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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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実力主義ED後に出来上がっている主ヤマのハロウィン。
ルート違いですが、「カーネリアン」とほぼ同設定の主人公の誕生日イベントも経ていると思ってください。
主人公の名前は宇佐見 北斗(うさみ ほくと)。
ほのぼのラブコメ実力主義なのは仕様です。季節ネタはだいたいあまったるい。
あと私の書く局長はたまに妙に子供っぽいですね…。
ウサミミといていろいろ影響受けてやわらかくなってるんだと思います。
 あの試練の一週間から随分経つ。
 今日は10月31日。ハロウィンだ。
 イベントごと大好きな俺としては、堪能する気満々である。たまたまその日に休暇がかち合っていた、というのもあるけれど。
 収穫祭とか死者の祭りとか万聖説の前夜だとか、宗教的な、元来の意味のほうではなく、日本に伝わってきたイベントの多くと同じく、娯楽化、大衆化された催しとして楽しむつもりだ。
 昔はさほどメジャーなイベントではなかったと聞くけれど、今では秋の行事のひとつとしてそれなりに知名度を得ていると思う。
 10月に入ってから、あちこちで紫や橙の飾りつけ、オレンジ色をしたカボチャや、お化けの類の飾りをよく見かけるようになった。
 それを見て無駄にテンションが上がった俺は、この日のためにいろいろと準備をしていた。

「大地―、トリック オア トリート!」
 ジプスの施設内、廊下の曲がり角のひとつに待機していた俺は、幼馴染がやってくるのを待って飛び出した。
「う、うわああっ!?」
 帰ってきたのは、うん、ナイスリアクション。それでこそ大地だ。
 物陰からいきなり成人男性サイズのイナバシロウサギ(着ぐるみ)とこちらは通常サイズのイナバシロウサギ(本物)二匹が出てきたらそれくらい驚いてくれないと。
 目を丸くしつつも腰を抜かしたりしなかった辺りは、大地もこの世界に慣れてきたというべきか。
「でも、俺が飛び出すまで気配に気づかなかったのはまだまだ心配かな」
「……って、その声は北斗か? お、おま、脅かすなよ! そういや、今日ってハロウィンか。でも、着ぐるみまで用意するとかどんだけ本格的なワケ?」
 やれやれと軽く肩をすくめて見せた辺りで、大地は目の前のでかうさぎの正体が俺であると、気付いたようだ。
「似合う? フミに手伝ってもらって用意した、通気性良い軽量素材でできた着ぐるみなんだ。着脱も楽々! なかなかよくできてるでしょ」
 デフォルメされたつぎはぎウサギの恰好で、俺はくるりとその場でターンしてみせた。その動作は着ぐるみと思えないくらい軽快だ。
 頭まですっぽり着ぐるみに覆われていても、視界にもそこまで不自由しない。流石フミという出来栄えである。 
「うわあ、フミ、よく付き合ってくれたな……」
「まあそこは実験に付き合ったり、データ提供したりとか取引を色々ですよ」
「お前昔から変なとこ凝り性だよな。ハロウィンだからってそこまでする?」
 大地はあきれたような感心したような顔と声で言った。
「合法的に仮装が許される日なんだからはっちゃけてもいいじゃん。で、大地くんはお菓子を渡すか悪戯か、どっちがいい?」
「……ちなみに悪戯だとどうなんの?」
「俺たちの仲魔になってもらいます」
 俺の傍らに控えていたイナバシロウサギのうち一匹が、抱えていた籠の中からごそごそとあるものを取り出す。
 ウサギが大地に向けてじゃーんと掲げてみせたのは、兎耳つきのヘアバンドだった。
 ようはお菓子をくれないなら「これを力づくで身に着けさせちゃうぞ☆」ということだ。
「その上で写メられたくなければお菓子をよこせー!」
 言いながら俺は、イナバシロウサギたちと一緒に大地を取り囲み、じりじりと距離を詰めていく。
「人間サイズのうさぎに迫られるって結構怖いんだけど! ……ええっと、ウエハースチョコくらいしかないぜ」
 上着やズボンのポケットをごそごそ探していた大地は、運よく菓子があったようで、それを差し出してくる。俺たちは大地に迫るのをやめた。
「いや、お菓子を貰うっていうのが大事だから」
 渡されたのは、個別包装されたチョコ菓子。そういえば学校帰りにコンビニでこういう菓子をよく買ったなあと少しだけ懐かしく思いながら受け取る。
 貰った菓子を、ウサミミを出したのとは別のうさぎに投げ渡すと、そのシロウサギはうやうやしい手つきで、籠に戦利品のチョコをしまいこんだ。
 籠の中には既にいくつかのお菓子が入っている。大地に遭遇する前にも何人かにハロウィンの挨拶をしてきた戦果だ。日が日だからか、菓子類を携帯しているひとばかりで、今のところまだ悪戯の被害者は出ていない。
「ありがと、大地! このヘアバンドはあげるから、誰か好きな子にでもつけてもらえば?」
 大地の手に、半ば強引に兎耳のヘアバンドを手渡す。他の人たちにも、嫌がられない限り、お菓子と交換するみたいに渡していた。
 ふわふわとした薄茶色の兎耳(野兎風)は大地の髪色にあわせたチョイスだったけど、他の誰かが付けても悪くはないだろう。
「そ、そそんな度胸があったら苦労してねーっつの! まあ、貰っとくけど」
 言いながらも捨てたり突き返したりせずに懐にしまう辺り、おぬしもすきよのう、とは言わないでおいてやった。
「ハロウィンに託けてやってみればいいのに。どっちにしろ俺は別の所に行くよ。じゃあな、大地。ハッピーハロウィン!」
「はいはい、ハッピーハロウィン。休日だからってあんまりはしゃぎすぎんなよー」
 手をぶんぶんと振って、俺たちはその場から撤収する。大地もおざなりに手を振りかえしてくれた。
 ヘアバンドをどう使ったかは、ハロウィンが終わった後にでもつつきに行くことにしよう。

 それから、暫く経った後。窓からそそぐ光は傾いてオレンジ色に染まっている。
 俺たちは、仲間が休憩している所を見計らったり、休みの人を襲撃したりしてお菓子をせしめていた。
「大漁、大漁♪」
 お菓子が大量に入った籠を見て俺とイナバシロウサギたちはご満悦だった。
 ちなみにこのイナバシロウサギたちはれっきとした俺の仲魔で、今回のイベントにおけるアシスタントである。ちゃんと届け出もしてあるから、ジプスの施設内をうろうろしていても、俺の監督下にある限りは問題ない。
「なんだかんだでみんな付き合いが良いよな」
 くりくりとした紅い目で戦果を検分し、ふわふわとした手でお菓子を手に取ってははしゃいでいるウサギたちをほほえましく眺めつつ、俺の"脅かし"につきあってくれたみんなのことを思い出す。
 伊緒や緋那子は、今日がハロウィンということでカボチャのお菓子を用意してくれていた。緋那子にいたっては、狼女の仮装でダンス披露のオマケつきだ。近頃は日本舞踊以外の踊りもいろいろと見せてくれる。
 純吾はカボチャをくりぬいてランタンの形にしたものを調理場近くで配ってた。料理人仲間がいろいろ教えてくれたらしい。
 乙女さんの所では小春ちゃんが魔法少女の仮装、合わせて乙女さんも魔女の仮装をしていて微笑ましかった。俺もちゃんとお菓子を用意していたから交換で済ませて、悪戯はされていない。
 亜衣梨や真琴さんあたりは本気で驚いてくれてた。二人ともたまたま菓子を持っていたので、ウサミミの刑は免れている。あの二人なら見てみたかったのに残念だ。
 ジョーさんだけはお菓子を持っていなかったのでウサミミをつけてもらった。ノリノリでつけられたので、悪戯にならなかった気がする。
 反応が絶対面白いだろう啓太に、ウサミミをつけてやろうと勇んでいったが、相手は俺が行くより早くに純吾にあっていたらしく、飴を持っていた。「いいトシしてなにアホゥなことしとるんや」と不機嫌そうだったが、なんだかんだでお菓子をくれたんだから、ただのツンデレである。
 史はそもそも俺のハロウィン準備の協力者なので今回の脅かしにおいては対象外。大地は比較的初期に脅かしている。

 最後に残っているのは――

「大和は、まあ驚いてくれないだろうな。眉ひとつ動かさないで『くだらん』とか言われる可能性も……」
 銀色の髪をした年下の恋人のことを思い浮かべる。
 なんだかんだで、俺がイベントごとに誘うと、付き合ってはくれるし、近頃は結構俺と一緒に『くだらないこと』を楽しんでくれていると思うのだけど。
 できれば仮装もさせてみたかったけど、生憎大和は今日も少し前まで就業していたはずだ。そこまで俺の我儘に突き合わせるのは申し訳ない。
「まあ、そうしたらさくっと謝って、あとはお菓子を一緒に楽しむでいいか」
 ここでうだうだ悩んでいても仕方ない。ハロウィンが終わる前に、ラスボス(大和)を攻略しに行こう。
 大和と食べようと思って、みんなと交換する用とは別に、カボチャのパイを用意してある。そのうち半ホールは、他のお菓子と一緒に、今日付き合ってくれたイナバシロウサギたちへのご褒美だ。
 あらかじめ半ホール分を切り分けて紙の箱に入れ、他のお菓子をきっかり半分とりわけて、ウサギたちに渡す。
「つきあってくれてありがと。おつかれちゃん。菓子持って、仲魔のところに帰んな」
 イナバシロウサギたちはもういいのか?という目を俺に向けたので、頷いて返した。ここから先は、大和とふたりきりがいい。
 俺以外の誰かがいると――大和は気を張って、あんまりかわいい顔を見せてくれないからだ。親しんだ悪魔に対しては警戒は薄めだけど、それでも皆無ではない。
 携帯を操作して、お菓子を持ったイナバシロウサギたちを送還する。
 ばいばいと手を振った二匹に、手を振って返してから、残りのお菓子を手に、俺は局長室を目指してぽふぽふと歩いて行った。

「大和ー、トリック オア トリ「遅い!」」
 フリーパスのカードキーでロックを外し、ノックもそこそこに扉をあけて脅かそうとしたが、決まり文句の途中でにべもなくぶった切られた。
 大和は椅子ごと俺に背を向けていて、綺麗な銀色の髪がひょんと跳ねた後ろ頭きらいしかまともに見えない。
 しかし、怒られるというのは反応として予想していたが、こちらも見ないまま、今、遅いって言わなかったか。しかも、平時の大和には珍しく声を荒げる、なんて。
「ねえ、大和」
 名前を呼んで、歩み寄っても帰れとは言われなかったから、許可されているのだと思って近づく。
「…………」
「もしかして、俺が来るの、待っててくれたの?」
 近くまできて、俺はそこでようやく気づく。後姿だけ、ぱっと見たときはいつもと同じ黒い服を着ているんだと思ってた。でも違ってた。
 ウサギの着ぐるみじゃ恰好がつかないのに、抱きしめたくなってしまった。
 いつもの黒いコートじゃない。艶やかで重たい生地の長い黒マント。絹の飾りシャツに黒いタイ、ベストにズボン。古風な中世貴族のような装い。長めの八重歯が特徴的な大和には、なるほど吸血鬼の仮装は、良いチョイスだ。実際、この上なく似合っている。品があって、同時にどこか退廃とした色気がある。
 まさか、大和がハロウィンの仮装をして俺を待ってるなんて予想してなかった。
「……君は、こういう、俗世の行事が好きだろう。だから、」
 偶には私から君に付き合ってやろうと思ったのに。
 小さくつぶやいて大和は目を伏せ、唇を噛んでいた。恥ずかしいのとか口惜しいのとか他にも色々と混ざった、複雑な、ちょっと子供っぽい顔だ。
「大和、こっち見て。あと唇噛むなってば。痕になるだろ?」
 ああ、もう。格好悪いとか言っていられないな。俺は大和の執務机に菓子の山を置くと、こちらを睨みつけながらも俺の方を向いてくれた恋人のことを、ぎゅうっと抱きしめた。
「待たせてごめん。まさか、お前がそこまで俺に付き合ってくれるって思ってなかった」
 でも、互いの誕生日やホワイトデー、バレンタイン、そんな今まで経てきたイベントごとを思うと、大和がこういう風にしてくれることは予想できてもおかしくなかったのに。
 仮装なんてよっぽど強く進めなければしてくれないと思い込んでた。大和だって少しずつ、俺といて変化してるのに。
「その恰好も、待っててくれたのも、嬉しい。ありがとう」
 着ぐるみの下で微笑みかけても表情は伝わらないだろうから、できるだけやさしさと、愛しさを声音に込めた。
「君がいつも楽しそうにするから、私が君を喜ばせられるならば悪くはないと、そう思って」
 おとなしく腕に収まる恋人の背を撫でてやると、やがて大和は顔を見せまいとするように俺の胸元に顔を押し付けてきた。ぎゅっと、白い手が着ぐるみの布をつかむ。
「何時、君が来るかと待っていたのだぞ。菓子だって、用意した。なのに君は、ちっとも来ないで。他の者の所に行っていたのだろうが、休憩時間なり、なんなり、もっと早く来てもよかろうに……」
 大和には珍しい愚痴っぽい言葉は、それだけ大和が俺が来てくれるのを楽しみに待っていたということで。期待していたと言う事で。こんな我儘は他の誰にも見せたり聞かせたりしないだろうから、それさえ可愛いと思えてしまう俺は、重度の恋人バカである自覚はある。でも改めるつもりはあんまりない。
 どちらかというと、申し訳ないなという気持ちが強い。でも、言い訳になるが、俺も別に好きで大和の所に来るのを後回しにしたわけではなかったのだ。
「いや、お前の仕事の邪魔したら悪いなって思って。真琴さんに様子聞いたら、お前が「今日は夕方まで籠って仕事するから、急用以外は人をできるだけ近づけるな」って言ってたって……あ」
 だからこそ終業まで待ってここに来たわけだが、話しているうちに大和の意図していたところに俺は遅まきながら気づいた。
「もしかして、大和、今日ずっとその恰好だったの?」
「ああ。朝に今日の分の仕事を早めに片づけてそれから着替えた。君以外のものが急用で入ってくるようなら、魔法で誤魔化すつもりだった」
 答え合わせには十分だった。人を近づけるなって、ようは仮装をできるだけ見られたくなかったからだ。仕事も早くに片づけてたなら、俺と一緒に居るつもりだったんだろう。そう考えるとものすごくもったいないことをしてしまった気がする。
「ごめん。本当にごめん。電話でよんでくれてもよかったのに」
「それでは君を驚かせられないだろう。君だってアポなしで私の所に来たではないか」
「返す言葉もございません……でも、すごい似合ってて綺麗だから、他の奴が見ないでよかったよ」
 時間はどんなに望んでも巻き戻せないから、今を楽しむことにする。
「君以外の人間に、理由もなくこのような浮かれた格好が見せられるものか。……君の浮かれ方も大概だがな」
 声音は突っぱねるような印象だが、さっきの褒め言葉は有効だったみたいで、大和は形の良い耳が、ほんのりと赤く染まっていた。きっと顔も紅潮しているだろう。見たいなと思う。
「えー、可愛くない? 俺はかわいいと思うんだけどな」
「可愛い云々は私に聞かれても回答に窮する。まあ、君らしくは、あるか」
「まあ可愛い勝負は俺の腕の中ひとの前では白旗なんだけどねー」
「だ、誰のことを言っている……!」
「大和のことだけど? ね、大和。だからもっとよく見せて。顔も上げてよ」
「……断ると言っても、君は強引に私の顔を上げさせそうだな」
 俺の行動パターンをある程度呼んでいる様子で大和はようやく顔を上げてくれた。やはり目許までほんのり赤い。予想通り――いや予想以上に、何ともかわいい吸血鬼さんだ。
 まあ、これ以上思ってることを口にしたら怒られそうなのでそこは秘密にするけれど。
「うん、やっぱりもっと早くに来ればよかったな。普段見られない大和が見られたのにね」
 ごめん、ともう一度口にすると、大和はゆっくりとかぶりを振った。
「もう気にするな。……君が私を気遣って今の時間に来たのだと言う事は理解していたさ。少々大人げなかったな」
「まだ二十歳にならないんだから別に大人げなくてもいいんだけど? 少なくとも、俺の前では」
「着ぐるみで言っても恰好がつかんぞ、北斗」
 大和の言うことももっともだった。しょんもり俺が肩を落とすと、大和が小さく笑う。
「なに、その恰好も悪くはない。北斗、君は今日は休日で夜もあいているな。そのまま私に付き合え」
「そのままってこのウサギの着ぐるみのままってこと? なに?」
「一年のうち、今日の夜から明日の朝にかけて各地で魔界との門が開く。そして、神魔の類が集って地上で祭りをするのだ。そこに行く」
 ハロウィンの原義を思い出す。サウィン祭。古代ケルトの、太陽の季節から暗黒の季節に移り変わる間には不思議なことが起きるともいう。でも、まさか本当に"不思議なこと"が起きるだなんて。
 去年は大丈夫だったのかと大和に尋ねると、去年はまだ世界が不安定であり、こちらに姿を見せる悪魔は少なかったから大事ではなかったと説明をくれた。
「ただ集まって騒ぐだけならば然程問題ないが、一年空けているからな。調子に乗ってひとの領域を侵すものがあれば排除せねばならん」
「ようはパトロール?」
「そういうことだ。そして、悪魔の催しに行くのだ。人間であるとばれにくい方が良い。祭りを無粋に邪魔立てしたとあれば不用意に刺激してしまうのでな」
「理解した。まあこの着ぐるみならパッと見て正体解らないよね。大和も何時もの制服じゃなくてその恰好でいくの?」
「ああ、あとは仮面のひとつもつければ、変装として十分だからな」
 一応、仮装はただ俺に付き合ってくれたばかりじゃなく、実利も兼ねていたらしい。大和らしいと言えばらしい話だ。
「何事もなければこの世ならぬ祭事を見学できる稀有な機会だ。北斗は、珍しいものが好きだろう?」
「まあ否定しない。お前といると本当飽きないよ。なかなか経験できないようなハロウィンデートになりそうだ」
 実際、そうそう参加できることではないから、楽しみではある。声音が自然と弾んだ。大和が見透かしていたようにかすかに目を細める。
「何かあればフォローしてやる。羽目を外しすぎない程度に楽しむと良い」
「そうする。ああ、でもその前に」
 夜までまだ猶予はあるはずだ。お菓子を一緒に食べる時間くらいは欲しかったし、言えなかったことを言っておこう。
 だって、大和は準備したと言ってくれたから。
「大和、トリック オア トリート」
 先程言えなかったハロウィンの決まり文句を口にする。
 お菓子か、悪戯か。
 可愛いことばかりする、目の前の吸血鬼は、お菓子よりもずっと魅力的だったけれど。折角俺のために準備してくれたんだから。大和のお菓子が欲しい。
 ぱちりと目を瞬いた大和は、「仕方がないな」と何処か嬉しそうな顔をして、きっと自分で詰めたんだろう、手製と思しきラッピングで、クッキーがたくさん詰まった袋を俺に手渡してくれた。
「大和がくれたお菓子が一番うれしい」
 その時の嬉しそうな様子は俺にとって、甘いお菓子にも負けないくらいの、素敵なおもてなしだった。
 夜になればきっと少し忙しくなる。だから、それまではお菓子を一緒に食べながら、二人だけのハロウィンをできるだけ楽しんでおこうと思った。


※おまけ

「所で、大和は俺に言わないのかな。折角仮装してるのに」
「……。いった方が良いか?」
「折角だし!」
「わかった。…………北斗、 トリック オア トリート」
 小声で少し恥ずかしそうに言う所が可愛い。俺はなんだかもっと弄りたくなってしまった。
「ところで、トリックって言ったから、大和は俺にどんな悪戯してくれるのかな」
「待て。菓子ならそこに沢山あるだろう」
「いやあ、だってあれは二人で一緒に食べる分だし?」
「ぬかった。図られたか……!」
「悪戯用意してないって言うならナシでもいいけど?」
 ぐぬぬ、と大和はうめいた後、俺を軽く睨みつけて、「頭を取るぞ」と言ってきた。俺は少し震えあがる。
「え! ちょ、ごめ、俺怒らせすぎた?」
「何か誤解しているようだが、君の着ぐるみの頭部の話だ」
 言いながら、カポッと大和はイナバシロウサギ着ぐるみの頭を外す。久しぶりの空気は心地よい。
「少し汗ばんでいるな」
「どんなに通気性がいいって言っても着ぐるみは着ぐるみだしねぇ。それで、どうしてくれるの?」
「今日の私は吸血鬼の恰好だからな。それらしく振舞おうと思う」
「え?」
 次の瞬間、大和は俺の肩に手を置いて首筋に顔を近づける。
「……ッ!」
 首筋に軽く痕が残るくらいに、歯が、立てられて。吸い上げられる。
 吸血の真似事、なんだろうが。
「どうだ」
 俺の反応に、大和はしてやったりとばかりドヤ顔をする。
「君にはいつも驚かされてばかりだからな。偶には意趣返しだ」
「…………」
 いや、たしかに今の行動には度肝を抜かれた。でも、同時に、そんな可愛いことをするといけないスイッチも入ってしまうんだけど、ね?
 まるでキスマークを熱心につけられたみたいでドキリとした。
「大和」
 俺は器用に手早く着ぐるみを脱ぎ捨てると、目の前の恋人を捕まえて、執務室の机に痩躯を押し倒していた。
「そんな可愛い…もとい、悪い吸血鬼は退治しないと、だよね」
「なっ、待て、この後は視察に行くと……ッ!!」
「大和がこれ以上可愛いことしなかったら、キスだけですむよ」
「ば、ばかも…の、…んんっ、ゃ……」
 深く重ねた唇、とろんと蕩けるひとみは、砂糖菓子より甘く思えて、キスだけで満足できるよう自制することに、俺は随分と苦心する羽目になった。

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