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元々は「2RTされたら風邪をひいたウサミミが「朦朧としながら、友人にそっとキスされる」場面を書(描)きます」というお題に答えての小話でした。
局長は別にただキスしたいからしたわけではなくて、唇を通して霊力を注いでウサミミの自己治癒力を活性させたんだよ、というそんな裏設定があったり。
たまには局長がウサミミを甘やかしてもいいと思う。
風邪を引いた。
熱のせいで起き上がれないようなひどい風邪だ。
健康優良児で通っている俺が本格的に寝込むとか何年ぶりだろう。
そして何故俺はよりにもよって数いる知人の中でも一番忙しいだろう男に看病されているんだろうか。
乙女さんとかに任せればいいのに。口にしたつもりが掠れて形にならない。
すぐに温まってしまう額に当てられたタオルをこまめに取り替え、様子を見て冷ました白湯を口に運んでくれたり。
汗を拭って貰えるのもありがたかった。今は四肢ひとつ満足に動かせなかったから。
予想外にかいがいしく世話されてしまうと熱で朦朧とした頭が感謝と申し訳なさでぐるぐるしてくる。
本当はコイツはこんな所にいていいヤツじゃないのに。
休憩さえ中々とれないような、休日などないと言い切る生活をしてるヤツなのに。
無理に予定をこじ開けてきたんじゃないのか。
ばかだなあ。…でも本当はすごく嬉しかった。
風邪とか体調不良はだめだ。感情の制御がまるできかない。
なんだか泣きそうになったあたりで、仏頂面が俺を覗き込んで来る。
銀色の睫毛がはたはたと揺れて水晶玉みたいなひとみがじっと注がれる。
「病人が余計なことを考えるな」
釘を刺された。同時にややぎこちなく俺の髪にゆびが、触れる。
「君は大人しく、病を治すことだけ考えていればいい」
言葉はばっさりと言い捨てるようなものだったが、声音そのものには聊かの気遣い。
たどたどしくなでる仕種は多分俺をあまやかしてくれているのだ。
正論で諭されれば反論の余地もなくおとなしく頷いて返すしかなかった。
「……今は確り休め」
言われて瞼を落とす。弱った身体は確かに眠りを必要としていて俺の意識は程なく落ちていった。
完全に眠ってしまう直前。
ふと唇に柔らかな何かが触れて、そこからあたたかいちからが流れ込んできた気が、した。
──キスされたのだ、と思い至ったのは、翌朝に目覚めて身体がすっかり軽くなってからのこと。
その時にはもう、俺を看病してくれていた男の姿は部屋のどこにもなく。
寝る前のアレは現実だったのか確かめる機会と、きちんと礼を伝えるタイミングを俺は見事に失ってしまったのだった。
いっそ風邪が移ったなら会いに行く口実ができるのに。
でもこれ以上、余計に苦労して欲しくなかったから、やっぱり伝染っていないようにと無事を願った。