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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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ヤマトプラスのタイトルでノベルゲーム未満の形でピクシブにあげているもの。
ブログではルートごとにまとめて収録。なので冒頭部分は全ルート、一部ルートは内容が少しだけ共通です。

今回は天然素直ルート(主ヤマ)。
なんか大和さんがかわいいものとか好き過ぎたりおとめちっくな気がするが、ウサミミが絡んでなかったらそうでもないはず。

 卸したての真新しい上着を羽織り、俺は鏡の前で背筋と居住まいを正す。
 何時もより丁寧に梳かした髪には、寝癖のひとつもなくふんわり纏まっている。
 昨晩は落ち着かなくてなかなか寝付けなかったけど、早めにベッドに入ったおかげで睡眠時間は十分だ。
 寝ぼけたり睡眠不足が覗く顔で、あいつに会いに行けない。
 だって、今日はそう、待ちに待ったクリスマスデートの日なのだ。

 カレンダーの日付は、クリスマスイヴや当日からは少し早いけど、俺たちにとってはそういうつもりで約束した日なのである。

 思い浮かべるのは、淡く紫がかる銀色の髪とひとみ。白い整った顔と、凛とした立ち姿。
 本来なら出会うはずもなかった相手。紆余曲折を経て、恋人同士といえる間柄になったひとつ年下の少年。大和のこと。
 若くして組織ひとつのトップである彼は、年中無休を地で行くブラックな職場に身を置いていたが、世界が災厄から巻戻った後は多少なりとその労働環境も改善されつつあるようだ。
 といっても、忙しいことに違いはなく、大和のオフ日は宝石よりも貴重なものだ。
 わけてもクリスマスから年末年始は、神霊妖魔の類が落ち着きをなくしたり、地磁気に影響が現れたり、そうでなくても大和は家の行事や儀礼などがあって一年でも一、二を争う忙しい時期である。
 だから、恋人になってから初めて迎えるクリスマスといっても、一緒に過ごせるわけがない。解っている。
 あんまり我儘を言うと大和を困らせるか不快にするだろうことも予想できていて、それでも未練がましい気持ちを捨てきれない俺は、せめて一回だけ誘ってきっぱり断って貰おうと思っていた。
「ねえ、大和。俺とクリスマスデートしない?」
 大和はその辺り容赦ないから無理なら無理だと叩ききってくれる。それですっぱりあきらめがつくと、完全に駄目元で声をかけてみたんだ。

 そうしたら、意外も意外なことに、大和はOKをくれたのだった。

 

「当日は無理だが、君の誘いとあれば時間を作ろう。……その前週の、日曜ではどうか?」
 俺はびっくりして目を丸くした。その反応に大和は軽く眉を寄せる。
「どうした、誘ったのは君だろう。なぜそんな驚いたような反応をする?」
「ご、ごめん! いや、お前絶対忙しいって断るだろうなって思ってたから」
「君が私に教えたことだぞ。時には休暇も必要だと。……それに、折角の君からの逢瀬の誘いだ。恋人の願いひとつくらい、叶えてやるのも男の度量と言うものだろう」
 俺の言ったことは存外大和に影響を与えているみたいだ。
 胸がじんわりと暖かく、うれしい気持ちで満たされる。
「ありがとう、大和! じゃあ、当日だけど――」
 大和の手袋に覆われた手を握り、ぶんぶんと大きく振る。俺はきっとその時すごく浮ついた顔をしていたに違いない。
 大和はあまりの俺の機嫌の上昇ぶりに幾らか面喰いつつも、当日の過ごし方をあれこれ相談するのに付き合ってくれた。

 結果、俺の住んでいる近所の繁華街で遊ぼうという辺りで落ち着いた。

 クリスマス前の日曜日。そのころには街は既にクリスマス前の賑わいに包まれていて、雰囲気を味わうには十分だ。
 大和はあまり喧騒は得意としていないから適度に休憩も挟むつもりである。
 デートが決まったことに俺は諸手を上げて喜び、その日から、少しでも楽しんでもらえるように細かいデートプランを一生懸命練って過ごした。
 
 そして、今日がその当日である。これからまず駅に大和のことを迎えに行く予定だ。
 そう言っておかないとあいつ、黒塗りの高級車で乗り付けそうだったし。
 時計を見る。時間にはまだだいぶ余裕があるが、何があっても言いように早めに家を出ておこうと決める。
 浮足立つ足取りをどうにか抑えつつ、家を出たところでばったりと大地に出くわした。
「およ? めかしこんでどうしたよ。どっか行くの?」
「ふっふっふ、デートですよ、大地君!」
「にゃ、にゃにぃ~!? って、驚いたけど、そういやお前大和とつきあってるんだよな……」
 胸を張った俺を見て、驚きのリアクションを見せた大地だったが、はたりと思い出したように頬を掻く。
「お前、結構モテるのに、なーんで可愛い女の子の知り合いを尽くスルーして、男に走ったかね~」
「いや、みんなから見た俺ってせいぜい『いいひと』止まりだったと思うけど。っていうか、俺は別に男が好きなわけじゃなくて大和が好きなだけだよ」
「お前が真剣にそう思ってるのは俺も知ってるけどさ。前々から聞きたかったんだけど、大和の何処を好きになったのよ?」
 そりゃ、アイツお前に惚れ込んでスキスキオーラ出してはいたけど。
 そんなことを言いながら大地は首をひねっている。

 俺の答えは――

「真っ直ぐでがんばりやで、大和って結構可愛いよ?」
「可愛いって、大和からは遠い形容に想えるけどなぁ」
「仕事中はまあ鬼の局長だけどさ。そうじゃないときはあいつ、反応素直だし、ちょっと天然入ってるし、傍で見てると可愛い奴だよ」
 予想の斜め上を突いて来られて時に驚愕することもあるけれど、それはそれで退屈しない。
 俺といるときの大和は、十七歳の、少し世間知らずで人と親しくすることに慣れていない少年の顔が垣間見える。
 何時も大人びて落ち着いた彼が、そうして俺の前でだけ見せるどこかあどけない様子が、俺はとても好きだった。
「あの大和がねぇ……まあでも一番近くにいるのお前だろうし、俺の知らない顔も色々見てるんだろうな」
「一番だといいなって思ってるけど、どうかな。……ああ、さっきから言ってること、大和本人には内緒な。機嫌悪くなるから」
「そんなん言ったら俺ちゃんも睨まれてるっての! しっかし、お前ほんとに大和のことすごく好きなのな。ごちそうさん」
「お粗末様っていえばいいのかな、この場合。さてと、待ち合わせに遅刻したらまずいし、俺、そろそろ行くよ」
 腕時計を見る。余裕を持って出てきたから、まだ時間は大丈夫だけれど。
 大和が気早く出てきたりしたら、もうそろそろつくころかもしれない。
 あいつ、人はあんまり待たないっていう割に、俺といるときは五分前行動とか余裕なところがあるから。
「出かける所、引き止めちまったな。じゃあまた」
 りあ充ばくはつしてこい、と惚気への呆れ半分祝半分といった顔で、大地は笑って手をひらひらさせる。
 俺も手を振りかえして大地と別れ、俺は駅へと続く道を急いだ。 

 

 最寄駅前の広場来た俺は、待ち合わせ場所であるモニュメントのところにのんびり脚を向けた。
 時計を見れば集合の十分前。余裕を持って大和を待てるだろうと思ったのだけど。
 遠目にも目立つきれいな銀髪を見つけて、目を瞠った。
 今日の大和は私服だ。ジプスの制服で駅に立つのは何かの撮影と思われそうだし、あれを着てると大和は仕事から完全に離れ切れないと思ってお願いした。
 プライベートで着る服はあまり持っていないと、以前から大和は言っていて、冬物を色々とまとめてふたりで買いに行ったことがある。
 その時に買ったものを今日も身に着けてくれたのだろう、大和には珍しいカジュアルなスタイルだ。
 初めは襟のない服とか落ち着かない様子だったけれど、俺と出かけるとき偶にきてくれるので近頃はすこし慣れてきた感じがする。
 灰色のマントやポンチョみたいにも見える、トグルボタンのニットロングカーディガン。腿までゆったりした黒いドレープカットソー。下は対照的に脚の細さが際立つ細身の紺スラックスで、足元はスニーカーだ。
 全体的にモノトーンでまとめられている中、ネクタイ風に巻いた長いマフラーだけが、落ち着いたワインレッドで目を引いた。
 脚以外は身体のラインや咽喉元が隠れているので、柔らかそうな少し長い銀髪と中性的な面立ちが強調されて、今日の大和はユニセックスな印象だ。
 俺の大好きな年下の恋人は何時みてもはっとするくらいの美人である。

 それはいいのだが。
(……あれ、大和絡まれてるよな。っていうか、ナンパされてるんですか、もしかして)
 見知らぬ、多分俺たちと同年代か少し上くらいのチャラチャラした雰囲気の若者が数人、大和に何事か話しかけているようだ。
 大和は完全に無視を決め込んでいるみたいで、形の良いくちびるをぎゅっと引き結んだまま、相手と目を合わせようともしていない。
 多分俺と待ち合わせじゃなかったらさっさとその場を離れたんだろうけど、俺がいつくるか分からないから仕方なく足を止めているんだろう。
 普段の大和なら声、かけられたりしなかったと思う。大和って威圧感バリバリだし目力あるし、飛びぬけて長身って程じゃないけどそれでも背、すらっと高いし。 
 ただ、今日はいつも片目にかかりがちの長い前髪を小さな星がついた黒いヘアピンで留めているから、恰好も相俟ってぱっと見の性別が解らなくなっている。
 あのヘアピンは前に書類仕事している時に前髪うっとうしそうだなと思って、俺が買ってきてあげた奴じゃないか。
 ちょっと女の子っぽいデザインだから微妙な顔してたけど、実は後生大事に持っていて今日つけてきてくれたのだと思うと、ちょっと照れくさい。
(って、脳内でデレデレしてる場合じゃないな。早いところ大和を連れ出さないと)
 正直、大和がどうこうされる心配はまったくしていない。大和は細身に見えて存外力が強く、護身術として体術の類もきっちり修めているので、携帯ナシに普通にやり合うと十中八九俺でも気が付けば転がされているレベルなのだ。最近はちょっと特訓して、勝率を7:3くらいにまで持ち込めるようになってきたけれど。
 なのでこの場合、心配するべきは大和に声をかけている方である。口も利こうとしない相手によくあれだけしつこく絡めるなとも思う。
 大和の様子を見ると、関わるのもばからしいと無言を押し通しているが、それでも静かに苛々が溜まりつつあるのがよく分かった。無礼打ちをするとまでは言わないが、何時舌鋒が火を吹くか。
 大の大人であるジプス局員であっても、大和が本気で一括入れると泣きを見るとは真琴さんや乙女さんから聞いた話だ(まあ叱りつけるのはその分大和が期待しているからなんだが)。
 トラウマになるくらいなら別にいいんだけど、相手に変にガッツがあって逆恨みされたり、逆上されたらいろいろ面倒くさい。
 大和が「これだから一般人は……やはり愚民ばかりか」的な感想に至って、実力主義への傾倒をまた一歩深められても困るし。
 
 何より。

 俺は急ぎ足に近づいて行く。すると、誰より早くに大和が気付いた。それまでできるだけ感情を表さないようにしている感じの無表情だったのが、俺の方を見ると僅かに解けて明るくなる。
「大和。遅くなってごめんね」
 滑るように大和を囲んでいた連中を潜り抜けて、カーディガンを羽織った腕をとる。
「待ち合わせしてた所ですけど、俺のツレになにか?」
 自然と彼を自分の方に引き寄せつつ、俺はにっこり周りのお兄さんたちに微笑みかけた。俺の目は多分、笑っていなかったと思う。
 色々つらつら頭の中で考えたが、現状? 気に食わないにきまってるじゃないか。
 滅多にない大和の休暇に、不快な思い出とか作ってほしくない。これ以上しつこく絡むようなら、大和が口火を切る前に俺がキレる。
「な、何でもねえよ。道を聞いてただけだ」
 ……どうやら変なガッツは持ち合わせていなかったらしい。
 視線に幾らか籠った殺気で、たじろいてくれたみたいだ。
「へえ、どこに行きたいんですか? 案内しましょうか?」
 やっぱりにこにこと口にしたら、結構だと固辞された。少し慌てた様子で、大和にしつこく絡んでいた男たちは潮が引くみたいに去って行った。
 不快ではあったけれど、厄介なことにならなくてよかった。

 それを見て大和がやれやれと肩を竦める。
「おつかれちゃん、よく我慢したね」
 人目のある場所じゃなかったら頭を撫でてやりたいところだ。代わりに肩にぽん、と手を置いた。
「相手をするのもばからしいと思っていただけだ。しかしあれは何が目的だったのやら」
「はたで聞いてるとあからさまにナンパだったけど」
 仔細を省いて意訳すると、俺たちとお茶しない? とか、もうベタもベタな内容だった。今時アレに引っかかる女の子いるのか。いないと思う。俺の発言を聞いて大和はあからさまに柳眉を寄せた。
「……ほう。ならば口を開いて私は男だとはっきり宣言してやればよかったのか」
 随分と失礼な勘違いをする輩もいたものだと、大和は怒っているようだが、少しだけ誤解されても仕方ない気がする。
「可愛いヘアピンとかつけてたからじゃない? まあ俺が上げた奴だけど」
 だよね? と、露わになっている、いつもは隠れがちの片目も含めて顔を覗き込むと、大和がわずかに目を伏せる。
「…………君がくれたものをつけていったら、君がきっと喜ぶと、柳谷が言ったのだ」
 物凄く恥ずかしそうだ。でも、素直にその辺りの助言を受けてしまう大和はすごくかわいい。実際、俺は嬉しかったけど。
「うん、嬉しいことはすごく嬉しいけど」
 大和の前髪と留めているピンにそっと手を寄せる。
「その所為でトラブルになりかけたんだったら、申し訳ないかなって。次はもうちょっとシンプルな奴を上げるね」
「私はこれがいい」
 戯れにヘアピンを外そうとしたら大和の手で止められた。宝物を守ろうとするような、そんな表情を大和は浮かべていた。
「君が初めにくれた、この髪留めが良い。……あの程度の雑事、もう忘れた」
 ここが外じゃなかったら、俺は多分大和のことを力いっぱいに抱きしめていた。
 でも流石にここが外、それも駅前だと気にする程度の理性はあったから、代わりに俺の手を止めていた、大和の手を取って、繋ぐ。
 ヘアピンのおかげで、傍目には女の子に勘違いされるくらいに今日の大和がユニセックスに映るなら、これくらいはしても許されるんじゃないかと思って。
「ならいいや。取らないよ。取らないから、そんな睨むような顔するなって」
「本当だろうな?」
 ジトリと銀の目が俺の方を軽く睨みつけている。大和は繋いでいるのと反対の手で、自分の前髪に留めたヘアピンをかばっていた。
「君は時折自分が私によこすものの価値を理解していない時があるようだからな」
「え。そのヘアピンそんなに大したものじゃないよ。その辺の雑貨屋で買ったやつだし」
「君が、誰に言われるでもなく、私のために、用意してくれた。そのことに価値がある」
 そう言って、大和はなんだかとても愛おしそうに微笑むから、なんだか恥ずかしくなってきた。
 こいつは偶に素でこういうことを言ったり態度を見せることがあって、ドキッとする。
「大和さあ、あんまり可愛いこと言うなよ」
「? 私に『気持ちを隠すな』とは、君がよく言う事ではないか」
 完全に俺の負けだった。
「そうだったね。……大和、ピンを取ったりしないから、そろそろ行こうか」
「ああ、今日は君がエスコートしてくれるのだったな」
「普通に庶民っぽい遊びを経験しとくのも悪くないでしょ。社会勉強!」
 今の時期なら、街の栄えてるあたりは大体何処に行っても、クリスマス向けの飾りが綺麗だ。昨日のうちに下見もある程度してあるし。
 そうして、大和から解かれなかったのをいいことに、俺は彼と手を繋いだまま街に繰り出した。


「カラオケに来て録音できるものがないことをガチで後悔する日が来るとは思っていませんでした」
「真顔で言うな。いい加減諦めろ」
 馴染みのカラオケボックスから外に出つつ、俺は名残を思いっきり惜しむように言っては、大和に呆れられていた。
 あれから軽くファーストフード店で食事して(俺や大地が普段いくような店というのが大和のリクエストだったのだ)、コーラに吃驚する大和と言うレアな光景に微笑ましくなったりした後、俺たちは予約していたカラオケに入ったのだった。
 普段、俺とか大地がしているような遊びを色々紹介する。それも今回のデートにおいては大和のリクエストを受けて採用した項目である。
 クリスマス前のデートならいろいろロマンチックに行きたいところもあったが、こういうグタグダでいかにも『普通っぽい』デートを大和とできるというのもそれはそれで楽しいものだった。
 しかし正直、カラオケに来ても大和はあんまり楽しくないんじゃないかと思っていた。だって大和にポップスとか似合わないし、歌うとしても国歌とかクラシックとかじゃないか、って。
 実際俺の想像はそう間違っていなくて、何か歌いたいものがあれば入れて御覧、って勧めたら最初の一曲目は君が代だった。
 けど、選曲の渋さをさておくなら、大和の歌声は本当にきれいだった。声は伸びやかで艶やか。音階は素人耳にも正確で、一音もトチってなかったと思う。
 もっといろいろ聞きたかったので強請ったら、クラシックとか聖歌とかそういうレパートリーではあったけど聞きごたえのある歌をたくさん聞かせてくれた。
 なんでも、シヴァの時に緋那子が踊ってみせたみたいに、神魔の類が歌舞音曲を好む例は珍しくなく、大和も一通りの楽器の演奏法や歌唱のいろはを、小さい時から仕込まれていたらしい。仕事に必要で身に着けただけあって、全く手ぬかりない腕前だった。
 変わりばんこに俺も歌って、大和は聞きなれない曲には不思議そうにしていたけれど、不快ではなかったみたいだった。「君の声は耳に心地よい、それに君が楽しそうなのが見ていて楽しい」と、そんな風に言ってくれた。
 そんな風に二時間くらい、休憩も挟みつつ歌って――そろそろ出ようかと言う一番最後に、大和が妙に思い詰めた顔で、絶対に笑うなと俺に前おいてからある曲を入れた。
 前置きにある程度覚悟は決めていたが、それでも飲み物を口に含んでいなくて絶対に良かったと思った。
 だって、大和が、あの大和が。流行りの大人数アイドルによる軽快でカワイイラブソングを熱唱したんだから。
 真顔だったが、振り付けまで完璧だった。ドウイウコトデスカ。
 後で聞いたら乙女さんたちの仕込らしい。またしてもなのか!!
 俺といろいろ庶民っぽい遊びをしにいくといった大和に、「カラオケで歌ったら絶対ウケますよー」と指導したんだとか。ごめん、練習風景がちょう見たい。
 俺が歌うには少しきつい高音もパーフェクトに歌いこなした大和は、俺の反応を物凄く気にしていたから、ニヤニヤしてしまいそうになるのを必死でこらえて、精一杯の拍手を送った。
 そして、冒頭の会話に戻るわけである。『歌ってみた』とかで動画サイトに投稿したら結構いい線行くんじゃないだろうか。そういうことをしないとしても、何度も聞いてみたいレベルだった。何より慣れないジャンルの歌曲を一生懸命歌う大和が可愛かったから。
「君以外にはあんな軽薄な歌を唄った所を聞かせられるものか」
 歌い終わったあとの大和は、物凄く恥ずかしそうだった。まあ当り前だろうけど。
「指導した乙女さんたちは聞いてるんでしょ? かくし芸とか接待で披露したら度肝抜けるだろうな」
「やらん。これきりだ」
「俺また大和の歌は聞きたいな。あの曲じゃなくてもいいからさ」
「どうしてもか?」
「どうしても。だってすごく聞きごたえがあったから。勿論、大和の気が向いたらでいいよ」
「……一考してもよい」
「ホント? じゃあさ、今度はデュエット覚えようよ。俺と一緒に歌うの!」
 俺がはしゃいで口にすると、君と合唱か、と。大和は少し嬉しそうにうなずいてくれた。
 どうせだからベッタベタのラブソングとかどうだろう。いやがられたらその時はまた、考えるということで。

「あれは、なんだ?」
 カラオケを出て少し行った所にあるゲームセンターの前で、大和が足を止めた。繋いでいた手を引くので、大和の示す方向に目をやると、硝子向こうに抱っこサイズのぬいぐるみが小山となって収まっている、クレーンゲームの筐体がある。
「UFOキャッチャーってやつだよ。あのクレーンを、ボタンで操作して狙ったぬいぐるみを取るんだ」
 やってみる? と、大和の視線がぬいぐるみにじっと向けられているのが珍しかったものだから、勧めてみる。
 筐体に入れられているのは、いかにもゆるキャラといった風情の、耳が長いうさぎのぬいぐるみだ。とりあえず五百円を入れて、これ何回かできるよと大和に告げた。
 やり方を説明してやりつつ、大和に操作させてみる。けど、なかなかコツがつかめなくて難しいみたいだ。
 大和は物凄く真剣な顔で手元のボタンを操作している。空間把握はきっちりできてるみたいで、アームを下ろすまでの位置取り自体は悪くない。ただうまいこと引っかかっても完全には持ちあがらないみたいだ。アームの力が弱く設定されているのかもしれない。五百円分のプレイ権を消費したけれどウサギをとることはできなかった。
「大和、あのウサギ、そんなに欲しいの?」
 ものに執着しない大和には珍しいことだ。俺のに言葉に大和は不承不承と言う感じながら頷いた。多分こういうものを欲しがるのは子供っぽいって思っているんだろう。
「すこし……君を思わせる色合いだったから」
 ぽつりと大和が呟いたことで気づいた。そういわれてみればこのウサギ、身体が白くて目は青い。耳には青く模様が入っている。
「狙ったの獲れないと口惜しいよね。もうちょっとやってみたら? さっきので、いい感じに動いたしさ」
 再度コインを投入しながら、重心を考えたり、アームが掴んだ時に外れにくいように挟むといいかも、とアドバイスを告げると、大和は少し考えるように硝子向こうのぬいぐるみの様子を見る。
 さっき持ち上げかけて転がったぬいぐるみは横倒しと言う感じになっている。大和はそれを見て狙いを定めたようだ。
 言葉もなく指先にまで神経を集中しているような様子でボタンを操作して、クレーンを動かし――下ろす。アームの爪の部分がそれぞれ耳の間と股の部分にうまいこと嵌り、大きなぬいぐるみが持ち上がった。
 思わず息を呑む。ウイイインというクレーンが動く音。やがて景品を落とす穴まで戻ってきたUFOは、ぽとりとそこにぬいぐるみを落とした。
 おお、さっきので位置がうまく横になったのもあるけど、まさか助言入れたら一発で取るとは。
 取り出し口からぬいぐるみを取ってやり、大和に手渡す。
「おめでと。やるじゃん」
「これくらい造作もない――いや、半分は君の助言が的確だったおかげだ」
 ぬいぐるみを受け取り、時々見せる、八重歯が覗くドヤ顔を見せる大和。うれしそうだ。
「君と私の共同作業で手に入れた戦利品だ。支局に飾るとしよう」
 白いウサギを抱えて大真面目にそんなことを言うものだから、俺は止めるべきかちょっと迷った。支局の、多分自分の執務机に飾るんだろうなあ。真琴さんあたりがぎょっとしないといいけど。史や乙女さんは面白がりそうだ。
 まあ、大和がこんなに満足そうな顔をしているんだから水を差すこともないだろう。
 こうして欲しかった景品を手に入れて声を弾ませてるなんて、大和が俺と同年代の普通の学生みたいだなって、少しだけ思ってしまった。

 それから、少し喫茶店に入って他愛ないお喋りなんかを楽しんで、薄暗くなってきた頃再度街に出る。
 クリスマスを前にした街の中はきらきらとして見える。
 イルミネーションの影響もあるがなんとなく街全体が浮足立って、そわそわとしているような感じがするのだ。
 実際、街をこうして大和と歩いている俺もそわそわしている。でも、嫌な感じではなくて、このふんわりとした楽しい時間が長く続けばいいなと思う
「時間がゆっくり流れればいいのに」
「そうだな」
 他愛もない、叶うはずもない、益体ない俺の言葉に、大和が同意を示してくれたことに目を瞬いた。
「何だ、その顔は。私とて時を惜しむことくらい、ある」
「いや、ちょっと、吃驚したけど。……大和も楽しいと思ってくれてる?」
 少しだけ不安があった。俺に合わせてくれていないか。無理をしてないか。すると、大和は呆れたように鼻で笑った。
 俺の手を引いて、大通りから一本外れた細い道に滑り込む。明るい通りから暗い道に入ると、一気に静かになったようにも思えた。
 そして、
「君は私を何だと思っているのだ。木石ではないのだぞ。君とこうして居られて、何も感じぬはずがあるまい」
 大和はつないだ手を、俺の顔を順繰りに見た後、にぎわう街に、ひとの流れに目をやる。
「君が君の世界を見せてくれるのだ。勿論、すべてを手放しに肯定するわけではないし、くだらぬとそう思う事もあるが……不思議と君が見せるものは、愚か、ばかりではない」
 大和は言う。
 君と分けたハンバーガーやらポテトやらは、大味な味付けだったが美味しかった。
 職務外で歌う機会は稀で、あんな風に自由に歌うのは中々胸がすいた。君の歌も心地よかった。
 ぬいぐるみを取る遊びは子供じみていたが達成感は悪くない。戦利品は気にいっている。
 車窓から見るとただのうるさい明かりとしか思えなかったものも、こうして共に歩いてみてみるとまた違った趣がある。
 それは全部、今日俺と大和が辿ったデートの道行きだった。
「本当に嫌だと不快だと思ったならば君にそう伝えている。私の性は君も心得ていると思ったのだが」
 こうして口にしなければ伝わらなかったか、と肩をすくめてみせる。
「なんだかさ、すごく楽しかったから心配になったんだ。俺だけ楽しんでたんじゃないか、って」
「君が笑って、楽しそうにする。その顔を、私はこれでも好んでいるのだぞ」
 抱えていたぬいぐるみを一度俺に押し付けて、大和の白くほっそりとした手が俺の頬に触れる。やさしく撫でてくれる。
 大和の反応を、素直な言葉を、少しでも疑うなんて俺が馬鹿だった。
「俺も、大和の機嫌がいい顔や笑った顔、好きだよ」
「ならばよかろう。君は今日を楽しんだ。私も同じくだ。そして、まだ終わっていない。ならばすることはひとつだろう」
「ん。最後まで楽しめるように誠心誠意努力いたします、閣下」
 おどけて返すと、君はそれでいいとばかりに大和が頷いた。

「今日は夜まで大丈夫なんだよね、大和」
「ああ。9時ごろには支局に戻っておきたいところだが」
 それまでは君といられる。
 そう言って、大和は目を細める。今日の大和は殊の外表情が柔らかい気がする。本格的なデートで大和も浮かれてくれているのかもしれない。
「後は軽く街を散策してから夕ご飯にしようって思ってるけど、どこか行ってみたいところ、ある?」
「そうだな、君の学び舎を見てみたい」
 学校か。ここから徒歩でも行ける距離だ。りょうかい、と俺はうなずき――それから、ひとつ悪戯を思いついて、ウサギを大和に返す前にちょっとごそごそする。
「これ、返すね。おまけ付き」
 ウサギの耳の所に、今日渡すつもりだったストラップを引っかけておいた。大和は直ぐに気付いて、ウサギの耳から外してしげしげと眺め見る。
 黒い組み紐に、青と銀のトンボ玉。それと硝子の龍とウサギが仲良く並ぶストラップ。パーツは既存のストラップを崩したり、売っているものを流用したものだけど、全体のデザインを考えて組み合わせたのは俺だ。中々理想に見合うものが見つからなかったので、ちょっとひと工夫してみたのだ。
 携帯に着けるストラップなら、そんなに邪魔にならないだろうと思って用意したクリスマスプレゼントだ。気に入ってくれるといいけれど。
「…………」
 銀色の瞳があんまりにもまじめに、無言でストラップを見続けているからちょっと不安にもなる。いや、嫌なら嫌だというってはっきり言われたばかりだし、大和が何か言うまでは早合点はよそう。
「大和? どう?」
 伺うように名前を呼ぶとはっとしたように大和が俺を見た。大事そうにポケットにストラップが仕舞われたのを見て、気に入ってはもらえたのだと安心する。
「中々よい趣味だ。仕事使いの携帯に後でつけさせてもらおう。しかしそうか、聖夜は互いに贈答をしあうのだったな。私は今日は君に貰ってばかりだ」
 嬉しそうな顔で銀色の瞳を輝かせて細めた大和の顔が、途中から渋いものに変わる。自分の見積もりの甘さを悔いるみたいな顔だ。
「俺がしたいからしたんだし、気にしなくていいよ? 歌とか聞かせてもらうの楽しかったし、こうしていられること自体が俺にとってはプレゼントみたいなものだよ」
 それは心から思っていったことだったけれど、大和としては納得がいかないらしい。口をへの字にしている。
「君の言葉は嬉しいが……私からも君に何かを贈りたいのだ。フム、形あるものはまた後日に用意するとして」
 大和は考え込むような表情になった後、俺の方を見て意をけったように口を開く。
「今日の所は、私が一つ君の願いを聞くというのでどうだろうか?」
 薄暗い路地裏、ふたりっきり、至近距離ででそんなこと言わないでいただきたい。
 俺だって健全な青少年なのである。恋人にそんなことを言われたら色々とよこしまなことだって考えてしまうのである。
 でも、何でも叶えてやろうとばかりに、そわそわとドヤ顔をしている年下の彼に、あんまり無体はできないし、したくない。
 考えて、考えて。俺は、もう少し人目につかない辺りまで、大和のことを引っ張っていく。
 大和の唇が俺の名前を呼ぶ。ここならそう人目につかない。そう思える建物の影まで大和を連れ込んで、俺は漸く立ち止まった。
 もう一度、大和が俺の名前を読んだところで、俺は彼の耳元にささやきかけるように願いごとを口にした。大和は少しだけ頬を染めたが、最終的にはこっくりとうなずいてくれる。
 俺は目を閉じた。程なく柔らかい感触がくちびるに重なる。

 聖夜には少し早い贈り物。
 俺の願いを叶えて、素直な恋人から与えられたキスは甘く、幸福で、それが深くなるのにそう時間はかからなかった。


 

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