デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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以前にバリツ道場さんがツイッターで呟かれていた話題を拝見し、妄想を広げて書いてみたものです。
ネタそのものはバリツ道場さんに帰属します。
実力主義EDから十年後くらいの捏造。実力主義社会の成立後に主人公があっさり亡くなってしまったら、という話。
主人公の死にネタ、死後を取り扱っていますので、苦手な方はご注意下さい。
全体的に薄暗いです。主ヤマ?ヤマ主?って感じですが、何にしろ心持ちは腐向け。
ヤマトさんは、唯一つの想いに歳を重ねても殉ずることができるような、ひたすらに一途な人だと思う。
ウサミミさんは個人的に優しくて強くて誰よりも局長の救いになれる人だけど、同時に人間的な弱さとか身勝手さもあって、普段はそういうものを律せるけど、この話では割りとひどい男です。
話のタイトルはとても気に入っている。
セイリオス=焼き焦がすもの・輝くもの。天狼星シリウスの語源。
旧世界の腐敗は駆逐され、今世界を統べる理は、自然淘汰の復古──純然たる実力主義。
その頂点、タワーと同じく霊的な防衛の要として築き上げられた高楼に、天の玉座へ拝謁した悪魔使いたちは十年の時を経てなお君臨し続けている。
「今だから言うけどさ。アタシ、アイツが死んだ時、局長もダメになると思ってたんだよね」
ジプスの研究者である菅野史が唐突にこんなことを言い出したのは、その日が史の言う『アイツ』こと、誰にとっても特別だった彼の命日だったからだ。
世界が革められたあの八日間、悪魔使いたちの陣頭に立って戦い抜いた青い瞳の青年は、新世界が樹立し軌道に乗り始めた矢先、病を得て季節の一巡りを待たず、あまりにもあっけなく逝った。
彼の両親や係累の類はあの災厄で行方が知れず、葬儀は仲間内だけでしめやかに行われた。
故人が生前どれほど慕われていたかを示すように、参列する誰もが一様に憂いや悲しみ、夭折への憤りを顕わにするなかで静かに葬送の段取りを取り仕切ったのは、今、史の前で黙々と仕事を片付ける男だった。
今、高楼の頂点──それは文字通り実力主義社会の頂でもある──に執務室を構え、有形無形何れの形にしろ世界に大きく影響を与えうる力を持つ彼は、大和は、あの葬列の日、皆の前では涙ひとつこぼすことさえしなかった。
「仕事に関係のない話をしにきたのならば、さっさと持ち場に戻れ、菅野」
ひかりを何処かに沈めてしまったようにつめたく凍りついた、銀月めいた大和の双眸が史を静かに睨めつける。
切り捨てる如くに告げた声音もまた瞳の色とよく似た、凍土の温度であった。
いつの日からか増した上司の冷厳に、史はけれどたじろくこともなく、寧ろ慣れた様子で構わず会話を続けた。
「だってずっと疑問だったんだよ。言わなかったけど。……あの頃、アイツって局長の心臓みたいなものだったでしょ。心臓をなくしたら壊れるんじゃないかって思ってた」
「…らしくもない、ロマンチシズムだ。随分と詩的な表現をするものだな」
「あながち間違ってないでしょ。証拠に局長、否定しない」
「だが正解でもない。過去形ではない。君の言い方に沿うなら──彼は今でも私の心臓だ。私は彼をなくしていない。彼は、ここに、いる」
それまで一刻足りとて留まらずにペン先を動かしていた手がふと止まり、白手袋に包まれた大和の手指は己の胸に触れた。
示す位置は心臓だが、先の言葉は物理的なものを表すのではない比喩だと史にも知れる。
彼の存在は、胸の中に息づいていると言いたいのだろうか。
だが、そんな綺麗ごとだけで不在に耐えられるほど、大和が彼に向けていた執着が生温いものをでなかったことは、史をはじめとするあの頃を知るものにとっては周知の事実だ。
「約束をひとつした。永い長い約束だ。彼と私で築いたこの世界を守り続けると。その約束がある限り、私は彼と生きている。私が現実から逃避することは約束を反故にすることだ。私は彼を過去にしない」
史は随分と久しぶりに、大和の声に生々しい熱が通うのを聞いた気がした。
青い瞳の彼が逝ってから、目の前の銀髪の青年は感情の揺れを余り見せなくなっていたから。
それにしても情熱的なことだ。あるいは虚しいことかもしれないが。
史の目の前の、実力主義社会の頂点にして守護者である男は、ただ一つの約束だけを持って失われた人間を永遠にしているのだ。
こどものような純情を、何年経っても保ち貫いているのは、ある意味では狂気か。
故人も随分と残酷なことをすると史は思う。
約束と言う名の遺志で縛ってしまえば、この一途な男は想いを風化させることすら許されず──しようとも思わず──失われた人間に殉じるだろう。
そう、言い切れるほどに、往時、大和はあの黒髪の青年を特別視していた。心臓であり、世界の真ん中に据えていた。
彼を失えば途端に崩れ落ちるのではないかと、密やかな危惧が仲間内に生まれるほどに。
だからこそ、彼は大和に最期の『約束』を遺したのかもしれなかったが。
「…ロマンチストはアタシより、局長とアイツのほうじゃない」
その約束は、強さがなければ容易く淘汰される世界で、立ち続ける意志を与える祝ぎで。
そして、大和の心の一部を永遠に彼が奪い去る、消えることのない呪いだ。
薄く苦く笑いながら、それでも史は大和の言葉を否定せず、ただ、綺麗すぎて痛ましいものを見るようにほんの少しだけ目を、伏せた。
+++
耳に残るこえ。遠い、いとしい残響。
「くだらなくてつまらなくて汚くていいところなんかロクにない世界だったけどさ。それでも、今はちょっとはお前にとってはいきやすくなった?」
頷いた私に伸ばされたゆび。細く病み衰え、それでもなお優しかった。
「ならあの時お前と一緒に戦って未来を勝ち取ってよかった。…なあ、これから先も守ってよ。俺がお前と出会って、一緒にいきた世界だから、壊れないように、守って」
その体温と心音の弱さに視界が眩んだ。誰よりよく通りひとを惹きつけた声は今や掠れてひどく儚い。
それでも、一言足りとて聞き逃したくなくて。必死に耳を傾けた。
「…俺はひとあし先にいくけど。みんないつかは来るところだからさ。ずっと待ってる。ずっとずっとまってる。だから、大和は、ゆっくり、」
──ゆっくり、おいで。
ああ、君の末期の願いは、やさしくて酷い。私に君だけを追うことを許さない。
最期に笑った顔を覚えている。何時もと同じ、綺麗で軽やかな、その表情を。目を閉じれば、瞼の裏に焼きついている。
祝いのように、呪いのように。彼の遺した言葉は私を支え──捕える呪縛となった。
かつては汚泥の極みにあった世界は、革命の時を経て私の理想の通りに花開き、君の最期の言葉を得て、揺らぐことのない価値を得た。
ならば私は、己の本分を果たそう。君の望むとおりに、この世界を守りつづけよう。いきつづけよう。
仮令この世界から君という存在が欠け落ちても、なお。
時折痛む胸は、私の虚勢を暴いて告げる。
菅野に継げた言葉は本音で、だが、同時に解かっている。君がいない。君はいない。
君の世界(ねがい)を守り続ける私は幸福で、だが君をなくしたこの生はどこまでも空疎だ。
部屋から見下ろす街並みは、あの戦いの爪痕をゆっくりと包み隠し、いまや整然と煌く。
秩序だった、おそらくは美しい世界。今はどこか実感が薄い。
かつて、彼と共に未来を掴んだあの頃は、未だ何一つ整えられておらずとも、すべてが鮮やかで輝かしいと確かに感じられたのに。
君の不在はあまりにながい。
私はあとどれだけ、君のいない日々を積み上げれば、君に、君のいる場所に届くのだろう?
+++
永遠なんてものを俺は信じていないけれど、お前が俺のことをずっと忘れなけばいいと思ったよ。
最後に、忘れないでいてくれたらと願ってしまったんだよ。
仕方ない、と飲み込めなかった。
自分の言葉がどんな意味を持つかなんて、俺にはわかっていたのに。
…ごめんな。
やまと。
それでも、おれは、おまえのことを、
ずっと、
ずっと、
輝く星は流れて遠ざかり、彼はひとり立ち尽くす。
世界は今日も遺された想いに守られて、くるくると滞りなく回り続ける。
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