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デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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去年書いたハロウィン主ヤマ(novel/1627005)の翌年の話。
実力主義ED後ですがほのぼの甘い主ヤマ短編。
ウサミミの名前は宇佐見北斗(うさみ ほくと)。ウサミミとイナバシロウサギは割と仲良しです。
季節の主ヤマのふたりは毎年なんだかんだでイベントごとを欠かさず、楽しく日々を重ねて逝くんじゃないかなあと思っています。ほのぼの実力主義なのは仕様です。


「大和、トリックオアトリート!」
 それは全くの不意打ちだった。私室の寝台で目を覚ました峰津院大和は、珍しいことにその銀色の瞳を丸く見開いた。
 気配に敏感である大和の寝込みを襲うことができる人間は限られている。ほぼ唯一の相手と言っても過言ではない、青い目の青年は悪戯な笑みを浮かべて大和の顔を覗き込んでいた。
 かっちりとした衣装を好まない彼には珍しいことにクラシックな礼装に身を包んでいる――それはよく見れば長い黒ベルベットのマントと合わせたデザインで、昨年大和が気の迷いの様にしてしまった仮装ともよく似ていた。たのしそうに笑う彼の口元から、差し歯と思しき牙が零れて見える。今年はどうやら彼が吸血鬼の装いをしているようだ。
「……不覚を取ったか」
 カーテン越しに光を感じることはなく、窓の外はまだ薄暗い様子だ。大和は自室で休息を取っており、朝までそれは続くはずだったが、おりしも今日はハロウィンだ。イベントごとに何かと熱心な恋人は、今日も今日とて大和を巻き込みにはせ参じたらしい。
 最低限の見栄えを整えるように、身を起こした大和は手櫛で自身の柔らかな髪を梳りつつ彼を見やる。当然ながら寝間着姿である大和の反応をおもしろがるような、してやったりという顔をしている北斗を見て、大和は息を吐き――直に彼らしいと苦笑を浮かべるに至った。
「だって去年、一番に来てほしそうな顔してたじゃないか。だから今年はそれを叶えに来たよ」
 全くもって律儀なことである。一年前の今日は確かに随分と子供じみた態度をとってしまった自覚がある(同時に人外の祭りで曝してしまった醜態についても思い出しかけて大和は一瞬険しい顔になった)が、まさか一年覚えていて、去年の分も早くにやってくるとは。大和は半ば呆れる半ば感心するようなそんな面持ちになった。
「全く君は度し難い。昨日までそのような素振りなどおくびにも出さなかったというのに」
「サプライズは伏せてこそ、だろ? それで、大和。ハロウィンのお菓子は?」
 言われて大和はかすかに渋面になった。今年も一応菓子類は部下である真琴を通じて調達してあった大和であるが、それは執務室に併設された休憩用の小部屋のほうに仕舞ってある。今は大和の手元に彼に渡せる菓子はない。彼も大和も昨日は遅くまで別の場所で仕事に励んでおり、まさか朝まだきの時間に私室に襲撃を駆けてくるとは思っていなかったのだ。
「しばしここで待て。支度をして君に渡す菓子を取ってくる」
「それって今は用意できないってことだよね」
 渡すべき菓子がないというのに、何故だか北斗は目を輝かせる。何となしに彼はよからぬことを企んでいるのではないか、という予感を覚えつつも、大和は小さくうなずいて見せた。
「じゃあ悪戯一択、だ」
 ベッドの上に乗り上げた彼が、ねこのようににんまりとした笑みを浮かべて顔を近づけてくる。あっという間にくちびるを奪いに来た手腕は、戦闘における彼の身軽な動きを連想させた。本当に素早い男だと感心してしまったものだから反応が遅れた。もとより大和には、場所と時間をわきまえた彼を拒絶すると言う選択肢はあまりないのだけれど。
 なんだかんだといって大和は北斗に甘い。逆もまた然りなのだが。
 彼とキスをするときの癖で自然と目を閉じたら、大和の後頭部に彼の片手の指が差し入れられて、もう片方の腕は腰を抱いてくる。見るものがいれば、吸血鬼が美姫を襲っているように見えたかもしれない。大和の首が微かに仰のいた所でくちびるが口から離れ、青白い首筋に甘噛みの痕が付けられる。
「ご馳走様」
 仄かに紅潮した大和の顔を見下ろして、吸血鬼の仮装をした男はいかにも満足そうだ。
 このように一方的に彼にだけ楽しまれる、というのはどうにも大和にとって面白くない。大和はちらりと横目で時計を確かめ、頭のなかで今後のスケジュールの確認をする。
 そして、
「起こしちゃってごめんね。今日も仕事だし、俺はそろそろ退散するから――」
「北斗」
 何のかんのと言いつつ、大和を慮って早々に部屋を出ていこうとする男の首に手を伸ばした。腕を絡めてがっちりと捕まえて逃がさない。
「大和?」
 仕掛けられることは想定しなかったのか、今度は青い双眸が丸く見開かれる番だった。
「普段と違う恰好が仮装の条件ならば、私の今の服装でも構うまい」
「確かに大和のパジャマって着物だし、今日は特に白いからちょっと幽霊っぽいけど、まさか」
「さて、君こそ菓子を用意しているのだろうな?」
 トリックオアトリート。
 八重歯を覗かせて高圧的に笑った大和は、仮装をしていなくともまるで夜魔のごとき風格であった。
 
 はたして北斗は菓子を持ち込んでいたのか、それとも大和に悪戯を仕掛けられたのか。
 それは二人だけが知る万聖節の秘密となった。

 どちらにしろ、外で見張りをしていた蝙蝠羽の飾りを身につけたイナバシロウサギたちが、暫く部屋から出てこない召喚者を待ちくたびれてうたたねしそうになる程度の時間を、北斗と大和が共有したことだけは確かである。

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