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流した時より加筆修正しています。多分実力主義ED後。夢見がちなウサミミさんと局長の雰囲気小話。
若干閉鎖系主ヤマですが何時もどおりラブラブしてるだけとも言う…。
早朝から降り続く生憎の雨は止む気配を未だ見せず、激しく地上を叩く水滴の音は室内にも絶えず届きつづけていた。
「……雨、止まないな」
窓辺に立ち、雨脚に紛れてろくに利かない視界の向こうを見通すよう、青い瞳を外に向けて彼はポツリと呟く。
「今日の内はこの天候が続く。雨脚も弱まらん。外に出るのはやめておいたほうが懸命だろうな」
気象予報が随時大和の元に届けられているというのもあるが、それを踏まえずとも先を見通すようなはっきりした答えだった。
「うわ、テレビの天気予報なんかよりずっと当てになるわ。……そっか、今日はずっとこのままか」
世に流れる無色の概念を流れとして読み解き、龍脈を操る、古い一族の継嗣である大和にとっては天候の先読みくらいはお手の物である。
そのことを知っている彼はひとつ頷き、何が面白いのかまだ外を眺め続けていた。
「休日が潰れて不満か?」
「いや。こういうのも悪くない」
雨に濡れそぼつ窓から、こちらに視線を移して彼は笑う。
「だってなんだか、世界から切り離されたみたいだろ?」
縁起でもない事を口にしながらも、その声音は弾んで、楽しそうだ。
「他の音は聞こえなくて、ただ雨と、俺とお前の声だけ響いて世界に二人っきりみたいだ」
「……益体もない夢想だな」
「妄想でくらい、独り占めさせろよ。かなしいけど、お互い中々自分たちのことだけ考えていられないんだからさ」
苦笑いを浮かべて彼が紡ぐ言葉は事実だった。世界を望むままに作り変えた代価。不自由とまでは思わないが、今や投げ出せないものが大和と彼には多すぎる。
「フム。誰かを完全に手に入れるという思考自体、ありえぬ幻想だが」
星のような青と視線をかわし、透き通る銀瞳を静かに細めながら、大和は微かに口許を引き上げた。
「それでも、今この瞬間だけは、私は君の、君は私の、互いだけのものか。悪くはない」
幻想であるからこそ頷こう。雨音が編む、ひとときのゆめだ。
豪雨に閉ざされた世界に二人だけという、互いだけで満たされ、完結する、ゆめ。
「心は何時だってお前に預けてるけど。身体はそうはいかないもんな。こうして一緒に居るのだって、あわせて休み作らないと、長時間は難しい」
「別段四六時中一緒に居なければ崩れるほど、君と私の間に在るのはやわい縁でもあるまい」
「わかってる。無いもの強請りだよ。ただ、たまに無性に寂しくなるだけ」
「寂しさは埋めればいい。今は、互いだけのものなのだろう? 心も、身体も。ならば余計な考えは置いておけ。それよりも、」
傍に、と大和は視線で促せば、彼は目をひとつ瞬いたあと、嬉しそうに呼気を零した。
開いていた距離がすぐに詰められ。雨で少し下がった気温のなか、大和を抱き寄せてくる彼の手はあたたかい。
そのまま器用にポケットを探り、互いの携帯を留守番電話に繋いだ彼を、大和は咎めなかった。
世界は互いと涙滴の音を除けばあまりに静か過ぎて。
本当に二人ぼっちになったような、そんな錯覚が刹那だけ兆し──その時胸を満たした感情に安堵と幸福しかない愚かさを、大和は笑うことができなかった。
長い睫毛を伏せ、そのまま目を閉じる。余計な考えを置いておけと言ったのはどの口だったか。塞いだ視界のその向こうで、彼がひそやかに笑う気配がした。
「大和」
雨の音にも掻き消されずに通る彼の声。思索の海に沈みかけた大和の思考を、現実へと引き上げてくる。
名前を呼ばれるのは耳に心地よく、純粋に嬉しい。大和も答えて彼の名前を呼ぶ。己にとって無二である相手を。
もう一度名前が読んで返されて、腕に込められた力が少しだけ強くなる。今は余計な思案に煩わされるのは余りに無粋だ。
雨が全てを閉ざし、遠ざけて、ひとときの厚い帳になるならば、その裏で二人きり過ごすゆめを、逢瀬として楽しめばいい。
大和も静かに彼の背へと腕を回して返す。後はただ、雨音とひそやかな鼓動、息遣いだけが部屋を満たす全てになる。
──雨はまだ、止まない。
(叶うはずもないのに、止まないでどうか、と願うのは、互いだけの時間と言うのが泣きたいくらいにいとしくてせつなくて大事すぎるからだ)