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実力主義ED後、すでに出来上がっているウサミミとヤマトの、とあるおだやかな休日朝の話。
ウサミミにヤマトさんの髪をいじらせたかった。
局長は中途半端な長髪ですが、髪には霊力が宿るというので長く伸ばしてももえますし、逆に東京解放ルートの後なんかにはバッサリ切っちゃうのもアリかなーとか妄想が膨らみますね。
もちろんあの長さもときめきますが…と、ものすごく脱線してしまいましたが、高里さんおめでとうございました!
ぼんやりですが性的なものと事後をにおわせる表現ありです。
モロではまったくありませんが…一応ご注意ください。
肌を重ねることは、今でも恥ずかしいけど――それ以上に幸せで、いとしくて、たまに泣きたくなる。
身体を繋いでそれで全部通じ合うなんてことはない。
けれど、ひと時だけでも彼を身近に感じられる。
抱き合って知ることのできる大和の一部が、おれはとても好きだ。
冷たそうに見える白い肌がとても暖かいこと。
なんだか不思議と落ち着くいい匂いがすること。
おれを抱き込む腕も身体も一見細いけど、しなやかで確りしていること。
形の良い指先の、すこし硬い手触り。
宝物に触れるみたいに丁寧で、時に暴くみたいに荒々しい触れ方。
間近でふるえる銀色の睫毛に、光が透けたときのあわい煌めき。
繰り返しおれの名前を呼ぶ声が低く艶やかに掠れる。
普段の大和が幾らか剥がれて剥き出しになる表情は、なんだか必死で、少しおさない。
抱かれるとき、おれはこれ以上ないくらいに、ぜんぶ暴かれて、曝されて、隠すところなんて何にもないくらいドロドロになって、大和でいっぱいになるけど。
抱いている大和だって、色々なものを無防備に、おれに見せて、おれのことを欲しがってくれるのだ。
――それが、うれしい。
「……ん、」
寄り添って眠った相手の不在に、少し冷えた布団の感触で目を覚ました。
「やまと?」
見慣れた居室の中を見回したが、一緒に寝ていたはずの目立つ銀髪の青年の姿はない。
まだすこし気だるさの残る上体を起こす。情事の名残は清められていて、倦怠感と――それから肌に残った紅い痕だけが昨夜の熱を思い出させる。
ここの所大和もおれも仕事に忙殺されていた。、昨日漸く後始末までケリがついて、今日明日は貴重な連休日だ。
だから、そう、すこしタガが外れてしまった。互いに求めるままに触れ合うのも、同じ布団で眠るのも久しぶりだったから。
負担がないかと言えば嘘になるけど、あたたかくて、いとおしかった。思わずへにゃりと表情が緩む。俺は抱かれる側だけど、昨日の大和は何時もより余裕がなくてちょっとかわいかった。思い出してもドキドキする。
いつも冷静でどこか硬質な美貌が欲望を覚えて、生々しく生きた感じになるのが貴重で好ましい。大和がそういう青い若いところを見せると、おれより一つ年下の子なんだって改めて感じるから。
そんな、昨晩は夜どおし共に過ごした相手がいない。おれがあんまり朝に強くないのもあって、大体ことに及んだ翌朝は大和の方が先に起きているけれど、それでもおれが起きるより早くに部屋にいないと言う事は珍しい。
仕事で早くに出なければいけない時はあんまりこういうことをしないし、するにしても事前に出る旨を教えてくれる。
そうでなければ、大体おれが目を覚ます頃にはもう、大和はきっちりと身支度を整えて、色素の薄い涼しげな顔をして待ってくれているのが常だ。
何処に行ったんだろう?
おれは布団をもぞりと抜け出し、大和の姿を探しに出た。
探し人の姿は程なく洗面所で見つかった。何やらブラシ片手に難しい顔をして、鏡と向き合っている。
「やまとー?」
声をかけると、大和には珍しいことに肩が少し跳ねた。櫛を持っていない手で髪を押さえながら、おれのほうを振り返る。
「もう起きたのか。見ての通り、身支度中だ。部屋でもう少し待っていろ」
おれは少し首をかしげた。大和がなんだかおれにここに居て欲しくないみたいだったからだ。
仕事でもないのに、遠ざけたがるのは珍しい。
どうかしたのか、と聞こうと思ったら、その前に大和が口を開いた。
「……今の私はまだ人前に出られるような恰好ではない」
わずかに眉を寄せて少し悔しそうだ。そこで理解した。
ようは、ちゃんと髪の毛の手入れもできていない、恰好のつかない姿をおれに見せたくないってことだ。
ああ、もう。
思わず微笑ましいような顔になってしまい、それを見たのか、大和がますます眉を寄せる。そこで彼が口を開くより前におれは動いた。
「ねえ、大和」
声をかけながら大和に歩み寄って、彼が持っていたブラシを取り上げる。
「髪の毛の手入れ、おれにさせて欲しいな。前から大和の髪の毛弄ってみたいなって思ってたんだ」
おれの提案に大和はかるく眼を見開き、
「そんなことがしたいのか?」
「したい。ちゃんと綺麗にするからさ」
「……好きにしたまえ」
息を一つ吐くと、おれのしたいようにさせてくれた。
椅子を持ってきて、大和に座って貰う。
大和の方が少し背が高いから、こうしないと少し遣り難いのだ。
今日は何時もより、後頭部のひょんとした毛が跳ねてしまっている。これを落ち着けようと悪戦苦闘していたみたいだ。
「大和の髪の毛って基本的におとなしいけど、後ろは少し癖があるもんね。まあ、癖っ毛に関してはおれに任せてよ」
見ての通り俺の頭は天然パーマが強いので、癖毛をおとなしくさせる方法については結構詳しい。
「一任する。お前ならば悪いようにすることはあるまい?」
もちろんだと頷いて、おれは早速準備にかかる。
整髪料を使ってもいいが、手っ取り早いのは濡らしたり蒸すことだ。幸い此処は、水道ひねればお湯と水と両方出せるのが当たり前みたいな環境なので、タオルをすぐにお湯で濡らすことができる。
タオルを絞り、熱が逃げてしまう前に大和の髪に当てていく。
「こうやって根元から濡らして、癖が解けて来たら、櫛で梳かしながら、手早くかわかすといいんだよ」
この時、きちんと湿り気を含ませるのが重要だ。時間をある程度置いてなじませてから、丁寧に梳いていく。ブラシとドライヤーを使いながら、一気に乾燥させていく。
大和の髪はわずかに紫みを帯びた銀色の糸みたいで、すごくきれいだ。ふんわりと品の良い香りがして、乾けばすごく手触りもいい。
「そういえば大和、結構髪の毛伸びてきたね。そろそろ括れそうだ」
ある程度乾いて癖も落ち着いてきたところで、おれは大和の髪に目を落として気付いたことを口にした。
大和も自覚があったのか、やや面倒そうに目を伏せる。
「業務が忙しいと髪を切るような余裕はないからな。いっそ手間取らぬようばっさりと切ってしまうか」
以前に髪の毛を散髪するにしても、頭髪が呪術に使われないように専門の業者を手配したりとか色々手間がかかると聞いていた。
短い髪の大和というのもきっと素敵だろうなとは思う。
でも、
「おれ、大和の髪の毛、長い方が好きだな。きれいだし。また、こうやってまた触りたい」
指先を、整えた髪の毛を乱さない程度に搦めて触れる。水のように滑らかでさらさらと通りのいい、手触りのいい髪。シャンプーは同じものを使ってるはずなのに、おれよりいい匂いがする。ごく短く切り落としてしまうのは、勿体ないなあと思ってしまったのだ。
大和は少し擽ったそうにしたが、髪に触れられても嫌ではないらしくて、肩の力を抜いてされるままだ。
「髪には霊力を蓄えることができる。お前がそう言うならば、ある程度の長さを保つことを一考しよう」
「ありがとう、大和。寝癖で困ったら、またおれを呼んでね?」
なんだかんだで大和は私事ではおれにやさしい。すこし甘いくらいだ。
「余りお前の手を煩わせるようなことにはなりたくないのだがな」
「おれがしたくてしてるんだから、煩わせるも何もないよ」
「酔狂だな、お前は。……だが、悪くはない」
少しだけ大和の頭がおれに預けられる。
「他のものならば背後に立たれるのも髪に触れられるのも落ち着かぬだろうに。お前にはそのようなことを感じないのだからな」
ゆるゆる撫でたら、長い睫毛を震わせて少しだけ目を閉じた。
機嫌の良いねこみたいで、自然と笑みがこぼれる。
「よかった」
背後、それから頭。どちらも狙われれば容易く窮状に成り得る。
大和は、自然と彼我の距離を測って立ち位置を取るくらいには、他人が自分のスペースに入ってくることに敏感だ。
こうしておれに色んなことを許すのが、大和なりの甘えかたで、おれの前では普段より気を抜いてくれているんだと知っている。
自分の抱えるものを下ろすことを大和は良しとしない。それこそが大和の生き方で、おれが好きになった大和だ。でも、たまには休んだり、息を抜けるといいなと思う。
何しろ常態であれば、大和は何時も隙がない。人に弱みを見せないように、どんな時だって凛と立つ。
ピンと伸びた背筋、鋭い眼光、覇気を帯びたこえ。的確に旗下の人員を動かして、無駄なく差配を振るう。
大和はひどく大人びていて――実際普通にただ漫然と生きるよりも何十倍も濃密な時間と経験を過ごしてきたのだろうと感じさせる。
そんな大和が、おれの前では年相応な所を見せてくれるのだ。無意識でも、信頼でも、うれしい。守りたいな、と思う。支えたいな、とも。
大和はおれに才があると、力があると、認めてくれる。期待してくれるから――少しでも応えたくて、おれはおれのできる限りを積み上げる。
おれが大切に思う彼は、孤高に歩き続けることができると知っている。自他に脆弱を許さず、怠惰を唾棄し、潔癖で、狷介な、ひとりでも生きられる強いひとだ。だけど、それは、色々なものを削ぎ落として、自分を殺していく道。あまりに過酷な道だと言う事も知っている。
大和の理想、強さをこそ至上の価値基準として生まれなおした今の世界で、弱さが許されない世界で、それでも人である限りは捨てることのできない柔らかさを、脆さを、大和がおれの前でくらいは許せるように。大和が、神様や悪魔にならなくて済むように。
おれは、本当はいやになるくらい弱くて平凡で、ただほんのすこしだけ立ち回るのが上手かったり狡賢いだけのただの高校生だ。
それでも、そこで立ち止まってしまったら、きっとあの綺麗な銀色をおれは見失ってしまうから。蝋の翼でも融け落ちないように継ぎはいで、おれは大和の対でありたい。
大和の持つ強さとは違う強さを彼に示して、並び立とうと決めた。誰かを頼れる強さ。誰かを信じることのできる強さ。寄りかかれば押しつぶす。でも、そうじゃなくて互いに引き上げあえばひとりより遠く遠くまで届くんだと、伝えたい。
隣にいる。最後まで一緒に歩く。
あの選択の夜に、他のどんな道でもなく、大和の理想を選んだ時から決めたことだ。
正しいものは一つじゃない。一つだけで完璧なものはない。大和にないものを持って、おれは傍に居よう。少しでも助けに成れるように。
おれにないものを持った大和。その強さと、潔癖な魂を、眩しくて愛しいと思ったから。
「はい、綺麗になったよ」
ひとしきり撫でるのに満足した後で、ちゃんと髪の毛の手入れも終わらせた。
「大和はもともと美人だけどね」
鏡には、寝癖なんて一つもない大和の姿が映っている。出来栄えに満足しておれは笑った。
「……姿かたちの美醜などさして意味のあるものではないが。……お前が好ましく思うならばその程度には整えておきたい、など」
私も人の子か、と大和が少し困ったような顔をする。
「だらしない格好だと士気にも関わるし大和だって落ち着かないでしょ。お前、ちょっと難しく考えすぎだって。折角のお休みなのに、考え事で潰したらもったいないよ」
そう口にして、後ろからぎゅっと抱き着いた。背もたれのない椅子に座っていてよかった。ぴったり身体を寄せられる。
大和は少し沈黙して、それから身じろいで、おれと向かい合った。
「性分だ。……だが、そうだな。久しぶりの休日だ。こうして揃って向き合うことも珍しい。何か、したいことはあるか?」
「そうだな、せっかくだからすこし出かけようか。あんまり遠出はできないけど」
「ふむ、では何か食べに行くとするか」
「大和、おれ、休日は堅苦しいところはパスしたいかな」
「安心しろ。本局近くに、美味なたこ焼きを出す店があるらしくてな。そこでどうだ?」
たこ焼きは今や完全に大和の好物だ。仕事の合間の休憩時間にリサーチしたり、最近では自分でたこ焼きを焼くくらいに熱心に愛好している。
それに付き合っている内に俺もなんだかたこ焼きが好きになってしまった。
だから、大和の誘いは純粋に楽しみだ。
「いいよ。じゃあその後は俺のおすすめのお店に行こうか」
災厄から立ち直りつつある世界は、お店も増えてきていて――大和が食べたことのないものを、たこ焼き以外にもいろいろ、おれは食べさせたいと思っている。
「楽しみにしていよう。だが、その前に」
大和が動いて、器用におれと位置を入れ替えた。
「私にも髪の手入れをさせたまえ。……お前の髪に触れたくなった」
そういえば、大和の身支度を手伝ったけど、おれはまだほぼ寝起きの状態だった。今度はおれが椅子に座る番のようだ。
腰を下ろして背後を振り返る。この部屋の外ではあまり見られないのが残念な、穏やかな銀色と視線が合う。
「お手柔らかに?」
「言われるまでもない」
おれの髪を整える大和の手つきは、教えた分を返してくれるみたいに――あるいはそれ以上に、やさしくて、丁寧だった。