デビルサバイバー2(主ヤマ時々ヤマ主)中心女性向けテキストブログです。
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回帰エンディング後の主ヤマ。夏の一幕。
夏コミで配布しそびれてしまった小話です。
「大和ー、お土産貰った―」
俺はお土産の入った重めのビニール袋を片手で掲げつつ、執務室の中へと足を踏み入れた。
「君か。ご苦労」
書類の山を囲まれながらも迅速かつ正確にそれらを捌いて処理している大和は、俺の方を一瞥するも手を止めることはない。
ちらりとみた顔色が普段以上に白いのと、目許を見やり、俺は内心ちいさな溜め息を吐く。
――また目の下のクマを濃くしちゃって。
仕方のないことだとは分かっている。夏場のジプスは基本的に忙しい。盆は言うに及ばず、行楽シーズンや帰省による人の出入りや台風の影響など、仕事が増える要因は枚挙に暇がない。
大和はそうして増える仕事の全てを統括し、采配し、必要に応じて他組織との折衝や連携もありで、睡眠時間がガリガリと削られていることを知っている。祭事や神事に引っ張られることも少なくない。
俺とは言えばバイトとして現場仕事を色々手伝っている。ここ三日ほどは岡山の方に派遣されて、解けてしまった悪魔の封印をなんとかする任務をこなしてきた。
悪魔は随分周りの村落に迷惑をかけていたみたいで、退治して再封印を終えたらすごく感謝された。お土産として地元で採れた桃を沢山持たせてくれたので、折角だから大和と一緒に食べようと思ったのだ(途中ですれ違った真琴さんにも半分あげた)。
そうでもしないと休憩を取らないかも、なんて心配したのもある。
「報告は纏めてメールした通りだよ。きっちり封じ直してきた」
「目は通させてもらっている。問題はなさそうだ。君は今日の所は帰宅して英気を養うといい」
「明日はまた別の仕事ですね。解ります。ま、休ませてもらえるのはありがたいけどさ。大和……お前も、ちょっと休んだら? あんまり根詰め過ぎると却って能率落ちるよ?」
「最低限休息は取っているさ。そも例年のことだ。これで倒れるほどヤワにできてはいない」
俺と話しながらもこっちを見ようとしない。
休憩中じゃないから仕事優先なのは仕方ないってことは解ってる。解ってるけど――
「大和、給湯所借りる」
ちょっとくらいこっちを見て欲しい。
好きにしたまえ、という返事を受けたので、俺は言われた通りにさせてもらうことにした。
桃の入った袋を手に持ち、執務室に併設の給湯所に向かう。
冷蔵庫から氷を出してきて、氷水を作ると洗った桃の実を沈めてすこし冷やす。ふわりと甘く熟れた匂いがする。実に美味しそうな桃だ。
それなりに冷えたところで取り出して、包丁を使ってみかんみたいなかたちに綺麗に剥いて切り分けた。
硝子のお皿に移して、俺はそれを大和の所に持っていく。
大和が少し嫌そうに眉を寄せた。桃は水気が多いもんな。書類に飛んだらことだよな。
「お前がおとなしくお土産を食べて、少しだけ俺と休憩してくれるなら、書類に果汁がとばなくて済むんだけどな?」
「それより早くに君をたたき出すとは思わないのか」
「本当に緊急だったり切羽詰ってるなら、俺と悠長に会話してないで直ぐ帰れって言うだろ」
「…………」
指摘されたら軽く睨まれた。
大和が別に俺を無視している訳じゃないことは解っている。忙しい中でできるだけ顔合わせる時間をくれてるんだってことも。
それは凄く嬉しい。だけど、だからこそ余計に、大和の顔色があんまりよくないのとか、様子が気になって仕方なかった。
「ほら、とりあえず一個食べてみなって。あっちで食べさせてもらったけどあまくてすっごく美味しかった」
ほんとに美味しいよ? と、一切れ摘まみあげてみせつつ、笑いかける。
大和は俺の方をじっと睨むにも似て見据えていたが、
「君にはかなわん。仕方ない。半刻だけだぞ」
最終的には深いため息とともに折れた。時計を見たら三時ちかかったし、小腹がすいたのかもしれない。仕事が佳境になると食事も必要最低限にしてしまうような大和だけど、実のところは中々健啖家だから。
「ありがと、大和。その分、この後俺もちょっと手伝うから」
「せいぜい扱き使ってやるから覚悟をしておけ」
獰猛な目をして口の端を吊り上げる。
「こわいこわい。でも、それでちょっとでも大和が楽になるならお安い御用だ」
「まったく口の減らない男だ」
言いながら大和は、書類を端に寄せる形でいったん片付け始める。桃の汁気がとんでは叶わないと思ったのだろう。
それを手伝ってもいいとおもったけれど、俺はそれよりもちょっとした悪戯を実行したくなってしまった。
「ほら大和。あーん」
書類が大和の手から離れたタイミングを見計らい、その端正な口元まで桃の実を一切れ持っていく。
どんな反応が返ってくるか見たかった。怒るだろうか。呆れるだろうか。なんにしろちょっとした茶目っ気のつもりで、だから。
「!」
大和が、俺の言うままに無防備にぱかっと口を開けたのに驚いた。
仕掛けておいてなんだが、そんな素直に食べてくれるなんて。
ともすれば手も使わずに食べるなんて行儀が悪いと言われるかもしれないが、大和がすると優美な獣のように見える動作だった。
白い歯がわずかに覗く。水分の多い白桃を食み、飲み込み、咀嚼する。
ものを食べることはどこかエロティックに通じるものがあるという話を読んだことがあるけど、その時はいまいちピンとこなかった――でも、今なら少しだけ理解できる気がする。
「なるほど、確かに甘いな」
銀色の瞳がほんの少しだけ細められて、まあ悪くないと言いたげに大和が呟く。
どうしよう。なんだかドキドキしてきた。
実のところ、この感覚はは初めてじゃない。
例えば舌打ちをしてみせるだとか。
八重歯を見せて笑ったりとか、ほんのちょっと言葉遣いが崩れたりとか。
育ち良く大人顔負けの――落ち着きも含めてともすれば老練としてさえ見える大和が、ごく稀に見せる『隙』にどきっとする。好ましいと、思う。
本人に言えば品のない振る舞いをわざわざ指摘するなと、機嫌が一気に氷点下にまで下がりそうではあるけど。
こういうのもギャップ萌えって言うんだろうか。
「ねえ、大和。もう一個、たべる?」
どぎまぎしながら俺が申し出ると、無言でもう一度――ぱかりと口を開ける。桃の実の味を大和は多分気に入ったんだろう。
他の人間の手からはこんな風に食べたりしないんだろうなと思ったら、余計に堪らなくなってきた。
例えば白い虎とか、鷹とか、蛇とか。そういう綺麗でこわい生き物に餌付けしてるみたいだ。
勿論大和は紛うことなく人間で、だからこそ俺にこういう風に無防備にいろいろ赦してくれるんだけど。
桃の味はどうやら随分大和の舌に合ったようだ。すぐにぺろりと食べてしまって、なんだか次を催促するような目がこちらを向いてくる。
結局、ひとつまたひとつと食べさせるうち、切り分けた桃の実はあらかた大和の腹のなかに収まってしまい、俺はほとんど食べることができなかったのだけれど――それでもなんだかお腹いっぱいになってしまった。
俺の手から素直に食べ物を受け取って、たべて、嬉しそうにする大和があんまり可愛かったからだ。
桃をたくさん食べて腹が満ちたからか、大和が少し休むから肩を貸せ、とか。そんな風にして甘えるみたいなことを珍しく切りだしてきたりもして。
嬉しかったけど、そうするくらいに大和も疲れが溜まっていたのだと思う。
ソファに並んで腰かけて、俺の肩に頭を預けて直ぐに仮眠にはいった大和の髪を柔らかく撫でる。
「桃よりあまくて美味しいものを貰っちゃったな、…ご馳走様」
気を許した様子で寝息をたてる顔はあどけなくて、年相応に見えた。
「おまえにも夏休みがあるといいんだけどね。大和、あんまり頑張りすぎるなよ」
すこしだけ掠めるように口元にキスをしたら、瑞々しくて甘酸っぱい、どこかやさしい味がした。
それからしばらくの間。
大和の休憩時間に乱入しては、いろんなもので餌付けすることが、ひそかな俺のマイブームになったのだが――恋人があんまりにも可愛かったから仕方ないと思う。
おしまい
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