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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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実力主義ED後、カップルとして出来上がってるウサミミとヤマトの甘ったるいバレンタイン話。
ほんの微かに戦闘・流血描写あり。

ハロウィンもクリスマスもお正月もスルーしてしまったので、せめてバレンタインくらいは参加させてやりたい!とおもった結果がこれです。
局長は基本的に俗世間のイベントには疎そう(情報としては知ってても参加しなさそう)なので、ウサミミさんに色々教えてもらえばいいなあと思います。
はじめてが沢山あるふたりっていいものですね!


 世界が変わって一年以上経つ。復興も随分と進んだと、通りを行き交う人々に紛れ、昼下がりの街を歩きながら俺は思う。
 ひとを支える思想の根幹が変化しても、文化様式まで急激に変化するわけではない。無節操にイベントごとを愛好する日本国民の気質は受け継がれているから、クリスマスも正月も行われたし、当然ながらバレンタインだって忘れられていない。いま、俺が居る街並みは、甘ったるいチョコレートの匂いとあちこちで見かける華やかなバレンタイン関連のディスプレイに彩られている。
 去年の冬は災害から明けたばかりで全くといっていいほど余興を楽しむような余裕はなかったけど、今年は違う。
 2月14日、バレンタイン当日。諸外国の風習を度外視して日本でのみに絞るなら、好きな相手に主にチョコレートを渡して告白したりイチャイチャする──もとい好意を解かりやすく形で伝える日というのが俺の認識である。最近は友チョコとかも流行ってるけど。
 日本人らしくお祭り好き、イベント好きの俺としては、こういう行事には是非乗っかっておこうと思う訳で、スケジュールに調整をつけ、街へと買い物に繰り出していた。

 チョコをあげるのは女の子の特権? 知ってますけど、俺の本命は立派な日本男児、つまりは同性で、こういう浮ついたイベントに絶対零度の視線を投げかけても不思議じゃない奴で、だからバレンタインを楽しもうと思うなら、必然的に俺からプレゼントするコースになる。維諸や乙女さん、仲間の女の子たちはなんだかんだで義理のチョコをくれて嬉しかったけど、それはそれ、これはこれだ。
 あいつは、大和はバレンタインなんて知らないか、例え知っていても製菓会社の戦略だなんだって唾棄するか興味ないかってところだろうから、俺から何か贈ってやろうかと思ったんだ。

 …一応、俺たちは恋人同士という奴で。好意を伝える日にわざわざかこつける必要はあまりないんだけど、庶民のくだらないイベントも悪くないんだぞって大和に教えてやりたい。
 今までもそうやっていろんなイベントを過ごしてきた。なんだかんだで大和も一緒に何かを楽しむのは無駄ばかりでもないって思い初めてくれているようで、うれしい。
 さて、今回はどうなるやら。俺はどんなチョコレートを彼に贈るべきなんだろう?

 手作りというのも考えたし、確かに俺はある程度料理できるけど、折角街の中には綺麗なものも楽しそうなものも溢れているんだから、この中から選んで贈るのも悪くない。最終的にはいいものを選んで贈ることに決めた。
 そうして向かったのは、近頃流行っているショッピングモールの一角、バレンタイン関連の商品を扱っている店だ。
 可愛い、綺麗な女の子、女のひとが沢山いる売場に男の俺が入るのは、場違い感が半端ではなかったけれど、こう言うときは平然としていれば不審に思われないものだ。
 概ねひとはそこまで見ず知らずの他人に興味を向けないし、ある意味恋愛的には一大決戦といえる日だ。自分のことでいっぱいな子も多いんだろう。
 そういう訳で俺はさらりと売り場に入り、きらびやかに、あるいはシックに、シンプルに、ポップに、あの手この手で魅力的に飾られたチョコレートたちから、あいつに贈る唯一つを選ぶことにした。バレンタインのチョコは少しだけ、大好きなひとのために着飾る女の子に似ている気がする。精一杯魅惑的な包装で着飾って、わたしをたべて、と誘惑するのだ。
 大和は性質を考えると包装や外観が綺麗な、見て楽しむものより、味が良いもののほうが好きだろうけど。
 生まれ育ちから類推するに大和は上品であっさりした味が舌に馴染みそうだと思う。だけど、アイツ、あれでタコ焼きとかぶたマンとかB級グルメに目がなかったりするから、ジャンクな味付けのほうが好きになるんじゃないか?
 …などと、結構真剣に悩んだので時間を食ってしまった。

 最終的には色々な味の一口チョコを詰め合わせたものを選んだ。コンビニでも買えるような安い菓子だけど、種類が沢山あって見た目も味も様々だ。数撃ちゃ当たるを狙った訳じゃないが、大和が食べたときひとつかふたつは好みのチョコが見つかるかもしれない。
 小さなチョコレートをいっぱいに詰め込んだ白い籠に、シルバーとブルーのストライプリボンをかけてもらった。いくらなんでもピンクとか赤で飾った籠を抱えて帰るのは気恥ずかしく思ったからだ。
 何を今更という感じだが、気分の問題である。知り合いに見つかれば囃されるのは免れないだろうな。でもそれは多分しあわせな悩みだ。苦ではない。
 そうこうする内、予定より時間を食ってしまったのに気づいた俺は、急いでショッピングモールを出た。
 今は、それなりに繁忙しているスケジュール内で無理に作った空き時間だった。大和の予定も折り込んだ上でこの時間帯に買い出しに行くことを選んだ──今はちょうど大和も休憩時間のはず──のだ。急がないと大和に渡しに行く前にタイムアップになってしまう。あいつはあいつで忙しいから、今を逃すと多分日付が変わって私室に引っ込むまで会えない。

 それは少し寂しいから、俺は確実な手段をとることにした。非常時でもないのに褒められたことではないが、悪魔の力を借りることにする。
 ひとで賑わう大通りでアプリを使うほど馬鹿ではないので、通りを一本裏に引っ込んだ。
 確かこの近くには資金の目処が立たなくなり、中途で破棄された建築予定地があったと記憶していた。そこまで移動すると、鉄骨が積み上げられた陰に向かう。贈り物を小脇に抱え、携帯を開いた俺が、霊鳥を召喚しようとした瞬間だった。
「──」
 僅かな違和感。ちりりと首筋がひりつくようなこれを俺はよく、知っている。
 殺気だ。
 それも複数。次の瞬間、衝撃属性のスキルが行使されて俺の頭上で組み上がった鉄骨の一部が崩される。
 間一髪、襲撃を予期していた俺は、物理スキルを放って鉄骨をある程度薙ぎ払いつつ、大きく横に飛びのいて回避した。
 怪我こそなかったが、俺は内心舌打ちをする。油断していた。

 そうだ。俺が選んだ、大和の望んだ世界は「こう」なのだ。よりよくあろうとする向上心の負の側面。ともすれば容易く喉笛を噛みちぎられ、いつでも上下が逆転しえる世界。その上層を大きく占めるジプスの一員が、護衛もなしに外をうろついていれば、襲ってくれと言っているようなものだろう。あまり顔を知られないようにしているつもりだが、大規模な野良悪魔討伐など戦闘が絡む現場において、俺は前線に立つことが多い。見るものが見ればわかるだろうというのが実情だ。
「用件はなんだ、って聞くのも無粋かもだけど、一応」
 建設現場の近くの建物から、最初の奇襲が失敗したことに気づき、それでも逃げずに飛行能力を有した悪魔に乗って降り、直接俺と相対することを選んだ、その度胸に経緯を表して襲撃者たちに問い掛ける。体格はさまざま、多くは年若い男女だった。身のこなしからして民間の悪魔使いかと推察しつつ、見据える。
 答えはないかに思えたが、以外なことに返答があった。奇襲をかけてきた彼らの目的は、自らの力を示すこと。そのためにジプス有数の悪魔使いとされる俺と戦う機会を狙っていたらしい。図らずも俺は彼らを誘い出すかたちになってしまったようだ。
 確かに既に実力のあるものを打ち倒してみせるというのは、個の性能のみが物を言う社会で、実力を示す手段としては手っ取り早いだろう。
 ただ、些か短絡的。気概は買うけどやり口が乱暴すぎるし、彼我の戦力差の見極めもできないようじゃまだまだだ。少なくとも大和の眼鏡には敵わないだろう。そもそもアイツの近くを譲るつもりもない。
 それを指摘してやるほどに親切じゃないし、今、俺は虫の居所がよくなかった。鼻先に、甘い香り。眉が自然と下がる。
「タイホウ、アリス」
 巨大な鳥魚と、可憐さと残虐を併せ持つ金髪の少女を傍らに呼び出し、
「殺さなければ好きにしていいよ」
 ある程度存分に振る舞うことを許可する。高位悪魔の出現に色めく襲撃者たちへと、俺は携帯を構えて地面を蹴る。
 油断した俺も悪いけれど、それでも何も今日じゃなくてもよかったじゃないか。視界の端にちぎれて揺れるストライプのリボン。ばらばらになった白い籠。それらから目と意識を外し、戦いに集中する。
 真っ先に俺が動き、アリスやタイホウが続いた。はじめの一撃を避けたときに、投げ出されて潰れたチョコレートの甘い香が、吹き荒れた暴力の結果である血臭に塗り返られるのは間もなくのことだった。

「……最悪だ」
 最初の予定通りタイホウの背に乗り、現在の住居であるジプスの新しい本局への帰路につきながら俺は肩を落としていた。
 戦いそのものは程なく終わった。戦闘不能で留めた襲撃者たちの身柄はしかるべき所に連絡して引き渡した。
 その時点で俺の自由時間はろくに残されておらず、当然ながら、襲撃でパァになってしまった菓子を買いなおす時間などあるはずもない。
 自業自得だと言われれば言葉もないから、俺はそのまま仕事に戻り、後はもう普段と変わらぬ一日が過ぎるばかり。
 もうバレンタインがどうこうというのは来年に持ち越そう。大和も俺も忙しい身だ。ともすれば顔を合わせることもないまま今日が終わる。
 運がなかったのだ。なんだか切ないが、今年のバレンタインはこれで終わりだ。

 ──そのはず、だったのだが。

 夜、仕事終わりの俺を呼び出したのは、今日はもう会わせる顔がない気がしていた相手、大和そのひとだった。
 彼も何かと仕事が忙しく、今夜も深夜まで職務が立て込むと踏んでいたのだけれど、何時の間にか呼び出しのメールが入っていた。
 『23時半に展望室に来い』という色気も減ったくれもない実務優先のメールは実に大和らしい。
 風水、卜占など霊的な防衛を考えて立てられたジプスの新拠は天を差すほどの高楼で、その上層には展望エリアが存在している。街の様子を一望できるこの場所は、一般に解放されているわけではないので、概ね密談なり密会に用いられることが多かった。俺も何度か利用したことがある。
 しかし今日は呼び出される当てといえば、本日襲撃された件についてくらいだ。取り急ぎ報告も済ませていたし怪我だってしていない。説教を食らうようなことはない──と思いたいのだけど。
 何にしろ、用件も解からない以上行ってみるしかない。了承の旨をメールで返して、俺は展望室へと急いだ。

 扉を潜ればすぐに、探していた姿は見つかった。窓辺に立つ後姿へと声をかけながら、ほかは無人の室内を横切って歩み寄る。
「大和。…待たせた?」
「なに、君相手ならば待つのも苦ではない。よく来てくれた」
 復興が進んでいる証、闇夜に宝石細工のようにともる街明かりを写す窓を背に、大和が俺を振り返る。余り人待ちを好まない彼が、薄っすらと微笑む余裕すら持って迎えてくれるのは何だか嬉しい。この様子からすると叱られると言うことはなさそうだが、そうなると何故呼び出されたのか解からない。
 ああ、それにしても大和と二人きりという状況になると、益々もって昼間にチョコレートを失ってしまったのが悔やまれる。もしもアレがちゃんと手元にあればこの機会に渡すことが出来たのに。
 もうあれから何時間も経っている。頭を切り替えるべきだとどこかで解かっているのだけれど、中々難しい。意識して気持ちを一新するため、口を開く。声は勤めて明るくした。
「メールに用件書いてなかったけど、何かあったのか?」
「特別な用件がなければ、私が君を呼んではいけないというのか」
「いや、そんな事はない……っていうか、何もなくても会えるのは嬉しいけど。今日も忙しかったんじゃ?」
「君が気にすることではない。本日分の業務ならば二時間前に済ませた。その上でここに来ている」
「割と立て込んでるって聞いてたんだけど……それじゃ、特に用事はないけど、早めに仕事が終わったから俺の顔でも見たくなった、とか?」
 冗談めかして首を傾けて見せると、大和は一瞬沈黙した。らしくなく、何かを躊躇っているような間があった。やがて彼は意を決したように黒いコートの懐に手を突っ込むと何かを手にし──取り出したそれを、勢い良く俺に突きつけてきた。
「え?」
 まるで拳銃でも取り出すかのような動作だったが、眼前に出されたものはそんな物騒なものでは当然なく。だが俺に取っては拳銃級に衝撃的なシロモノだった。
「──受け取りたまえ」
 意図して感情を抑えたような声と共に速く貰えと目で促してくる。まだ信じられなくて何度も視線を、それと大和の顔との間に行き来させてから、手に取った。
 手の中には確かな軽い重みと紙箱の手触がある。シンプルだが高級そうな黒いパッケージ。大和が俺にくれたのは紛れもなくチョコレートだった。まさか、バレンタインの当日に大和からチョコを貰えるだなんて思っていなかった。どれくらいありえないと思っていたかといえば、その目的で呼び出されるというのを完全に度外視していたくらいだ。
 だが、そのありえないと思っていた事柄こそ、大和が俺を呼び出した用件であったらしい。
「これ、チョコレート……なんで、どうして? バレンタインだから?」
「ああ。俗世のくだらない風習に心から賛同して乗ったわけではないが、外から帰ってきた君は何だか落ち込んでいるようだったからな。甘いものは疲労回復に役立つだろう」
「な、何で大和がそれを知ってるの?」
 確かに外から帰ってから俺の気持ちは下り坂だったが、大和と直接顔を合わせてはいない。提出した報告書にも情けなさ過ぎるから、そんなことは一言も書かなかった。
「今日の君は疑問ばかりだな。そんなに私が君に贈り物をするのが意外なのか? …報告を受けた後で君の様子を少し見に行ったのだ。そうしたら何やら溜め息ばかり吐いているではないか」
 一瞬監視カメラか何かでも仕掛けられているのだろうかというくだらない考えが浮かんだが、大和がすぐに回答をくれたので、俺は馬鹿な考えを口に出さずに済んだ。
「君は何かイベントがある度にそれに乗って私を巻き込みに来るからな。今回もそのようにしたかったのだろう? その準備か何かがくだらん襲撃で台無しになったのではないか? それで……今回は私のほうで支度をしてやることにしたのだ」
 元々大和は話し口に淀みの無い方だが、今夜は特に立て板に水という勢いで言葉が続く。これはもしかしたら、照れ臭いんだろうか。話し終えるとふいに銀色の瞳が逸らされる。
「それで態々……仕事を早めに片付けて、これを用意してくれたんだ」
 どうしよう。嬉しい。胸がいっぱいになる。こうやってチョコレートをくれたことも、彼が気遣ってくれたことも、何より俺が何か催し事がある度参加したがるのをちゃんと覚えて、大和の方から俺のしたいことに付き合ってくれようとしてくれたのが嬉しい。
「…フン、どうだ。気分の方は?」
「嬉しくないわけないだろ! なあ、大和。こっち向いてよ」
 喜色を声音に浮かべて呼ぶと、顔を逸らしつつもちらりと俺の方を窺っていた目がちゃんと俺のを向いてくれる。視線を合わせながら、俺は大和に笑いかけた。
「ありがとう。大事にする」
「ばかを言うな。食品なのだからさっさと食べねば劣化するだろう」
「だって、何だか勿体無い。折角大和がくれたんだし」
「…………ならば、来年も君に菓子をくれてやる。だから、気にせず食べたまえ。それは君に食べさせるために用意したものなのだから」
「ホント? じゃあ、早速頂くよ」
 こんな場面で嘘をついてどうするとばかりに軽く睨んできた大和だけれど、全然こわくない。折角だから早く食べて欲しい、感想が欲しいというオーラがにじみ出ているからだ。思いがけず来年もチョコをくれるつもりがあるらしいという言質を取れたのが嬉しいというのもある。
 俺はいそいそと、でも丁寧に包み紙を解いて箱を開けた。中身はチョコ・トリュフの詰め合わせだった。ふわりと甘く豊かな香りがする。一粒摘んで口に運んだ。
「──すごく美味しい。甘い」
 ゆっくり味わってから飲み込み、素直な感想を口にすると、俺の様子をじっと窺っていた大和の口許が綻ぶのが見えた。
「本当はさ、俺も用意してて、それを大和に上げるつもりだったんだけど」
「……構わん。私にとっては本来、こんなイベントなどどちらでも良いのだから」
 そう言いながらも少し、ほんの少しだけ大和の表情は残念そうに見えたから、俺は何かしてやりたいなと思った。
「折角だから一緒に食べようよ。大和のくれたチョコだけど、こんなに美味しいんだから、一人で食べるより分けたいな」
 少し考えて、もう一粒トリュフを指で摘むと、ちょいちょいと大和を手招く。素直に顔を近づけてきた彼の前で、俺はにんまりと笑って、チョコをぱくりと口に含んだ。
 そして、どういうつもりなのかと大和が問いかけるより早く、開きかけた唇に唇を重ねた。
「っ、ん! …ぅ……」
 咥えていたトリュフチョコを舌ごと大和の口内に割り込ませ、チョコレートを交えて深いキスをする。最初は驚きに開かれていた銀の瞳が、直ぐに蕩けて、伏せられる。互いの唾液と、直ぐに溶けたカカオや砂糖の味が混ざり合って、口づけは何時も以上に甘いものになった。絡める舌も、互いの口の中も、甘い甘い蕩けるような香りと味わいが広がって心地よい。暫くたっぷりと、チョコを分け合ってから唇を離した。互いの間で零れた吐息は、熱っぽく、あまやかだ。 
「…っ、は。ほら、お前がくれたチョコレート、美味しかったよな?」
「君は……! …全く、君は常に私を飽きさせない男だな」
 頬を紅潮させながら、息を整えて言う大和に手を伸ばす。抱き締めて、約束するように言葉を返した。
「今はくれたものでおすそ分けが精一杯。でも、一ヵ月後を楽しみにしててよ。ちゃんと貰ったのに負けないくらい甘くて美味しいものをお返しするからさ」
 なくしてしまったチョコレートよりもっと、喜んでくれそうなものを用意しよう。そう、心に決めて口にする。
 すると、大和は銀色の長い睫毛を揺らして、笑うような呼気を漏らした。馬鹿にすると言うにはやわらかい、悪戯な微笑を浮かべている。
「これ以上が、あるというのか?」
 既に甘くて美味しいものを貰っていると言いたげに、ゆるりと首が傾ぐ。俺は一瞬目を瞬き、すぐに意味を理解すれば嬉しくなって、大和に微笑み返す。
「勿論。だって、これだけじゃ満腹には足りないだろ」
 それから、可愛いことを言う唇に、俺はもう一度、甘いチョコレートの味がするキスを贈った。 

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