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ウサミミさんが怪我して意識不明になったけど、本人の希望でだいぶ時間が経ってから真琴さんに伝えられた局長が、見舞うかどうか迷って最終的にウサミミさんの顔を見に行くという友人が書いてくれた話にもえたので書いた主ヤマ。というか主→←ヤマのような。大和さんがぐるぐるしててウサミミは大和さんに甘い感じ。割と何時もどおりですね!
ついでにウサミミに子守唄を歌う局長という妄想を具現してみた。
神事とかで楽器なんかを使いそうなので、英才教育の中には音楽関係も含まれるかなー、きっとこえ綺麗だろうなーという妄想。
局長がうたうのは儀式とか特別なときとか、ウサミミの前でだけだといい。
龍脈を鎮めたりコントロールするときにうたう局長とかいいんじゃないかな! 龍脈の光を身にまとわせて、此岸と彼岸、現世と異界をつなぐ歌を歌う、神子局長とかアリじゃないです?
アルトネリコとかああいうかんじでひとつ。男子だけど。
訪れた医務室は耳が痛くなる程静かだった。
彼はまだ意識が戻っていないが、峠は超えたと聞いている。
足音と気配を殺し、彼の元へと歩み寄った。起きて欲しいという思いと、傷ついた彼をまだ起こしたくないという思いが複雑に絡まりあって私の胸をしめる。
眠る彼の顔は月明かりに照らされて青白い。血色の失せたその面に、彼の傷の深さを思い起こす。
臓腑が零れる程深い傷だったと聞いていた。助かったのは彼自身の生命力と現場での適切な対応、そして運の良さがあったからにすぎない。
ベッドの脇に膝をつき、息遣いを確かめる。細く静かに息をしている。手袋を外して手をそっと伸ばし、直に触れる。
耳下に指を当てれば、とくりとくりと彼が生きている感触がした。
わからない。この感覚はなんだ。
死んだならば彼がそれまでの人間だったという事で、生きているならば問題はない。
その事実があれば良い。失態については改善をしていかなければならないだろうが、それは彼が目覚めてからで良い筈だ。
どうして私はこんな無駄をしているのか。
夜中に彼の元を訪れて、わざわざ解っている事を、彼が生きている事を確かめて。
彼の鼓動に、呼吸に、安堵しながら、目の奥が熱を持つような、堪え難い気持ちになっている。
失われれば取り返しのつかない実力者であるからなのか? それは確かだが、だからといって。
ともすれば簡単に首を手折れそうな弱った姿を無防備に曝す彼を見下ろして、私は己の中に蟠る不可解さに眉を寄せる。
自己制御や把握ができぬなどあるまじき事だというのに。
「……、……」
気づけば私は彼の名前を呼んでいた。
深閑とした室内に私の声はやけに頼りなく響く。まるで寄る辺をなくした子供のようではないか。
私は彼に依っているのか?
だとすればそれは許されない脆さ、弱さだ。
彼が私を弱くする。そんな可能性は今まで考えた事もなかった。
もしかして彼は私の心の乱れを予測して、業務終了まで事実を伏せさせたのか。
連絡を停滞させるなど組織の運営上問題だろうに、迫に守秘させたのは、彼が私の弱さを見抜いていたからか。
だとしたら、私は。
「そんな、泣きそうな顔するなよ」
無意識に強く彼に触れるのと反対の手を握りこんでいた私を、思考の海から現実に引き戻したのは、掠れて響く彼の声だった。
弱ってなお輝きを失わない、あおい星のような瞳が開いてこちらを見ている。
「……っ」
意識が戻ったのか。それは喜ばしい事であるのに、今の私は彼に合わせる顔がない。取り繕ってしまえばよかろうに、動けない。
「大丈夫だから」
彼の掌が伸ばしたままだった私の手に重ねられる。何時もより体温が低い。まだ力が入らないだろうに私の手を彼は包み込む。
「またどうせ一人で悩んで思い詰めてるんだろ。そういう顔してた」
ぎこちなく苦笑して見透かすあおい瞳に返す言葉がない。「お前の考えてる事当ててやろうか」
「俺が怪我して自分がショック受けてることに驚いてる。来る必要がないのになんで来てしまったんだとか、これは弱さだとか考えてるんだろ?」
「…君は覚か何かなのか」
余りに的確に私を見抜く彼は弱ってなお恐ろしい男だった。
「そりゃお前の事よく見てるからだよ。多分ジプスの誰より。だから解る」
「なら呆れているだろう。君の予測通りに取り乱した私に」
「…いや。それが嬉しいっていったら、大和こそ俺に呆れるんじゃない?」
「解らない。そこで何故嬉しいと思う?」
「心配してくれたら申し訳ないけど嬉しいよ。俺をなくしたくないって思ってくれたんだろ。死んだら嫌だって思ってくれたんだろ」
私は何もいえなかった。否定できない。彼の告げる言葉は、私の内面を確かに暴くひとつの真実だった。
「俺だってお前が怪我したら心配になるし気になるよ。見舞いにいくし何もできなくたって…側にいる。それをお前は責めるか?」
「君は情が深い、優しい人間だからな。それが君の気質である以上、君が君の責においてそれを行い、君の足が引かれぬなら私は何も言わん」
彼はいつもそうだから。他人を気にかけながら、磨り潰されずに、それを相手と自分の力に変えていく。誰にでも振りまかれるその情が、歯痒くもあるがそれが周囲を救っているのは確かだ。
しかし、私の答えを聞くと彼は半眼になった。
「…お前なんで俺のことはそこで弱いって言わないくせに自分にだけは判定厳しいんだよ。お前がそうやって俺を気にかけてくれることに、力を貰ってるって思わないの? 責められるよりずっと堪えて、次は同じ事繰り返すまいって思う可能性排除してんの?」
鋭くまくしたてられた彼の言葉に私は目を瞬く。こんな風に思い悩む事が、不安を見せる事が無意味でないと彼は言っている。
彼が同じ事をしたと仮定した時、確かに私は彼を否定しようとは思わなかった。
この弱さは許されるのだろうか。
「大和はさ、繋がりが強さになる事は余り考えないんだよな。…何でも一人で背負い込みすぎ」
彼は優しく笑う。受け止める強さで笑う。
「お前自身が許せなくても、俺はお前の弱さも脆さも許すよ。だって見方次第で強さになるんだから。仕方ない所はフォローするし。…それに本当にどうしようもない弱さだったら、それは多分お前、自分で握り潰して越えるだろ。基準が厳しすぎるのが珠に傷だけど」
そこまで口にして彼は少し疲れたように目を閉じた。
「腹開く怪我したのに腹立てるとか…させないでくれよ、頼むから」
やはり無理をしていたらしい。語尾が弱く力なく掠れた。
「すまなかった。すぐに辞去するから、もう暫く休みたまえ」
怪我人に励まされた己の事は許せそうになかったが、言えばまた彼を煩わせる。
すると離れようとした私の手を彼が捕まえてきた。
「…目、覚めたら、色々怒ってくれていいから。真琴さんに口止めした事の文句も、全部、聞くから。だから、今は俺の手、握ってて」私の手を掴む彼の力はけして強いものではない。
低いままの体温。か細い声。聡明さや意思の強さは衰えずとも彼はやはり弱っているのだ。
ここにいてくれと、珍しい彼の我が儘を私は叶えることにした。
「…解った」
私は彼の手を握る。確かに生きている感触がした。
「ありがとう」
彼は目を閉じたまま微笑んで、程なく再度の眠りに落ちていく。
手を繋いだまま、見つめるだけの私は、何かできることはないのかを考えて、小さく唇を開いた。
紡ぎだすのは子守唄。峰津院に伝わるそれはただ赤子をあやす為にあるのではない。
音楽は原初の言葉、大いなる者への祈り。歌詞は言霊、それ自体が力を持つ。
弱く脆いみどり子から災厄や魔を退け、健やかな成長と心身の安寧を促す歌は、守護と癒しの意味合いを持つ。彼の為になら歌っても良いと思った。
私個人が、誰かの快癒を、安らぎを、ただ純粋に希ったのは、初めてのことかもしれなかった。
君が生きていてくれてよかった。
歌に込もるのは先程目覚めた君に伝えそびれた言葉。
早くその怪我が治るように。
夜明け前の闇に吸い込まれて誰に聞かれる事もないだろうから、私はただ、君を想うことができる。
無意味の意味を私に教えてくれる君に、私が抱くこの感情の名前からは目を逸らして。
私は歌い、願い、彼に触れて。ただ、彼に許された時間を、朝の光がすべてを暴くようになるまで、彼の側で重ねていった。