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なので、ダイチルートでの局長等を省みるとすこし違うかもなというところも在りつつ、そのまま掲載。
若干の変化は在れど、今考えても我が家のウサミミはスタンス的にこれと余り変わっていない気もする。
恋した相手のためなら世界捧げるとか余裕過ぎて困る。テビサバ1の時も従兄のために魔王になったってばよ。
北斗が大和の理想を新しい世界の在り様として選ぶと決めた瞬間。彼はとても嬉しそうだった。
ほかを選ぶなんて思っていなかったようだけれど、それでも現実になればやはり嬉しかったと見える。
(初めてのともだちにはしゃいでるこどもみたいだ)
共に道を歩むと決めた相手の、色素の薄い横顔を隣で見ながら、北斗はそんな感想を抱く。
雛鳥が始めてみた相手を親だと思い込むように。
大和にとって自分は多分、はじめて同列だと、共に在るに足ると思えた相手なのだろう。
だから、盲目的に信じられてしまっている。
否、実際子供か。
少なくとも年齢だけ上げれば大和は北斗よりひとつ年下だ。
その年齢からすれば信じられないほどに多くの知識と経験を蓄えているのだろう頭脳には、けれど親密な対人経験と言うものが圧倒的に足りないように思う。
どこか歪でアンバランスだ。完成されているのに、色々なものが足りていない。
人がどう感じるのか。何を想い、動くのか。
ひとが理によってのみ動くばかりでないことを、情を考えない、慮れないのは──単にひとと触れ合うような、心を揺らすような経験が足りなかったからではないか。
(学校にもいってなかったようだし)
もっとも単純に対人経験を積み上げられるだろう同年代と仲良くする機会など、ついぞ大和には巡らなかったのだろう。
だからきっと、実感がない。隣にいる誰かの心を計算以上に想像しえない。
駒として、データとしてしか人を扱えない。扱わない。
大事なものが、欠けている。
(家族とかいなかったのだろうか)
大和が特別な家の生まれだというのは知っている。
けれど考えてみれば不思議な話だ。どうして未成年の彼が政府機関のひとつのトップなのか。
実力で勝ち取ったということも大いに考えられるけれど、それにしたって血縁の影が大和の周囲になさ過ぎる。
親はいないのだろうか。それとも疎遠なだけだろうか。
思えば知らないことの方が多い。
当たり前だ。北斗と大和は出会ってまだ一週間も経たない。
あまりにも印象深い出来事が多く、この数日は濃厚な時間が流れていたから、信じがたいけれど。
その中でプライベートな話なんてする時間もなかったし、そもそも必要でないことは話さない人間だ。
(隠し事、ものすごく多かったしな)
思い出して苦笑する。一体幾つ隠し事があっただろうか。
そのどれも未だ必要ないから言わなかった。信用されていなかった、といえばそれまでだが。
大和は、ずっと彼の治める組織──ジプスで働いていた人間にすら、殆ど本心を明かさぬまま歩み続けてきたような人間だ。
やはり誰かに大事なことを預ける、託すということなどしない──あるいは知らない、できない人間なのだろう。
本当に大事なことは全て自分で何とかするしかない。
それはどんな過酷な世界だろうか。
大和の目に映る世界は北斗が知るそれよりもずっと、厳しく醜く映っているような気もする。
だって、ずっとひとりぼっちだったのだ。
周りに誰がいても、誰にも頼れなかったのなら。
それはまったくの孤独と何一つ変わらない。
本人に自覚のないことが余計にひどい。
(かわいそうに)
北斗がそう思っていることを知られたら、大和はきっと不快を示すのだろうけど。
この、どこまでも有能なくせに、こころはまだまだ未熟な暴君に、もっとひとがましい幸せを教えてやりたい。
ひとりで世界と相対するような、その孤独な背中を、傍で、支えてやりたい。
そう思ったから、北斗は他の誰でもなく、大和の手を取ったのだ。
実力主義は行き過ぎれば秩序の崩壊に他ならないが、切磋琢磨を悪いことだとは思わない。
平等の果ての停滞よりも、人はより良くなれるはずだと、その可能性に賭けた。
実力が正当に評価され、誰もが自然と上を目指して努力して、その上で互いを尊重できるなら。そんな世界は悪くない。
温いと大和は笑うだろうし、北斗が望むものはきっと、大和が目指しているものとはズレがある気もするけれど。
世界をほんとうに良くするつもりなら、まず傍らから変えなければならないだろう。
大和はきっと上に立つだろうから、その心持ちを多少なりと変えられるなら、影響は大きいはずだ。
(どうやら一応、彼は俺を同列と認めて、話を聞いてくれるつもりはあるようだし)
どうしてこんなにも大和に信頼されているのかは、北斗にはいまいち図りかねるのだけれど。
気づけばなんだかものすごく過剰に評価されてしまっていた。
北斗からしてみれば──それはやはり刷り込みに近い気がする。
大和にとって北斗と言う存在は予想外で、それが興味深くて。
周りが余程頼れない相手ばかりだったのかもしれない。
なんにしろ初めてだった、というのがアドバンテージになっている。
だから自分のことをこんなに気にかけているのだろうと北斗は思う。
この数日間は目の前のするべきことをひとつひとつ、片付けただけ。
手の届く範囲の人間に死んで欲しくなかった。北斗に取っては当たり前のことをしてきた。ただ、それだけだったのだけれど。
大和の眼には自分がどう映っているのか。北斗は偶に少し不安になる。
彼は、北斗に実像とかけ離れた偶像を見ているんじゃないだろうか、と。
おおよそ大抵のことは肯定的に取られてしまうから、北斗としてもなんだか申し訳ない気がしてくる。
(……それも今まで友達や親密な相手がいなかったからなんだろうな)
そう考えると、どうしたってかわいそうだと北斗は思う。
周りにはこんなにもひとがいるのに。
星の数ほどひとがいても、そこに価値のある存在が殆どいないように見えるのだとしたらかなしい。
(俺は彼にとっては光るものなのだろうか。だから、こんなに慕ってくれるのか)
北斗は別に大和を騙すつもりも裏切るつもりもないけれど。心配だ。
(俺がもし別離を選んでいたらどうするつもりだったんだろう?)
それはいくつかの選択肢があった昨晩の始めに北斗が考えて、とても嫌な予感がしたから切り捨てた考えだった。
(だって、あまりにも当たり前に大和は俺が自分と共に歩むのだと信じていたから)
ああ、これはもう放っておけないなと北斗は思った。思ってしまった。
幼馴染も、少し気になっていた女の子とも分かれる道だとわかっていた。
他にも俺に期待してくれているひとたちがいるのもわかっていたけど、選べなかった。
否、選らばなかった。
(もう言葉を繕うのはやめよう)
余りにも傲慢で尊大。どうでもいいものには本当に冷たくて、無関心で、そもそも会って数日しか経っていない相手なのに。
(俺なんかのこと、おかしい位に信じて、好意的に受け取って、自分の理想の為ならどこまでも真っ直ぐすぎるくらいに進んでいく、その狭窄と紙一重の純粋さがいとおしいと思ってしまったんだ)
頭が良くて知識も人並みはずれているくせに、普通なら当たり前のことを知らなかったりする大和の危うさが、ただ、気にかかって──好きで、助けたいのだいうその気持ちが、一番深い所にある選択の理由だと知られたら幻滅されそうだから、それは北斗の胸中にだけ秘められているべきことだ。
(隠し事はあちらの十八番だったことだし、これくらいの秘密は許されるだろう)
大和の理想を、北斗が悪くないと思ったのも事実だ。
長いことじっと見つめていたら、流石に大和の方から、「どうした?」と聞かれてしまった。
「──お前のことを考えていただけだよ」
答えて北斗は笑う。どうしてか、今はわからなくていい。だから、必要以上のことは言わない。
(足りないところは全部俺が補おう)
天座の主に届くなら、世界を新たに築くなら、それこそ、時間は幾らもできるだろうから。
戦いの後、ひとつひとつ、大和に知ってもらえばいい。
世界の終わりに巻き込まれた不幸を嘆くよりも、傍らにある相手を選ぶことの出来た幸福を北斗は想う。
信じられる、頼られることの喜びを、何時か彼にも伝えられたらいい。
そうして世界を、視野を広げることは、何時か彼と自分に別離をもたらすのかも、しれなかったけれど。
(それでも、新しい世界を大和が望むなら。俺は唯、その思いを叶えるだけだ)
七つの星を地に落とし、他の理想を閉ざして、北斗は天の頂への道を拓くだろう。
さあ、おしまいに抗おう。砂時計をひっくり返す為に。
この恋に、もう暫しの時間が許されるように。
愛に時間を!