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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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今さらですが、『おやすみライオン』の続きのような主→ヤマ話。
時間軸的には主ヤマを考える上で色々と盛りだくさんな五日目の、深夜。
色々多感なお年頃の主人公と気付かない局長の話。
ウサミミがぐすぐず悩んでるだけのような気もする。
あと一緒にお風呂に入る二人が書きたかったので…。主人公の名前は宇佐見北斗です。

最近じちょうしない甘い話が多かったので、こういう互いの距離を掴みかねている、探り探りな主ヤマは新鮮で楽しかったです。
そういえば初期は全部こういうかんじで、ものすごく清らかだった…。
吹っ切れたのは多分、エロを書いた辺りからかと…(顔を覆う)。
基本的に我が家のウサミミさんはすごくヤマトさんが好きですが、この話は片思いを自覚してるだけに顕著である。
風呂に入った局長が綺麗で色っぽいから他の人には見せたくない、って思ってしまった。
みたいなネタを入れたかったはずなのに、その当たりいれそびれたな…。
お風呂話はそういう意味ではまたリベンジしたいです。あとお風呂でごにょごにょもいつか…。

 

 今日も今日とて人生でこれ以上ないと思えるハードな一日だった。だが、明日には直ぐまた記録が更新されるだろう。
 深夜のジプス東京支局。ほかに人の気配のない深夜の共同浴場。肩まで湯につかりながら一日を振り返り、北斗は深めの息を吐く。溜め息は湯気に曇る室内に解けていった。 この災厄が起きてからというもの、就寝前の入浴は北斗にとって寛げる数少ない時間であり、考えを整理する場になっていた。 
 締め切られる前の最後の時間に北斗は此処を利用している。一番、誰かに会わずに済む時間だからだ。 思案に耽る顔は余り見せたいものではない。難しい顔をしているよりも前向きに笑っている顔の方が人に安心を与えると北斗は良く理解している。仲間の不安は煽りたくない。
 身体の疲れが湯に溶けていくと少しだけ気を抜いて思考することができる。そこで改めて思う。今日もまた異常に大変な日だったと。
 侵略者の脅威の熾烈さは無論のこと。加えて本日は夕刻に大和が皆に告げた真意が北斗の胸に──それは他の仲間達にとってもそうだろう──禍根を残していた。
 何時からか、大和が何かを画していることは感じていた。だからこそロナウドに協力し、大和の動きに探りを入れていたのだが。
「あいつ、ひとりで色々抱え込みすぎ、握りすぎ……」
 苦く溜め息のように独白が漏れでた。結局得ていた情報は断片に過ぎず、改めて語られた内容は北斗にとっても衝撃だった。
 皆の疑問に答えた大和が明かした真実。彼の目的と、災害の根源について。
(全ての元凶、ポラリス。それに世界の創造、か……)
 考えれば考えるほどに本来なら一介の学生に過ぎない北斗にとっては身に余る話題に思える。
 だが、思考の放棄は現状において何も生まない事は骨身に染みていた。
 絶対の救い主など何処にもいないのだから。その時々の最良を常に尽くさなければ、未来は見えない。掴めない。
 世界の問題はつきつめれば己の問題なのだ。他人事ではない。結局は自分の足で立って、自分の手で解決を探っていく他ない。
 苛烈窮る日々の中で、それを教えてくれたひとりのことを北斗は思う。
「……大和」
 自然と唇から彼の名前が零れ落ちる。脳裏に過ぎったのは、あの晩餐の場で『ゆっくり考えるがいいさ』と言うべきことを言った後、皆に背を向けて場を辞した後ろ姿だ。
 彼は何時もそうだ。隠し事が多かったりするくせに、なんだかんだで判断の材料はこちらに投げてくる。選択の最終的な所は此方の意思に任せてくれている。そうでなければ意味がないと思っているのかもしれない。大和は自ずから動く人間を好んでいるように思う。ただ言うままに従う人形ではなく、自分の意志を強く貫く人間を求めている気もする。
 大和自体、苛烈で強固な意志を持って、世界を変えようとしている。彼は、己の理想を皆に語った時、誰も従わなくとも一人ででも目的を遂げてみせると言い切った。実際、彼はそうするだろう。誰を敵に回しても、誰も己についてこなくとも──躊躇うまい。大和の、鋼にも似た眸に浮かぶのは、命すらもそこに賭け、理想に殉ずる覚悟の光だった。
 『有能すぎて全部独りで背負って立っちゃう王さま』。北斗がつい昨晩大和のことを評した言葉だが、一人で大体のことは出来てしまうから、全て抱えてしまう。誰かと分かち合うとか、甘えるとか、そういうことが許されない環境に生きてきたがゆえ、なのだろう。必要であれば、助勢を請うことも大和は惜しまないけれど、本当の意味で彼が北斗たちを頼ったり信じてくれているかは解からない。
 カーマの件で危険な札幌に行くことを心配だといっても、あまり取り合ってもらえなかった。思えば札幌の真実を隠していたのだから、北斗が大和に代わって北海道に行くことは了承してもらえるはずもなかったのだが。図らずも札幌の真実を知ってしまった北斗だが、その事を責めるつもりも、吹聴するつもりもない。札幌が犠牲になることを予め知っていたなら、仲間内で紛糾しただろうことは簡単に想像できる。それでも結局、他の都市から距離的に離れている札幌以外にアリオトを落とす場所は選べなかっただろうことも。大和は単に無用な厄介ごとを避けただけなのかもしれないが、おかげで大地や維緒、協力者たちの多くは札幌の人間を犠牲にしたという不可避の重圧を背負わずに済んでいる。それならばそれでいいのだと思う。知らずにいられることは幸福だろう。犠牲を背負うなどと耳障りの良いことを言うつもりはないが、それでも自分たちは生きていくしかないのだ。
 大の為なら小を切り捨てる。その必要性を、北斗もこの数日の間におぼろげながら理解しつつある。できるならば取りこぼすものは少なくありたいと思うが、大事なひとたちや先の事を考えれば──結局はその"自分にとって大切なもの"を選ぶだろう。決断と言うのは何時だって重い。選ぶと言う事は選ばなかった可能性を捨てると言う事だ。その重みを理解してしまえば堪えられない事もある。自分たちはまだいい。民間協力者である──という逃げ道がある。許されている。 だが、大和はそうではない。望んで今の位置にあるのだとしても、組織のトップである彼は選択の責任を常に背負い続けている。その負担を、孤独を、思う。彼はきっと俯いたり振り返ることをせず、己の道を邁進し続けるのだろう、けれど。
(助けになりたい、とか傲慢。エゴだよな……これ)
 十七歳という、北斗よりひとつ下の年齢にありながら、既に指導者としての落ち着きや覇気、強さを身につけている大和。下手をすればずっと年上のように思えることもある振る舞いや言動が彼の常である。
 なのに、偶にそれだけでない部分が覗くから、北斗は彼を見ていると堪らなくなる。放っておけなくなる。
 日を追うに従って、大和は少しずつ素のなのだと思えるところを見せてくれるようになった。
 大和が北斗の実力を認めてくれているのは確かで──その為か何かと好意的にこちらを見てくるとか。
 時折、俗なことが通じなくて天然だとしか思えないような反応が返ってくるだとか。
 市井を視察する目は鋭かったのに、なんだかんだで勧めたタコ焼きを食べて気に入ったりしたところだとか。
 昨晩の、無防備さを北斗に許してくれた姿。抱き上げた身体は、負う重責や立場からすれば華奢に思えた。
 何気なく交わした会話。触れられるだけで安心することを不思議そうにしていた。
 名前を呼ぶ声。やわらかく笑った顔。あどけない寝顔。きっと自覚なんてしていなかっただろうけれど、引き止めるみたいに北斗の服に縋った指の細さ。
(……あ、まずい)
 思い返すだけで節操なく跳ねた心臓を落ち着けるように、北斗は深めの深呼吸をしてから、両頬を軽く叩く。
(思考逸れすぎだろ。うん、大和のこと、絶対に公平に評価できてない。なんで"すき"って自覚しちゃったのかな、俺……)
 大和の部屋に泊まり、話して、側で色々考えた結果──友情の範疇を越える感情を彼に抱いていることを理解してしまい、眠れぬ朝を迎えてしまった北斗である。
 自然と肩入れした考え方をしてしまっている気がする。さりとて、この感情を封印したり捨て去りたいとは思えないのだから始末に負えない。個人的な感情は横に置いて考えなければとも思うのに。
 これから先、戦いが進めば北斗たちはそれぞれ人類の行く末をどうしたいのか、選ぶ必要に迫られるだろう。大和に賛同する道であれ、他の道を探すのであれ。ただ目の前に訪れる試練をどうにかしてその日を生き延びることに集中していられた昨日までとは違う。勿論、セプテントリオンを退けなければその時点で詰みな訳だが、更に先のことも考える必要がある。
 世界をどうしたいのか。正直、ここまでボロボロになってしまった世界でそのまま生きていくことは、果てしなく難しいことのように思える。あちらの基準、理屈で"最後の審判"を勝手に始めてくれた管理者に対して思う所がないかといえば嘘になるが──それでも全能とまで言われる力を借りて世界をどうにかできるならば、それに越したことはないだろう。
(他のやり方も考えられなくはない気はするけど、ちょっとそれはまだ、材料が足りない)
 思案気に目を伏せつつ、今在る情報を元に、未来の事を考える。他の皆もそれぞれにこの先の事と向かい合っているだろう。こうして選択肢が見えるだけ北斗たちは幸運なのだ。今こうして北斗が頭を悩ませている間も、多くの人々は世界を襲う災厄の元凶も知らず、何時終わるとも知れない苦難に怯えて、あるいは秩序の崩壊や先行きへの不安から無軌道に暴走して過ごしているのだろうから。
 こうして世界の現状を知り、考えることができるのは渦中に飛び込み戦い続けてきたがゆえのことだが、だからこそ良く考えるべきなのだろう。
 自分の望む世界の行く末を考えるに当たって、自分がある程度順応性が高い人間であることを、北斗は把握している。心労が全くないといえば嘘になるが、この危機的な状況、異常にも数日で随分慣れてきた。世界がどんな形になるのであれ、滅んでいないのならば──自分は何だかんだで適応して生きていくだろうと思う。そんな確信がある。もちろん運が悪ければあっさり死ぬだろうが、それはどんな世界でも同じことである。
 つまり、北斗には、これだと望む世界の形、というものはあまりない。ただ、身の回りの人が、手の届く範囲の大切な人たちが、悲しんだり苦しい世界でなければいいな、とは思う。だから、そう。大和が心から世界を変えたいと思うなら、それを助けるのもありではないかと、思いもするのだ。
 好きだから力になりたい。同じ道を選ぶ。人間としては間違っていない。ひとつの判断基準だ。だが本当にそれでいいのか、と北斗の中でストップがかかるのも確かである。一時の感情で選んでしまって後悔しないのか。それを考え出すと思考が纏まらない。
 思想そのものに思いを馳せる。大和が掲げる理想。実力が正当に評価される世界。それはつまり、彼にとって今までの世界は生き辛く、不本意な扱いを受ける場所であったということなのではないか。
 出る杭は打たれる。過ぎたるは及ばざるが如し。そのことは北斗も理解している。才能や能力があっても、周囲との不和の種にしかならないなら、しあわせに生きられるとは限らない。もしそうでなくなるなら。北斗にも、大和の告げた理想に共感するところがないかといえば嘘になる。実力に相応しい扱いが与えられる世界と言うのは、言い換えれば努力が報われる世界だと言う事だ。勿論、弱さが罪になる世界でもある。必ずしも良い面ばかりではないだろうが。
(全く欠点のない世界は、ありえないだろうしな……)
 北斗は大和ともっと話がしたいと思った。もっと心の内を、彼の願いを詳しく聞きたいと、そう思う。万人向けの演説ではなく、どうして望むに至ったか、どうしたいのかを改めて聞きたかった。時間はきっと幾らも残されていなことなんて、解かっているけれど。他の皆ともよく話してみるべきだとも思う。自分の考えだけではどうしたって視野が狭くなる。
 結局、明確な回答は見えないまま先送りになりそうだと、情けなくもそこまで考えた辺りで、北斗は脱衣所のほうから人の気配を感じた。随分長く浸かっていた気がするから、利用時間としてはギリギリだろう。こんな時間に誰かが来るとは思って居なかった。北斗はゆっくり青い目を瞬く。
(誰だろ。俺みたいに考え事して、眠れなくって気分転換とか……かな?)
 それなら少し話してみるのもいいかもしれないと、湯に浸かったままやってきた誰かを待ってみることにした。

 からりと浴場の入り口扉が開かれて、
「ああ、先客は矢張り君か。脱衣場に残っていた服で予想はついたが」
 涼やかな声が浴場内に響く。やってきた相手が意外すぎて、北斗の思考は一瞬完全にフリーズしてしまった。直ぐに硬直からは回復したが、思わずまじまじと相手を見つめてしまう。
「……え? は!? え、なんで大和……え?」
 湯あたりして倒れて夢でも見ているんだろうか。それ位に、この場所にいるのがそぐわない。だが間違いなくそこにいるのは、絶賛北斗を悩ませる原因である所の、峰津院大和その人だった。
「何をそんなに慌てている。まだ利用時間内だ。私がジプスの共同浴場を使ったとて問題はなかろう」
 何時ものように胸の辺りで腕を組み、特徴的な銀の瞳で北斗を見た後、大和は何事もなかったように洗い場の方に足を運んでいった。言われたことは正論なのだが、北斗の思考はまだついていかない。ゆっくり現状を咀嚼して、漸く言葉を返すことが出来た。怪訝そうにされたが、本当に驚いたのだから勘弁して欲しい。
「確かに問題はないけど吃驚したから……大和は共同浴場は使ったことないって言ってなかったっけ?」
「その通りだ。だが、君が昨晩言っていたことが気になってな。『広々手足が伸ばせて気持ち良いし。部屋シャワーより疲れもとれるんじゃないかな』と」
 洗い場の椅子に腰を降ろした大和に、おそらくは北斗が言ったのだろう言葉をそのままそらんじられて、そこで漸く思い返す。言われて見ればそんなことを言った気がする。斯様に北斗にとっては何気なく言ったつもりのことであったのだが、大和にとっては違ったようだ。確りと覚えていて、こうして北斗の言った事を確かめようとしてくれている。なんだか、こそばゆく嬉しくもあった。
「……それで、わざわざ?」
「別段このためだけという訳でもない。丁度東京支局に用件があったからな。折角だから君が普段使っている場所を、利用してみようと思った」
「忙しそうなのに。平気なのか?」
「問題ない。それに、これも君が教えてくれたことだぞ。……休養は大切だと。睡眠は矢張り不必要に削るべきではないな。おかげで今日は能率よく仕事を進められた」
「あー、うん。……そいつはよかった」
 晴れやかな声で告げられて、逆に寝付けなかった北斗としては苦笑いになる。そうこうしている内に、手早く身体を洗い終えたらしい大和が、湯船に入ってきた。わざわざ距離を開けるのも変な話なので、隣に座る。北斗に言われたことを実践しているのか、大和は広い浴槽の中で手や足を伸ばして寛いでいる様子だった。なんだか微笑ましくもなる。
 自然と表情を和らげつつ、そう言えば言っていなかったことがあると思い出して、北斗は大和の方を見て口を開いた。
「そうだ、大和。言っておきたいことがあったんだ。お疲れちゃん」
「どうした、急に? 何の話だ」
 不思議そうに軽く首を傾けた大和の反応は予想通りだった。
「いや、色々あって、『お帰り』とか『お疲れ様』って言いそびれてたなって。札幌まで大和も出張してたわけだし」
「セプテントリオンのコアをその手で叩いた君たちほどではないさ」
「……ん、でも無事でよかったよ。おかえり。結構、心配した」
 憂う者がターミナルの中継器を壊すことで、札幌に行った大和をそのまま孤立させて殺すつもりだったと聞いたとき、北斗は心臓が止まるかと思った。乙女の死に顔動画を、北斗以外には差し止めてまで実行しようとしていたことからも、憂う者の本気振りが窺えて恐ろしかった。理由を聞けば同意は出来ないが、納得いかないこともなかった。それでも、まだ手を出す可能性を残してくれただけ、彼は公平だったのだろう。
「アリオトの落下範囲、速度はある程度想定できていた。であれば退避に手間取らなければ問題はない。信用できなかったのか?」
「大和のことは信頼してる。これは、別問題だよ。危ない可能性がゼロじゃなかったら気になるし、無事だったら嬉しい。感情の問題」
「君は情が深い男だな。ここは、礼を言っておくべき所なのだろうか」
「別に俺が勝手に思っただけだから、気にすることじゃないよ」
 お前がこうやって生きててくれてよかった。大げさになりそうだから、そこまで明確に口にはしなかったが、それは北斗の心からの気持ちだった。
 憂う者からすれば、ポラリスの情報をぎりぎりまで隠し続けた大和は、己の望むように世界を変えようとする、人類の可能性を狭める存在なのかもしれない。
 それでも、大和は大和なりに世界や人のことを考えていて、より良くしようとしている。人類いう種を守るために心身を削っていると北斗は思う。そういう難しいことは抜きにしても、死んでほしいはずがなかった。北斗は彼のことを気に入っている。好ましく思っている。守りたい──助けになりたいと思うのだ。言葉には、できなかったけれど。
 北斗のあくまでなにでもないことのように通そうとする態度に対し、大和は微かに目を細め、かぶりを振った。 
「いや、やはり礼を言っておこう。気遣いばかりではない。札幌に赴いていた間、君の行動で柳谷だけでなく私も救われたようだからな。北斗。ターミナル中継器の件、感謝するぞ」
 口の端を持ち上げた大和の笑みは不敵なものだったが、声音には確かに感謝が覗いていた。同時に、その物言いは憂う者の介入を察していたように思える。
「! 大和、気付いてたのか?」
「アレが仕掛けてくるとしたら、ここしかあるまいとは思っていた。あの男は直接此方に手出しは出来ん。ゆえに、間接的な殺害手段を取るだろうことは察していたさ。一種、賭けだった。──どうやら天意は私に味方してくれたようだがな。君と言う、人間の形を取って」
 間近で見詰めてくるしろがねの双眸にドキリとする。そんな北斗の内心になど気付かぬように、視線は外れ、大和はゆっくり肩をそびやかせた。
「あるいは、君が私とは別の道を選ぶつもりならば、あの男に協力しておいた方がよかったのかもしれんがな」
「馬鹿なこというなよ! 仮令そうするんだとしても、正々堂々、互いの言い分を賭けて真っ向から戦う。騙し撃ちみたいなのは、あんまり好きじゃないんだ」
 もしもの話でも聞き捨てならず即座に否定した北斗に、大和は少しだけ目を丸くしたが、直ぐに機嫌のよいものへと表情を変えた。
「ハハ、言うではないか。だが、その気概は好ましいな。益々欲しくなった──というのは、独り言だ。今は、返答は聞かん」
 そのまま誘いに繋がるかに思えた言葉の流れは、大和本人が断ち切った。晩餐の後、暴徒を鎮圧した後の発言や、送られてきたメールからして、もう一押し二押しあるかとも思ったので、少し意外で北斗は彼の顔を思わず覗きこむ。
「大和、あのさ。今は俺のこと、勧誘しないの」
「疲れと垢を落とすべきここで、そういった話をして欲しいのか? 私は言ったぞ。ゆっくり考えるがいいと。焦らせて答えを引き出すつもりはない。君が君の意思で、納得いくように選ばなければ意味がない話だ」
「……そっか」
 やはり意思を尊重してくれる姿勢には嬉しくなる。従わなければ遠慮なく排除すると言いだしそうな大和だけれど、選ぶ自由だけは残していてくれるのだ。
「そうだ。それに君を口説くならばもっと相応の場所を誂えるさ」
 大和が何気なく言った、口説く、という単語に反応して、思わず立ち上がりかけてしまった。どうにか自制したが、好意を少なからず抱いている人間からすると、刺激の強い言葉だ。
 それに当たり前だが風呂場の中であり、互いに身体を隠すものはない。湯船に浸かる段階で、タオルすら取り去ってしまった。湯煙である程度視覚が制限されているといっても、これだけ距離が近ければ意識せざるをえない。それまでは他の話題で意識を埋めていたために考えずに済んでいたが、一度状況を意識してしまうと色々まずい気がする。
 北斗は慌てて視線をそらそうとしたが、結局大和から反らせなくなってしまった。水気を含んだ、肩にかかるやや長めの銀糸が纏め上げられて、後れ毛のかかる白い項が艶っぽい。湯に浸かって仄かに上気した肌は普段より血色がよく、首から肩にかけてのほっそりとしたラインも明らかで、同性であっても見惚れてしまいそうなくらいに、とても綺麗だ。
 前後の流れからして大和に他意がないことなど頭ではわかっているのに、短絡的に鼓動を高鳴らせてしまう自分の思春期ぶりに北斗は自己嫌悪したくなる。真面目な話をしていたというのに。
「……っ、おま、口説くとか、その綺麗な顔でさらっと言うなよ。俺が女の子だったら思わずときめいちゃうだろ」
 深めに湯に沈んで、視線をどうにかもぎはなす。紅くなりそうな顔には気付かれないように祈るしかなかった。北斗は必死に素数を脳内で数えつつ、軽口で自分を誤魔化そうとした。
「現実として君はまごうことなき男性であり、口説くという単語には別段異性を誑かすという意味だけでなく、此方の意向に沿ってくれるように頼み込む、説明するという意味もあるのだから、日本語の用法としても間違っていないつもりだが? しかし、そうか。君が女子で、私がそういう意味で口説いたなら、そう悪くない反応が返るのか」
 正論で返しつつ、北斗の物言いに軽く咽喉を鳴らして大和は笑う。妙な事を考えたとは思われずに済んだようだ。それにしてもからかうような言い回しに北斗は少し眉を下げる。不快というよりはすねたような表情だった。
「大和、昨日から偶にちょっと意地が悪くないか」
「だとすれば、それは少なからず君の影響だろう」 
「遠まわしに俺の性格が悪いって言ってますか、それは」
「いや、私なりに空気を紛らわそうと思ったのだが。君に倣ってのことだ。……私が来るまで思案していたのではないか。随分と長く湯に浸かっていたようだしな」
 北斗は僅かに言葉をなくした。大和の観察眼を嘗めていた。顔色からここにいた時間を察するくらいお手の物なのだろう。
 改めて表情を見るように視線が向けられて、気恥ずかしくなる。大和には珍しいことに、北斗に気を回してくれていたらしい。どうか不埒なこの思いだけは見透かしてくれないようにと願う。その祈願は届いたようで、大和は別段北斗の挙動を咎める事無く、言葉を続けてくる。
「煮詰まった頭で結論を出されて、後悔されては堪ったものではない。どうだ、私との会話は、多少は息抜きになったか?」
「少なくとも気分転換には充分だったよ。……ありがとう」
 申し訳ないような、ありがたいような、複雑な感情が胸に兆す。うれしいことだけは確かだったから、気負いなく笑うことは出来た。実際、ぐるぐると蟠っていた思考は、話している内に多少風通しがよくなったように思う。どんな道を選ぶにしろ、大和に対して嘘のないようにしたいと、そう思えた。あとは悔いのないように答えを選ぶだけだ。
 早くなっていた心臓の音もどうにか収まってきた。だが流石に長湯しすぎたように思う。なのに上がりたくないのは、名残惜しいからで、北斗がもう少しだけ大和と一緒にいたいからだ。
「あのさ、大和はこの後って本局に帰るの?」
 少し考えて、北斗は駄目でもともとのつもりで声をかけてみることにする。
「いや、流石に夜も遅い。支局の部屋を使うつもりだ」
「なら、……今日は、俺のところ来ないか? といっても、元々大和たちに用意してもらった部屋で一人部屋だけど」
「……意外だな」
「なんでさ。……駄目?」
 北斗の誘いに大和は想定もしていなかった、という顔を見せた。昨日、大和の部屋に北斗は泊めてもらったから、そこまで突飛な誘いでもなかったと思うのだけれど。
「駄目という訳ではない。だが、君は昨晩余り眠れなかったのだろう? 他人との共寝は落ち着かなかったのではないかと……だから君から私を誘うとは思わなかった」
「あれは、あの後色々考え事しちゃったからであって、大和がどうって訳じゃない」
 大和からの返事で納得がいった。確かに事情を知らなければ、朝の北斗の様子は勘違いされても仕方ないことだった。だから首を横に振って慌てて否定する。
「お前が嫌じゃなければ、……俺はもうちょっと、大和と話がしたいんだけど。昨日みたいに取り留めない話を」
 北斗の声が語尾に近づくにつれて幾らか小さくなったのは、情勢を思えば余りに暢気な誘いであるようにも思えたからだ。無駄なことをと一笑に付されてもおかしくないようなことを言っている自覚はある。
「酔狂だな君も。否、器が大きいと言うべきか」
 だが、大和から返って来た声は思いのほか優しかった。少し項垂れかけた視線を急いで上げると、どこか柔らかい銀水晶と視線がかちあう。
「早朝には引き上げる。……それでも良いならば、少し君に付き合おう」
 微笑んだ、大和の表情を映したとき、思わず抱きしめたくなってしまって、北斗は必死で自制した。
「充分だ。じゃあ、先に行って、枕とか用意してくる! 大和はゆっくり来ていいからな」
 色よい返事に北斗は勢い込んで風呂を出た。そのまま、脱衣場の方へと急いで出て行く。

 先程までの話からするに、大和は何れ、思想について語る然るべき場を設けるつもりのようだ。だから、今夜は大和本人のことを知るのに終始したいと思った。
 選ぶ道筋次第では、明日やその先には、一緒に居られないかもしれない。だからこそ、他愛ない話を重ね、ささやかな思い出を作りたかった。
 この、胸の中に息づく想いが、報われるとか。通じるとか。そんな都合の良い夢を見たりはしない。ただ、
(大和。俺はお前と一緒に居たいって、望んでもいいのかな)
 自分は彼のために、何をしてやれるだろう。何ができるだろう。時間は余りない。ただ道だけはいくつもある気がする。
 選ぶべきは大和が掲げる理想の世界であるのか。それとも別の、まだ見えない世界であるかは解からなかったけれど。
 どんな世界に行き着くのであれ、できるならどうか。自分と触れ合って少しずつ変わってきているようにも思う大和が、しあわせだと思えるような、笑うことのできるような、そんな未来があればいいと北斗は願った。

 正しい答えなど見えない世界────それでも選択の週末は直ぐそこまで迫っている。

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