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勝手に練切さんのお誕生日に差し上げられたらいいなあと思って書いていたのですが、おたんじょうびははるかかなたに過ぎ去り、いまだ終わりが見えないので、自分を追い立てる意味でも書けてるところまでブログのほうに挙げてみました……。
ゲームもアニメもまるで関係ない完全にパラレルでウサミミさんが人狼、局長が狩人となっております。
続きはまた何れ、近いうちに。
むかしむかし、あるところに人を食う悪い狼たちがおりました。
その中でも一等強く、悪賢い狼の御頭は、癖のある黒毛皮に青いまなこ。
何度死んでも生まれなおす不思議な術を覚えていたので、どんな狼よりも恐れられていました。
大体の欲しいものは苦労しなくとも手に入ったので、狼は、何時もどこかで退屈していました。
なんでも予想の外に行かない、というのは、積み重なればひどくつまらないものです。
ずっとずっと、自分をこの退屈から解放してくれる何かを、狼は探し続けていました。
ずっとずっと、待ち焦がれていました。
――あの日、運命に出会うまでは。
1、はじまりはじまり
うさぎ草の生い茂る野原で、狼は月を見つけた。
仲間と村をひとつ滅ぼした帰り道。村の人間は最後の一人まできれいに平らげてしまったから、これで半年は何も食べなくていいと満ちた腹を抱えて、狼は上機嫌だった。
血の匂いを川で洗い流し、日向で乾かした毛並みはふかふかで、気分がいい。
狼たちの食卓になったあの村は、簡単に人狼にだまされる善良な人間ばかり住んでいたので、仲間たちは喜んだが――狼からすると退屈で仕方なかった。肉の味だけは良かったので、最後でこうして機嫌も持ち直ったけれど。
次の狩りは当分先の話になるが、その時はもう少しばかり張り合いがあると良い。何しろ先立って食べ尽くした村には、狼の天敵となる占い師をはじめとする異能者も、狩人もいなかったのである。
狩人は狼にとって良い遊び相手だ。あの、彼らと対峙する時の、一歩間違えば死ぬかもしれないという、ひりつくような緊張感がたまらない。生きているという実感がする。
実際何度かしくじって殺されそうになったこともある。それでもまだこの首を落とされるには至っていない。
何時か何処かの誰かが自分の喉笛を掻き切るだろうか。それはそれで面白いと思っていた。狼は生まれてこの方思い通りにならないことなんてない生き方をしていたので。
とはいえ、無駄な狩りは趣味がよろしくない。獣は獣なりに分を守るものだ。
しなやかな四肢を伸ばして、狼はくあっと大きな欠伸をひとつ。暫くは寝て過ごすのもいいかもしれなかった。
今日の寝床を探して歩き出そうと、狼がひと足踏み出した。その時だった。
夕映えの空を渡る、不思議となぜか懐かしく思える歌を聞いた。
狼の大きな耳を震わせたのは、今までに聞いたこともないうつくしい歌声。
野を渡る風に紛れて玲々と、奇跡のように――あるいは運命の悪戯で――狼の胸をも奮わせた。
背の高いうさぎ草を静かに踏みしだき、狼は声の主を探した。
歌声は甘く低く、言の葉は狼も知らない異国の響き。好奇心のままに近づいていったところで、狼は地上に月を見た。
やわらかそうな髪も、長い睫毛も、艶やかに光を弾くしろがねの色。
紫がかる硝子のひとみは、西日よりも強い光を湛えていた。
冬の初雪のように白く、つめたく、綺麗な――すらりとしなやかに背の高いニンゲン。
狼が、刹那、地上の月と見間違えたのは、喪服のように黒々とした裾の長い装束に身を包んだ銀色の髪の少年だった。
人間の感覚をなんとはなしに察することはあっても、実感が伴ったことはなかったが、狼は初めて綺麗な人間と言うものにあったと、そう感じた。
獣は歌をうたわない。狼が上げるのは遠吠えだけだ。
だからこそ心惹かれて――その音色に夢中になっていた狼は、ここで漸く気付く。
同族の、死のにおいがする。
ゾクリと背筋を走った戦慄。おぞましく甘美なこの感覚には覚えがある。
ああ、この人間は、狩人だ。遅まきながら理解した。
人間の足元に焚かれている火からは、まじないの匂いがする。あれは同族の骸を焼くための送り火。
力と歳得た狼は幾度でも生まれなおすと伝説にうたわれている。それを防ぐために、狩人は狼のなきがらを焼き尽くすのだという。
ならばこの歌は、狼が惹かれたこの歌声は、弔いのためのものだったのだろう。
狼は笑った。
ひそやかに笑った。
何の感情もないかのように、淡々と狼を焼くというのに、この声はかくもうつくしい。
恐怖、憎悪、あるいはもっと別の何かでも、染め上げたならそれはどんなにかうつくしいだろう!
硝子のごとくに透明なひとみ。その眼が狼を、敵と定めてまっすぐに射抜くなら、その時どんなにか輝くだろう!
今、野火に焼かれて灰となりゆく同族はそれを見たのだろうか。聞いたのだろうか。そう思うと妬ましくさえなったのだ。
伝統にのっとったつるし首で死んだわけではないようだ。その同属の死骸は、頭と胴が泣き別れになっていた。狩人と戦ったのだろう。
狩人とはいえ狼を狩るのは容易ではない。合い討ちでなく狼を殺しうる狩人は貴重だ。目の前の白銀の少年は、そんな稀有な狩人のひとりなのだろう。
年のころは17、8と、まだどこかあどけなさが残るというのに、ひとは見かけによらぬ。面白い、面白い。楽しみだ。
決めた。決めた。仲間を集めよう。この少年の住まう村が次の食卓だ。
時間をかけて念入りに準備をして――だましあいを、化かしあいを、殺しあいをしよう。
星のように冷たく輝く青い双眸を細め、裂けた口がにんまりと三日月の孤を描く。
瞬間、よからぬ気配を感じたかのように狩人が弔歌を止めて、顔を上げる。
ここでばれては興ざめだと、正体を完全に気取られぬ前に狼はそそくさと姿を隠した。
気配のもとに少年が、切れ長の銀眼を向けたその時には、うさぎ草の茂みの中、わずかにけだものの痕跡が残るだけ。
かくして、この偶然が、永い長い追いかけっこの始まりとなることを、狼も狩人も知らなかった。
この時は、まだ。
***
銀色の髪のうつくしい狩人に興味を持った狼は、ひとに化けて彼の住む村へと紛れ込みました。
人狼が人を喰らうときの常套手段です。
ひとのふりをしてひとに紛れてしまえば、それこそ狩人にも、昼の狼を狼だと見破ることは難しいのでした。
狼が望んだ狩人は優秀だからでしょうか。周りの人間とは随分と距離がある様子でした。
ひとに成りすました狼はこれ幸いと孤独な狩人に近づきました。
屈託なく、懐っこく、友達になりたい、ただの人間の若者であるかのように。
実際嘘ばかりでもないのでした。
狼も何しろずっと孤独でしたから。
2、開拓村の狩人
開拓村と言うのは人の出入りが激しい。
新天地で一山当てようと言う人間は、何処か行き詰まりを感じさせるこの国のなかを探せば幾らでも見つかる。
だが、やってきても残り居つく人間と言うのは実はそう多くない。
僻地の厳しい現実に夢破れ短期間で去る者が半ばで、あるいは環境の厳しさに体調を崩し、あるいは怪我をして、残らない。
仮令辛抱強く運良く生き残っても、辺境の村に出没する人外の化け物ども――人狼がやってくれば、人間の多くは無力なものだ。
これまで国の半ば以上を囲む森林地帯がまるで開発されていなかったのは、人狼の存在を恐れてのことである。だが、人口が増え土地が足りなくなれば、ひとは死を覚悟してでも森に分け入るほかはない。案の定、毎年多くの人間が狼たちに食われて命を落としている。
森に入らずとも、森の傍に生まれた開拓村に狼たちは忍び寄ってくる。ひとに化けて、ひとに紛れ込んで。
それでも村に人狼が現れると、村の中からは呼応するように狼に対抗する異能の力の持ち主も現れる。それは生きている人間が人か狼かの判別ができる占い師だとか、対となった人間が人間であることを知っている二人一組の共感者だとか、死体が人間か狼かを判断できる霊能者だとか呼ばれる存在だ。そういった"役職持ち"は、神が人に与えた守護だというが、決して強い力ではないし、異能者が村にまるで現れないこともある。
だから、開拓村のうち、ある程度余裕のある村々は、人狼と戦うことを専門とする狩人を雇い入れ、守り手として村に滞在させる。
ヤマトはそうして、この村に招聘された狩人の一族のものだった。一族のものは揃って、人外の化け物を狩り、人々を守るためにその人生を捧げる。
技を、力を、知恵を磨き、人の中に紛れて人を喰らう夜のいきものを屠るが役目。
ヤマトは未だ年若いが、一族の歴史をひも解いても類を見ないほど優秀で、これまでに五つの村を守り抜き、二十近い数の狼を討ち取ってきた。
人外のものと戦う狩人と言っても、完全に人に擬態しきった狼を見抜くことはできない。
だから、言動などを慎重に見聞き、わずかでも尻尾を出したならその証拠を持って狼を追い詰め、古式に乗っ取って昼の内につるし首にするのだ。
昼、それも人の皮をかぶっている時は、いかな人狼といえど全力を発揮することはできない。加えて奴らの多くは、一度ひとに化けてしまえば夜になるまでは狼の姿に戻ることも不可能だ。
この方法は時に冤罪を生み、無辜の人間を吊し上げることも少なくなかったが、それでも村の全てが狼の腹の中に納まるよりはましだ。
ヤマトは、夜、実際に人狼と相対する際の戦闘能力にも優れているが、それと同等に観察眼と推理力に長けていた。
人狼を的確に見つけ出し、絞首に処す。村人はどうしたって情が絡みついて、判断を誤り、狼を見逃すことがあるから、ヤマトのようにはいかない。
狼どもは狡猾だ。隣人の顔をして近づき、親しくなり、そうして笑いあった人間を、容赦なく喰らうことが出きる。
恐ろしくおぞましい生き物。人ならぬいきもの。そのようなものから人間を守るために、ヤマトのような狩人は求められて居るというのに。
人々は、ヤマトのほうをこそ人間ではないような目を向けてくることがある。情け容赦もなく、泣いて止めてくれとかばう村人を一顧だにすることなく、人狼と目した村人を吊し上げる。その行為が、眉ひとつ動かさず死刑執行を行う姿が、村人の眼には冷酷非道に映るらしい。それは必要であるからやっていることであって、ヤマトはなにも誰彼かまわず処刑しているわけでは決してないのに。
結果として、ヤマトは人狼の脅威を村から退けたところで、やんわりと村を出るように勧められることを繰り返してきた。
今暮らしているこの開拓村は、ヤマトが守護すべき滞在地としては六つ目にあたる。
ヤマトは優秀すぎるが故にずっと孤独だった。理解されなかった。
無慈悲に処刑をなす狩人という評判が広まっているのか、最近は村に来た段階で既に遠巻きに扱われる。
それでも良いと思っていた。情など、下手に持てば目を曇らす。村人からはある程度距離を置いている方が、狩人としては都合がよい。
数か月前にもまた、村に入り込んだ狼を仕留めた。
性質の悪いことに、その人狼には村の中に人間の恋人がいた。どんな気持ちで餌と恋愛を育んだのか、はたまた村に融け込むための演技の延長だったのか、判断するすべはヤマトにはない。
正体のばれた人狼は、稀有なことに昼にも拘らず擬態を解いて逃げ出した。ヤマトはそれを許さず、狩り立てた。
騙されていたのだろうに、それでもその狼の恋人だった男は亡骸に縋り付いてないた。
ヤマトが、それがよみがえっては困るからと引き剥がそうとしてもなかなか離れようとしないほどに、その男は狼であった女と仲が良かったらしい。
一晩だけ別れを惜しむ猶予を与えてやっては、などと、被害者が多く出ていたにもかかわらず甘っちょろいことをぬかす村人たちには辟易した。もしも狼が夜によみがえり、また村人を襲って犠牲が出たらどうするつもりなのか。
ヤマトは譲らず、泣く男から狼の死体を奪い取り、村はずれの草野に運んで、まじないの火で骨も残さず焼き尽くした。
以来、ヤマトはますます村人からは距離を取られている。もう慣れたことだ。どうでもよかった。
必要だから行ったことだ。ヤマトがどう思われようとも、これ以上犠牲者が出ずに済むならそれでよいのだ。
この日々は、何時かヤマトが狼に敗れて命を落とすまで変わるまい。そう思っていた。
なのに、
「ヤーマト」
夕映え迫りゆくころ、今日もまた闖入者のこえが、ヤマトの住む小屋に響き渡った。
「俺、俺だよ! このドアをあけてよ」
ヤマトは小さくため息を吐きつつも、無視は決め込まずなんだかんだで律儀にドアを開きに行く。
声の主はヤマトが姿を見せるまでは長いこと帰らないと知っていたからだ。
「また来たのか。何の用だ」
すると顔を覗かせたのは、奔放にはねる黒い短い癖毛に、青く冴え冴えと光るひとみを持った、大和と同年代の若者だった。ヤマトの姿を認めるとにっこりと嬉しそうに笑う。背はさほど高い訳ではないが、しなやかな身体つきと生気にあふれた表情が魅力的な、若い娘が放っておかないだろう男ぶりである。
人狼に食われたものを補充するように開拓村ではよく求人の知らせを外に出す。募集を受けて、先ごろ何人かの移住希望者が村にやってきた。その集団のなかの一人だった。流行り病で親を亡くして、金も仕事もなく食い詰めて、生きるためにこの村にやってきた。食い扶持を求めて開拓地へやってくるというのは、掃いて捨てるほどよくある話である。
ただ、この黒髪の彼は、どうにも警戒やら危機意識、忌避といった感覚が壊れているらしく、ヤマトの何を気に入ったのか、こうして何かと小屋にやってくる。
そのくせ彼は能力は優秀で、狩猟も釣りも力仕事も人一倍上手にこなし、足も速いし目端も利く。仕事がなかった、というのは運や機会に恵まれなかっただけなのだろう。
「山鳥のいい奴が獲れたから、ヤマトにもおすそ分けに来たよ」
弾んだ声で用事を告げ、大きなカバンから、締めて血抜きしたあとだろう丸々太ったキジバトを取り出した。得意げに、獲物を主人に自慢する大型犬のような懐こい顔をして見せてくる。
「必要ない。自分の糧位は自分で得られる」
「まあまあ、いいからいいから。俺が晩御飯つくるよ? ヤマト、俺が作る御飯、すきでしょ」
ヤマトとしては、特別彼と仲良くするつもりはない……なかった、のだ。なのに、彼の方からずかずかとヤマトのほうに歩み寄ってくる。
他の村人との関係が悪いという訳でもないのに。むしろ、やってきてから数日であっという間に開拓村に馴染み、信頼を得ている。村の人間とたのしそうに談笑している姿を、村に降りると時々見かけることもあるくらいだ。
そんな彼が、どうして、何を思ってヤマトに近づいてくるのかはわからない。
狩人を騙そうという狼なのか、とも思ったが、 ほかの村人から狩人に近づくことばかりはよく思われていないようだと、ヤマトも知っている。もしも彼が狼ならばこんな悪目立ちするような真似はせず、寧ろ他の村人に迎合してヤマトからは遠ざかるだろう。
何かあった時護って欲しいのだろうか? そんなことをせずともヤマトは役割を果たすだけなのだが。
人の心理や計算を見ぬくことに長けたヤマトにもわからない、読めない男だった。
「……まったく、ほんとうに奇特な男だ。わかった。入りたまえ」
しかし、何時からだろう。何故だろうか、無下にすることができなくなった。
「わあい、ありがと! ヤマトだいすき」
あけすけに好意を示し、何時の間にか傍に居ることが当たり前になって、彼と囲む食卓は悪くないとそんな風にヤマトは思い始めていた。
誰かに執着を持つなど良い結果を生むはずがないのに。
なのに、一見軽薄そうに見えるわりに、話してみれば彼の言動からは見識や判断力、理知が覗きみえる。
他愛ない会話であるが、軽口を交えながら、彼と世間話や互いの知る異国のことを話すのは、これまでになく興味深く得難い時間になっていた。
「あと今日はさ、チェスであそぼうよ。この間、行商の人から仕入れたんだ。ヤマト、こういう頭使う遊び好きだろ」
「ほう、懐かしいな。……言っておくが、手加減はせんぞ」
「当たり前だろ! そんなのしたら許さないって。でも、俺だって簡単に負けてやらないからな」
ヤマトの興味を引くためか、あまり裕福な暮らしをしているわけではないくせに、彼は何かと遊び道具もここに持ち込んでくる。
そうして、彼と他愛ない遊び、無駄と言えるだろう者に興じている時間もまた、ヤマトにとっては悪くないといえるものになっていた。
はじめての友人と、そう呼んでも差し支えないだろう存在。
ヤマトはまだ自分でも気づいていない。青い目の彼を見る己の視線が柔らかく、優しいものになっていることに。
そして、ヤマトは知らない。邪気なく笑い、ヤマトを引き込む、青く星のように透き通るその瞳が、数か月前、うさぎ草の野原でもヤマトのことを見ていたのだということを。