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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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うさみみさんと設定資料集のあの子こと都ちゃんのおはなし。
局長は直接出ていないけど、主ヤマ(ヤマ主でも問題はない気がする…)前提で都ちゃんが局長を兄としてすごく好きな話です。ふたごの日から延々ねちねち書いていた。
人の数だけ都ちゃん像があると思うけれど、我が家の都ちゃんは概ねこんな感じ。 
世間知らずで思い込んだら一直線、兄より感情の発露がわかりやすい子だよ。あとうっかり属性。本人が思ってるほど弱くはないけど、ウサミミとか局長には及ばない感じ。
捏造山盛りです。いつものことですが、私割と峰津院家(ツインズ含む)に夢を見てます。 
正直、あんなに自分の家に誇りを持っている局長の親族が、ゲーム中ここまで局長の周囲に影もかたちもない事の理由が、作中にあるもの以外だと私には思いつかなかった。
単に一枚岩じゃなかったり、表に出てないだけという可能性はおおいに有りますけどね!

私は、都ちゃんがずっと大和の代替品でしかない日陰の娘っていうのは色々かわいそう過ぎる、身代わりになる前になんとかお兄さんと顔合わせてほしい。
なんとかして二人とも生きて仲良くしあわせになってほしいなーとおもっています。
そして都ちゃんが出てきても大和を選ぶのがうちのうさみみです(ほも)。顔や時に性質が似てても別人。
でも都ちゃんのしあわせも願ってる。ウサミミにとっても妹みたいだといい。
そもそもうちの都ちゃんの場合は、ウサミミとは大和さんを大事にする同志なんですけどね。
主ミヤにならない…。主ヤマ←ミヤコ(恋情って言うかブラコン)もしくは主ヤマ+ミヤコなので。
(ヤマ主だとまた違うパターンを考える気がしますが、主ヤマだとこんな感じ)でもウサミミさんのことはきらいじゃないと思う。

回帰ルートなら事業仕分けして民間にも知られる組織にジプスをするときに峰津院さんの内部にもメスをいれて都ちゃんの存在を知って仲良くなればいいんじゃない?
ウサミミさんに急に妹が出来たってマジで相談するヤマトさんとかかわいくない?そんなことを思います。


 あの人は峰津院を、自らをこの国の影であると言う。では影の影たるわたしは闇だろうか。
 くらがりから見るあの人はいつも憎らしいくらい綺麗だ。弱さと堕落を憎む苛烈な魂。世界を、ひとを厭いながら愛している、その孤独な姿を、決意と苦悩を、一方的にわたしだけが知っている。この世界にただひとつ、わたしのひかり。ただひとりの、わたしの兄さま。

 世界を襲った大災厄は、兄にとって待ち焦がれた革命の好機だったようだ。あの人は世界を変える為、周囲の者にも胸の内を隠し秘密裏にことを進めている。
 一方、わたしの日々は変わらない。気取られぬよう遠くから兄さまのことを見つめるだけ。不慮の事態があれば兄に──"峰津院大和"に代わる。それが、それだけがわたしの意義だからだ。
 血を分かつ双子でも、わたしの力は兄さまに遠く及ばない。だが、隠形と感覚を兄に繋げる術だけは必要であるからと徹底的に仕込まれた。術の作用していることを、あのひとに気づかれてはならないからだ。
 "峰津院大和"を常に見張り、その異変を誰より早く察する必要が影武者たるわたしにはあった。一方の兄さまはわたしを知らない。影武者が存在していることは認知しているかもしれないが、それが双子の妹であるなどとは思いもしないだろう。
 わたし達は生まれて直ぐに引きはがされた。わたし達は断絶されている。なのにわたしは、わたしだけは兄を知っている。幼い頃から、わたしはあの人に寄って生きてきた。わたしたちは同じでなければならなかった。
 大和を知ること、同一であることは常にわたしについて回った。双子といえど魂も肉体も違う。そもそも性差というのは育てば顕著になるものだ。完全に重なることなどありえない。
 それでもわたしの存在は兄さまによって方向づけられる。そのことは、苦しいのか、辛いのか、喜ばしいことなのか、幸いなのか、もうよく解らない。ただ、離れることができるとは思わない。
 わたしは、兄さまの見るものを見、聞くものを聞く。そのこころを、思考を、朧げながら感じる。峰津院の邸宅から殆ど出たことがないわたしと、外界とを繋ぐのは兄さまの存在だけだった。
 その兄が、わたしが一方的に近しいと、理解できるとそう思っていた人が、ある日を境に急激に変化を始めた。それはわたしを揺るがす堪え難い恐怖だった。
 世界を襲った大災厄や七星の名を冠する侵略者よりもわたしにとって恐ろしかったのは、兄さまが出会ってしまった、あの人の理想そのもの。市井の中から現れた、埋もれた傑才。星のようにかがやく青い瞳を持つ彼。たった数日で、兄さまに決定的な変化を促したあの男が、わたしにはこの上なく恐ろしかった。

 常人離れした異能の一族たる峰津院のなかにあってさえ、兄さまは特別だった。
 過去に類を見ぬ才器。歴代最年少の当主。霊力も他の資質も頭ひとつ以上飛び抜け、今の一族に兄を超える峰津院はいない。ゆえに生まれる時代さえ違っていたならと囁かれる。
 そう。物質主義が礼賛される現代、霊的守護者の存在が軽んじられる昨今において、兄さまの力は過ぎたるほどのものだった。何時だって特別と異端は紙一重だ。
 丁寧に閉じ込められ英才教育を受けた兄に、学友やそれ以上の関係を他者と得る機会はなかった。霊質を維持し、高める為に、近親婚、時には異種婚さえ繰り返した峰津院に子は少なく、血族に同年代の親しいものなど望むべくもない。
 年長者はそもそも兄さまにとって峰津院の嫡男、ジプスの長以外として接する機会のない相手だ。両親に至っては、わたしと兄が物心つくより早く、お国のために身罷ったと聞かされたのみである。
 峰津院には珍しくもない話だ。なきがらさえ残らなかったことも含めて。

 かように、親しい、慕わしい誰かというのは、兄には無縁の存在だった。畏れ、蔑み、有為、嫌悪、向ける感情に差はあれど、周囲の誰もが兄を遠巻きに扱った。個人としてのあの人のなかに踏み込むものはいなかった。
 兄はずっと孤独だった。その自覚さえないままに独りであることを選ばざるを得なかった。わたしだけがずっとそれを知っていた。
 だからわたしは自分が、自分だけが不幸だなどと嘆くことはなかった。在り方がすこし違うだけ。わたしも兄さまも共に家に縛られ、不自由で、与えられた使命以外に意義はなく、広いこの世界にひとりきり。
 峰津院の隠し部屋に住まわされ、僅かに身の回りの世話をするものと古老たち以外には存在を知られぬわたしはひとりだ。
 だが兄もまたひとりだったのだ。大勢のなかにあってなおひとりだった、兄の孤独のほうが根が深かったかもしれない。
 そうして兄は、己の価値を、力と才と峰津院の使命にだけ見出だす。それ以外の何かを、あのひとに求めるものはいなかったからだ。
 そんな兄さまにとって、腐りきった権力者の走狗として、堕落しきった人々のために使い潰される生は堪え難いようだった。
 守ることが自らの意義ならば、よりよいものを守るために在りたい。実力が正しく評価され、よりよきものが生き残る世界に革めたい。世界に守るに値う正しさと美しさがほしい。そう願うのも無理なからぬことで、だってそうでなければ、誰にも知られぬまま、無情な国に、民に、奉仕し、無駄にすり潰されるだけの命でしかないならば、峰津院はあまりに哀れで無価値ではないか。

 一度だけ、兄はそれまでとは違う他者と触れ合う機会を得たことがあった。
 世界の現状を憂い、儀式を持って、峰津院の父祖に悪魔召喚のちからと護国の命を与えたという星神と、接触を持った時のことだ。
 しかし、結果は物別れに終わった。ひとならぬ星神に、兄さまのこころは理解しきれなかったし、兄もまたかの星神の望むところを汲み取りきれなかったのだから、袂が分かたれるのは必定だった。
 わたしはそれを哀しく思い、わたしはそれをどこかで嬉しく思っていた。身勝手な想いだ。でも、それでも兄さまに、だれか別のひとにこころを許さないで欲しかった。
 兄が誰かと己の孤独を分け合うなら。わたしはどうしたらいいのか解らなくなる。兄が誰かを想い、誰かに想われる、そんな日が来たら。わたしは兄の気持ちを追うことができなくなる。兄さまとひとつになれなくなる。兄さまの代わりを勤めることができなくなる。それはわたし、大和の代替品、影武者、そうあるべくして育てられた"峰津院都"の終わりを意味する。その日が来るのを、わたしはずっとずっと恐れていたのだ。

 なのに、彼は、黒い髪とやさしい笑顔の彼は、わたしの恐怖をあっさりと現実のものにしてしまった。なんでもないような顔をして現れたくせに、いつの間にか兄の、大和のなかに入り込み、そのこころを奪っていった。
 あまりに鮮やかなその手口! 気づいた時にはもう遅かった。あの青い瞳は、兄さまの何よりのお気に入り、この上ない特別になっていたのだ。
 はじめはただの民間人として現れて、なのにジプスの局員すらなかなか歯の立たぬ侵略者たちを、仲間を率いて鮮やかに倒していった。
 誰よりつよく、そのくせ情が深く、あんなにもひとを気にかけるくせに、救うことはあっても他人に押し潰されない。
 立場も何も気にかけず、当たり前のようにひとを気遣い、話し、気安く親しく振る舞う──それは兄さまにさえ適用された。そうして近づけば、不思議とひとを引き付けずにはおかぬその性質は、兄をも虜にした。ごくごく稀にいるのだ。生れつき王冠を得ているような、そんな、ひとのこころや時勢を動かさずにはいられない存在が。
 あの男はまさにそれだった。この激動する世界の中心に彼はいる。

 誰かにあんなに執心する兄をわたしは知らなかった。それだけではない。
 庶民の生活を教えてやると言われて面白いと感じていた顔、見知らぬ食べ物を進められそれを食べて美味しいと笑う顔、ふたりで話すのに割り込まれるのを嫌う顔、他愛なく話すことを喜ぶ顔。彼と過ごす時の、どこかやすらかな、しあわせそうな顔。他にも、たくさん。知らない顔がたくさん。全部、全部わたしの知らなかった兄の姿で、あの黒いくせ毛の彼が兄から引き出した表情と感情だ。
 そもそも他者を対等と認め、熱心に己の理想の道に誘うこと自体、それまでの兄さまにはありえなかったことで──だって兄はたったひとりになるとしても自分が正しいと思った道に殉ずる覚悟を決めていたのに。
兄は変わっていく。変えられていく。わたしから遠ざかる。遠くなる。いかないで、ほしいのに。

 わたしのひかりを、わたしから引きはがすあおい星。消えてしまえばいいと思った。ひとに明確な殺意を抱いたのは生まれてはじめてだった。


 龍脈の庇護を受ける霊地に、人避けの結界に護られてひっそりと佇む峰津院の本邸。
 無の侵食を免れていても、最早この場所に、わたし以外の人間はいない。使用人の内、使える人材は兄がジプスに引き上げていたし、そうでないものは暇をだされていた。
 彼ら以外の人間──峰津院の血脈はわたしを除いてここにはいない。否、ここだけではない。世界中を探しても、峰津院の名を戴く血族は、わたしと兄の二人しか残っていない。
 他は皆尽く、始まりのあの日、ポラリスの一撃から国土を守る結界を強化するため、龍脈へとその身を捧げた。
 峰津院とはそういう家だ。人柱、いけにえの血統。その血は龍脈を使役し、同時に龍脈を富ませるものでもある。だから、峰津院のなきがらは家族のもとにかえらない。死ねばその身は龍脈を肥やす餌として、地の底深くに投じられるからだ。龍脈のちからが多く必要とされる有事には、生きたまま血族を捧げることもままあった。
 そして、今回、虚空蔵の王、天に座すポラリスの裁きという、史上最悪の天災に打ち勝つには、一族の命をほぼ全て捧げる必要があった。大和が残ったのは、一撃の後も結界の維持や龍脈の使役が必要となるだろう事態を考慮しての必然であり、わたしが残されたのはそんな兄に万が一があった場合のスペアとしてだった。
 元々、峰津院に様々な力と知識が星神から与えられたのは、この災厄に抗うためだったといっても過言ではない。だから、一族の誰も迷いも嘆きもせず、宿命だと、人類を存続させるために必要なことであるとすべてを受け入れた。
 先祖代々、峰津院はそうだった。ひと知れず当たり前のように身を捧げ、国を、民を守る。かつては、それに見合うだけのなにかがあったのだろうと思う。だが、いまは、誰に感謝されることも、嘆かれることもなく、省みられることすらない。
 知られぬままに後は朽ち行くばかりの伽藍。住人を失い、残された邸宅の姿は、峰津院という血脈のこれまでのありようそのものに見えた。

 そんな屋敷をわたしも出ていく。邸内に用意されていた、兄のものと同じ衣服、コートに袖を通す。
 わたしと兄の体格にそう差異はない。元々峰津院の血脈は中性的な外見を持つものが多いというのもあるし、加えてわたしの肉体は薬品や術でもって調整を加えられているというのもある。わたしの性は女ではあるが、この身は大和に合わせて誂えられている。
 殆ど膨らみのない薄い胸と尻、女性の平均を上回る背丈、実用を考えた筋肉を纏う身体に、鎧のように重厚な黒いコートを羽織ってしまえば、この身体が兄と違う性を持つとは気づかせないはずだ。事実、わたしを知る長老たちは口を揃えて兄に生き写しだと言っていた。兄さまにそっくりだと言われるのは、わたしの喜びだった。それがわたしの価値だからだ。
 外に出る時のわたしは、完璧に"峰津院大和"でなくてはならない。最早わたしにそれを強制できるものは誰もいなくとも。わたしが模る兄本人でさえそのことを知らずとも。わたしはそうでなくてはならない。だって、わたしは、他の生き方、在り方なんて知らない。
 外套の隠しにはジプス製の携帯電話が入っている。手にとって、軽く操作する。悪魔召喚アプリは、ニカイアにアクセスして得たものだ。元々わたしは旧式のプログラムを用いて兄さまとできる限り同種の悪魔を使役していたが、兄を通して知った他の見解通り、こちらを使う方がずっと効率が良い。ひとのいなくなった邸内で何度か試しているので現行のアプリの使用にも、問題はないはずだ。
 ミスがあってはならない。これからわたしはひとを殺しにいくのだから。携帯をきつく握り締め、改めてしかとポケットにしまう。万が一にも落として目的に障るようなことがあってはいけない。わたしは支度をすませると、もう戻ることはできないかもしれぬ慣れ親しんだ邸宅を一度目に焼き付け、それを最後に家を離れた。目指す先は、決まっている。

 そう、わたしはあの青い瞳の彼を殺しにいくのだ。
 彼がいては何時か兄の弱みになる。ずっと孤高の強者として在った兄さまが、あんなにもひとを信じて、気にかけていてはいつか足元を掬われる。だから、わたしが彼を除かなければ。

 …ああ、そんなことが建前に過ぎないなんて、わたしにもわかっている。知っている。わたしはただ、わたしと兄を分かつ彼が怖くて怖くて仕方がないだけだ。
 チャンスは一度きり。もしも失敗すれば、兄さまにすべて知られてしまう。彼を殺そうとしたわたしを兄はけして許しはしないだろう。
 決行するのは今夜しかない。なぜなら、今、わたしの標的となる彼をはじめとする、セプテントリオンとの戦いをくぐり抜けた悪魔使いたちは、ジプスの庇護下から外れつつある。実力主義か平等主義か日和見の平和主義か。三つの思想の何れかを世界の行く末として支持し、別れようとしているのだ。
 兄を通してみる限り、他のものらはおよそ行くべき道を見出だしているようだが、肝心の彼はまだどこの派閥にも寄らず、己の在り方を決めあぐねている様子だった。
 普段ジプスの東京支局、兄や組織の目の届く範囲で一日を終えることの多い彼を、ひとに気づかれず消してしまうのにこれほどよい夜はない。

 兄さまに話を聞いた彼は、わたしにとっては幸いなことにその場で身の処し方を定めず、別の拠点にいる仲間の話も聴きに行くつもりのようだった。本局を離れ、ターミナルに向かう道の途中で彼が来るのを待ち構え、読み通り彼がやってきたところで、わたしはこっそりと尾行を開始する。
 わたしと彼では実戦経験にも実力にもかなりの差がある。兄が信頼を置くその力を侮れるはずもない。だから、わたしが彼を確実に殺害するつもりなら、卑劣な手段を使うしかない。不意打ち、闇討ち、奇襲。そういった手段をとるほかないのだ。
 ターミナル施設がある通天閣近くで、わたしは気配を限りなく消し、彼への距離を詰めていく。物陰に隠れ背後から不意打ちを仕掛ける、そのつもりだったのだが。
「誰か、いるのか?」
 青く透き通る双眸がまっすぐに、わたしの潜む方角を射抜く。わたしはびっくりして掴んでいた携帯から手を離してしまいそうになった。まさか、気づかれるとは想わなかった。兄さまでさえ、わたしの隠形を察知することはなかったのに。しかし肉体を伴う気配隠しは、術の痕跡を消すのとは勝手がことなる。わたし程度の腕前では、察しの良い彼の、目を欺くことはできなかったのだろう。
 わたしは仕方なく、次善のプランを実行することにした。背後からの不意打ちが不可能になったならば──大和として近づき、油断している所を殺すしかない。
「…どうやら、驚かせてしまったようだな」
 第一声は自分でも上手く言えたと思う。兄さまの言動を長らくトレースしてきたわたしだ。以前、影武者としての性能を調べるためにと一日だけ兄さまと入れ替わって職務を勤めるよう言われて実行したことがあったが、その時だって上手くいった。長年兄の側近をしている迫真琴であってもわたしが兄と入れ替わっていることに気づかなかったのだ。大丈夫。辺りは暗い。兄と過ごした時間のそう長くない彼くらい騙しきれる。そうでなくては、峰津院大和の代替が勤まるものか。
 携帯ごと手をポケットに突っ込み、滑るように闇のなか、彼の眼前にわたしは姿を見せる。
「大和?」
 先まで本局で話していた兄の姿が、物陰から急に現れたせいか、彼はいくらか困惑しているように見えた。兄さまをなぞった動作で、わたしは静かに彼に近づいた。
「ふたりきりでしたい話がある。だから、君を追ってきたのだ」
 兄の彼への執着は、周知の事実であるからこれは言動としてはそうおかしくないはずだ。しかし彼は、スウッと目を細めると、携帯に手をかけた。
 それは悪魔使いの最大級の威嚇。何時でもスキルを撃てる、仲魔を呼び出せる。そういう意味だ。ほぼ臨戦態勢といっていい。
「……演技とかしなくていいよ。目的は何かな? 大和のそっくりさん」
 向けられる瞳は鋭い。この目は、兄を通して何度か見たことがある。
 兄さまが惹かれたつよい眼差し。そうだ、彼は優れた観察眼もまた武器のひとつとして備えていたのだった。だが、臆してしまう訳にはいかない。確証がなければ彼とて直ぐさま攻撃に転じはしないはず。どうにか会話で相手の緊張を解き、隙を作るしかない。
「何を言っている?お前には私が大和以外の何に見えると言うのだ?」
 わたしは、肩を竦めてみせようとして、
「…だって、アンタ、女の子だろ? 確かに見かけも声もそっくりだけど、俺の知ってる峰津院大和はまごうことなく男だし」
「……!!」
 けれど余りに的確に、わたしと兄さまの差異を見抜いた発言に、固まってしまった。動揺してはいけない。いけないのに。言葉がでない。
「龍脈使えばなんでもありな気はするけど、この局面で大和が女になる必要ってまったくないよね? 何者なのか、何が目的なのか話して貰えないかな。正直、大和とおんなじ顔を問答無用で吹っ飛ばすような真似はしたくない」
「くっ…!」
 最早万策つきて後は正面からぶつかるほかない。勝機はほぼなくとも、咄嗟、ポケットから携帯を抜き出そうとしたが、当たり前ながら既に構えていた彼のほうがはやい。
 セットしておいた物理耐性を貫いて胴に入る鈍く重い衝撃。わたしの身体はあっさりと後方に弾き飛ばされる。取り落としてしまった携帯が、彼に拾いあげられてしまうのが見えた。



 わたしが起き上がろうとするより早く、肉薄していた彼の携帯が眼前に突き付けられる。完全に詰みだった。わたしはやはり無能な役立たず、何者にもなれないできそこないなのだ。悔しい。彼は悪魔を呼び出してすらいない。
 なのに、一撃を入れることはおろか、触れることさえができないなんて。
「殺すなら、殺せ」
 情けなくも滲みそうになる視界に、なぜだか弱ったような彼の姿が見えた。どうしてそんな顔をするのか。わからない。さっき携帯を抜きかけたのと、差し向けた殺気で、わたしが何をしようとしていたのか朧げにでも察せぬ彼ではないだろうに。
「だから、俺はできれば穏便にすませたいんだってば。アンタどこの誰? 誰かに俺を襲うように言われたの?」
「……」
「だんまりを決め込むつもり? 言っとくけど、事情が解らないまま解放するつもりは流石にないから。他人と思えないくらいそっくりだし、…大和なら何か知ってるかな。黙ったままでいるなら、俺はアンタを大阪本局に引っ張っていくつもりだけど」
「……ッ、それは……やめて、くれ」
 彼の手で兄さまの前に引きずり出される。それは想定できる限り失敗のなかでも最悪の結果だった。
 顔を合わせても、わたしが双子の妹だなどと言うことを兄は思いもしないだろうが、瓜二つ(目の前の彼にはあっさり看過されてしまったが)の容姿や似通った霊力の波形から、わたしが"峰津院大和"の影武者として育成された峰津院家の一員だということは直ぐに知れるだろう。
 そして、わたしの行為は間違いなく兄の不興と怒りを買う。あの人が誰より必要とする人材を、私情で手にかけようとしたなど許されるはずがない。同族であることは、兄さまにとって容赦の理由にはならない。
 よくて何処かに監禁か、あるいは、兄さまが健在である限り、わたしという存在は必要ないのだから、損耗した龍脈を補填するのに丁度良いと都庁に転がる龍の頭あたりに捧げられるかもしれない。
 全身が冷える。震えが走った。死ぬことは、こわくない。だって、わたしは都としては生きながら死んでいるようなものだ。
 なら、どうして、なにが、こんなにもこわいのだろう。
「あっさり口を開いたね。ジプス…っていうか大和の家の関係者かなと思ってかまかけたら、ビンゴか。大和と顔合わせたくない事情があるの?」
「……あのひとは、わたしを知らない。わたしはあの人に、存在を知られるわけにはいかない。わたしは、あのひとの、大和の影だ。代替品の存在など、"峰津院大和"が健在である限り、知る必要のないことだ」
「影、代替品──ね。所謂影武者ってやつ? 峰津院家ってつくづく現代日本離れしてるな。……で、大和の影武者さんが何で俺を襲いに来たの。家の命令とかそういう奴? 今のところ峰津院さんちに喧嘩売るようなことをした覚えはないんだけど」
「違う。そのような命令を下すものはいない。これはわたし個人の意思だ」
「じゃあ、なんで? それこそ俺と君は初対面だ。なのにどうして襲ってきた? 大和に存在を知られる訳にいかないって言ってた影武者さんが、大和の耳に入るだろう可能性が高いにも拘わらず。…なあ、理由もなくこんなことしないだろ」
「……貴様が」
 脅しから宥めるかたちに会話が移る。辛抱強く話を聞きだそうとする姿勢がかえって癪に触った。
「貴様が! 兄さまを、大和を変えてしまうから! わたしはずっと見てた。兄さまの一番近くで、気づかれないようにずっと、あの人を。わたしが一番大和を理解できた。なのに、お前が現れてから、兄さまはどんどんわたしの知らない人になっていく。それが気に入らない。許せない! だから、わたしはお前を排除しようと決めたんだ!」
 これまでの人生において初めてといっていい位、わたし自身の感情が高ぶり爆ぜるのを感じる。
 そうか。わたしは兄さまと切り離されたくないのだ。これ以上、置いていかれたくない。ひとりぼっちに、なりたくないんだ。
 あの人と繋がっていることが、わたしにとっては生の実感であったのだ。この想いのすべてが一方的な依存にすぎなくとも、わたしには他に何もないから。
「兄さま…そっか、君は大和の妹なんだ。親戚にしてもそっくりだなって思ってたけど。そうか、大和にもそうやってちゃんと大切に思ってくれる家族がいたんだな。…理由も、わかった。けど、俺は君に殺されるわけにはいかない。俺が大和を変えたって言うならなおのことだ」
 わたしの激昂を受けて、彼は幾らか驚いた様子だったが、あおい瞳はすぐに冷静さを取り戻し、真っ向からわたしを見据えてくる。
「っ、にいさまを取らないで! わたしには、都には兄さましかいないのに! わたしには大和の影であるということ以外なんにもないのに! おまえが兄さまのこころをを奪って、変えてしまうから、わたしはあのひとの影でいられなくなる! おまえには他にもたくさん、仲間が居るだろう! 兄さまじゃなくたっていいんだろう!? なのに、あんなに、こんなに、兄さまを、わたしを、掻き乱して、ずるい、ずるい、ずるい!!」
 感情のままに叫んで、彼の胸を駄々っ子のように叩いてしまった。目の奥が熱い。処理の現界を越えて抑えることの出来ないこころが溢れて、雫になり、とめようも泣く溢れ流れ落ちていく。泣いているのだと意識しても、涙も言葉も、手も止められなかった。わんわんと子供じみた泣き方をしながら彼を謗ると、彼のあおい目がこれまでになく、困ったように揺れた。だがそれを汲み取ったり指摘するような余裕はわたしにはない。
「えっと、名前…都で、いいのか? …都。確かに俺にはたくさん、仲間がいるし、みんなのことも好きだ。けど、大和はまた、特別なんだけどな」
「!! ふ、ふざけるな!! だったら、何故こんなところをふらふらしている! 兄さまを特別だなんて言うなら、あの人の手をどうして直ぐに取らないんだ!」
 彼の物言いはけしてふざけたものでないと伝わったが、それでもわたしは何を言っているんだと思った。涙も引っ込むくらいにわたしは彼に言ってやらなければと言い募った。
「兄さまは、おまえを、おまえが一緒に歩いてくれるのを待ってるのに……!」
 そうだ。兄さまはきっと待っている。わたしには解かる。地の底深く、美しく冷たい砦であり檻のようなジプスの本局で、目の前の彼が来るのを、ずっと。
 わたしは知っている。認めたくないけれど、兄さまが、大和がどれほど彼を必要としているかを──そう口惜しいけれど実力ばかりでなく、その人柄や、存在そのものをどんなに好いているか知っている。兄さまはきっと、彼が来なければ夜明けまでだって待ち続けるだろう。他の誰が相手でもそんなことをしない。ただ、彼だけは兄の、はじめてできた、掛け値なしの特別であるから。考えるほど胸が痛くなった。
 涙目で睨みつけるわたしに彼は少し困ったように苦笑してから、あおい目を静かに伏せてみせる。
「俺を殺しに来た子にそう言われるとは思わなかった。都は本当に大和が好きなんだな。…俺も、大和のこと、すごく好きだよ。…だから、何が一番、あいつのためになるのか。それを、考えてる」
「兄さまのため…?」
 殆ど鸚鵡返しに彼の言葉を聞き返すと、静かに頷くのが見えた。
「そうだ。あいつの道に寄り添ってその願いを叶えるっていうのも勿論考えた。今も選択肢として頭に置いてる。でも他の道もないかって考えてる。あいつ強くて厳しいけど、結構潔癖だし純粋すぎる所があるから、あいつの掲げてる理想で、いいのかなって、ちょっと迷う」
「……そうやって悩めるなどずいぶん贅沢な話だな」
 つい棘の混ざる言葉で返すと、彼はゆっくりとかぶりを振って見せた。
「悩みながら、道を選んで決めるって、別に俺だけの特権じゃないよ。選択するのは何時だって個人の意思だ。選択肢の数が少ないように見えるときもあるかもしれないけど、選ぶことは生きてる誰にだってある権利だと俺は想うよ」
「ない。わたしには、そんな個としての意思など許されない…」
「そうかな? 都はさ、さっき大和の影だって、それ以外何もないって言ってたけど、それだけじゃないって自分で証明してるじゃないか。個人の意思で俺を殺しに来たんだろ。そこにはちゃんと都の意思があるじゃないか」
「…っ!」
 この男はこわい。なんだ。なんなのだ、どうしてひとの核心を的確に突いて開くような言葉がさらさらと出てくるのだ?
 わたしが戸惑うあいだにも彼の言葉は続く。こわいのに気になって耳をふさぐことができない。
「それって、誰に命令された訳でもない。大和の真似でもない。都が選んで決めたことだろ。そんな風に、他のことも選べばいいよ。選べるよ。誰にだってその権利がある。俺たちみんな、自分の欲しい世界を、未来をそれぞれ選ぼうとしてる。……欲しい未来があるなら手を伸ばせばいい」
 怯えるわたしに彼の言葉が降り注ぐ。ひかりの雨のような、私を貫く、真っ直ぐに、篭るわたしの内心を、引きずり出すような言葉。
「……何も知らないくせに、簡単に言うな」
 それが怖くて、だから必死に否定した。拒絶した。なのに。
「確かに何も知らないけど、だからこそ知りたいと思ってる。…さしあたって、都はどうしたいの?」
 彼は私に話しかけることを止めない。優しい目をして、わたしを見て、問いかけてくる。
 他の誰でもない、わたし自身がどうしたいか。そんなことを聞いてくれる人間は、今までいなかった。
 だから、動揺してしまった。ほだされたわけじゃ、ない。
「わたしは…都は…兄さまと…一緒に、いたい。あのひとの役に、立ちたい。本当はずっと、そうしたかった。何時だってひとりで沢山を背負い込む兄さまを、ただ見ているだけじゃなくて、助けたかったんだ」
 自分のこころに尋ねて、生まれて初めてわたしは自分自身の願いごとと言うものを口に出していた。
 そうだ。わたしは別に彼を殺すことが望みだったわけじゃない。わたしのひかり、わたしの世界。ただひとりの、わたしの家族、兄さまをちゃんと助けられる、傍で力になれるわたしになりたかった。影としてだけじゃなく、きちんと一緒に居られるようになりたかった。一方的に兄を知るだけじゃなく、わたしを知ってほしくて、話がしたくて。そうして、つらいことや悲しいことを分けて、助けることが出来るようになりたかった。彼のように。
 わたしが彼に殺意を向けた理由。わたしと兄さまを分かつからというばかりじゃない。彼こそが、わたしの望む位置にいる人間だった。わたしは、今、誰より兄に近く、兄と話すことかできて、兄を助けて、支えられるその位置にいる彼が羨ましくて仕方なかったんだ
「都は、いい子だな。大和の傍に、都がもっと早くから居られたらよかったのに」
 搾り出すように零したわたしの願いを、彼は真摯な表情ですべて聞いてからそう呟いた。そして、話し終わったわたしの頭に手を伸ばしてきた。びくりと肩を震わせたら、いたわるみたいにそっと丁寧に髪を撫でて、彼がわらう。嘲笑うものじゃなく、やさしい、慕わしい、そんな表情を浮かべていた。
「さっき口にしたことが都の願いなら、都は大和のところに行ったらどうかな。大和、自分の意思で決めて動く奴好きみたいだからさ。力になりたいって言ったら無碍にしないと思う」
 彼の言う事は、冷えた頭で考えればそう非現実的なことでもない。いまやわたしを囲い、隠し、育て、命を下せる峰津院の古老はだれひとりとして残っていない。他の者も居ない。最後の峰津院であり、当主である兄の元に、己の立場を明かして身を寄せ、その指示を仰ぎ、微力でも助勢したいと願うことはそうおかしいことではないのだ。兄は合理的な人だから、兄の敵ではないことを示せれば、代替品を必要とはせずとも峰津院の血そのものには価値を見出してくれるはずで、駒として受け入れてはくれるだろう。そこから信頼して貰えるかはわたしの働き次第だろうけれど。
 それにしてもおかしな話だ。どうして彼は自分を殺そうとしたわたしの話を親身になって聞き、助言のようなことをしてくれるのか。
「おまえを殺そうとしたわたしを解放するというのか?」
「幸い無傷で済んだ。俺は事情が分かるまでは解放しないといったけど、絶対解放しないとは言ってない。理由も聞けたことだし。……まだやる気なら応戦はさせてもらうけどね」
 信じられない。甘ったるいお人よしといっていいような物言いをするくせに。なのに一瞬瞳に覗いた鋭さは、彼の中にある確かな実力を垣間見せる。この男には、勝てない。
「セプテントリオンとの死戦をくぐり抜け、兄さまに認められる実力者であるお前に、わたし程度が正面から挑んで叶うものか。…悔しいが、わたしは己の程度は弁えている」
 ああ、口惜しい。憎らしい。でも同時に安心して仕方ないとも思っている。結局、わたしに彼を殺せるはずがなかったのだ。力で叶わないというばかりじゃない。
 ずっとずっと、わたしは兄を通して世界を見てきた。兄さまの美しいと思うものをきれいだと思い、好ましく思うものを好いた。兄さまが、わたしの世界そのものと言えるひとが、いとおしいと、無二の唯一だとそう思い慕う相手を、わたしが憎みきることなんて出来るはずがなかったのだ。
「解かってくれたなら俺はもう都を解放するよ。夜は長いようで短いからな。都だって自分の道を考える時間とか、そういうの、いるだろ。ちゃんと選べるように願ってる。望む場所にいけるように」
 空を仰ぎ、彼は月の高さを確かめる。月はもう随分と高くにあった。ここまでは、長くも短くもある、そんな奇妙な時間だった。
「…おせっかいはこの辺にしておくよ。俺はそろそろ行かなくちゃ。まだ大地たちの話を聞いてないんだ。またね、都」
 ひらりと片手を振り、彼はわたしから離れてターミナルの方へ歩き出す。背を向けているが、それは彼が私がたとえ不意打ちをしかけたとしても対処できるという自信の表れか。それとも、わたしはもう彼を傷つけないと本気で信じているのか。どちらもありえそうなのがこの男の凄いところだと思った。
 遠ざかる彼の背中を見ながらわたしは考える。兄さまの助けになることがわたしの望みだ。彼が先程示したようにこれからすぐに兄の元に身を寄せるのがきっと、いちばん手っ取り早く、解かりやすい方法であるだろうと理解している。なのにどうしてか、わたしの足は動き出さない。彼に言われた言葉を、すべて思い返して、ひとつひとつ辿る。
 彼はわたしが望んだ位置にいる男だった。いまや誰より近く兄さまといられる人間。これまでの日々を兄さまと共に戦ってここまできた。兄さまは彼を必要としている。彼を請い、好いている。彼もまた兄さまを好きだと特別だと言った。その彼が口にした、「何が一番、あいつのためになるのか。それを、考えてる」──その言葉が気になって仕方ない。
 彼の行動、言葉のすべてはきっと、兄さまに、この世界の未来に何より影響を与える。だからもし、彼が下手を打てば、兄さまはとりかえしのつかない傷や苦しみを負うことになるかもしれなかった。ならば、わたしは、このまま兄さまの元に行くよりも、あのひとの役に立つ為にできることがあると思った。それは。

「待て!」
 わたしは、わたしの意志で彼を追いかけて、ターミナルに走った。彼が足を止めて振り返る。わたしが追ってくると思って居なかったのか、幾ばくか驚きが、その顔には浮かんでいた。
 彼の直ぐ近くまで駆け寄ると、わたしは彼を正面から見つめて、わたしの考えを口にする。
「お前が兄さまのことを思って道を探すというなら、わたしはお前の隣で、それが本当にあのひとのためになるものなのか、見極めさせて貰う」
 兄さまの傍で、兄さまを見てきたわたしだから解かる。この男は、兄にとっての要なのだ。だから、彼が兄を傷つけたり、悲しませることのないように、傍で見張ることが何より兄の役に立つことだと思った。このまま彼が、兄さまと共に行く道を選ぶならそれはそれでいいし、そうでなくて敵対してでも兄を救う何かを探すつもりだというなら──私はこの男の力になろう。それがほんとうにあのひとのためになるというなら。そして、もし、それが兄の心を決定的に傷つけるような、どうしようもないほど相容れない道であり、齟齬に気付かぬまま、この男が往くというなら、そのとき、わたしは。
「お前が兄さまの障害になるようなら、何としてでも、この命に代えてでもわたしがお前を排除する」
 自分の力なさなど知っている。だがそれでも、わたしとて峰津院の一員だ。守るべきもののためならば、血を吐き、身を削り、命を投げ出してでもそれを成すことこそ一族の業であり、誇りだ。わたしは死んでも兄さまを守る。兄さまを特別だと言った、好きだといったこの男に、その相手である兄を傷つけさせない。何より強く意思と気迫を込めて宣言すると、彼はこれまででいちばん、うれしそうな顔をした。
 笑う彼をわたしはいぶかしむ。正直彼が喜ぶところなどわたしの発言の中になかったと思うのだけれど。
「何故だ。何を笑う。わたしはおまえが過てばおまえと刺し違えてでも殺すと言っているのだぞ?」
「……。だって、そうやって考えて動いてる都の方がいいからだよ。自分には何もないって項垂れてるよりさ。さっきまでは全然似てないって思ってたけど、そうして目に強いひかりが入ると、ちょっと大和と似てる。大和と都は当然別人だけど、同じ血が流れてるんだなあって。うん、どっちも綺麗だ」
 わたしの瞳を覗き込み、彼はやわらかく目を細めた。兄さまに似ているといわれたが、今まで他の誰かに言われた同じ単語とは響きが違う。これは兄とわたしを同一視しているわけではなくて、わたしという個を認めたうえで、わたしと兄と両方を褒めているのだ。しかし、恥ずかしい男だ。綺麗だとかそう真っ直ぐにいわれたことがないからどうして良いかわからなくなる。
 戸惑うわたしを尻目に、彼はとても機嫌よく言葉を続けていた。
「俺、都のこと結構気に入ったよ。同じ相手のこと大事に思ってるんだし。俺たち、いい友達になれるんじゃないかな?」
「だ、だれが友達だ。…調子に乗るな」
「馴れ馴れしくてごめんね。そういう性分なんだ。大地たちにはなんていって都のこと紹介するかな」
 ごめんねと言いつつもまったく反省している様子がない。軽く片目を瞑ってから彼は思案の素振りを見せる。考えてみれば彼と共に行けば、他の人間にも姿を見られると言う事になるのだと今さら思い至る。わたしは大和としてしか外の人間と触れ合ったことがない。果たしてまともにコミュニケーションが取れるのだろうか。兄を通して見聞きしていたから、一通りのひととなりは理解しているけれど。
「ややこしいことになるようなら、わたしはお前が立ち居地を定めるまで近くで隠れているが?」
「いや、折角だから挨拶しようよ。俺についてくる時点で都個人として歩き出すって決めたんだろ。自己紹介の言葉、考えておいて。俺も都のこと、もっと知りたいし、聞きたいし」
 この男はさらりと難しいことを押し付けてくる。だがその多少強引とも言える言動が、決して我侭だけで構成されている訳ではないとなんとなく解かる。わたしに、大和の影ではないわたしとして、ほかと触れる機会を彼は作ろうとしてくれている。そう思うから、言葉を無碍に出来ない。わかったとわたしは彼に頷いてみせる。
 ああ、兄もこうして彼に引き込まれていったのだろうか。解からないと思っていた兄さまの心境が今さら理解できてしまってとても複雑な気持ちになる。
 
 わたしのそんな心中など知る由もないのか、あるいは知っていてのことか。
「──それじゃあ、都。一緒に行こうか?」
 当たり前のようにわたしの名前を呼び、わたしに手を差し伸べて、あおいひかりは眩くうつくしく微笑んだ。


 どうか許してください。
 影の影を抜け出して、わたしがわたしとして道を歩き始めることを。
 あたらしいひかりを差し述べるあおい星を道標に、わたしはおっかなびっくり歩き出す。
 いつか、それが、わたしの大切な片割れのところに繋がる、あのひとを助ける道であることを願って。

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