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3本目。「観用少女ネタな主ヤマさんのお話好きだったのであの設定で何か」
※プランツヤマトさんは普通の大和さんより色々子供っぽい感じです。
「いってきます!」
家主である青い瞳の青年が、忙しく大学へと出かけていくと部屋の中はしんと静かになる。
外からは夏の盛りを謳歌する蝉の声がうるさいくらいだが、それでもどこか世界が静まったように思えるのだ。
銀の髪のプランツは毎日のことながらこの火が消えたような一瞬ばかりは好ましくないと胸の内で微かな溜め息を吐いた。
もっとも直ぐに気持ちを切り替え、こまごまとした家事を片付けてしまおうと小さな足を動かして玄関先から室内に戻る。
そこで、気づく。銀の月のような双眸が、テーブルの上に置き忘れられているものに気付いて瞬いた。
今日は朝食の前に弁当の入った巾着包みを手渡したのだが、その所為で彼は持っていくのを忘れてしまったらしい。
何時もの様に玄関先で渡せばよかった。等と思っても後の祭りだ。
急ぎ玄関に取って返して外を見たが、青年の姿はもう見当たらない。
自転車を使って通学している彼に、今からプランツの脚で追いつくことは難しいだろう。
うっかりものの家主が昼食抜きになったとしても自己責任、あるいは学食とやらで済ませるかもしれないと思ったが、まだまだ食べたい盛りの大学生だ。今日は確かバイトはないはずだが、物足りない腹を抱えて午後を迎えるのはいかがなものか。
大和は少し考えて――決断する。
まずは持っている衣服の中でも動きやすいものに着替える。大和は和服を着て過ごすことが多いが、洋装も持っていないことはない。
薄手の白い半袖シャツを羽織り、艶々とした貝釦を止める。ほんの少しもたつくのは洋服に慣れないためだ。
シルバーの細いストライプが入った濃紺のタイを結び、サスペンダーで止める丈の短い黒ズボンを身に着ける。
紺色のキャスケットを被り目立つ銀色の髪を仕舞い込む。
白いハイソックスを細い脚に通して、あとは玄関にある人形用の小さなローファーを履いて出ればいい。
家主が大和に買い与えたものの中に、ふさふさとした狼のぬいぐるみリュックがある。その中に弁当包みとこまごました必要なものを入れると背負った。
午前にもかかわらず既に夏日差しは眩しく外はとても暑そうで――か弱くできている観用人形にはきついものであると予想できたが、生憎と大和は職人の手による特注品、なかでも変わり種中の変わり種だった。
これと決めたことは意地でもやり通す。それが、ただ一人気に入り認めている人間の為であればなおのこと。
待っていろ、と声なくつぶやいて、大和は静かに居室をあとにする。合鍵の場所は心得ているからきちんと施錠も済ませた。
目指すは黒髪の青年が通う学び舎だ。プランツドールにとってはちょっとした冒険になるだろう。
それでも家主が忘れてしまった弁当を、彼の元に届けてやろうと大和は決めて、アパートを出、夏の道を歩き出した。
***
「あっ、弁当忘れちゃった……」
大和が作ってくれるお弁当は美味しいから、ないとわかると気持ちがちょっとへこむ。
大学の学食の味はまあ悪くないのだけど、手作りの味に慣れてしまうとなんとなく物足りないような気持になるのだ。
それでも俺は一人暮らしで忘れ物をしても届けて貰えるわけはないので残念だけど今日はあきらめることにする。家に帰ってから晩御飯に当てよう、大和に呆れられないといいなあ、なんて俺は呑気に構えていたのだが。
午前の授業を終えて昼休み。大地を誘って学食に行こうとしたら、通用門の方角がなんだか騒がしい。
「なにかあったのかな?」
「わかんね、でもちょっと気になるし、見に行ってみようぜ」
行ってみるのが早いかと、俺と大地は野次馬根性丸出しで通用門に向かう。
女の子が多いなあなんて思いながら歩いて行った俺は、人だかりができている先にここに居るはずのない相手を見つけてしまった。
詰めたくもある白い面立ち、キャスケットからこぼれた銀色の前髪がキラキラと夏日をはじく。子供としてもずいぶん小柄な人形のような美少年――プランツドール。
その姿はよそ行きに着替えているが見間違いようもない。
「や、大和!?」
俺の隣で大地も目を丸くしている。大地も大和の顔は知っていて顔なじみだ。
「あれおまえんちのプランツじゃん。ひとりでうろうろして大丈夫なの?」
「あんまり大丈夫じゃないと思う。何で大和がここに……?」
大和に限らずプランツはおとなしくてインドアな性質だ。誰かが連れ出さなければ出歩いたりしないし、極端な温度変化にもあまり強くないように思う。
なのにこの暑夏の中、大和は大学までひとりでやってきたようだった。一回そういえば近くまで連れてきたことがあったけどあの一回で覚えたのか。
感心している場合じゃないなと俺は大和の方に駆けよった。大地もオレについてきてくれる。
一方の大和はと言うと、周りから何かと声をかけられていた。
どうしたのぼく? とか、迷子? とか声をかけられても首を振るばかりで返事をしない。というかできない。
そんな子供に女子大生の皆さんはそれでも根気よく大和から様子や目的を聞き出そうとしているようだ。
まあ大和の見た目はこの上もないくらいに綺麗な男の子だから、構いたくなる気持ちはわからないでもない。
大和は何度かくちびるを開いたり閉じたりする。意志を汲み取って貰えないのがもどかしいようで、軽く咽喉を押さえていた。
少し疲れたような顔できょろきょろしていた大和は、そのうちに近づいてくる俺に気付いたようだ。
ぱあっと目に見えて表情が明るくなったのがわかる。周りの同校生にすみません、と軽く頭を下げつつ、駆けてきた大和を受け止めた。
身体がいつもより熱い。随分長いこと外を歩いてきたんじゃないだろうか。この小さくて細い身体で。
そう思うときゅうッと胸が締め付けられるような心地がしたが、俺は大和の同居人としてまず問い質さないといけない。
「大和、なんでここに? 一人で外でちゃダメだっていってあっただろ」
今の大和は恰好も相俟って美人なだけの少年に見えないこともないけど、きらきらした宝石みたいな眼とか、なかなかお目にかかれないような染みひとつない真っ白な肌とか、見る人が見れば人間ではないのだとばれてしまう。
プランツを捕まえて売り払おうとする人間とか、そうでなくても変質者とかに襲われたりしたらどうするのか。割と笑えない話なのだ。
それにこの暑さは大和の身体に絶対によくない。普段ならおとなしく俺の帰りを待っている大和なのに、どうしたって言うんだろう。
「――……!」
俺の腕のなかで一瞬安堵の表情を見せていた大和は、問いかけで思い出したようにはっとした表情を覗かせる。それから、背負っていたリュックを外してごそごそやると取り出した巾着包みを俺に差し出してきた。
ずっしりと重たいそれは俺のお腹がいっぱいになるようにと、大和が作ったおかずと御飯の詰まった弁当箱。俺が忘れてしまってちょっとへこんでいたものだ。
「これ、弁当? 俺が忘れたから、わざわざ届けに来てくれたのか」
俺の言葉に大和が声なくこくこくと頷く。真っ直ぐな目が俺を見上げて伺ってくる。その眼は、きみがうっかりものだから届けてやったのだ、とでも言いたげで――
「ひとりで危ないこと禁止。でも、ありがとう。嬉しいよ、大和のお弁当、忘れちゃってがっかりしてたから」
仕方ない、と思ってしまった。俺がくいっばぐれるのをかわいそうだとでも思ってくれたんだろうか。それにしたって大冒険だっただろうに。後でいろいろ聞いてみよう。
大和は神妙な顔でオレの言葉に頷いていたが、キャスケットを取って、瑞々しいしろがねの髪を撫でてやると、かわいい八重歯を見せてドヤッと笑う。
まったくもうと苦笑しつつ、ひょんとなった後ろ毛もわしわしと撫でてやった。
「大地、俺は学食いらなそう」
大和を抱っこして振り返ると、はいはいごちそうさまとばかりに大地が肩を竦める。周りの生徒たちが物珍しそうだったり微笑ましそうだったりする視線を送ってくるのに、さてどう言い繕ったものかなあと、割合平和な悩みに俺は頭を悩ませるのだった。
午後の授業は自主休講にした。過保護と言われても仕方ないが、今日ばかりは頑張ったプランツにご褒美を上げたかったのだ。許して欲しい。