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ウサミミさんがリア充なのは、前世でなんか徳をつんだからじゃないかみたいな話が出たあたりからぼんやり考えたもの。
自己犠牲はどっちがしてもおかしくないなあ、と個人的に思っています。
こんな夢を見た。
漱石の夢十夜の冒頭のような語り口で、寝台にうつぶせに臥した状態で、彼は寝物語を口にし始めた。
夢の話を彼は時折聞かせてくれる。それは他愛もない彼の当り前の延長であったり、時に不可思議で幻想としたものであったりする。
彼の見る夢は何とも豊かで鮮やかだった。彼の心根を映しているかのように。だから、彼の夢語りに耳を傾けることは大和のひそやかな楽しみであった。
***
今夜はどんな夢を見たかって?
うん、今夜はうさぎの夢を見た。大和、お前も一緒だったよ。
夢の中で俺はうさぎで、お前は旅人だった。
俺はさ、うさぎなのに人間のお前に恋をして、長い旅についていくんだ。
ちびうさぎの俺がついてこられるわけないって思ってたのかな。
お前は好きにさせてくれた。気が付いたらずっとついてきてる俺を、お前はあきらめて旅の伴にしてくれたみたいだった。
たくさん歩いた。たくさんのものを見た。
二人でいろんなところに行った。
北の果てで雪と氷に凍てつく土地を見た。
西に行った時はこの世の全てを集めたみたいな大きく華やかな街を見た。
東の遥かな海原を越えて、緑豊かなうつくしい島を見た。
南に足を向けたときは、金色の砂の海と何処までも広がる空を見た。
どんな時も一緒だった。ずっと一緒に居たいなって思ってた。
でも、ある時、旅の途中で食べる物がなくなってしまった。
俺はうさぎだからお前のために食べ物を取ってきてやることもできなくて、飢えに苦しんでる姿を見るしかできなかった。
しんと静まり返った寒い夜、ひとりと一匹で野宿してさ。
くっついてもちいさなやせうさぎじゃ、あっためてやることもできなくて、焚き火だけがなぐさめだった。
暖かく明るく燃える焔を見ているうちに、ふと俺にもできることがあった、って気づくんだ。
炎の中に飛び込んで、俺をお前に食べてもらったらお腹一杯になるし、ずっと一緒に居られるね、って。
腕のなかを抜け出して、俺は炎の中に飛び込んだ。
美味しく食べてくれたらいいなあってそれだけ思って、いたいのも熱いのも平気だったんだけど。
お前が火のなかに手を突っ込んで俺のこと助けようとしてくれたから、何か間違っちゃったのかなって後悔した。
お前は火傷しながら俺のことを、炎から引き出してくれた。
……でも、まあ結局助からなくってしんじゃうんだけど。
もしも生まれ変われるなら、今度はうさぎじゃなくて人間になって、炎のなかに飛び込まなくてもお前の助けになれるようになりたいな。
そう思いながら、しんだところで目が覚めたんだけど、あれってほんとに前世なのかな。
何にしろ俺人間でよかったよ。
うさぎじゃできないことって多すぎるもんな。
***
夢の話を終えると、彼は笑って大和のことを抱きしめる。
「夢は所詮夢だ、引きずられるな」と大和が言えば、「そうだね」と彼はうなずいて返す。
縁起でもないと、離したがらないみたいに強く背に腕を回した大和を見て、彼はしずかに瞳を細めた。
ちゃんと、ここにいるよ。
そう彼が告げれば、当たり前だと大和は強い光を宿す目を向けて、己の視界の中に彼の青い目が映ることにひっそりと安堵する。
優しい手が大和の髪を撫でる。あやすような手つきに、大和は何時しかゆるゆると目を閉じた。
***
不安げにきつく回された腕がいとしかった。
執着されていることがよくわかって嬉しい、というのは、少しばかり意地悪な心持ちかもしれない。
……でも、もし俺の命でお前のことを購えるなら。
俺の命でお前が助かるなら、やっぱり俺は炎のなかに飛び込むんだろうなあ。
夜に紛れた呟きは、誰に聞きとがめられることもなく夢うつつと底に沈みゆく。