり大団円の星のひかり渦巻くあのシーンはみんなのデレがみられる場面なのだと思う。局長もあれは凄いデレなんだよ…。普段がデレすぎてるから気付かれないだけで。
この話は大団円ルートの話のなかでもずっと書きたいなーと思って居たものです。
ウサミミには、ヤマトに対して責任を取ってほしいと思っているので。
ヤマトがウサミミを浚いに来てもいいんですけど、というかそのパターンも考えられるけど。
ウサミミが自分の意思でヤマトの隣にいってくれたらいい。迎えにいってほしいのです。
その手を取って一緒にたくさんのものを見たり見せたりしながら歩いていってほしい。そう思っています。
ツイッターで随分前につぶやいた120文字SSを大幅に加筆したものです。と
いうかこれ6000文字超えなので殆ど加筆ですね。
色々御都合主義で力業だけど仲間12人の縁をMAXにして、ポラリスはっ倒したウサミミにはこれくらいして欲しい、できるって思っている。
私がデビサバ2のなかでも特に萌えた台詞から膨らませています。
やっぱり大団円の星のひかり渦巻くあのシーンはみんなのデレがみられる場面なのだと思う。局長もあれは凄いデレなんだよ…。普段がデレすぎてるから気付かれないだけで。
この話は大団円ルートの話のなかでもずっと書きたいなーと思って居たものです。
ウサミミには、ヤマトに対して責任を取ってほしいと思っているので。
ヤマトがウサミミを浚いに来てもいいんですけど、というかそのパターンも考えられるけど。
ウサミミが自分の意思でヤマトの隣にいってくれたらいい。迎えにいってほしいのです。
その手を取って一緒にたくさんのものを見たり見せたりしながら歩いていってほしい。そう思っています。
月のない空は暗い。藍色の海の底に閉じ込められたようだ。
ネオンさんざめく喧騒を抜け、郊外へと走る車窓から見える世界は余計に暗かった。
世は全てこともなし。無に侵蝕され消え行くばかりであった終末の面影は何処にもない。
本来ポラリスの裁き、未曾有の大災厄が起きるはずだった日付はとうに超えた。
今の所、粛清の起きる兆しはない。我々人類は危うくも存続を許されていると言うことなのだろう。
このようなことを考えているのも私が、あの八日間を"覚えている"からに他ならない。
あの時、アーカーシャ層にてポラリスに臨み、希った世界の復元。
そこに付き纏っていた存在の競合による消滅の危機や記憶喪失の可能性を、乗り越えたと言う事なのだろう。
もっとも、他の者たちも、存在と記憶のすべてを引き継げたかといえば否であったのだが。
ジプスの局員の中でも、迫や菅野、柳谷──私同様ポラリスに直接謁見した悪魔使いならば、同じように記憶が残っているかとも思ったが、叶わなかったようだ。
存在こそ消失することはなかったが、彼女らの中にはあの日々の記憶はない。回帰の成って直ぐ後、それとなく探りを入れてみたが、反応はなかった。
その他の者については解からずにいる。
探そうと思えば、往時にセプテントリオンと矛を交えた民間の悪魔使いたちの行方を探すことも、様子を知ることも出来た。
物質主義が礼賛される現代、人員や規模が縮小されたとはいえ、それでも国家暗部の一端を担う秘密機関たるジプスの力を持ってすれば、一般市民の所在や個人情報を得ることなど造作もない。
だが、それをしなかったのはらしくもない、恐れがあったからだ。
あの八日間で私を予想を尽く覆し、綺羅星の如く悪魔使いたちを導いて、己の望む世界を勝ち取った、彼。
その彼でさえも、記憶を保持していなかったら。
危機の中で誰よりも強く眩く輝いていた彼の、かつてと違う姿を見て幻滅したくないのか。
否、それは違うだろうと己の何処かから、即座に否定の声が返る。
彼ならば仮令記憶がなく、非凡な才を眠らせたままであっても、五体満足で存在していてくれるなら構いはしない。
彼の中に私を超えていくほどの可能性があるのは、あの八日間で確かに証明されているのだから。迎え入れ、再度その輝きを発揮できるよう環境を整えてやればよいだけのことだ。
ならば、彼の記憶がない事の、何を恐れる必要があるというのか。
…単純な話だ。ようは、私は、彼に忘れられているということを目の当たりにするのが怖いだけなのだ。
失ってからはっきりと気付く。積み上げた縁を、彼という存在を、私はどうやら、その能力の優秀さばかりでなく好いて──大切に思っているのだと。
初めてだった。何時だって私の予想を覆し、超えていく、あんな男は私の周りにいなかった。彼といると世界が広がる感覚を覚える、そんな可能性に満ちた人物。私に未知をいくつも与えてくれた。なのに己が特別だと思いもせず、隔てない情を他者に傾け、軽やかに笑っていた。あるいは彼のような存在を希望と呼ぶのかもしれなかった。
だが、そんな彼は元々は市井に生きるごく普通の人間なのだ。私と彼に接点はない。あの大災厄がなければ、恐らく生涯、存在が交差することなどありえなかった。
そして、これから先も、私から彼に接触を持とうとしなければ二度と会うことは叶わないだろう。
一見、世界はそう変わらないように見える。かつてと同じ、私にとってはいき苦しい、無知蒙昧な民がのさばり、クズどもが治める、何れ滅び行くだろう腐った世界。
それでも──まったく欠片も変化がなかったわけではないことを、図らずも私は理解している。
知る範囲で、迫は意を通すことを迷わなくなり、菅野は相変わらずに見えて少し周りを見ることを覚えた。
柳谷は仕事以外にも家庭のため、細やかに時間を使っていると聞く。
彼らが復元する前の世界を覚えているかといえば否だが、巻き戻ってなお強固な意思は変化の痕を残した。
私も『そう』であれば良かったのかもしれない。
あの日々の何もかもを忘れ果て、心の底にその残滓が残るだけならば。
けれど私は忘れられなかった。この身には、神へと挑んだ日々の記憶が、余りにも生々しく鮮やかに残っている。
夢や妄想ではない。アレは確かに『在った』ことだ。
そうでなければ、ポラリスに直接拝謁したもの以外にまで、変化の波及が及んでいるはずがない。
勿論、迫たちほどはっきりとした形で現れているわけではない。ともすれば見過ごしてしまいそうな、心がけ、態度と言ったもののごく僅かな変化に過ぎない。
だが、一般の局員たちもまた、無意識の奥底に、あの災厄の日々の、艱難辛苦がごく薄っすらとではあるが痕を残しているように思えるのだ。
彼らもまた、以前よりほんの少しだけマシに、生きることに真摯になったような気がする。
大河に一滴の水が落ちたところで流れは変わるまい。だが、それが幾千幾万幾億と、ひとの数だけ重なれば、あるいは。
もしかすると、世界は変わるのかもしれない。彼の望んだように、かつてより少しだけ良い世界に。
これは気の迷いであるのかもしれない。残された変化も、以前と同じ微温湯のような日常に流され、風化していき、意味をなくすのかもしれない。
それが解からぬから、今はまだ手放しに世界を美しいと肯定することなど、私にはできなかった。それでも、もう少しだけ、世界の行く末を見守っていても良いように思える。
どの道、この胸にある理想をかたちとするつもりならば、ポラリスが復元した世界を見限り、再度の粛清をなす機会を待たねばならないのだ。
それが私の生きている間に訪れるのか、あるいは子孫の代か──永劫に訪れぬのか。それは神ならぬ身には知りえぬことだ。
ならば、私は、ジプスの長として、"峰津院"として鎮護国家の責務を果たすのみである。
変わらぬ日々の中、他の者たちに大小の差はあれ変化が残ったように、私にとってもひとつだけ変ったことががある。
泥中の蓮、汚濁の中の宝石、地上の星。そう呼ぶべき尊いもの。
この国には、世界には彼がいる。そのことを私は知っている。覚えている。そのことは私にとってかすかな救いであり、幸いだった。
全くすべてが無価値ではない。守るに足るものが確かにあるのだ。それは少なくとも、ただ、ただこの世は無価値で腐りきっていると呪い続けるより幾らか健やかな心地で在れる。
元より、世界を守りつづけること、そのものに不満は全くない。人知れずとも、命を賭け、身を削り、守るべきものを守る。それこそが峰津院という家の役割であり、私自身の意義だ。
別れ際に彼は言っていた。
また敵対するのはごめんだと。私もだ。閉塞も苦悩も予想できていた。それでもあの瞬間は確かにそう願ったのだ。君がねがう世界が、私の望んだ世界よりもうつくしくあるならば良いと。君が裏切られ絶望する所など見たくないと思った。
隣で見ないかとも彼は言った。
私を敗り、野望を折り、だというのに、私の話を聞きたがり、私を誘い、手を取り、根拠も何もないのにきっと大丈夫だと絶望と諦念を笑い飛ばし、共に行こうと皆に道を示して、世界を変えた彼はここにはいない。
それでも今、私の前に広がる世界は、彼が見せたいと願ったもの。
ならば結末まで見届けよう。例えば君に二度と会うことが叶わなくとも。
彼が生きる、望んだ世界を、私は守りつづけよう。それが、恐らくは私の──
思案が途切れたのは車体が停止し、目的地についたと気づいたからだ。随分と考え事に耽溺していたらしい。
私は自分のこころが向かうべき場所を本当はもう解っている。いつまでも思い出に縋り付き、女々しく感傷に思索を巡らす、そのようなことでは彼に会う、会わない以前に顔向けができない。だから、こんな風に過ぎたことばかりを想うのは今夜で終わりにしよう。彼を想うこの気持ちは胸の奥に埋めて、ただ大切に抱いていられればそれでいい。そう、決めた。
──なのに。
ああ、だというのに。
車を降り、外に出た。送迎車が引き上げていき、私がひとりになり歩き出した瞬間だった。
「大和」
声が聞こえた。覚えのある、ありすぎる声だ。軽やかでよく通る、青年の声。あの日々の中、幾度も私の名を呼んだ、柔らかな響きが脳裏に蘇る。
思えば私の名前を気安く呼ぶものなど、彼に会うまで皆無だった。今もそうだ。私の周りに私の名を呼び捨てるものなどいない。
そのはずだ。なら、いま、私の名前を呼んだのは──
「大和!」
頭上から、もう一度、君の声がする。
これは夢か。
見上げたそらに、薄らぐらい世界の中に、君の双眸だけがあおく、透き通る。
闇夜を照らす、星のように。記憶の中のあの日々と何も変わらない。まぶしい青色。天色の瞳。
その輝きを、忘れよう筈もない。
彼だ。
私の唇もまた、気がつけば彼の名前を呼んでいた。
夜天に紛れるように滞空しているのは、彼が良く連れていた霊鳥。
幾らここが人気のない郊外とはいえ、誰かに目撃されたらどうするだとか。
どうして君が悪魔を連れているのだとか。
そもそも君は覚えているのか。
何故ここがわかったとか。
言いたいことは山ほどあって、だが、全て胸のうちから沸き上がる、形容しがたい感情の奔流に流されて、かたちにならない。
空から不意に舞い降りながら、
「会いに来た!」
晴れやかに笑って、そんな、真っ直ぐに言わないで欲しい。
空から私のもとに降りてくる君には微塵の迷いもなく。そんな風にされては、受け止める以外の選択肢がなくなるではないか。
まるで流星。流れ消えてしまうのではないかと、必死に手を伸ばして受け止めた。
腕の中には確かに、君のぬくもりと重みがある。疑問や叱責、言うべき言葉、悩みも決意も、今この瞬間、抱擁の中、 彼の存在を前にすれば、溶けて、消える。
小娘みたいに、愚かにも跳ねる鼓動の早さに、君がどうか気づかぬように!
***
天の座の試練に挑んだ八日間を超えて、俺たちの世界はやり直しを許された。
代償はあの試練の日々の記憶。身の回りで確認できた限り、大地も維緒も、あの日々の経験から得た成長が残っているのは確かだけれど、具体的な記憶は失われてしまったようだった。
そのことは哀しいし、寂しいけれど、それでも存在がすべて消えうせてしまうよりずっとマシだ。
これから先、世界がまた審判に曝される事がないように、俺たちは出来る事をしていかなければならないのだけれど。
それでもきっと大丈夫だってそう思える。無駄じゃなかったって信じる。だって、試練を乗り越えたあとの世界が、すべて元通り上書きされたわけじゃないって俺は知ってる。みんな、みんな変化に大小のの差異はあれ、生きることに少しだけ真面目になった気がするんだ。
そんな中で、俺自身は、記憶も存在も失わずに済んだ。それが叶ったのは幸運も確かにあるけれど、奇跡ばかりじゃなくて強い意志によるものだって俺は思っている。
ひとの意志が、神様の示した記述を越えて、新しい可能性を見出だすことができたように。強い強い願いは確かに世界を変えるちからになるんだ。
俺はどうしても会わなきゃいけない、忘れちゃいけない相手がいた。今もいる。
八日間を共に戦った仲間たちのなかで一番、俺から遠い世界に生きていた、あいつ。
なあ、大和。
あの時、あの全てが巻き戻る直前。
輝く星の渦の中、また敵対するのなんてお断りだと口にしたら、「私も今はそう願う」と言ってくれた。
お前にとって世界は、過ちと腐敗に満ち満ちているのだと聞いていたのに。
世界の復元、日常への回帰は、唯1人お前に限って言えば、全員に圧し掛かっていた記憶の喪失や消滅の恐怖とはまた別の、痛苦と閉塞を伴っていただろうに。
それでも、俺に免じて過去に立ち戻る世界の行く末を見守ると──大和はそれだけ、俺のことを信じてくれたのだ。
だから、俺は絶対にこいつのことを忘れるものかと心に決めた。
世界がかつての形を取り戻した時、大和に会いに行こうと思った。
無理でも無茶でもそうしたかった。俺は責任を取らなければならない。彼の願いを砕いて、自分の道に引き込んだ責任を。それだけじゃなく、俺は大和に逢いたかった。
隣で見ないかって口にした言葉は、その場限り誘い文句なんかじゃなくて、俺の本心だった。
彼がもっと楽に息ができるように何かしてやりたかった。
あの瞬間の選択を、信頼を、悔やまずに済むように。
何よりも確固たる意思が奇跡を招き寄せるのなら、と。
星の光の渦に流されてしまわないように強く強く、願ったんだ。
俺の願いは、足掻きは、どうやら無駄じゃなかったようだ。
結果として、俺の記憶はそのまま残った。経験を引き継いだからか──積み上げた日々で得た能力も。
何より驚いたのは、復元後も悪魔との契約が有効だったこと(アルコルがサービスしてくれたんだろうか?)。
でも、正直ただの学生が、歩く国家機密である大和に再会するのは、セプテントリオンやポラリスに打ち勝つのに近いレベルの試練と思っていたから、出来過ぎであってもなんでも、会いに行く術が、ちからが、俺にあるなら迷わなかった。
他の仲間のことも探してみたけれど、あの日々を覚えてる仲間は誰もいなくて(寂しいけど、かつてなかったはず縁が復元した世界でも不思議と繋がってたりして、そのことが救いだった)大和も俺のことを覚えているかはわからなかったから、もしもまた会えるなら忘れられない(あるいは思い出せそうな)出会いにしようと思った。
仲魔の力を借りて行方を追い、時間をかけて大和のスケジュールを探った。一人になった所を空から不意打ちするのが一番確実だと思ったから実行に移した。
捕まったり、反撃されるかも。不安は零じゃなかったけど、俺、分の悪い賭けに負けた事はないんだよ。
そして、俺は、
「会いたかった」
──賭けに、勝った。
俺の名前を呼んで、初めて見る、泣きだしそうな、子供みたいな顔で俺を受け止めてくれた大和を見て、もっと早く会いにくればよかったなって。それだけ少し、後悔して、それ以上に覚えていてくれたことが嬉しかった。
隣にいるよ。今度はお前の手を取るんだ。お前が俺のために諦めてくれた分を、俺はお前の隣で、俺の時間を、俺に才能や可能性があるというならそれも。お前のために使うことで少しでも返すから。
誰よりつよい意志で、これから一緒に見る世界はきっと、うつくしいものにできるって、信じてるんだ。
解かれそうになった縁の糸をも一度繋ぎ直して。今度は二度と解けない固結びにしてあげる。
ネオンさんざめく喧騒を抜け、郊外へと走る車窓から見える世界は余計に暗かった。
世は全てこともなし。無に侵蝕され消え行くばかりであった終末の面影は何処にもない。
本来ポラリスの裁き、未曾有の大災厄が起きるはずだった日付はとうに超えた。
今の所、粛清の起きる兆しはない。我々人類は危うくも存続を許されていると言うことなのだろう。
このようなことを考えているのも私が、あの八日間を"覚えている"からに他ならない。
あの時、アーカーシャ層にてポラリスに臨み、希った世界の復元。
そこに付き纏っていた存在の競合による消滅の危機や記憶喪失の可能性を、乗り越えたと言う事なのだろう。
もっとも、他の者たちも、存在と記憶のすべてを引き継げたかといえば否であったのだが。
ジプスの局員の中でも、迫や菅野、柳谷──私同様ポラリスに直接謁見した悪魔使いならば、同じように記憶が残っているかとも思ったが、叶わなかったようだ。
存在こそ消失することはなかったが、彼女らの中にはあの日々の記憶はない。回帰の成って直ぐ後、それとなく探りを入れてみたが、反応はなかった。
その他の者については解からずにいる。
探そうと思えば、往時にセプテントリオンと矛を交えた民間の悪魔使いたちの行方を探すことも、様子を知ることも出来た。
物質主義が礼賛される現代、人員や規模が縮小されたとはいえ、それでも国家暗部の一端を担う秘密機関たるジプスの力を持ってすれば、一般市民の所在や個人情報を得ることなど造作もない。
だが、それをしなかったのはらしくもない、恐れがあったからだ。
あの八日間で私を予想を尽く覆し、綺羅星の如く悪魔使いたちを導いて、己の望む世界を勝ち取った、彼。
その彼でさえも、記憶を保持していなかったら。
危機の中で誰よりも強く眩く輝いていた彼の、かつてと違う姿を見て幻滅したくないのか。
否、それは違うだろうと己の何処かから、即座に否定の声が返る。
彼ならば仮令記憶がなく、非凡な才を眠らせたままであっても、五体満足で存在していてくれるなら構いはしない。
彼の中に私を超えていくほどの可能性があるのは、あの八日間で確かに証明されているのだから。迎え入れ、再度その輝きを発揮できるよう環境を整えてやればよいだけのことだ。
ならば、彼の記憶がない事の、何を恐れる必要があるというのか。
…単純な話だ。ようは、私は、彼に忘れられているということを目の当たりにするのが怖いだけなのだ。
失ってからはっきりと気付く。積み上げた縁を、彼という存在を、私はどうやら、その能力の優秀さばかりでなく好いて──大切に思っているのだと。
初めてだった。何時だって私の予想を覆し、超えていく、あんな男は私の周りにいなかった。彼といると世界が広がる感覚を覚える、そんな可能性に満ちた人物。私に未知をいくつも与えてくれた。なのに己が特別だと思いもせず、隔てない情を他者に傾け、軽やかに笑っていた。あるいは彼のような存在を希望と呼ぶのかもしれなかった。
だが、そんな彼は元々は市井に生きるごく普通の人間なのだ。私と彼に接点はない。あの大災厄がなければ、恐らく生涯、存在が交差することなどありえなかった。
そして、これから先も、私から彼に接触を持とうとしなければ二度と会うことは叶わないだろう。
一見、世界はそう変わらないように見える。かつてと同じ、私にとってはいき苦しい、無知蒙昧な民がのさばり、クズどもが治める、何れ滅び行くだろう腐った世界。
それでも──まったく欠片も変化がなかったわけではないことを、図らずも私は理解している。
知る範囲で、迫は意を通すことを迷わなくなり、菅野は相変わらずに見えて少し周りを見ることを覚えた。
柳谷は仕事以外にも家庭のため、細やかに時間を使っていると聞く。
彼らが復元する前の世界を覚えているかといえば否だが、巻き戻ってなお強固な意思は変化の痕を残した。
私も『そう』であれば良かったのかもしれない。
あの日々の何もかもを忘れ果て、心の底にその残滓が残るだけならば。
けれど私は忘れられなかった。この身には、神へと挑んだ日々の記憶が、余りにも生々しく鮮やかに残っている。
夢や妄想ではない。アレは確かに『在った』ことだ。
そうでなければ、ポラリスに直接拝謁したもの以外にまで、変化の波及が及んでいるはずがない。
勿論、迫たちほどはっきりとした形で現れているわけではない。ともすれば見過ごしてしまいそうな、心がけ、態度と言ったもののごく僅かな変化に過ぎない。
だが、一般の局員たちもまた、無意識の奥底に、あの災厄の日々の、艱難辛苦がごく薄っすらとではあるが痕を残しているように思えるのだ。
彼らもまた、以前よりほんの少しだけマシに、生きることに真摯になったような気がする。
大河に一滴の水が落ちたところで流れは変わるまい。だが、それが幾千幾万幾億と、ひとの数だけ重なれば、あるいは。
もしかすると、世界は変わるのかもしれない。彼の望んだように、かつてより少しだけ良い世界に。
これは気の迷いであるのかもしれない。残された変化も、以前と同じ微温湯のような日常に流され、風化していき、意味をなくすのかもしれない。
それが解からぬから、今はまだ手放しに世界を美しいと肯定することなど、私にはできなかった。それでも、もう少しだけ、世界の行く末を見守っていても良いように思える。
どの道、この胸にある理想をかたちとするつもりならば、ポラリスが復元した世界を見限り、再度の粛清をなす機会を待たねばならないのだ。
それが私の生きている間に訪れるのか、あるいは子孫の代か──永劫に訪れぬのか。それは神ならぬ身には知りえぬことだ。
ならば、私は、ジプスの長として、"峰津院"として鎮護国家の責務を果たすのみである。
変わらぬ日々の中、他の者たちに大小の差はあれ変化が残ったように、私にとってもひとつだけ変ったことががある。
泥中の蓮、汚濁の中の宝石、地上の星。そう呼ぶべき尊いもの。
この国には、世界には彼がいる。そのことを私は知っている。覚えている。そのことは私にとってかすかな救いであり、幸いだった。
全くすべてが無価値ではない。守るに足るものが確かにあるのだ。それは少なくとも、ただ、ただこの世は無価値で腐りきっていると呪い続けるより幾らか健やかな心地で在れる。
元より、世界を守りつづけること、そのものに不満は全くない。人知れずとも、命を賭け、身を削り、守るべきものを守る。それこそが峰津院という家の役割であり、私自身の意義だ。
別れ際に彼は言っていた。
また敵対するのはごめんだと。私もだ。閉塞も苦悩も予想できていた。それでもあの瞬間は確かにそう願ったのだ。君がねがう世界が、私の望んだ世界よりもうつくしくあるならば良いと。君が裏切られ絶望する所など見たくないと思った。
隣で見ないかとも彼は言った。
私を敗り、野望を折り、だというのに、私の話を聞きたがり、私を誘い、手を取り、根拠も何もないのにきっと大丈夫だと絶望と諦念を笑い飛ばし、共に行こうと皆に道を示して、世界を変えた彼はここにはいない。
それでも今、私の前に広がる世界は、彼が見せたいと願ったもの。
ならば結末まで見届けよう。例えば君に二度と会うことが叶わなくとも。
彼が生きる、望んだ世界を、私は守りつづけよう。それが、恐らくは私の──
思案が途切れたのは車体が停止し、目的地についたと気づいたからだ。随分と考え事に耽溺していたらしい。
私は自分のこころが向かうべき場所を本当はもう解っている。いつまでも思い出に縋り付き、女々しく感傷に思索を巡らす、そのようなことでは彼に会う、会わない以前に顔向けができない。だから、こんな風に過ぎたことばかりを想うのは今夜で終わりにしよう。彼を想うこの気持ちは胸の奥に埋めて、ただ大切に抱いていられればそれでいい。そう、決めた。
──なのに。
ああ、だというのに。
車を降り、外に出た。送迎車が引き上げていき、私がひとりになり歩き出した瞬間だった。
「大和」
声が聞こえた。覚えのある、ありすぎる声だ。軽やかでよく通る、青年の声。あの日々の中、幾度も私の名を呼んだ、柔らかな響きが脳裏に蘇る。
思えば私の名前を気安く呼ぶものなど、彼に会うまで皆無だった。今もそうだ。私の周りに私の名を呼び捨てるものなどいない。
そのはずだ。なら、いま、私の名前を呼んだのは──
「大和!」
頭上から、もう一度、君の声がする。
これは夢か。
見上げたそらに、薄らぐらい世界の中に、君の双眸だけがあおく、透き通る。
闇夜を照らす、星のように。記憶の中のあの日々と何も変わらない。まぶしい青色。天色の瞳。
その輝きを、忘れよう筈もない。
彼だ。
私の唇もまた、気がつけば彼の名前を呼んでいた。
夜天に紛れるように滞空しているのは、彼が良く連れていた霊鳥。
幾らここが人気のない郊外とはいえ、誰かに目撃されたらどうするだとか。
どうして君が悪魔を連れているのだとか。
そもそも君は覚えているのか。
何故ここがわかったとか。
言いたいことは山ほどあって、だが、全て胸のうちから沸き上がる、形容しがたい感情の奔流に流されて、かたちにならない。
空から不意に舞い降りながら、
「会いに来た!」
晴れやかに笑って、そんな、真っ直ぐに言わないで欲しい。
空から私のもとに降りてくる君には微塵の迷いもなく。そんな風にされては、受け止める以外の選択肢がなくなるではないか。
まるで流星。流れ消えてしまうのではないかと、必死に手を伸ばして受け止めた。
腕の中には確かに、君のぬくもりと重みがある。疑問や叱責、言うべき言葉、悩みも決意も、今この瞬間、抱擁の中、 彼の存在を前にすれば、溶けて、消える。
小娘みたいに、愚かにも跳ねる鼓動の早さに、君がどうか気づかぬように!
***
天の座の試練に挑んだ八日間を超えて、俺たちの世界はやり直しを許された。
代償はあの試練の日々の記憶。身の回りで確認できた限り、大地も維緒も、あの日々の経験から得た成長が残っているのは確かだけれど、具体的な記憶は失われてしまったようだった。
そのことは哀しいし、寂しいけれど、それでも存在がすべて消えうせてしまうよりずっとマシだ。
これから先、世界がまた審判に曝される事がないように、俺たちは出来る事をしていかなければならないのだけれど。
それでもきっと大丈夫だってそう思える。無駄じゃなかったって信じる。だって、試練を乗り越えたあとの世界が、すべて元通り上書きされたわけじゃないって俺は知ってる。みんな、みんな変化に大小のの差異はあれ、生きることに少しだけ真面目になった気がするんだ。
そんな中で、俺自身は、記憶も存在も失わずに済んだ。それが叶ったのは幸運も確かにあるけれど、奇跡ばかりじゃなくて強い意志によるものだって俺は思っている。
ひとの意志が、神様の示した記述を越えて、新しい可能性を見出だすことができたように。強い強い願いは確かに世界を変えるちからになるんだ。
俺はどうしても会わなきゃいけない、忘れちゃいけない相手がいた。今もいる。
八日間を共に戦った仲間たちのなかで一番、俺から遠い世界に生きていた、あいつ。
なあ、大和。
あの時、あの全てが巻き戻る直前。
輝く星の渦の中、また敵対するのなんてお断りだと口にしたら、「私も今はそう願う」と言ってくれた。
お前にとって世界は、過ちと腐敗に満ち満ちているのだと聞いていたのに。
世界の復元、日常への回帰は、唯1人お前に限って言えば、全員に圧し掛かっていた記憶の喪失や消滅の恐怖とはまた別の、痛苦と閉塞を伴っていただろうに。
それでも、俺に免じて過去に立ち戻る世界の行く末を見守ると──大和はそれだけ、俺のことを信じてくれたのだ。
だから、俺は絶対にこいつのことを忘れるものかと心に決めた。
世界がかつての形を取り戻した時、大和に会いに行こうと思った。
無理でも無茶でもそうしたかった。俺は責任を取らなければならない。彼の願いを砕いて、自分の道に引き込んだ責任を。それだけじゃなく、俺は大和に逢いたかった。
隣で見ないかって口にした言葉は、その場限り誘い文句なんかじゃなくて、俺の本心だった。
彼がもっと楽に息ができるように何かしてやりたかった。
あの瞬間の選択を、信頼を、悔やまずに済むように。
何よりも確固たる意思が奇跡を招き寄せるのなら、と。
星の光の渦に流されてしまわないように強く強く、願ったんだ。
俺の願いは、足掻きは、どうやら無駄じゃなかったようだ。
結果として、俺の記憶はそのまま残った。経験を引き継いだからか──積み上げた日々で得た能力も。
何より驚いたのは、復元後も悪魔との契約が有効だったこと(アルコルがサービスしてくれたんだろうか?)。
でも、正直ただの学生が、歩く国家機密である大和に再会するのは、セプテントリオンやポラリスに打ち勝つのに近いレベルの試練と思っていたから、出来過ぎであってもなんでも、会いに行く術が、ちからが、俺にあるなら迷わなかった。
他の仲間のことも探してみたけれど、あの日々を覚えてる仲間は誰もいなくて(寂しいけど、かつてなかったはず縁が復元した世界でも不思議と繋がってたりして、そのことが救いだった)大和も俺のことを覚えているかはわからなかったから、もしもまた会えるなら忘れられない(あるいは思い出せそうな)出会いにしようと思った。
仲魔の力を借りて行方を追い、時間をかけて大和のスケジュールを探った。一人になった所を空から不意打ちするのが一番確実だと思ったから実行に移した。
捕まったり、反撃されるかも。不安は零じゃなかったけど、俺、分の悪い賭けに負けた事はないんだよ。
そして、俺は、
「会いたかった」
──賭けに、勝った。
俺の名前を呼んで、初めて見る、泣きだしそうな、子供みたいな顔で俺を受け止めてくれた大和を見て、もっと早く会いにくればよかったなって。それだけ少し、後悔して、それ以上に覚えていてくれたことが嬉しかった。
隣にいるよ。今度はお前の手を取るんだ。お前が俺のために諦めてくれた分を、俺はお前の隣で、俺の時間を、俺に才能や可能性があるというならそれも。お前のために使うことで少しでも返すから。
誰よりつよい意志で、これから一緒に見る世界はきっと、うつくしいものにできるって、信じてるんだ。
解かれそうになった縁の糸をも一度繋ぎ直して。今度は二度と解けない固結びにしてあげる。
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